第11話 ~寝る!そして食う!~

「……」


 舞踏会翌日の午後、私はまだベットの中だ。


 目を覚ます~王子とフロレンヌ嬢の姿を思い出す~ふて寝する~そしてまた目を覚ます……。

 この工程を早朝から繰り返し、気付けば『ぐうたら令嬢』が仕上がっていた。


 (前の世界でも、失恋をした時はこんな感じだったな……)


 私は心が疲れると、基本眠くなるタイプだ。

 



「……何だ? まだ寝ていたのか!? そろそろ起きろ! 無駄に時間が過ぎるだけだぞ」


 レディが就寝中だろうが何だろうが、お構いなしに出現をする、小さなおっさん妖精。


「いきなり登場しないでよ。私にも、くらいあんの!」


「『落ち込んでいる暇』があるのなら、そうすればいいさ。しかし今は違うだろ? さっさと失態を反省して、次の計画なり作戦なりを立てろ!」


「反省? と、どうやって競えばいいのよ? 敵が『化け物』なんですけど!?」


 私も、王子争奪戦は覚悟していた。

 にしたって反則級に美しい、ライバル令嬢(恋敵)の存在は想定外。

 あの場で勝ち目なんて、全くもってこれっぽっちも見当たらなかった。


「どうにかやりようはあった筈だ。おまけに、若い男爵達をらしいな? 一部で噂になっているぞ? ターゲット(王子)が知ったら、それこそ競争どころじゃないだろ!」



「……原因は私にあるのです」


「――!?」


「うわっ! ビックリした……ノックくらいしてよ、


 亡霊さながらに負のオーラを纏うユーセが、青白い顔で部屋の隅に立っていた。

 

 (あっ、目の下……寝ていないのね)


「申し訳ありません。何度もノックをしたのですが……お2人が口論をする声を聞き、許可も得ずに入室をしてしまいました」


「そうなの? ゴメンなさい、気付かなかったわ」


「ライリー様。あの、昨夜は本当に申し訳ございませんでした。私が邪魔さえしなければ、殿下とより良い関係を築ける機会でしたのに……しかも足まで上げさせてしまい、不甲斐ない限りです」


 (やはり自分を責めまくっていたか……つか、私より落ちてるし)


「だから、ユーセは悪くないの! それにこっちの世界では不適切? タブー? かも知れないけど、女性でもああやって足を上げるのは、案外気持ちがいいものよ? 今度、貴女にも教えてあげる!」


 そう強がってはみたが、特注&急ぎで用意をさせたガラスの靴……まさかに使うとは思わなかった。

 高額だったし『武器に使用して、放置しました!』なんて、両親には言えない。


 (いくらと評判の夫婦でも、さすがに怒るだろう)



「はいっっ! あの時のライリー様、とても素敵でしたっ!」


 (……まあ、いっか!)


 ユーセの笑顔を見たら、なんだか愚痴やモヤモヤが瞬殺で吹き飛んだ。

 やはり彼女には『癒やしの才能』があるようだ。


「口論のおかげでお腹が空いたわ! を済ませたら、反省会と次の作戦会議をしましょう。後、私の食事中にユーセは仮眠を取ること! 命令よ!」


 ユーセはネムとクガイを呼び、私の着替えと食事を任せて部屋を出る。


 (とりあえず、ダイエットからは解放されたわ……)


 私はフランスパン(のようなもの)1本と、ポーチドエッグ5つを含めた遅い朝食を、残さず胃袋へ納めた――。

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