XXXII

Colonelが、俺の前に立ちはだかって、

向けられた攻撃を、もろに受けていた。

Colonelは攻撃を受け、そのまま倒れてしまう。

Colonel…ッ!!


「ふはは!感動的だな

善意など見せたところで、面倒事が増えるだけだと言うのに…」


Colonelのドッペルゲンガーが、それを見て嫌ったらしく笑い声を上げた。

…意識を失っているが、まだ生きている。

もう一度声を上げ手を出そうとしたが、

そうする前に、背後から片方に押さえつけられ、

腕を固く固定されてしまう。


「がッ…、ッく…」


無理矢理腕を押さえつけられ、身体に痛みが走る。

Colonel、何で…っ

俺のことなんて、守る必要なんかなかったのに…っ!

俺が動けないままでいる間、

ドッペルゲンガーがは倒れたColonelの襟を掴み、

そのまま引きずって連れ去ろうとしていた。


「ぐッ、ま、待てぇ……ッ!!」


腕と一緒に肺も圧迫され、叫ぶような出した声が上手く発せられない。

くそ、俺が、

俺が、油断なんてしたから、こんな…っ


「Colonel、おい!!

起きろッ!!!Colonelッ!!」


声が出し辛い中でも、必死にその体勢からColonelを呼んだ。

俺が暴れて、押さえ付けられる力は更に強くなった。

継続した激痛が、俺の顔を歪めさせる。

ッ、Colonel…っ

…、だが、

Colonelは、目を覚まさず、

気を失っているままだった。

そして、

やがて、Colonelを連れ去ろうするドッペルゲンガーが、

不気味な笑みを浮かべる横顔を覗かせた。


「黙れ

もう、貴様に用はない」


奴はそう俺に吐き捨てると、

次の瞬間、目の前からテレポートで姿を消し、

同時に俺の身体を拘束していたドッペルゲンガーも消えて行った。

身体が解けた俺は、その瞬間に飛び出すように部屋から出、奴らの姿を探す。

…居ない…っ

逃がして、しまった…っ!

Colonelも連れ去られた…っ、

くそ、完全に俺のせい……、

どうすれば…っ

…、

もたもたしている暇はない。

早く二人に連絡して、

後を追わないと…!!

———————————————————————————

………

…、

…目が覚め、うっすらと目を開ける。

…私は…、

、っ

身体が痛む。

…そうだ、

私はさっき、ミラーを庇おうとして、そのまま攻撃を受けてしまった。

だから身体がこんなに————

私は、

自分自身の姿を目で確認すると、

血の気が引いてしまった。

違和感を感じる自分の手元に目を向けると、

…私の両手は天井から繋がる鎖によって頭上の斜め上で固定され、

身体は、それによって宙吊りになっていた。

…つま先が、床につくかつかないかの位置で宙吊りになっている。

おまけに私の上半身は、服を脱がされて裸にされている。

…そして、正面の身体には、先程つけられたであろう大きく避けたような傷があった。

…ふと、辺りを見渡してみる。

……何もない場所だ。全面コンクリート造りの部屋で、

…恐らく、地下牢、だろうか。

最近は秋にもさしかかってきて、その為か辺りはひんやりとした空気を浮かばせていた。

…とうとう、

私も、監禁される時がきてしまったのか。

あまりに情けない自分の姿に反吐が出そうだ。

一度、力を入れてもがいてみたりテレポートで逃げ出せないか試みるが、

勿論逃げられる訳もなく、魔力は阻止されている。

…腕が全体中で引っ張られ、おまけに大傷も負っていて身体が痛む。

……こんな私の姿を皆んなが見たら、一体どう感じることだろうか。


「やっと目が覚めたか」


ぼんやりとそんなようなことを考えて俯いていると、

突然、私に向かって声を投げかけられた。

私ははっ、として声のした方へ顔を向ける。


「逃げようとしても無駄だ

貴様の魔力はこの部屋から出ない限り封じ込められている

能力は、一切使えなくなっているだろうな」


いつの間にそこに居たのは、

スケルトンの姿の私と全く同じ見た目をしたドッペルゲンガーだった。

…隣には、Majorのドッペルゲンガーが居る。

私は奴を鋭く睨み付けた。


「何故わざわざ捕えるなど手間のかかることをする?

さっさと息の根を止めてしまえば面倒事も起こりにくいはずだろう

私をすぐに殺さない理由は何だ」


能力を使えないのはかなり痛いが、ならばそれに倣って反抗していくしかない。

…あとは、私の身体を長く耐えさせるぐらいだろうか。

私の質問を聞くと、

ドッペルゲンガーは突然、高笑いをし始める。

…緊張感は、更に高まっていく。


「貴様、本当にあのColonel軍の大佐か?

あまりの頭脳の弱さについ笑い声が出てしまった」


ドッペルゲンガーは私を煽るように、不気味な笑みを浮かべながらそう言った。

…ドッペルゲンガーの声質も、私と全く同じ声質をしていた。

私と全く同じ声で、絶対に私が作らない表情で話されていると、

どうも、虫唾が走るように嫌気を感じる。


「その状態にされていることから、簡単に察しがつかないのか?

貴様は囮だ

あとの三人を誘き寄せる為のな

一番厄介そうなのを捕えることが出来てかなり手間が省けた

お陰で面倒事も起こらなさそうだ

礼を言おう」


続けて、奴は煽るように私に言葉を投げかける。

囮…。

……、あの三人ならば、

これが罠だと言うことは、すぐに見抜けるのではないだろうか。

…と、思う反面、

そのうちの誰かが焦った勢いで、羽目を外す事態に、

なったりはしないだろうか。

…現時点では、まだどう状況が動いていくのか全く予測が出来ない。

万が一悪い方向に向かっていくことを考えると、

大きな不安が押し寄せてきてしまう。

…、だが、

まさか、あの三人に限って、

そんなことは……。


「…

…囮?私がか

私を囮にとったところで、そんな簡単に引っ掛かるような私の仲間ではない

…残されているあの三人は、私もよりもよっぽど冷静に、的確に物事を判断出来る奴らだ

貴様の思い通りになどならない」


生憎私は何か働きかけることすら出来ないが、

口は、塞がれていない。

ならばいくらでも相手に煽りなどでも被せてやろう。

自由に喋れるだけ幸いに思うべきだ。

…少しでも、それがこれからに影響することを願って。

私が煽ると、ドッペルゲンガーは鼻で笑って呆れるように目を逸らした。


「まぁいい

余裕でいられるのも今のうちだ」


そう吐き捨てると、

奴は何やら「やれ」と言うような合図を出した。

すると、

Majorのドッペルゲンガーが私の前に移動し、

何かを持つ手を、私に向かって振りかざした。


「ッ、!!」


それが振り下ろされた瞬間、身体には激痛が走り、私は咄嗟に強く目を瞑ってしまう。

…今の一撃だけでもかなりの痛みを感じ、余韻でも身体が痛んでいる。

瞑った目をうっすら開けて私に向かって振り下ろされた手の先を確認すると、

その手に持たれていたのは、ロープ状の鞭だった。

鞭の先には小さな刃がついている。

…攻撃を受けた腹の辺りを確認するように目を向けると、

肉が裂けたように、さっくりと大きな傷が出来ていた。


「奴らが来るまで続けろ

此処まで来た時に全員纏めて始末する」


…あぁ、

ただの囮では、ないと言うことか。

私の身体がもつのも、

時間の問題……。

それに、今回は人間の身体で、皮膚を持っているからこそこんなに痛みを感じているような気がする。

今回人間に変身するのは、

もしかすると、余計な判断、だったのだろうか…?


「あと、

その目、変装しているつもりか?」


また声をかけられ、再び顔を上げる。

顔を上げた先で、自分の顔のすぐ前に手鏡を突きつけられる。

…鏡に映っている自分の目の色は、

いつの間にか、

元の色に戻っていた。


「貴様の魔力を制御した時に、同時にその変装も解けてしまったようだな

そんなちゃちな変装で、私の目から逃れられると思うな。間抜け」


また、そう馬鹿にするように笑いながら私に吐き捨てた。

私が唖然としていると、

また、私の身体に鞭を打ち付けられるのが再開される。

何度も打ち付けられて、あっという間に、何も考えられなくなっていく。

皮膚からの感じたことのない激痛で、それを感じる度に声が漏れた。

腕を拘束されていて、それを少しも防ぐことすら出来ない。

時折目に映るMajorのドッペルゲンガーの顔は、

心がないような、ただ無心でいるような、そんな表情をしていた。

此奴が別人だと言うことはとっくに分かり切っていると言うのに、

どうしても、Majorと全く同じ顔の作りをしていては、

Majorのことが度々チラつき、更に私の精神を狂わせていくようだった。


「先日、差出人が書かれていない宣戦布告を受けたのを覚えているか」


拷問を続けられる中、奴は淡々と私に話しかけた。

とてつもない痛みが続いて、まともにそれを聞くことすらままならない。


「とうに忘れてしまっていたのだろうか

結局あれの正体が、何だったのかを考えることすら怠って」


部屋には叩くような激音が連続で響き渡っている。

その度に感じる苦痛で、頭が埋め尽くされていく。

気付けば、必死にそれに耐えようと息も上がってきているようだった。


「“攻撃を仕掛ける”と書かれていたはずだ

それが一体いつのことだったのか…」


…、待て…、

その攻撃は、既に仕掛けられたはずではないのか…?

Phantom軍からの攻撃を仕掛けられる、と言う意味だと私は事後に読み取った。

…まさか、

Phantom軍とコイツらが既に手を組んでいて、

私達が油断するよう、更に細工を仕組んでいた……?

私はそれに気付かずに、

まんまと……


「此処に来ることなど、全てお見通しだ」


奴のその言葉に、ソウルを大きく跳ね上がらせる。

次の瞬間、

追って振られた鞭が頭に当たり、

その衝動で頭がその方向に傾いた。

…休まるように一時攻撃が止まったが、

既に私の身体には力が入りそうになかった。

息切れながら力が抜けて、そのまま項垂れるように体重が下へとかかる。


「…見誤ったな。Colonel

とうとう、貴様の落ち目だ」


…先程鞭が当たったところからか、こめかみ辺りから生暖かい何かが伝ってくるのを感じ、ほんの若干目を開く。

それが鼻先まで伝い、滴り落ち、目線の先の地面の一部を赤く染めた。

…何、だろうか。

この場所が地下牢だからなのか、

変に寒気をも感じ始めてきた。

それを自覚し始めた途端に、身体が小刻みに震え始める。

皮膚からの痛みに身体が慣れていなくて、目眩を起こしそうな程痛覚を感じている。

……、…目の前が眩む。

私の身体が一体いつまで持つのか、

それすらも段々、分からなくなってきそうだった。

———————————————————————————

「だから言ったんですよ貴方が下手に動くと返って厄介だとあれ程!!

言わんこっちゃないじゃないですか、貴方それでも我が軍の大佐なんですか!!?」


俺はあったことを正直全て話たが、

勿論怒られずに許される訳もなく、こっ酷く叱られ倒している。

…今回は本当に俺がやらかしたから起きてしまった事態であって、何を言おうと責任は俺にある。

責任…、一人では取り切れないからこそ、

結局はまたまじゃちゃんを頼ることしか出来なくなってしまう。

…ふと、Majorくんに目線を向けてみる。

…、Majorくんは俺がこの話をし始めてから本当に顔色が悪い。

恐らくColonelのことが心配で不安なのだろう。

身体に悪い感情を持たせてしまって申し訳ない…。


「…たく

しかし、そうこうしている暇はありません

早急に解決策を考えましょう」


そうやっていつもスムーズに話を進めてくれるのも、いつもまじゃちゃんだ。

いつも俺は、仮を返せていなくて、何も出来ていないままだ。

もうまじゃちゃんが大佐でいいよ…。


「まず、わざわざ大佐もColonelも殺されずに、

片方だけ誘拐されてもう片方が置いていかれたのなら、推測すると恐らくこれは罠でしょう

Colonelが連れ去られた時から、トラップは始まっています。俺達を誘き寄せて、その後纏めて始末するつもりでしょう

なので、居場所を探る際にはかなり慎重に動かなければいけません」


まじゃちゃんは辺りを少し見渡し、

向かうべき方向であるのか、ある一定の方に向くとそっちの方向から目を離さなくなった。


「Majo程豊富な能力は持っていないがr、俺は透視能力を無限に使うことができる

Majorのコピー能力は魔力の消費がどうしても激しい。どのぐらい長く使うか能力を使うか分からないからあまり無理はさせられない

今回は俺が透視能力を使って探すから、いざと言う時に協力してくれればそれで構わない」


…まじゃちゃんに焦っている様子はなかった。

急ぐべき事態ではあるが、冷静な心を保ち続けている。

まだ、間に合うことが分かっているのだろうか。


「…あっちの方向だ

此処から離れた場所にわざと入り口を置いているらしい

残り時間が少ない、早く向かおう」


まじゃちゃんは捉えた方向に指を指して見せると、少し急ぐようにそっちの方向へと進んで行った。

…俺達も言われるがままにまじゃちゃんの後を追った。

彼の透視能力は、正に本物だ。

言っていることは正しいし、恐らく間違っていない。

…だからこそ、俺達に口出しする権利はないしただ着いて行くことしか出来ない。




「…、この辺のはずなのですが…

地下に部屋が作られているのでしょうか」


地下…。

でも、肝心の入口はまだどこにも見当たらない。

…入口はまた別の場所にあるってことか…。

Majorくん…、

…目を向けると、Majorくんは悪寒がするような表情で気持ちを暗くしている様子だった。

さっきからそんな様子が長く見られていて、口数も少ない。


「Majorくん…、

…大丈夫だよ、まだ間に合うから、」


そんなMajorくんの様子を見ているだけではいられなかった。

俺はつい、そんなMajorくんに心配で声を掛ける。

…が、Majorくんは俺の方にチラッと視線を向けた後、また目を逸らしてしまう。


「…何だか、ずっと嫌な予感がしていて…

…居ても立っても居られなくなりそうです…」


Majorくんの喋る声は極めて暗かった。

…不安だよね…、辛い気持ちにさせてしまって本当に申し訳ない。

早く、見つけ出してあげないと、


「…いや、

もうそんなに遠くないぞ、Major

…入口もそれ程遠くない場所にあるはずです。歩きながら今後の作戦を話しますから、二人共良く聞いておいて下さいね

ここまで来たんですから、もう失敗は許されませんよ

気を引き締めていきましょう」


まじゃちゃんの変わらずキリッとした表情に目を向ける。

…立派だな。これのどこが俺の部下なんだろ。

まるで俺が部下みたいだ。

…、けど、

どうやら入口もそう遠くないらしい。

もう、俺の失敗は今後通用しない。

いい加減、気は抜いていられないな。

———————————————————————————

「どうやらが近付いて来ているらしい

仕事が早いものだ。お陰で暇を持て余すこともなさそうだな」


…意識をしていないのに息切れて、身体に力が入らない。

身体中が酷く痛む。加えて目眩と頭痛でおかしくなってしまいそうだった。

痛みと寒さに耐えるのと、体力を温存しようとする無意識的な力で余計に消耗が激しい。


「後は私がやろう

お前は入口の方へ出迎えてやれ」


奴が言うと、Majorのドッペルゲンガーは代わるように下がると、部屋を出てその外の通路を歩いて行った。

……部屋には私とドッペルゲンガーの二人だけになって、しんとした空気が流れた。

…既に精神的にも追い詰められていて、体力の余裕も気持ちの余裕も尽きてしまいそうだった。


「さて、仕上げといこうか」


すると、奴は能力で何やら液体の入ったバケツとハケを取り出した。

ハケを液体に付けると、

その液体を、身体中につけられた大傷の上から塗り始め、


「ッく、あぁッ…ゔ、ゔぅ……ッ」


冷たいハケが身体に触れた瞬間、刺すような激痛が身体中に走った。

あまりに酷い激痛で、漏れ出る声を抑えられない。

それに耐えようと、身体の変な部位に無意識に力が入り、歯を食いしばる。


「塩水ごときで簡単に声を漏らすな

更に傷を増やされたいか?」


傷口に入り込むように染み、常に激痛が感じられる。

痛い、ッ、痛い……ッッ

脳内が痛覚で埋め尽くされて、更に体力を消耗させられる。

と、塗られるのが止まり、変な部位に入っていた力が一気に抜けてその部分も突然筋肉が解けた余韻で痛んだ。

少しでも動くと痛む身体は項垂れ、複雑に入り混じった様々な精神的な乱れによって早い呼吸で息切れる。

次の瞬間、

息ついて落ち着く暇も無くバケツごと中身を勢い良く身体に打ち付けられるようにしてぶっかけられ、


「アぁあッッ!!、ゔ、ッ、うぅ……ッ」


一気に感じる痛みと塩水の冷たさに、声を出さずにはいられない。

勢い良くかけられた塩水はまるで更に傷口の中へと染みるように痛く、水をかけられたことによる酷い寒気で抑えられない程に身体がガクガクと震え始める。

息切れている呼吸も深く、早く、耐えるのに必死で震える。

…、もう、

体力の、限界が……


「それはそれは堪らなく寒いだろうな

今現在この部屋の温度は地下牢でもあり十八度

冷えた水をかけられては身体も一気に体温が下がるだろうな」


そう言い、奴は空になったバケツと持っていたハケをその辺に放り捨てた。

…もううっすらにしか開かない目の視界は、震えで焦点が定まらない程に震えて揺れてしまっている。

反抗する力などとうに尽き、顔を上げる体力すらもなければ力も入らない。

やがて私に近付いて来た奴は、私の髪を強引に掴んで無理矢理正面に顔を上げさせた。

そして間も空けず、私をその状態にさせたままもう片方の手で私の顔を加減なしに殴った。


「無様だな。Colonel

まさかこれ程無様な貴様の姿を見られるとは思っていなかった

中々に、貴重なことだとは思わないか?」


奴はそう言うと不気味に笑みを浮かべ、覗き込むような表情で私に顔を近付けてくる。

今のと口の中が切れたのか、血の味が舌に滲んだ。

その後も拷問は続けられ、

私の身体には止まることなく傷が付けられてはダメージも更に蓄積していく。

時には狙っているかのように溝落ちをも殴られ、今すぐにでも地面を這いつくばりたくなるような感覚に陥れられていった。

時折意識が飛びそうになるのを感じながら、

感覚が麻痺していくような感覚も、同時に感じられていた。

———————————————————————————

「…〜入り口まだ見つからない!?」

「まだです、でもあたりまえでしょう、

こんな近くに入り口を置いてしまってはすぐに見つかってしまう

相手もそれ程馬鹿ではないはずです」


僕のミラーさんは、そう冷静に返事をしつつそれでも的確に素早く捜索を続けていた。

さっきから大佐のことが気掛かりすぎて頭をぐるぐるさせている僕だったが、

…それでも、今はとにかく大佐が生きていると言うことを信じて探し続けるしかない。

大佐だから、大佐だからきっと大丈夫。大佐はそんなにすぐに死んだりしないし僕を置いて行ったりしない。

…、そう、信じるしかないのかな。


「Major大丈夫だぞ、きっとあともう少しだ

間違いなく距離はもうそんなに遠くない、入り口まで辿り着けばもうこっちのものだ」


僕のミラーさんは相変わらず余裕がある様子で、時折僕のことを大いに励ましてくれていた。

大佐のミラーさんもさっきから良く僕に気遣ってくている。

…手間かけさせちゃって申し訳ないな…、肝心の僕は何の仕事も出来ていないのに。

大佐を守ることすら、出来なかったのに。

何で最後までこんなに何も出来ない僕なのかな。


「作戦はさっき話した通りです。覚えていますね?

あの方法で上手くいきます、奴らは恐らくここまで頭が回っていないでしょうからね

絶対にColonelを生きて帰還させる…!」


……

僕の落ちた気持ちは変わらないけど、

でも、もうこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

僕も、出来るだけ頑張らないと…。

作戦はさっき聞いた通り。

実行するのが少し怖いけど、考えれば一番手っ取り早い方法はきっとこれだ。

僕のミラーさんが少ない時間の中で考えてくれた作戦、

大佐を助ける為にも、絶対に失敗させるわけにはいかない。


「…!

入り口、ありました!」


少し歩いた先に、

小屋のような建物が視界に入った。

…造りはコンクリートで、ほんの少し周りの木などに隠れる仕組みになっていた。

…、でも、あれ?

……パッと見建物なのは分かるけど、

入り口らしき扉が見当たらない…?


「…本当に?ただの壁とかじゃなくて?」

「いえ、ここが入り口で間違いないです

…物理的な入り口は設置されていませんが、テレポートでのみ中に入れる仕組みになっているそうです

その代わり、中に入ると魔力が制御される仕掛けもあり、

ここから先は安易に能力を使うことは出来ないでしょう

少なくとも、Majorの能力は完全に制御される

俺と大佐は幸いなことに多少は使えなくはなさそうだが、恐らく長くは持たないから安易には使えない」


僕のミラーさんの素早い分析によって、状況を理解していく。

…だから大佐も、囚われたままで能力とか使って抜け出すことが出来ていないんだ。


「さっきの通りの作戦のまま行くと、

Majorの腕が試されることになる

本当に大丈夫なんだな?」


僕のミラーさんは振り返り、真剣な眼差しで改めて僕に訊いた。

…。

内容自体はそれ程難しいことではないが、

絶対に、失敗の許されない作戦だった。

一つでも手間を取ったり、ミスをしたりすれば、

もう、どうなるか分からない。

全員、死ぬかも知れない。

…、…でも、

ここで来たなら、

もうやるしかない。

大佐を助ける為なら、


「…大佐を、助けられる為なら

絶対にやって見せるよ」


僕は不安な気持ちをぐっ、と堪え、

ミラーさんに返事をした。

…すると、

ミラーさんは僕の表情が変わった様子を見て、

更に元気付けるよう微笑んでくれた。


「よし、その調子だ。Majorなら絶対にやって遂げられる

…Colonelは恐らく今自分で動けない状態で、相当酷い仕打ちを受けているかも知れない

けど、絶対にまだ生きていることは間違いない

気を落とさずに、確かに持てよ

気を揺るがすな。Colonelのことは、

絶対に生きて帰すぞ」


僕のミラーさんは、そう僕を一押しするような言葉を告げ、

僕の肩に手を置いた。

…僕も、

改めて、決意の同意をするように頷いて見せた。


「…大佐、あなたにも仕事はありますからね

確実に頼みますよ」

「分かってるよ…

でも、Majorくんが成功する為だもんね

任せて」

「たく…初めからちゃんとやって下さいよ」


大佐のミラーさんに呆れたように言葉を呟き、

僕のミラーさんが中へテレポートして入ると、

僕達も続いて、中へと入って行った。

———————————————————————————

「限界か?随分と果てるのが早いなColonel

これでは貴様が囮である意味がなくなってしまうだろう、」


さっきから耳鳴りが鳴り止まず、視界も歪んでいるままだ。

身体は相変わらず寒さで小刻みに震え、先程ふっかけられた塩水は未だ血と混ざり合って滴り落ちている。

呼吸不規則なリズムで、永遠と息苦しい状態が止まらないまま吐き出され続けている。

…もう、何かをはっきり発せる力もない。


「何か言え。黙秘権を持たせたつもりは一切ない」


髪を掴まれ、また無理矢理下がっている頭を上げさせられる。

それによって一瞬喉が圧迫され、声を漏らしてしまう。


「…貴様に言う、ことなど、…もう、何もない……っ」


掠れて息しか出ていないような声で、私は力を振り絞る気持ちで負けじと威嚇をする。

…ここで本当に弱気になったところを相手に見せたら駄目だ。

…助けも、もうすぐ来る…。

奴は私の言葉を聞くと「フン」と鼻で笑い、

片方の手でまた私の顔を殴りつけた。

打ち叩かれ続けて、若干痛みすらも麻痺しているような感覚がしている。

項垂れた身体には、もう一ミリも力が入りそうになかった。

…目を瞑っていると、このまま命を落としてしまいそうだ。


「…つまらないものだ

とうとう身体の限界まで来てしまったと言うのか

さぞかしくるしいことだろうな

————だが、

安心しろ」


すると、部屋のドアの向こうから誰かが走る足音が近付いてきた。

…、


「その苦痛も、もう我慢する必要がなくなるようだ」


来た、のか。

そして、

そのドアが勢いよく開かれた。

…ドアが開かれた先には、

レイピアを持ったMajorが立っていた。

Majorは私の目が合うと、

次の瞬間、レイピアを構え、

隙を作らぬ速さでそのまま奴に襲い掛かろうと走り出した。

奴の前で、そのレイピアを振り下ろ————


「甘い」


…気付いた時には

奴はMajorの背後にテレポートで移動して後ろからレイピアを持つ腕を掴んで止め、

そのMajorのこめかみに、

拳銃を突き立てていた。

何でテレポートが使えて————


「やめろ————」


私が咄嗟に声を上げた次の瞬間、

銃声が鳴り響くと共に、

Majorの頭から

血が飛び散った。

—————

瞬間、声が出なかった。

目の前で見てしまったその光景に、ソウルが猛烈に強く締まり、一瞬息が吸えなくなった。

——そん


「———Major、

Major…ッ!!」


気付けば絞り出されるような形で名前を呼んでいた。

Majorは頭から血を流したまま奴に放られ、そのままその場に転がった。

頭が真っ白で何も考えられない。

涙は出なかった。

涙すら出なかった。

乾く程に見開いた目で、若干嗚咽の混じった息切れをしながら転がったMajorを見つめる。


「…哀れなものだ

呆気なく、散ってしまったな」


——嘘 だ

そんな、そんな…そんな…!!

Majorは転がったまま血溜まりを広げていく。


弾が、貫通した

頭を 貫通して、

まだ、助かる 助け いや、

そんな、もう もう

嫌だ、信じたくない こんなの

まだ 私は


現実に戻されるかのように、腕の拘束が斬られて解かれる。

私はうつ伏せに身体を地面に打ち付けられ、力が入らないままもがこうとした。

奴はうつ伏せ状態の私を強引に仰向けへとひっくり返し、

私の身体に跨り、そのまま首を絞めて額に拳銃を突きつけた。


「何故先程テレポートが使えたか、

当たり前だ。此処は私が作り上げた罠だ

自分自身で作った罠で自分が有利に動けなくしてしまってどうする?

簡単なことだろう

貴様らは、初めから、

全てが甘い」


首を絞められて、声が漏れる。

私は、自分に跨る奴ではなく、

奴の背後に倒れたMajorを見ていた。


「…終わりだな。Colonel

貴様に生きる資格もない。貴様は、

戦いに負けた」


奴の指が、拳銃の引き金に掛けられる。


「逃れられぬ現実だ。見届けろ」


奴はそう言うと、怪しく光る目を細め、不気味に微笑んで見せた。

もう自分がどんな顔をしているかもわからない。そんな状態で最後に奴へと視線を向けた。

抵抗する気など起きなかった。

此奴の言う通りだ。

今の私に生きる権利などない。

Majorがいない世界など、

私が生きる世界ではない。

これは夢か何かの間違いだろうか?

果たして本当に現実なのか

………

このまま死ねば、

Majorと、同じ場所に逝けるのだろうか。

Majorに、逢えるのだろうか。

其処でなら、私達は幸せになれるのだろうか。

もう、離れることもなく、愛に不足もなく、

幸せになれるのだろうか。

ずっと一緒に居られるのだろうか

……いや

もう

全て、

どうでもいい—————




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