第四話 謎の親切
性善説とは、無知な人間こそ絶対的な善であるという考えである。
だが性悪説は、無知な人間をしっかり導かないと必ず悪道に走る考えという訳ではない。
性悪説が指し示すものそれは、無知な人間は無知ゆえ、善悪
また、無知な人間をしっかり導かないと必ず悪道に走るという考えは、
ところで君は、出会って間もない人間から親切を受けたことはあるだろうか。
旅人やスポーツマンなど不特定多数の人々と頻繁に出会う者なら、その経験も珍しいものではないだろう。
まあ私はというと、オカルト研究部という閉じたコミュニティに
ではイメージしてほしい。
もし親切を行ってくれた『出会って間もない人間』が、全く不明な言語を喋っていたとする。親切にされる側の君はどのような感情を抱くだろうか。
焦り、困惑、恐怖。それが私の感情だった。
どうしてこのような感情が生じたか。それは、私が性悪説を体現していたからだろう。
私は四人の少女に出会った。
サリス、アチェト、アピオ、ノノ。
アチェトは明るく、そして優しく話しかけてくれた。
正直、四人が何を考えているのか全く見当が付かない。何かしらを企んでいるのだろうか。
彼女らが企みごとを考えていたとして、その結果、私が奴隷になるかはたまた煮て喰われるかされるとしよう。
命からがら逃走し他人に泣きつけども、奴隷/カニバリズム文化が社会一般に受け入れられている可能性が高いため、泣きついた先から再び同じ目に遭うだけだ。
せめて何も企んでいないと祈り、私は車の隅で縮こまっていよう。
アピオ宅から約20分。山の向こうに落ちて尚空を照らしていた夕陽も、ふと見るとその光の帯は見えなくなっていた。
川を渡ってからというもの、街明かりが途絶えることもなく、更には段々と明るくなっていく。
片側三車線の混みゆく道路を駆けていく。中央分離帯にどんと置かれた標識には、見たこともない字が示されていた。私は、ここで初めて実感した。
――これが、異世界か。
アチェトが運転する小さな車、ここまで約30分。地下の駐車場に車を停めた。
そして出入り口から上を見ると、高級そうなマンションが
ここだけではない。周囲全てもである。
ルカ、こっち来て。
アチェトは、そんな雰囲気で喋りゆっくりと手を引いてくる。
そうして連れられるままにロビーを通り広めのエレベーターに乗せられた。ただの平民であるためこういったものは縁遠く、ホテル以外では見たことがない。
ホテル。室内でレズ二人に犯され、出会うべき白馬の王子の為に17年待ち侘びた処女を奪われる可能性もあるが、そこには寝床がある。死ぬよりかはマシかと考えることとする。
その広いエレベーターでアチェトとサリスが喋っていた。でもやはり何を話してるのか解らない。
それ故更に緊張し恐怖を感じる。数時間前抱いていた、「嘘を吐いてその場を乗り切ってやろう」という威勢は既に見る影もない。
20階まであるようだった。二人は5階で降りたので付いていった。そして、廊下の奥の部屋に二人が入っていった。
5階の部屋といえ、高級マンションらしく部屋がとても広い。しかし片付けが苦手なのか、誌類や衣類が少し散らばっている。よく見ると、デスクトップのパソコンからコードが沢山伸びていて、その先ではペンタブレットやゲームパッドらしきものが床に触れていた。上に目をやると、壁にはロードバイクが掛っている。
アチェトは何かしらを言い放った後、服を脱ぎ捨て、そしてシャワールームへと向かった。
サリスはアチェトの発言を聞いて溜息を吐き、ソファの上を片付け始めた。
私は、ソファに座ってみた。
同時にサリスも隣に座ってきて、こちらを向き恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。
サリスはすくっと立ち上がり部屋を掃除し始めたので、私も一緒に片づけることとした。
二人とも無言ではあるものの、この間にはコミュニケーションが存在した。
放り出されたメモリーカードやらぬいぐるみやらを持ち上げると、サリスが指を差す。そして仕舞う。
片づけているうち感じたが、片付いていないとは言えども、物は意外と少ない。
特に化粧品が少なかった。文化ゆえか、もしくはそういう性分なのか、洗顔石鹸と化粧水、クリーム以外はほぼ見当たらない。
アチェトがシャワーを終えると、サリスがシャワーを浴びた。そしてサリスが出てきたので、私もシャワーを浴びることとした。
シャンプーが長髪向けなのか、しっとりしていて少し重く感じた。
本当に、疲れた。今日は何とか生存することができた。
シャワーを終えソファへ腰かけると心地良く、眠ってしまいそう。
サリスとアチェトはベッドの
未だ困惑は絶えないが、彼女らの親切ゆえ泊まることができたとでも解釈しておこう。
言葉が喋れたら「ありがとう」とでも伝えたいものだ。
さあて、どうしよう。まずは軽く言葉を覚えたいものだ。その後にレイラとセリナを探しに行きたい。
そうやって思案に
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