第五話 夜明
日差しで私は目を覚ました。
夜明けや
しかしながら、それらは途切れぬ1サイクルのほんの一部の状態を指し、それ自体が始まりであるとは定められない。
だが、人間は始まりというものに美を求めるものである。
桜に例えると分かり易いだろうか。蕾が芽吹くを言い換えると、美が始まると言える。
そして人々は桜の下に集い、宴を開く。
彼らは枝先が段々と緑に染まる姿を見て美の終わりを感じ取り、それを悲しむ。
しかしながら、私はそんな葉桜が好きだ。
葉桜の新緑には生命の始まりというものが感じ取れて、心から美しいと思っている。
起きたらアチェトが朝食を作っているところだった。
ぼうっと
なぜ服を?――私か。
高校に入ってからパジャマを着るのが面倒臭く、家では下着のまま寝ていた。しかしここは私の家ではない。
疲れすぎて失念していた。
身長体重スリーサイズを書く気は勿論無いが、カップサイズB70の平凡で面白みに欠けるつまらない体を夜通し見られていた事実に恥を掻いた。
サリスの持ってきた服は、恩を感じている私が言うのも何だがダサかった。
タグが付いているのを見るに新品らしいが、そこにはシャツと長ズボン数枚、下着類、そして黒色で無地のパーカーのみがあった。
オタクかよと思わせる酷いファッションだ。
それを見たアチェトが大笑いをし出した。
下着も二日使いまわしたくは無い
サイズは少しだけ大きかった。違和感が上下から襲い来るが、まあ仕方ないか。
アチェトが面白そうに下着の私を見つめる。おい、着替え中だぞ。
そうしてたら、アチェトがメジャーを取り出してきて採寸をしてきた。よく見ると、メジャーの目盛は㎝に非常に近いようだった。
で、次はアチェトが外に出て行って、十数分待っていたらよく合う下着を買ってきてくれた。
違和感は無かった。
だが、昨日会ったばかりの相手にバストサイズを知られてしまった。ついでに貧相なヒップも。
はあ。もっと大きければなあ。大きく溜息を吐いた。
ファッションは、サリスが持ってきた黒パーカーに合わせる形で、アチェトはピンクのミニスカートを履かせた。
地雷臭が
だが私が履いてきた黒のブーツに合わせると
ああ。何を言おう私もファッションセンスはないし、陰キャである。
こんな可愛い格好に包まれるのは全く
やめてくれ、サリスのズボンの方が
そう
吹き出しそうになるほどシュールな光景だった。
時折二人の会話に私の名前が出てきた。何をされるのだろうか。
サリスが朝食を食べ終わり、外に出て行った。
彼女は何をしているのかと思ったら、アチェトも
そして、身支度が終わると腕を引かれて廊下へ出た。
アチェトと待っていると隣の扉からサリスが鞄を持って出てきた。
ここで気付いたが、今までしばらく居た場所がアチェトの部屋で、隣がサリスの部屋であった。
車に乗せられ向かった先は広い建物である。これは図書館らしい。
しかし意外な光景だ。異常な広さであり吹き抜けの上を見ると4階までありそうだ。そして更に人が多い。
沢山の本がある中アチェトは童話や児童書をいくつか集め、3階の吹き抜け近くにある机へ座り私に読み聞かせを始めた。
子供みたいで恥ずかしかった。
最初に読んでもらった童話は気に入っている。アチェトも楽しそうに何度か読んでくれた。
これについて私は日本語訳で書いてみたいと思っている。
そうして十数日と図書館へ通っていた。(服装は毎日地雷女子という訳では無い。)
お陰で少しずつ彼女らの言語の理解が進んできた。
以下は、アチェトのお陰で確認できた事実である。
1.文字体系はアルファベットである。
2.文法は英語に非常に近い。
3.名詞や動詞は、修飾+物質+形質で示される。
4.修飾は基本的に略され、形質も場合によっては略が可能となる。
例を挙げると、水を物質として、水:wogol、氷:wogil、水蒸気:wogavol、川:Lewi-wogol、氷床:Tawi-wogil、等。
※アルファベットとは、母音と子音を分けて1文字に表記する文字体系である。対照的にアブギダやアブジャドや音節文字が挙げられるが、これは子音と母音を纏めて一文字に表記するものである。
言語の理解を進める日々。
アチェトは嫌がる様子もなく毎日勉強に付き合ってくれる。サリスは、難しい本を読んだり、私の隣に移動し読み聞かせを聞いてたりしていた。
十数日の間にアピオが2度図書館へやってきて、アチェトに酷く絡まれていた。そうしてアチェトを遮り色々と本を読み漁っては、アピオは
ある日のことである。
私は思いつき帰り際二人と話をしてみることにした。
「アチェトさん。」
「わっ、ルカちゃん。どうしたの。」
「どうして親切にしてくれるんですか。」
「ああ、うーんとね。」
そうしていると、運転していたサリスが口を挟んできた。
「コイツ、馬鹿なんだよ。」
「へえ。」
「いきなり『仲良くなりたい』とか言い出す馬鹿。あんまり気にしないで。」
二人と言語を用いて会話した。
言語は、時間軸と発音による二次元的な情報である。
そこには、我々が思っている以上に感情を多く詰めこむことができる。
これまで伝えられなかった沢山の感情をようやっと伝えることができるのかと考えると、夜明けのような、何かの始まりを感じた。
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