第31話 ~つまり文化祭(後編その1)~
「……?
家畜小屋を出た少し先で、1人の子供がそわそわと元・家畜小屋(まほ研)の方を見ている。
後ろ姿は肩まで伸ばした主張の弱い金髪だが、ブレイムと同じ制服から、男の子だと分かった。
(あの子、どっかで見たような……)
「……
『エデル? エデルってあの!?』
「末の
駆け寄る兄に、弟は下を向いて体を硬直させる。
「に、兄様……何で?」
「それはこっちの台詞だ! 1人なのか? どうやって城を抜け出した!? あれ程『駄目だ』と言っただろう!?」
「ごめんなさい……兄様の荷馬車に、ずっと隠れていました」
「なんて無茶な事をっ! どういうつもりだ!? きちんと説明をしろ!」
(いくらなんでも、怒りすぎでは?)
「あのう、殿下? エデル様も反省をしておりますし、ここは穏便に……」
「えっ、ああ……申し訳ない。つい声を荒げてしまった。ライリー嬢、弟の『エデル』です」
「ごきげんよう、エデル様」
顔を上げたエデルが、不思議そうに私をまじまじと見つめる。
「あっ、下着の人……」
私を知っている?
そして下着――ということは?
『……思い出したっ!』
ガラスの靴をブレイムが私に届けに来た時、一緒に居た子供だわ。何故か遠く離れていたからよく見えなかったけれど……従者ではなかったのね。
「この子は元々病弱で、時々気分転換を兼ねて森へ連れて行くのですが、以前にキュラス邸へ伺った際も同行をさせていたのです。内気な性格ゆえ、ずっと離れた場所で待つだけでしたから、挨拶もさせていませんでしたね」
「『エデル・ハーロッジ』です。ええと、下着の……」
「ライリー・キュラスと申しますっっ!」
(つーか、下着は忘れてくれ……
「それにしてもエデル様? 叱られると承知で、どうしてまた学院に?」
「そっ、そっ、それはっ! その……」
エデルが、チラリと元・家畜小屋を見る。
年齢から考えて、もしかしたら……。
ミニ王子が持つ小さな花束や、小屋を覗き見る行動からしても、その目的が占いではないと分かる。
「ひょっとして、
「ネム? ……ああ! 確かキュラス邸に居た使用人の子か? なるほどね」
ブレイムも察した様だ。
「少しだけお待たせをしてしまうかも知れませんが、お呼びしましょうか?」
「いえっっ、仕事の邪魔になるので結構です。あの、せめて
手に握りしめた、小さな花束を差し出すエデル。
(ネム好みの青い花ばかりだわ……今日のバイトといい、よく調べたな)
「かしこまりました。必ず届けますね」
「ありがとうございます! ではこれで……」
「……待てっ! 帰るにも、馬車が無くてどうする?」
「そんなに遠くもないので、歩いて……」
「冗談を言うなっ! どうせ私の説教を避けたいだけだろう? そうはいかないぞ、エデル! しかし私もこれから
「それでは、殿下の警備が手薄になってしまいますわ! もし宜しければ、私の教室でお預かり致します」
「しかし、ご迷惑では?」
「いいえ。クラスメイトも、こんなに可愛らしいお客様ならきっと大歓迎ですわ」
「ではお願いをしようかな? 仕事が終わり次第、迎えに行きます」
「はい。お待ちしております!」
子供を利用して申し訳ないが、これでもう一度、彼と会う口実ができた。
ありがとう、ミニ王子。
ありがとう、バイト占い師。
「では、参りましょうか? エデル様」
「はいっ!」
私は子供達へ大いに感謝をしつつ、その内の1人であるエデルと手を繋いだ。
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