第29話 ~つまり文化祭(中編その1)~

 遡ること交流会前日の、モスカトア国立第一女学院、元・家畜小屋にて。


 目を瞑り、何の効果も影響も無いガラス玉に手をかざすの少女――。


 耳の強調と、偽水晶の使用。

 ネムの占いに少しでも信憑性を持たせる為だ。


 しかしエルフ耳の存在はこの世界でも特別珍しいらしく、余計な偏見リスクを考え『つけ耳』だと他人には説明をしている。


 過剰な心配かもしれないが念には念を入れ、ユーセ知識の元、※1コーンスターチから作られた糊や塩水、絵の具等で『耳の先っぽ』を製作。私を含め、まほ研会員4名にも装着させた。


 (フードもあるし、これでとバレないわね! 後は……『接客』かぁー)


 これが非常によろしくなかった。



 以下、ネムの接客術――。


「彼が貴女を避ける原因……それは」 


「それは……?」


 息を飲み、強張った表情でを見つめる、隣クラスの生徒(客)。


「先週に渡した、手紙ね」


手紙が!?」


「そう……内容が重い! そしてしつこい! 一方的に愛を押し付けといて同じ熱量の返事を求めるのは、もう脅迫でしかないわ」


「そんなっ! 私はどうすれば……」


 涙目の生徒(客)が、ネムに助けを求める。


「先ずは謝罪を伝えること。許しをうのは絶対に禁止よ。それから暫く『恋だの愛だの』という話題は一切出さずに、日常的な挨拶や会話のみで彼と接して。元の関係に戻る可能性が最も高くなるわ……せいぜい頑張るのね」


「……クスンッ」


 ハンカチで涙を拭う生徒(客)。


 (これは駄目だ……)


 超毒舌の命令口調で、おまけに無表情。

 そもそも占いとは、こんなにも具体的に指示するものなのか?

 ネムは少し集中をすれば軽い? 個人情報は透視可能らしいが、もう少しオブラートに包むべきでは?


 バイトの勧誘に必死でつい『好きに話せばいい』とは言ったものの、正直かなり不安だった。


 だがここで、原因不明の怪現象が起こる。


「はいっっ! ありがとうございます、! ライリー様もっ! お誘い頂き、本当に感謝致しますわ!」


『先生』となっ!?

 しかも助手の私にまで、礼を述べるとは……。

 

『どゆこと?』


 その後も放課後から始まった※2プレオープンの感触はとても良く、日が暮れる頃には、クラブの誰もがそれなりに自信を持っていた。




 そうして迎えた、文化的交流会当日――。

 にも関わらず、客が来ないので一時はどうしようかと思ったが、はちゃんと学院中に拡散していたようだ。


「この反響ぶり……だいぶ『一等クラブ賞』に近づいたわね!」


 行列の整理を終えた後、多少緊張がほぐれた私は、残りわずかな休憩を取りに『現・飼育小屋』へ向かった――。


 初めて裏庭で見かけた日から、暇をみてはちょくちょく遊びに訪れる、癒しの場所。


 気持ちが落ち着くし、の名残からか? 動物達とも気心が知れていた。

 互いに言葉は理解できなくても、意志疎通ができるのだ。


「……居ない?」


 チラリと放牧場を見たが遊んでなかったので、真っ直ぐ家畜小屋へ入る。



「モオォォォー!」


「コケッッー!」


「なっ、何!?」


 私の顔を見た途端、いつになくが騒ぎだした。普段は比較的穏やかな性格のうさぎまでもが、何やら怒っている。

 よく聞くと、内容は『餌さ忘れ』によるクレームだった。


 どうやら餌やり担当が『ブレイム殿下の登場』により、仕事放棄をして消えたらしい。


 (やけに校舎が騒がしい原因は王子(ソレ)だったか……ていうか、裏庭に居て助かったぁー! この格好(男装)で彼に会う? そんなギャグ展開、絶対にないわ! 何としても避けなければっ!)


「もう分かったからっっ! 直ぐに用意をするわよ!」


 急いで隣のエサ置き場から昼食を多めに調達。私はそれをせっせと彼等に振る舞った。



「ンモォォー!」


「まだブツブツ言っているの? 1回忘れただけでしょ? 許してあげなさいよ」


 に目線を合わせてそんなやり取りを繰り返し、動物達の怒りは何とか収まった。人間も動物も過度なストレスは体に悪影響を与える。それなりにメンタルケアが必要なのだ。


 (ふぅー、だいぶ落ち着いたわね)


「……可愛いですね。触っても大丈夫ですか?」


「――!?」


 (ビックリした……気配や声に全く気付かなかったわ。私も疲れているのかしら?)


 声からして男性か。

 おそらくゲストが迷い込んだのだろう。


「構いませんよ。だだ餌やりが遅れてしまい、まだ少し不機嫌なので、できるだけ『優しく、静かに』お願いします」


「はい……えっっ!? ライリー嬢!?」


「ですから、あまり大きな声は……うおっっふっ! ブッブッ、殿!?」


 屈んだ体勢から顔を上げた私は、アホみたいな奇声を発して、派手に尻餅をついた――。



※1コーンスターチとは、とうもろこし原料のデンプン。

※2プレオープンとは、お試しや練習で事前に店を開店させる事。

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