第7話 ~消えた主(ネムの葛藤その2)~

「申し訳ございません、ネムさん。今日は父も母も不在でして、私のもてなしでは至らないところもあるかと思いますが、どうぞ召し上がってください」


 (スゴい、ご馳走……)


 屋敷に到着後、想像以上の豪華な料理で歓迎をされたネム。

 外見しかり14才とは思えない程に礼儀正しく気さくな令嬢と、穏やかな使用人達のおかげで、身分不相応な食事も心から楽しめた。




「ネムさんは、どちらにお住まいなのですか?」


 食後のティータイムで、紅茶の入ったティーカップをソーサーに置いたネムが、うつむき気味に答える。


「シンリョクの森、家もちゃんとあります」


「シンリョクの森……確か『神秘的な緑』で有名ですね。しかし、とても深い場所に位置すると聞いています。国境も越えなければいけませんし、かなりの長旅ですよね? 目的地はどちらですか? 何処へでも馬車でお送りしますよ」


「いえ、森へ帰ります……『耳の形が普通ではない』のに、町へ出た私も悪いのです。気にしないで下さい」


「耳……ですか? 良く似合っていますよ? ネムさんのチャームポイントですね!」


 澄みきった青空のような笑顔を見せる、伯爵令嬢。

 晩餐終了後、ネムはキュラス家の使用人を志願した――。




「……」


 出会いから3年が経過した昨日――あるじは消えた。

 

「壊れそうだよ……また助けてよ、ライリー」


 悲しみに襲われる少女。

 3年前のライリーが直してくれた、黒頭巾を握り締める――。



「ネムー! ドコにいるのぉー!?」


「……チッッ!」


 今現在『最も聞きたくない声』が、直ぐそこまで迫っていた――。



 



 ◇◇


「あっ! 見つけた! こんな所で、何をしていたの?」


 ライリー・キュラスとなった翌日――。

 ヤプに居場所を聞き、私はクガイを連れて森へ入った。

 目的はネムと話をする為だ。


 子供が条件達成に役立つのかはまだ不明だが、私の存在(中身)が原因で、12才の心に傷を負わせたのは確かだ。

 あるじ……又は保護者として、無視はできない。


「そっちこそ、何しに来たの? この際だからハッキリ言うわ。私はアンタが大嫌いよ! 仕事はするけど、他は関わらないで! 鬱陶しいのよ……あっっ!」


 強気発言の後に、何故か慌てて頭巾を被る少女。


 (髪型がだから、恥ずかしいとか?)


「……何も言わないの?」


「『言う』って何を? 私が嫌いなんだよね? 理解したわよ」


「違う! そこじゃなくて……今、私の耳を見たでしょ!?」


「耳? ……ああ、自慢をしたいの? ハイハイ。可愛いー可愛いー、


「えっ?」


「まだ足りない? 言われ慣れてるでしょうに……でも続きは後で! もうすぐ日が暮れるから、屋敷へ戻りましょう」


 (直ぐに暗くなるわ。早く帰らないと! 来た道は確か、向かってだったわね)


「右はダメっ! 獣がから、左の道を通って」


「あら? 『大嫌い』なのに、危険は教えてくれるのね?」


「別に……アンタのを傷つけたくないだけ」


「ふぅーん」


 (ヤバッ! 母性本能が開花しそう……)


 のツンデレ娘が可愛い過ぎて、ニヤニヤが押さえられそうにない。


「もうっ! ほんっとに、鬱陶しい人ね!」


 顔を赤くしたネムは、怒って先に行ってしまった――。


「……どう思う? クガイ」


「なかなか手強いかと」


「思春期? こっちにもあるのね、懐かしいわー! ……ところでクガイ? 眼鏡を外してくれるかしら?」


『日暮れ時の視界悪化』を理由に、今日もイケメンは拝めなかった――。

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