第42話 ~魔術師の存在~

 呪いを解く薬の製造は、そこまで難しくない。

 知識さえあれば、誰にだって調合が可能だ。


 異世界呪いの価値なんて、おまじないの延長に過ぎないらしい。一般の子供ですら、お手軽に使用ができる。

 但し有能な魔法使いでもない限り、その効果は殆ど期待できない。例え魔法使いが上手く呪えたとしても痕跡が残るが故に薬で簡単に解かれ、足も付きやすい。

 

 しかしブレイムにかけられた呪いは、綺麗に痕跡が消されていた。

 これを可能とする魔法使いは『色保有の魔術師』……つまり魔法の達人だという。

 今回の呪いは『白』を保有する魔術師の仕業だ。色は他にも黒や赤など複数あるらしいが、実際にそれを保有している魔術師の存在は、世界でも確認されていない。


 ともあれ癒しの達人であるユーセは、僅か20分で薬を完成させて、それをブレイムの傷口に塗り込んだ。

 その後は屋敷に帰ったヤプから薬草を受け取り、新しく内服薬をネム用に調合している。


 私はネムをヤプに任せて、ブレイムが寝ている客室へ1人戻っていた。薬の副反応が出ないか、様子を見る為だ。

 

「……」


 暫くは、美しい寝顔を鑑賞――。

 しかし、気付いてしまった。


『これはっ!? うーん……もの凄くがしたいっ!』


 2人きりの空間。

 溢れんばかりの欲望が、私を襲う。


「ダメダメダメッッ! 駄目よ!」


 少年・少女漫画や童話までも、このシチュエーションは『いってよし』としている。しかし無抵抗の隙に手を出すのは『人としてどうなのか?』と、私は常日頃から疑問視していた。


 (彼も内服薬なら、堂々と『口移しチュー』ができたのに……)


 そんな変態的な妄想を膨らませていると、物凄い勢いで客室のドアが開いた――。


「――!?」


「ブレイムッッ! ライリー様、殿下は!?」


 ブレイムの従者であるセージが、部屋へ飛び込む。

 泣く子も黙る強面。だかその顔色は青ざめ、怯えてさえ見えた。

 そこには『騎士』との異名を持つ、男の姿はない。ただブレイムの心配をする、親友が佇んでいた。


「先程、薬を塗布しました。もう命の心配はありませんし、怪我も綺麗に治ります。ただ目を覚ますまでは、絶対に安静が必要だそうです」


「そう、ですか……」


 全身の力が抜けた様に、セージがフラつく。


「ちょっ、大丈夫ですか!?」


「何ともありません。即刻、部下を(城へ)報告に向かわせます」


「その間に私はお水をお持ちしますね。それと急いでいたとはいえ、手前の狭い部屋に殿下を寝かせしていまい、誠に申し訳ありません」


「とんでもないっ! 殿下の命を守っていただき、ありがとうございます! ……国王からも『深く感謝を伝える様に』と、言付かっております」



「……あのセージさん。実はまだ、お話をしていない事があるのです」


 水を渡した後――私は『呪い』によってブレイム殿下の命が危険に晒された事実を、セージへ伝えた――。

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