第八話 好奇心
「それで本題だけれど。」
ルカが畑を踏んずけ、パセリの若芽を圧し折ってしまった。
アピオはそれについて聞き始めた。
「どうして、私の畑に追突したの。」
「アピオさん、野菜を踏みつけてしまってごめんなさい。」
「謝罪はいいよ。理由を聞いているの。」
凄くゆっくりとしているが、ちゃんと意味が伝わってくる。ルカはよく言葉を覚えたなあ。
「ええと、ある時私の友達が魔法陣を描いたんです。それによって、この星に転移してしまいました。」
「そう。それで、私の畑の上に落ちて来たんだ。」
「はい。」
ルカは信じられない事を語りだした。
はあ、異世界転移なんてあり得るはずがない。
生星から何光年離れた場所に、ハビタブルゾーン上の星があるというのだ。いいや、ここから一番近い恒星系でさえ3光年は離れているのだ。
そして、質量が0より大きい粒子を光の速さで飛ばすだけで、相対論的質量が∞となってしまう。
相対論的質量が∞ならば、
亜光速であれば問題ないのではないだろうか。
ルカは、転移と言っていた。
これがただの亜光速移動であるならば、全ての光が前方に集中するスターボウ現象を観測できるか、そうではないにしろ時間を感じ取ることができるはずである。
彼女は、それを観測していない。
強力な慣性力(G)による気絶で観測できていないならば、非常に強力な亜光速を体験するため生存しての星間移動は叶わない。
つまるところ、光速による瞬間移動と考えて良いだろう。
そして元に戻るが、結論より導き出されるもの即ち、異世界転移などあり得るはずがないということである。
「サリー。異世界転移ってあり得るかな。」
「あり得ないね。」
そうやってルカに疑いの目を向けていると、「これが、証拠になればいいんですが。」と言いスマホを見せてきた。
「変なスマホ。」
アピオがそう言い放つ。
その通り、変なスマホなのである。
充電コネクタを覗いていると、まるで剥き出しの端子を挿す為の穴であるようだ。また、充電コネクタ以外の穴らしきものは見当たらない。
もしかしたら今私が充電コネクタだと思っていたものが外部との接続穴であり、これ自体は背の蓋を開けリポバッテリを直接充電したり、はたまた小型使い捨て電池を入れ替えるタイプなのではと思いつく。しかし背部にも蓋のようなものはない。
あとは開け方の判らない小さな蓋らしきものがあるが、こんな大層開けにくそうな場所が充電コネクタという訳では無かろう。
ルカに聞いてみた。
「これ、コンピュータ等とのデータのやり取りやスピーカー接続を、ケーブルを用いてする、みたいなことはできるのかい。」
「えー。コンピュータ……?何ですかそれ。」
「巨大な計算機で、スマホよりも色んなことができるものだよ。アチェトの部屋にもある、色々なものが繋がっているアレ。」
「ああ、あれですね。できますよ。」
「ええ!どうやって?!」
「ここからです。」
私が充電コネクタだと思っていた場所だった。
「じゃあ、充電はどこで行うのかな。」
「ここです。」
同じ場所を指差した。やはり変なスマホである。
奇妙な出で立ちに、奇妙なスマホ。そこに座るスミダルカを、奇妙なむすめと言わずして何と言おう。
はあ。この娘の出で立ちについて考察して、元の場所まで送り返せる様に手伝ってあげようと思ったが、中々に厳しそうである。考えすぎて疲れてしまった。
とりあえず、話半分でも彼女を異世界転移者と認めた方が楽である。スマホという証拠だけでも、嘘にしてはよく出来過ぎている。
ルカは紙を取り出し、アチェトお気に入りのシャープペンで文字を書きだした。
どうやら長文を伝えたいらしい。
しかしながらこのシャープペンは昨日からアチェトが「無い、無い」と叫んでいたものである。故、突然昨日の夜にペン捜索へ駆り出された。この原因がルカかよ。
「ここまでお世話にさせていただいて、尚申し上げるのは恐縮なのですが、伝えたいことがあります。私は、魔法陣を描いた友達を探しに行きたいのです。友達は2人居ます。それぞれ『オオオカ セリナ』『カワセ レイラ』という名です。また、元の世界に戻りたいのです。戻り方は、よく判っていません。どうか叶うとしたら、手伝っていただきたく思っています。」
魔法陣を解析すればある程度の方法は判るかもしれないが、現代人に広く使われている魔法陣の形式では、光速を超える移動は不可能であると感じる。
もし手伝うとすれば、とりあえずは魔法や科学についての知識など更に多くの情報を集める必要がありそうだ。その為の旅へ出るとすれば、もしかすると二人は見つかるかもしれない。
――現代物理学を超越する魔術。興味がある。
世界の全てがこの都市に集まるならば、どうしてルカのような娘を見たことが無いのだろう。
正直、全てを捨て旅に出るのは怖い。だが、全てを見て知りたいという想いが、小さく心の奥底で芽生えていた。
私は、サリス。
ただ
この世界については、あまり良く知らない。
興味は、少しだけある。
ここで住んでいて生活に不自由をしたことも、強烈な不快感を催したこともない。
しかし、私は世界の全てを、見て知りたい。
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