第十四話 車旅のはじまり
それから2日間、旅の準備をした。
サバイバルナイフをはじめとするキャンプ用品や食べ物の缶詰、飲み物、それからお金をありったけ集めた。
私たちは旅に出る。まずはここから北北東に160キロメートル先の聖域区境を目指す。
そんなに区が広いものか、と突っ込まれては仕方がないもの、区という言葉の正確な訳は知らないのだから仕方がない。準備中に教えて貰い初めて知ったのだ。
実際には県かもしれないし、市かもしれない。まあでもそんなこといいじゃないか。
メーレルハントからローシンスタを越えカルコアへ入国する。カルコアはある程度の国とは中立であるため、情報収集には打って付けである。
しかしそこは北緯60度を超えたところにあるため、初春でもコートが必須なのは当然である。
カレンダーは12ヶ月に於いて全て31日まである。偶に12月32日があるとのこと。
地球に凄く似ていると感じる。
そして出発日を迎えた。カレンダーでは3月26日だった。
「ねえ、アピオちゃん。本当に一緒に来てくれるの。」
「誘ったのはサリーだよね。」
「まあね。」
アピオ宅へ迎えに行っている。
そして、ノノの方にも向かいサリスは喋った。
「本当に外に行ってもいいのかい。」
「駄目と言った所で、貴方達は外へ向かうのでしょう。」
「えーと、何だかごめんね。」
「いえ、何故謝るのです。貴方達が死ななければ良いだけの話。また逢いましょうね。」
「そうだね、またね。」
サリスは車を走らせた。
よく見ると、車に向かい手を振るノノは、アチェトが3日前に選び彼女へ送った服を着ていた。
アチェトは窓を開けて「またねー!」と大声で叫んでいる。アピオは未練も無さそうに無表情でアチェトの隣に座っている。
アピオは、
後部座席のアピオへ「因みに幾ら」と聞いたらアチェトが静止してきた。
「300万メルク。」
静止の甲斐も虚しく、普通に教えてくれた。
うん、大体900万円かあ。アタシ、驚愕さね。
女4人を乗せた車は、線路を渡り右折したら、そこから森林へ入っていった。ブナ林であった。
暫く森は続く。しかし片側二車線である為、景色はさながら高速道路である。所々に駅があり、駅の周りには少しながら店や住宅がある。
時速80キロメートル程なのだろう。サリスは運転が得意なのか、はたまた法定速度がこれくらいなのか、車窓から見える木々が速く遠ざかって行くように見える。
そうして2時間と少し、速度の衰えない運転が続いた。最中に後部座席を見てみると、アチェトはアピオの膝枕で寝ていた。シートベルトは付いていなかった。
森の一部は切り拓かれ、畑となっていた。畑が目に入ったアピオは、ぼうっとそれを眺めていた。
区境までやって来た。物流の中継地点故かは知らないが、境から10キロメートル圏内に入ると住宅や店が増えだした。
電車はここで乗り換えるようで、区と区の間には草野球場にあるようなネットフェンスが長く張られていた。そして簡素な検問所がある。
もっとこう、巨人を抑える為の壁があれば壮大で見応えがありそうだと思っていた。後にサリスから聞いて面積を計算したところ、北海道の広さくらいはあるようで、成程ネットフェンスのみでもよく囲った天晴だと褒めたくなった。
「この辺りでご飯を食べようか。」
サリスが言った。
その辺りの適当なお店へ入った。
料理は何だかドイツで出されそうな、ジャガイモと乾燥肉によるグラタンだった。
セットでやってきた
何も言っていないのに、アピオはメーレルハントの特産品に小麦やじゃが芋、牛肉や牛乳が挙げられることを教えてくれた。
ということは、グラタンは郷土料理だろう。
店でグラタンを食べ終わる頃に、風貌の整った男が「緑髪の姉ちゃん可愛いね」と言いつつアピオに連絡先を訪ねていた。
アチェトが必死に「嫌がってるでしょ」とか「やめて」とか言って男を遮っている中、アピオは無反応にただひたすら小さな口でグラタンを食べ進めているものだから面白い。
というもの、私はナンパなどされたことが無い。ナンパのされ易さとは地域風土に依るものなのかと考えていたが、それ以上に、アピオの可愛さが目立つ。
トイレに向かい私の顔を見てみたが、やはり自分で見ても「何故2回も告白されたのか」と思う程面白みも無い顔だった。そういえば3人は化粧しておらず、全く羨ましい。
コイツ等、金ある教養ある魔法あるで、更に美しいとか人生舐め腐ってるだろ、と
しかし彼女達は、富とか信用とかを捨ててまでも私を故郷へ送り届けようとしてるのである。嫉妬しては恩を仇で返す様だ。私もナンパされてみたいなあ。
車に乗ると、サリスがここから出る為の作戦を説明し始めた。
アピオがトランク内に、サリスとアチェトが座席床に隠れ、私が顔認証を受けるというもの。
「こんなのが上手く行くものか」と懐疑的に思っていたものの、そういう方向で話がまとまってしまった。
前にも3台ほど車があった。意外と出入りは多いようだ。
後部座席のサリスとアチェトは抱き合って、黒いフロアマットを被っている。
私たちの出番になり、慣れぬ運転をこなし検問前へ向かう。
そうすると中年の男性がやってきて人数と理由を聞き、顔認証を受けるよう言ってきた。
「行ってらっしゃい、バックパッカーの可愛いお嬢さん。」
アチェトが小さな声で「可愛いって言われたね」と揶揄う。
中年のおっさんに言われてもなあ。
とりあえず聖域外へ出られたし、どこでサリスに運転を変わろう。
暫く運転していたが、サリスに即席で教えて貰った運転技術だけでは時速30キロメートル以上を出すのが非常に怖く、二車線の癖に後ろの車に何度も煽られた。
泣きそうになった。
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