第30話 ~つまり文化祭(中編その2)~
「大丈夫ですか!?」
家畜小屋に似つかわしくないキャラが、目の前に居る……。
『王子、制服だよね? 格好いい……ていうか何故此処に!?』
本日は学園行事なので、服装は藍色の制服。
そんな王子の変わらない美貌が私に迫り、大きく美しい手が差し伸べられた。
(初めて出会った時を思い出すわ……)
一方の私――最初の出会いから肌着姿。
そして今日に至っては、ガチめの男装……やはりユーセ・デザインの可愛さ全開メイド服を無理矢理にでも着るべきだった。
「ライリー嬢?」
「ハッ、ハイッ! 大丈夫です、ありがとうございます!」
慌ててブレイムの手を握り、体を起こす。
(また痺れが!? 耐えろ、私っっ! これはチャンス……この手を離してなるものかっっ! そして
「……」
無言の圧力に対する、動物達の冷たい視線。
頼むから大人しく見守ってくれ!
「……あの、その服装は?」
絶賛困惑中の王子、ブレイム。
そりゃそうだろう。
「えっっと、クラスの催し物で使用人に扮した生徒がおもてなしをするサロンを経営しておりまして……その衣装です」
「それで『執事服』?」
「ええ、まあ……」
「そうですか」
『呆れ』とも取れる反応に、血の気が引く。
とうとう嫌われたか?
それとも変人認定か?
どちらにせよ、最悪だ。
「……プッッ!」
「!?」
私から手を離し、腹を抱えて笑う王子。
ここで『素(少年王子)』の発動ですか!?
とにもかくにも、笑顔の破壊力が凄まじい……。
「いや、申し訳ない……貴女は本当に可笑しな方ですね。見ていて飽きない」
「そ、それは良かったですわ。楽しんで頂けて何よりです!」
良かった?
んなわけない……どう考えても、
早急に話題を変えよう。
「ところで、今日はセージさん(従者)とご一緒ではないのですね?」
「おそらく近くに居るかと……私が1人になりたい時は察してくれる、本当に優秀な
「『1人になりたい?』ですか……殿下にもそんな時があるのですね」
何せ王子だし、そりゃ気苦労もあるか。
「秋は毎年、疲れ気味でね……昨年も此処の動物達に癒されたんだ。しかし小屋の場所が変わっていて驚いたよ。でも今の方が放牧場も近いし、彼等も以前より過ごしやすそうで良かった」
「殿下にも愛されて、本当にこの子達は幸せ者ですね」
「……ライリー嬢も、此処へは私と同じ目的で?」
「はい! よくこうして、
(愚痴を吐き出すだけですが……)
「それは楽しそうだ。私達はこんなにも癒しを与えてくれる動物や
「それはもう……? 『森に』?」
「そう、セレクタントの森だ。私
「私もあの森は大好きです。一年を通して様々な表情を見せてくれるので、
実のところ、森に関してはどーにも興味が無い。
しかし
「……ブレイム様。私達、気が合いますわね?」
「ええ。私もそう思います」
穏やかな時間が流れること数分――。
ポケットから懐中時計を取り出したブレイムが、軽く息を吐く。
「そろそろ
「……いけないっっ! 私も戻らないと!」
「サロンですか?」
「はい。ご覧の通り、執事役なので……」
休憩時間はとうに過ぎている。
(アケビ、怒っているだろうなぁ)
こうして『心』の休憩を終えた2人は、飼育小屋を後にした――。
※婚活とは、『婚約活動』の事(この世界限定)。
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