第40話 ~完璧な呪い~

 それから約1時間半後――。

 伯爵夫妻が不在のキュラス邸は『瀕死の王子』でパニックに陥っていた。


 ブレイムを襲った犯人は5人組。

 クガイの存在に気付くと、散り散りに逃げたという。

 森に残されていたのは、怪我を負った意識不明のブレイムのみだった。


「ユーセ、殿下は!?」


 私は肌着姿で複数の毛布を抱えている。

 屋敷への移動中、急激に体温が下がるブレイム。自分のコートや服をかけても効果は得られず、屋敷に着くなり、とにかく毛布をかき集めた。


「足や肩の傷は、それほど深くはありません。ただ……」


 傷口を再度確認すると、ユーセが息を飲む。


「強力な『呪い』がかけられています」


「呪い!? それって……」



「この騒ぎは何なの!? 空気もし、とりあえず換気をしたら?」


 帰宅したばかりのネムが、入り口に群がる他の使用人を掻き分けて、客室へ入る。

 そしてベッドに寝かされたブレイムを見るなり、彼女は口を覆った。


「これって……」


「そう『呪い』です。私もここまでのものは初めて見ました。どの類いのかさえ分かれば『薬』が調合できるのですが、傷口に残る筈の痕跡が消されていて、その糸口すら掴めません……」


 ユーセが毛布をめくり、ネムに傷口を見せる。


「確かに、な呪いね……私が『見る』わ! に手掛かりがあるかも!」


「ネムってば、過去まで分かるの!?」


 ツンデレ小悪魔娘が、今日ばかりは天使に思えた。 


「過去は未来より簡単に見えるのよ。断片的だけどね。それで? 何でまた、貴女は下着姿なの?」


「そんなことより、早くっっ!」


「分かったからっっ! 急かさないでよ」


 ネムが目を閉じる――。


「ネムッ! ヤメなさいっっ! やはりこの呪いは何かおかし……」


 怯えた様子のユーセが止めに入るが、既にその声は届いていなかった。


『ドックン……』


 その瞬間、私の心臓が大きく音を鳴らす。

 口から一筋の血を流し、目を剥いてネムはその場に倒れた――。

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