第10話 ~舞踏会にて(後編)~

 老若男女関係無し。

 誰もが見惚れるその姿に、私も戸惑う。


様よ!」


「相も変わらず、お美しい」


「ほら殿下、フロレンヌ嬢が到着しましたよ!? 早く行かないと!」


 (――は? 今誰か、余計な事を言わなかった?)


「……失礼」


 私の前から、王子が退く。


 彼はフロレンヌ嬢の元へ行き、私の時と同じ形でキスを捧げた。


「ライリー……さま?」


 何とも言えない表情で、私の顔を覗くユーセ。


「だっ、大丈夫よ! ただの挨拶でしょ!?」


 落ち着け。

 王子にはいない(ネタ元・ユーセ)。従って、まだ私にもチャンスはある!


「絵になるお2人が揃ったところで、久しぶりにダンスを披露されてはいかがかな?」


 (さっきから誰じゃ!?  ゴルァァァー!)


 またもや余計な周囲の煽りで、王子とフロレンヌ嬢が共に手を取り合い、ステップを踏む――。

 2人の『華麗な舞い』で会場は大いに盛り上がり、他のゲスト達も続々とダンスを楽しみ始めた。




「はぁぁぁー」


 複数の男性からダンスのお誘いがあったが、とてもそんな気分にはなれない。


 (……帰ろう)


 今日のところは完敗だ。このまま此処に居ても、自分が惨めになるだけだろう。

 こういう時は、素直に逃げた方がいい。

 心を守る為にも、これは必要な事だ。


「ユーセ、帰りましょう……ユーセ?」


 隣にいた筈のユーセが見当たらない。


『何処へ行ったのかしら? あっ、見つけ……へっ?』


 広い会場の壁際で、数名の男に囲まれたユーセ。

 私には、彼女がびとく怯えている様に見えた――。



「……私の付き添いに、何かご用かしら?」


 男達を掻き分け、ユーセの前に立つ。

 

 (下心がミエミエね。特に、この偉そうなジジイ……気持ち悪っっ!)


「いやぁー、これはこれはライリー嬢! 貴女の付き添いでしたか! 申し訳ないが、彼女を少し貸してはもらえませんか?」


「私達は帰りますので、お断り致しますわ」


である、私からの頼みでも?」


 (侯爵……私の父よりも身分が上って事ね? ますます気持ち悪っっっ!)


「ええ。誠に申し訳ありませんが、急ぎますので」


「ならば交渉ではいかがかな? 貴女もキュラス家に迷惑を掛けたくはないでしょう?」


 (交渉? 命令だろがっ! どこの世界でもあんの? このくだり……うっざっっ!)


「……そうですね。では相談をしてみます。さん? 『ブレイム殿下』を呼んでくださるかしら?」


 私は視界に入った、体格の良い強面男性に声を掛けた。


 彼の顔と名前は良く覚えている。

 森で王子と出会った際、共に行動をしていた従者の1人だ。

 しかも会話の雰囲気から、1番親しい間柄だと確信していた。


「これはライリー様。殿下ですね? 直ぐにお呼び致します」


 紳士的でそつのない対応。本当に助かる。


「もっ、もうよいっ! 子供は早く帰りなさい!」


 道を開ける、侯爵とその取り巻き。


「そう致しますわ、失礼」


 私はユーセの腕を掴み、足早に会場を出た。

 王子へ撤収の挨拶をしたかったが、仕方がない。


 (セージさんにも、悪い事をしたわ……)


「ライリー様、私の為に申し訳ありません」


「貴女は悪くないでしょう? それより、何もされてない?」


「はい……でも」

 

 ユーセの声が曇る。


「ええ、。急ぎましょう!」


 私達の後をつける、2人組の男。

 まさか追手までとはね、しつこい強欲侯爵(ジジイ)め!



 (捕まるとマズいな……)


 城へ戻って助けを求める事も考えた。

 しかし事態が大きくなれば、舞踏会の主催者である王子の顔に泥を塗る事にもなりかねない。


 やはり今日は、逃げるが『吉』ね!


「一気に行くわよ!」


「ハイッ!」


 私とユーセは城を出るなり、一目散に階段を駆け下りた。


「オイッ! 待て!」


 男達が迫って来る。

 

 (ドレスじゃ直ぐに追いつかれる! こうなったら……)

 

「ユーセッ! 先に行って!」


「ライリー様!?」


「いいから早くっっ!」


 自分の馬車とユーセの無事を確認したところで、私は後ろを向いた。


 そして足元から『成功の鍵その3(ガラスの靴)』を、連続で2発放つ。


「うっっ!」


「ガッ!」


 ガラスの靴は、男達の顔面と肩に命中――。


『見たか! のシュートを! (SBサイドバックだけどね)』


 約10年振りの感覚にアドレナリン全開だったが、男の1人に腕を掴まれた。


「キサマ! よくもっ……!?」


『よくも』から、男の表情が固まる。

 その原因は、間違いなく私の使用人だ。


「『よくも』何です? その汚い手を、お嬢様から離していただけますか?」


「クッ、クガイ……セマム」


 男は反射的に、私から手を離す。


「チッ! 行くぞっ!」


 焦った様子で、男達は城へ引き返した。


「……クガイ」


「はい」


「アンタ何者?」


「貴女様、専属の使用人です」


 

 ピッタリ深夜0時――。

 無事に私達は、屋敷へ帰還を果たした。

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