第8話 ~変態の境界線(いざ、舞踏会へ!)~
「うぐっっ……」
苦しい……唯一食べた貴重な栄養源(パン1切れ)が、リバースしそうだ。知ってはいたものの、こう我慢をしてまで、着なければならないのか?
(どこの世界でも『美(ウエスト)』を追求するには、苦痛を伴うのね)
今日を迎えるまでの約10日間、私は死ぬ思いで努力をした。そりゃそうだ! 全力で取り組まなければ、それこそ本当に死んでしまう可能性があるのだから……。
「出来ました! ライリー様、とってもお似合いです! やはりこの色にして、正解でしたね」
女性の使用人達や
「――!?」
(うわっ、これが私?)
全身鏡には、正しく芸術品が写っていた。
誰よりも目を引くであろう、ロイヤルブルー(確か前世では英国王室の公式カラー)のドレス。
これを着こなすには『内外の美』が必要不可欠だ。
ダイエットに礼儀作法の習得、ダンスの基礎等々……前世での受験や就活よりも、必死に取り組んだ甲斐があった。
編み込まれたハーフアップと相性抜群の、緩い巻き髪。白く艶のあるデコルテに添えられた、同系色のサファイアもいい感じだし、ユーセは本当にセンスが秀逸だ。
でも……。
「一緒に行くのだから、ユーセも新調すれば良かったのに……」
『私
ただ何でも着こなせるであろう彼女の、本気度MAXなドレス姿を見てみたかったのだ(要・露出多め)。
「付き添いの使用人は、流行を取り入れないのが礼儀です。それに、舞踏会の主役は誰よりもライリー様でなくては意味がありません」
「そう? それは残念」
「……何が残念なの? 少しは『マシ』になっているじゃない?」
他の使用人と入れ替わりで部屋に入ったネムが、私の後ろで腕を組む。
「
自身の着替えで席を外したユーセの指導対象となる、通常通りの生意気な物言いだか、私も心底そう思う。
『もしかしたら、今日中に決まるかも!?』
早期の決着に、胸は高鳴るばかりだ。
準備と希望的観測が終わったところで、妖精姿のヤプが部屋に現れる。
「支度は終わったのか? こっちは何時でも出発できるぞ、クガイも外で待っている」
「ユーセが戻り次第、直ぐに出るわ!
馬車で王城に向かうのは、私と付き添いのユーセ、※1
流行りのドレスを餌に何度も誘ったが、ネムは断固拒否を貫く。
「『何も障害の無い道』だと報告済みよ。仕事はしたのだから問題ないでしょ? 舞踏会なんて興味ない」
ヤプの話では、ネムは事前に経路の安全確認をしてくれたらしい。
「ありがとね。ネム」
「いや、仕事だし……」
(今日も安定のツンデレ……もうっっ、可愛いなぁー!)
私が改めてお礼を伝えると、彼女はまた顔が赤くなった。
「……どうしましょう!? すっかり忘れていましたわ!」
自室を出る直前――アイボリーで纏めたドレス姿のユーセが、足を止める。
彼女がこんなにも焦る表情を見せたのは、今回が初めてだ。
きっと『重要案件』に違いない。
「何があったの? どんな些細な事でも話して。ちゃんと聞くから」
ユーセはコクリと頷き、真剣な眼差しで私を見つめる。
「ライリー様、森から殿下の馬で屋敷へ送って頂いた際に、従者との会話を聞いてはいませんか? 女性に関する事なら何でも良いのですが……彼が好む『女性の傾向と対応策』を考えておこうかと思いまして。こんなにも直前になってしまい、申し訳ございません!」
「えっ!? あっ、それは……
「そうですか……お怪我もされていましたし、辛い事を思い出させてしまいましたね」
すっかり反省モードのユーセ。
「いや、大丈夫だからっ! ほんっっとに、気にしないで!」
実のところ、具合の悪い
彼の胸に
「……なんかごめん」
純粋で心優しい使用人に『久しぶりの
何にせよ、女性関係の話はしていなかったと思う……
本能の
(けれど、また嗅ぎたい……)
王子の『香り』は、最大級のヤル気と元気と勇気を伯爵令嬢(私)に与えてくれた。
さあ行こう!
夢と希望と
※1御者とは、馬車を操る者(運転手)
※2従者とは、つき従う者(共の者)
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