第二十話 ラヴォドアルカ

「図書館って面白いんですか?」

 私は、麗羅の好きなライトノベルが直ぐに図書館へ並ぶ光景を何度も見ている。麗羅から「オカルト部の為」と聞き付いて行くと、彼女はいつもライトノベルを借りるのだ。

 麗羅は、麗羅自身の事を余り喋ってはくれない。しかし、時々彼女が苦しそうに苛ついている姿を見掛ける。

 そんな彼女は、ライトノベルの異世界転生の物語が好きだった。私は読まなかったが。


「うーん。図書館は、面白いとも言えるし、面白くないとも言える。会話や遊戯を愉しむ場所という訳ではないね。あそこは歴史的魔法学の資料が沢山集まってるし、それ以外も歴史的な物が多いのよね。だから知識が手に入って面白い場所かなあって思うね。そうそう、君の気に入っていた『おにのおはなし』も凄く昔に書かれた物なんだよ。」

「歴史、的、魔法、学……、ああはい。歴史的魔法学、とやらは確か現代魔法学に取って変わることになったんですよね。それって使えるんですか。」

「あー、使えるよ。どうして使えるか教える為には魔法陣の仕組みを教える必要があるけれど……、まだ長くなるよ。」

「いえ、大丈夫です。」


 アチェトが、小難しい話をしているサリスを睨んでいた。それを見たサリスが「ああごめん」と言い、口を閉じた。ああそうか、アチェトには何度も助けられている。ありがたい。


 3月30日まで、ローシンスタを何事も無く走り続ける。30日には海岸が見えたので、それに沿い北上した。暫く北上していると段々と積雪が道の側に見えてくる。サリスとアチェトは目を輝かせて海を見ていた。

 そうしてローシンスタのラヴォドアルカという城下町へ着いた。ラヴォドアルカはローシンスタとカルコアの国境に当たる地域で、アルカが「城」という意味らしい。ドイツのレーゲンスブルグとかハンブルグみたいなものか。


 そこで一泊した。宿は、サリス曰くちょっと高いらしい。いやいや、これまでもビジネスホテルや民宿じゃなく全てシティホテルだったが。

 アチェトの家のような広さに、大きな絨毯と重厚で秀麗な家具達。トナカイ肉と色々なキノコが入ったシチューや、パイ生地の中にじゃがバターが入ったご飯をウエイターが部屋へ運び入れた。そうして古美術品の様なテーブルに一つひとつ並べてゆく。

 そうして夕食を食べる訳だが、飯が美味い。選り取り見取りのキノコの香りが鼻を突き抜け、トナカイ肉は赤ワインと幾つかのハーブやニンニクと煮詰められたのか、臭みが全く無くコク深い。死ぬ程美味い。

 ――しかしマジで此奴ら人生舐め腐ってるだろ。

 アチェトが私の嫉妬の目線に気付いたのか、私から目を逸らした。


 翌日、飯により体調が良くなったのかは知らないが珍しく早く起床した。ぼうっと外を見つめると、北の海には少し流氷が見えた。初めて見る流氷にびっくりして暫く窓辺で見つめていると、アチェトも隣へやってきて珍しそうに見つめていた。

「流氷、ですね。」

「そうだね。すごい。サリちゃん早く起きないかな。」

 少ししてサリスは起きたが、寝惚けて「あー」と言っていた。流氷についての感想は何も言っていなかった。


 朝食を済ませ、出発した。

 ラヴォドアルカの極東に小さくカルコア領東ラヴォードが存在する。国境警備はメーレルハントとローシンスタの間のそれと比べられない程厳重そうで、ぴりぴりとした雰囲気を感じた。

 サリスは、何処で手に入れたか分からない偽造身分証を出してアピオに渡した。カルコア以北の北氷雪連盟とやらの国では、アピオやノノのような、青白い髪で花顔柳腰たる娘が多いらしい。羨ましい。

「Lyin Noskaathya」

 リーン……、ノノの姉の身分証らしい。写真だけアピオである。用紙は偽造身分証らしく良質だが、印刷っぽさが少しだけ見え隠れしている。大丈夫だろうか。


「リーン・ノスカーテャ、か。」

「はい。」

 アピオの口から敬語が出ている。驚きだ。

 アピオ以外の3人は、聖域区脱出の際に隠れた様に車の床に這いつくばって隠れている。この状況を文字に書き起こすと、マットの盛り上がりが不自然そうで滑稽に思えるかもしれない。しかし大荷物があるので意外にもバレないものだ。

「カルコアには何故?」

「親戚に呼ばれまして。ここからカルコアを通り、実家のあるフェルタッタへ行く為です。」

「ほう。そうか。」

「大丈夫でしょうか。」

「リーンと言ったな。華奢で可愛い癖して大胆な事していて驚いた。危ない奴らに気を付けろよ。」

 大丈夫の意味が「通っても大丈夫か」という意味だった様だが、「治安は大丈夫か」と男は捉え、アピオに心配を掛けた。

 そうして若くしっかりとした男声が、アピオを優しく送り出す。

 気になり少し検問から離れたところから彼を覗くと、米製ドラマに出る警察のような、体格と風貌の良い男が真面目に勤務をしていた。

 アピオは照れている様子もなく淡々と運転していた。私が同じ事をあんな男に言われると、まず惚れるだろう。はー、羨ましいな。羨ましい。


 カルコアへ入国した。カルコアの西方大陸領土は非常に狭く、北氷雪地域が主な地方らしい。ここからは海底鉄道かフェリーでそちらへ移動する事となる。

 そしてカルコアでは、様々な国から情報や物資が届くという。カルコアが貿易大国だった頃の名残りだそう。

 その国々の中には、アルフィリア、フルニース、ウィーニア、ノルビア等、多種多様な国々の名が挙がると言う。

 ――目的の情報を集めるには打って付けのようだ。

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