第二話 落花

 一昔前、異世界転生というジャンルが流行した。

 私はそれを好まなかった。それはちんけで下らないと、心ではさげすんでいた。


 異世界転生とは、即ち現代にける神話の焼き直しである。

 ゲームの世界が異世界であるというのが主流だが、実際もととなっているゲームの内多くが神話をベースとしているのである。

 輝かしくも美しき神話に、近現代の価値観を移植してなお神性を持たせることができれば、素晴らしい御伽話おとぎばなしに仕立て上げることもできる。

 では、異世界転生とはどのようなものか。

 近現代で生を受け、近現代で価値観を養った者が、神話の世界でその神性を否定し科学的な知見で蹂躙じゅうりんする、又は神性を受け現人神になる物語が大多数だ。

 前者は夢が無い。価値観の押し付けである。後者は、まあスポ根でも見てればいい。そして両者共にテンプレート的である。

 

 私はそのように考え、自分ならこう作るだろう、と反骨的に物語を考え妄想に浸ることもあった。

 まあこう書き記していて何なのだが、そのように、テンプレート的である物語を否定すること自体、私による価値観の押し付けであるとは言うまでもない。

 そりゃあ、テンプレートを用いた物語も、非常に沢山の試行錯誤を経ている。

 異世界転生というジャンルの物語も、それらの努力の上で面白くしようとしているのだから、と叱られてしまっては何も言えない。


 叱ってきた者が居たのか?という質問に対しては、ああそうだ、と答えることにしよう。

 

 さて、話を戻そう。地球は自転しており、そして太陽を公転している。太陽系もいて座A*を公転している。そんな中、幾光年も離れた他星への直通路があらわになるとしよう。その星も自転し恒星と大質量ブラックホールを公転している。ここで、幾光年も離れた他星への直通路へPが突入し、1秒後にQが突入するだけでPとQの着地地点は大きくズレる。小一時間で閉じそうとは言ったもの、小一時間も待っていたらどうなるのかは想像もしたくない。

 直通路は暗闇であったが、一瞬で通り抜けられた。大空2m地点にブラックホールのような黒紋が空間を歪め、私を顔から押し出した。そしてこれは垂直でなく、水平線から下向き約三十度程度の角度であった。

 私は邸宅の畑へ追突した。


 初めに私の考える異世界転生について語った。

 異世界転生というお話は、異世界へ飛ばされてしまえば、その者に強大な力でもなければ世界に飲まれるのみである。

 世界に飲まれぬために、ご都合展開やら何やらが存在するが、現実にはそのようなものは存在しない。


 世界に飲まれるとはどういうことか。まず創作をする上で悩むのが、異文化間の交流である。

 異世界とはすなわち異文化を持つ相手の存在する世界である。

 異世界転生だけではない。とりあえず、解りやすくする為に例として、東南アジアにありそうな民族島でもイメージしてほしい。

 ジャングルの草の冠を編み、狩猟と採集で生きている少数民族が治めている島である。

 彼らは勿論もちろん日本語や英語を使わない。いきなり彼らの住む島に漂流したとしてどの様にコミュニケーションを取ればよいのだろう。


 所変わってここは邸宅の畑。尻の下にはセリ科の何かを踏んずけている。

 スマホは圏外であり、助けはおろか一通のメールも送れない。


 少しして透き通った緑髪の、西洋顔の少女が一人、私の元へ近寄って来た。

 申し訳ないとは思っているけれど、外人に謝罪の語を伝えるとどう受け取られるか判らず怖い。

「Hello, haha. I'm being in trouble, so I wanna listen to me.」

 とりあえずこう言ってみた。私は、英語と世界史の点だけは少し高いのだ。さあ、いきなり巨漢に投げ飛ばされてしまったとでも嘘を吐いてみるか。

 私の発言を聞くや否や、少女は困った顔をした。そして、全く解らない言語で何かを語りかけ始めた。

 英語が通じない、つまり私にとって一切の言語が通じない現実に直面し、ただニコニコと笑うことしかできない。これ以上何か喋ったが最後、槍で突き通され煮て喰われたらたまったものじゃない。


 少女はスマホをおもむろに取り出し、翻訳ソフトらしきものを起動したのち私の顔に近づけた。

 恐る恐る私は日本語で喋る。

「こんにちは。同級生と活動しているクラブで実験をしていたら、吹き飛ばされてしまいました。」

 また困った顔をした。やはり認識していないのだろう。

 その後当社比ではあるもの、明瞭な発音で英語を喋ってみた。それでも認識はしてくれなかった。


 こんなヘンテコな状況があるかと言われれば、一生のうち一度でも経験する人はほぼ無いだろうと推測できる。しかし笑えない状況である。

 珍しいと言え勿論愉悦ゆえつに浸れるものでもない。


 さて、どうしようか。

 とりあえず日本語で「ごめんなさい」と謝り顔を土へこすり付けてみた。

 奇妙な行動に緑髪の少女は更に困惑を始めた。

 そうしていると、彼女に腕をいきなり掴まれた。

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