第4話 常識とは18歳までに身に着けた偏見のコレクションでしかない。
ドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインの言葉である。この言葉は、特殊相対性理論を発表した彼であるからこそ言えるのだろうと、私は思う。私は「常識」という言葉よりも「客観」という言葉の方が好きであるため、こちらを使用する。完璧に同義であるというわけではないが、許してほしい。しかしながら、この世界には客観的事実そのものが存在しないのではないかと私は思う。客観というのは「主観から独立して存在し、誰の主観を通しても変わらないもの」と簡単に定義する。このとき、一体誰が「誰の主観を通しても変わらない」ことを証明するのだろうか。ルネ・デカルトの懐疑主義を前提に話さずとも、人間にとって他人の視界を見るというのは不可能であり、その人物がどのようなものを見ているかなど、分かりえないはずである。そうであるのならば、私たちが本当に同じものを見ているかどうか断言することは不可能である。故に「客観」は存在しないと言わざるを得ない。
全国の高等学校の昼休みがどれくらいあるかは知らないが、私たちの学校は45分である。昼食を食べる時間を除けば、少なくとも30分は余裕がある。これだけあれば、数学の一問か二問は解くことができる。それくらい長い時間だ。
「なぁ、これってどうやって解くんだ?」
「2次式f(x)を1次式g(x)で割った商を表し、f(x)/g(x)を作る。そして、任意の自然数nに対して、f(n)/g(n)は整数であるから、an=f(n+1)/g(n+1)-f(n)/g(n)とおくと、anも整数だ。そこからは自力でやってみろ」
「いやー、きびくね?」
まぁこの問題はそこそこ難しいから、昼休み中に解けなくともよいが、はじめの一歩から分からないとは、くだらない。
「…あんたが河合冥仁?」
「そうですが」
誰であろうか?山村以外から話しかけられるとは予想外であった。まぁどうでも良いか。
「ちょっと来て。あんたに話があるから」
「申し訳ありませんが、見ての通り勉強中ですので、要件がお有りでしたら、この場で仰っていただけませんか?」
「そう。なら単刀直入に言うわ。私の親友に、今すぐ謝って!」
「生憎、謝罪を要求されるようなことをした覚えがございませんが?」
はぁ、面倒臭い。今解いている問題は比較的簡単に解けるから良いが、歯応えのある問題であれば、無視しているところだ。
「あんた…本気で言ってるの?人の想いを踏み躙っておいて!」
「ええ」
皆目見当もつかない。早く帰って欲しいものだ。
「あんた、昨日、来なかったでしょ!」
「大変申し訳ありませんが、一体何の話をしているのでしょう?」
「私の親友の!
美雪…。ああ、この前の信書に書いてあった名前であったか。だからなんだ。
「私がその人物の想いも告白も踏み躙ったという覚えがないので、人違いではないでしょうか?」
「何であんた!昨日来なかったの!美雪がどれだけ悲しんだか、あんたに解るの!」
「確かに、あの信書には、そのようなことが書いてあったとは思いますが、そもそも私が何処にいようが、それは私の自由であり、不当に拘束される筋合いはありません」
「…ふざけんな。常識だろ!」
「私が思うに、そのような行動は、常識というよりむしろ儀礼であるかと。また、私が法に反していない以上、私に非はありませんし、謝罪の必要もないかと」
「とにかく来て!」
「ですから、私は今勉強中であり、また、あなたに従う義務を感じ得ないので、不可能です。もうそろそろ午後の授業が始まります。ご自分の教室に戻られては?」
「…もういい。覚えてなさい」
ふむ、割と時間を無駄にしてしまったか。まぁ、あと数分ではあるが、この問題の解答を作る分には大丈夫だろう。はぁ、くだらない。
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