Sal' Dials

4メエル

第一章 落花

第一話 オカルト

 オカルト。

 語源はラテン語「Occult」。動詞Occulere(隠す)の過去分詞より来ている。

 目で見たり、触れて感じることのできないものを指す。

 

 君の思う「新興宗教」について頭の中でイメージしてほしい。もし君が日本国に住む人間のうち少数派でなければ、気持ち悪さを感じたはずであろう。

 しかし、気持ち悪い、では抽象的である。では次に、君はその気持ち悪さを一文で表現してみてほしい。

 どうだろうか。それを想像し、気持ち悪さを感じ取ることはできても、その風貌、その風味について一文で的確に言表すのは難しいはずだ。

 

 では、もう一度、「オカルト」という言葉を頭の中でイメージしてほしい。

 「新興宗教」に似ている、同じような気持ち悪さを抱いたであろう。


 どちらも、未知について科学的でない知見から事柄を説明するものが多い。

 ――ああそうか、前述した2つの概念に関する気持ち悪さは非科学的だからか。と納得する人間も居ただろう。

 

 では、ここで問題だ。

 アリストテレスの四元素説と、デモクリトスの原子説、どちらがオカルトであるか。

 君たちならこう答えるであろう。「四元素説だ。」と。

 だが、オカルトの語源は「目で見たり、触れて感じることのできないもの」を指すOccultである。

 つまり、現代的知見により間違っていることが証明されている四元素説も、正しいことが証明されている原子説も、どちらもオカルトと言える。


 私は、ルカ。オカルト研究部の部長だ。

 歴史上の文化としての魔術や奇術の探求の為、つまり大真面目にオカルトを研究する為に部を設立した。

「レイラ、そのチョークはどこから取ってきたの。」

「隣の部が要らないって。」

 そう言いながら床に大きく魔法陣を描いている狂者きょうじゃこそレイラ。頭は良いのだが、私とは異なった価値観でオカルト研究部へ入部した。と濁し記しても良いのだが、実際には近代魔術的、あるいは隠秘学いんぴがく的な儀式魔術を実践したく入部したそう。

 隠秘学はオキュルティスムともいう。オキュルティストである彼女こそ、将にオカルト研究部員として相応しいのかもしれないが、見ていて気持ちが悪い。

 iPhoneを眺めながら黙々とシンボルを描き、中心に何かしらを置く。今日は、真珠のように透き通った白い石を置いた。更にキャンドルを立てれば、ウィッチクラフトらしく魔女狩の磔刑たっけいが似合う様相だ。私は尋ねた。

「キャンドルでも立てればもっとそれらしいんじゃない?」

「あっても禍々しさが増えるだけ。」

 既に禍々しいが、気にしないこととした。


 古代から中世にかけて、魔術それは経験による予測を指す言葉であった。

 鳥は雨の降り始めを知り、月が数度満ち欠けると季節が一巡する。

 農作、採集、災害対策。最も効率的な行動を予測する為に、群の生存戦略として魔術師は必須であった。

 それが中世に於ける魔女狩を経て、魔術こそ忌嫌いみきらうべきものであるとし、古代にける魔術から自然法則に則ったもののみが「科学」として分離独立した。

 それ故にレイラの行っている隠秘学いんぴがく自体何の意味もない訳であるが。


 レイラが大量に持ち寄り、持ち帰る気が無さそうな諸書を読んでいる。

 クロウリーの『第四の書』なんてものも持ち寄っているのか。と呆れながら読んでいた。彼の魔術の定義は現代における魔術奇術を的確に示したものであるが、私は古代から続く民間的経験則である魔術の方が好きだ。自然法則に則ることさえ証明できてしまえばそれが可能とわかる。つまるところ夢がある。

 そうやって本を読みパイプ椅子に腰掛け、横目にレイラを眺めているとセリナと話を始めた。

「これ、どう思う?」

「何かの暗号でしょうか?」

 セリナは、学年主席だ。頭が良い。何故こんな偏差値の低い高校に居るのか、何故こんな愚かな部に居るのか、全く理解できない。

 部室ではジュースを飲みつつ漫画を読み、全く勉強をしない様相を眺めていると、本当に学年主席なのか疑いたくなる。が、コーラは飲まない。

 そして、たまにセリナは、私かレイラに絡み首を突っ込んでくる。今日がその日だった。


 まあ、そうやって今日も三人バラバラに活動し、楽しかったで終えるのが日常だ。

「解けました。」

 セリナが声を発した。

 その瞬間、いきなり不快な瘴気しょうきが流れ込んできたかと思えば、魔法陣の部分が底の見えぬ大穴と化した。


「……何したの、レイラ、セリナ。」

御伽話おとぎばなしの世界への連絡路だよ。」

 普段は表情を見せないレイラが意気揚々としていた。そして足を滑らせ、咄嗟とっさにセリナの足を掴み、二人で大穴へ落ちていった。


 え……。こわ。

 でも、オカルト研究部部長として、助けない訳にはいかない。

 どうやって降りようか考えていたら小一時間で閉じ切そうに見えた。そのため、恐る恐る暗闇に顔を入れ覗いてみた。

 すると、引っ張られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る