XXXI

…、

目が覚めた。

…私は、少し重く感じる身体をベッドから起こした。

今日は予定していた、ドッペルゲンガーの催しに侵入調査をしに行く日だ。

人間化薬の副作用を誤って発生させてしまったあと日からは特に大きく動く事もなく、

今日まで、より落ち着いて過ごしていた。

…そして、また昨日改めてMajorと一緒に人間化薬を飲んだ。

今度は前回の失敗から反省し、おやすみのキスを交わす際には薬に手をつける前に行った。

今、起きて自分の確認をしてみたが、

しっかりと薬の効果は出ているようだった。

流石に、今回はより気を使って薬を取り扱ったものだから、何事も起きないまま薬を服用できて良かった。

…しかし、催しが別日にも開かれていて本当に助かった。

最悪、絶好の機会を逃すところだった。

…だからこそ、今回は下手な失敗はしたくないところだ。

私は鏡の前に立ち、改めて自分の姿を確認したが、

…。

正直、私は今日、任務を完全に成功させられる自信がなかった。

ドッペルゲンガーと言う存在は、高確率で捻くれ者が多く、

戦力も高い者が揃っていると聞く。

そんな中、最近は失敗ばかりでそれが増えているような私では、

…もう、ドッペルゲンガーにすら敵わないのではないかと、

そう感じてしまっていた。

……。

そう考え始めると本当にそうなってしまう確率が高くなったり不幸を招きやすくなると言う事は分かっているのだが、

…同時に、自分への自信もまた大いに下がってしまう。

私はもう、初期に比べたら大佐を務められる程の自信などとっくに亡くしている。

私に優位な立場など、もうやりこなせない。

どんなに周りから慰められても、そう感じてしまう。

…、…だが、

そうなると、やはり真剣に慰めて背中を押してくれている皆んなや、Majorや、Faithfulに失礼になってしまう。

…そんな事は言われなくても分かっている。分かって、いるのだが…。

……考えるのはよそう。

と、頭の中で一人で迷想するのはこれで何度目だろうか。

侵入調査の事前だと言うのに、憂鬱な気持ちになってしまいそうだ。

…、

私は今日着ていく服をクローゼットから探り、取り出した。

一通りベッドの上に置くと、それに着替え始めようと寝衣のボタンを外し始める。

すると、部屋のドアが開く音がして咄嗟にそちらへ顔を向ける。

…、ドアを開けたのはMajorだった。

Majorはそのまま、私が着替え途中なのにも関わらず堂々と部屋の中へ入り、私に近付いて来る。


「っおい、まだ着替え途中————」


私が話しているのもお構いなしに、

Majorは突然私の身体を引き寄せて口と口を重ねてきた。

一瞬だけ口を重ね、Majorはすぐに離れては私を見つめる。


「…カッコいいです」


と、一言だけ残し、すぐに部屋から出て行ってしまった。

…一体どう言う……、

…。そう言えば、

初めて私達が人間化薬を試した時、

Majorは私の人間の姿をかなり気に入っていたのを思い出した。

その際に心情を読んだ際にも、

「人間に変身した私の姿をもっと見たい」などと言っていたような…。

…、

それで、さっきはわざわざ私に伝える為に此処へ…?

…。

…今更思い返して気付いたが、

Majorも、かなり積極的になったものだな。




目的地付近へと到着した。

今回は、Majorも前のようにわざわざ女装をする必要もなかった為、不満な表情を浮かべることもなかった。

…しかし、

今回に至っては、私もMajorも前回などとは違う緊張を抱えていた。

Majorも、ドッペルゲンガーが強敵だと言うことは十分に承知している。

これに比べれば、今までの敵軍などぬるいものとも言える程だ。

ドッペルゲンガーに戦いを仕掛けたり、敷地に踏み入れたりした他の軍達に優秀な功績を残したところなどない。

それどころかどんな能力を使ってくるかすらの情報もない。

私達も、初めてそこへ足を踏み入れることになる。

事前に仕入れられた情報も、ここの軍がかなりの強敵、だと言うことぐらいだ。

気を抜けば、どんな攻撃が仕掛けられるか分からない。

…今回に関してはかなり異例であり、失敗も許されない為、

実は、とある助っ人を連れて来ている。


「おっ!来た来た!」


待ち合わせた場所には、

私達よりも先に、ミラーが到着していた。

…そう、今回は特別にミラーにも協力してもらうようお願いしていた。


「すまない、待たせてしまっただろうか」

「いや、そうでもない

こう見えて俺達もついさっき到着したばかりだ」


ミラーは、私達よりも二倍程に強力な力を持っている。

むしろ二倍と測れない以上の力の持ち主だ。

…万が一、私達に何かあった時には二人が手助けをしてくれるのだと言う。

初めは一緒に来てもらう予定もなかったのだが、

ここに来ることを話すと、協力してくれると言うものだから協力を頼んでみた、と言った感じだ。


「見て見て〜、俺言われた通りカラコンつけて来たよ!

この四色の目が両目とも一色になるとこんなに印象変わるんだねー、なんかちょっと寂しい気持ち!」

「遊びに来たのではありません

これは歴とした任務なのですから子供のようなことおっしゃらないで下さい」


Majorのミラーは、時間ギリギリまでこれからのことを確認しているようで、今も私のミラーに対してシラを切らしながらメモ帳を手に確認していた。

…私は目の色がかなり特徴的で、それだけでも身元がバレかねない。伴ってミラーも私と目の色が左右逆になっているだけで、特徴的な色をしている。

私の目と同じ色をしている者は恐らく探しても滅多にいないだろうから、顔を見られるだけで失態に至る可能性がある。

そこで、今回ミラーにはカラーコンタクトを付けてもらって、目の色がわからなくなるよう頼んでおいたが…、


「って、俺はカラコン付けてきたからいいけど、

Colonelも目の色隠さないと意味なくない?」


今更気付いた。ミラーの言う通り、これでは意味がなくなってしまう。

ミラーにカラーコンタクトの話をする際に私自身も付けるか考えていたが、

結局考えっぱなしにしたまま時がすぎてしまっていた。

…少し、他のことにも気を使いすぎただろうか。


「あぁ、大丈夫ですよ

ほら、僕が変えてあげます」


私がそちらを向くと、Majorが横からそっと目元へ手を近付けてくる。

咄嗟に目を瞑ってしまったが、Majorはしばらす私の目元に手をかざすと、確認するようにまた手を離した。


「すごぉー、やっぱりMajorくんのコピー能力って本物なんだね

本当に今その場で考えるだけで能力が使えてるような感じするし」


Majorは能力で手鏡を取り出すと、私の方へ向けて見せる。

…私の両目は、黄色一色へと色が変化していた。

…こう思うと、Majorもあっという間にコピー能力の扱いに慣れてしまったのだな。

初めは自分の能力にすら気付けていなかったなどと言っていたのに、

もう、ここまで成長したのだな。


「…すまない、また手間をかけさせてしまって」

「大丈夫ですよ、気にしないで下さい

大佐の元々の目の色は緑と黄色ですが、緑にしてしまうとまだバレやすいかもしれないと思ったので、黄色にしてみました」


そう言って、Majorは私に微笑みかけた。

…Majorの、上手く出来ない私に対しての対応にも慣れてきているように見えて、また申し訳ない気持ちになった。

だが、同時にそれで一々「また助けられた」と安心が芽生えているような自分自身のことは、より腹立たしく感じてしまっていた。


「…これで心配はなさそうだな

他に何か心配なことはないだろうか」


今回私達四人は、それぞれ違う容姿でここまで来たが、

私達の人間の姿も巷には情報が流れていないだろうし、

万が一ミラーのどちらかが私達だと勘違いをされて襲われたとしても、

二人の力がこちらの世界の住民に負けることもないないだろう。

そう言った憶測から今回はこのメンバーになったが、

何も起こらないまま今日が終わることを願いたい。


「大丈夫そうだね〜、二人ももう大丈夫だよね?

さ、もうそろそろ時間だから早く行かないと余計に怪しく見られちゃうよ!」


ミラーは率先するように催しの会場へと歩き出した。

Majorのミラーも、はやとちりな彼に対して若干の苛つきを覚えながらもそれに着いて行った。

…私達も後に続くが、

近付くにつれて、私の不安は嵩増しになっていく。


「…Majorは、目の色は変えなくて大丈夫なのか」


私は歩きながら、心配して顔を覗き込むようにMajorへ声をかけた。

…Majorは、私ほど緊張をしていない様子だ。

上司であり、経験も豊富な私が、

Majorよりと気持ちに左右されていると言うのは、本当にいかがなものだろうか…。


「青い目を持った人は沢山いますからね、それにここまで見た目も変えられていればよっぽどリスクは低いかと思われます

大佐は、確かに目立った色をしていますからリスクも高いですけれど、恐らく僕はそこまで心配をしなくても大丈夫だと思います」


…本当に大丈夫だろうか。

いくら能力が高いとは言え、隙を突かれてしまってはそれすらも発揮出来なくなってしまう。

Majorは、相変わらず柔らかい表情を私に見せていた。

……、

もしもMajorに何かあれば、

私は…。


「…Major、改めて伝えさせてくれ

今回まず置いといて欲しいことは、

情報が得られなくとも、必ず無事に帰還すること

敵がどのような立ち振る舞いをしているか、どんなことを考えているかを観察するだけでも十分な情報を得られた結果になる

なるべく四人で固まらずに行動をすることも大切だが、

その場で伝えた方がいい情報や、少しでも身に危険ん感じた際にはすぐに私達に連絡してくれ

いつも通りマイクロフォンも付けているだろう。今回は特にバレにくいよう細工をしてあるから、今回は頑なに隠す必要もない

少し人気のない場所まで移動をして、良く周りを確認してから使ってくれるだけでいい

どんなに小さな不安なことでもいい、手遅れになる前に連絡してくれ」


私は中々目が合わせられないまま話を続けていたが、Majorは私の顔を見ながら真剣に聞いているのが分かる。

…相変わらず私は、表情までにも不安な気持ちを隠せないままでいることだろう。


「…大佐、」


今度はMajorが私に話しかけてきて、

不意にそちらへ顔を向けた。


「よほど、僕のことが心配なのですね

…でも、それは大佐にも言えることです

僕も、大佐が思っているのと同じぐらい大佐が心配で、不安です

僕に何かあった時も、後戻り出来なくなる前に連絡しようとは思いますが、

大佐の方にもしも何かあって、大佐でさえ対処出来ない何かが起こってしまったりしたら…、」


今更、私が先程長々と不安を語ってしまっているのに気が付いた。

とても、今まで経験を積んできた上司だとは思えない気持ちの持ち様。

頼れないどころの話ではない。本来上司が部下を支えてやらなければならないと言うのに、

もはや、私にはその力すらも持ち合わせていないようだった。

……またこう言ったことを考え始めてしまってはいるが、

Majorも、少し私と同じような話し方になりかけていた。

が、途中まで話し、口を継ぐんでしまう。


「…、すみません…

こう言うことばかり話しているから、不幸が寄ってきてしまうんですよね」


Majorは自分から話したことを途中で止めて、話すのをやめることが多くなった。

…同時に、私も頭の中で考える際にそうなることが増えた気がする。

……。

愛を馳せる者の性格と、自分の性格が似てくると言うのはこう言うことなのだろうか。

…少なくとも、私がしっかりしていれば、

Majorに伝染することも、なくなるのだろうか。

…、

私がしっかりするだけで、不幸を免れることがあるのだろうか。


「ちょっとーイチャイチャしてないで早く行くよ?」

「大佐失礼なのでやめて下さい」

えええ

ぼんやりとしていた私に、二人が声をかけてくる。

…ただでさえ危険な侵入調査なのだから、

これ以上不安や心配を募らせても意味がない。

以前まではやりこなせていた私なんだ、不安で潰されそうなだけで、力は衰えていない。

…と、今は自分に言い聞かせることしか出来ない。

少し謝りながら、改めて二人の後を追った。


「ドッペルゲンガーを見つけたら、早めに連絡して見失わないようにするってら感じでいい?」

「…そうだな、宜しく頼む」

「けど、大佐が下手に動くと返って厄介なので率先して俺が動かせていただきますね」

「な、俺だってやる時はやるんだよ!

普段は見られないカッコいい俺に惚れちゃったりすんなよ〜」

「分かりましたから…無駄話はその辺にして下さい」


二人のやり取りを、また無気力のまま見つめる。

…こう見えて、二人は私達よりもずば抜けて強い力の持ち主だ。

こんなに余裕があるように見えて、気を抜いているようにも見えると言うのに、

仕事となると、完璧にこなしてしまう。

…。

私が、二人に協力してくれるよう頼んだのだから、

肝心の私が、しっかりしていなければならないな。

頼んでおいて迷惑をかけるなど、したくはない。

…、気を、入れ替えなければ。


「あっ、ほらそろそろ行かないと!」

「貴方がさっきから足止めしてるんじゃないですか…」


今回の催しは、一般の住民でも自由に出入りできるものらしい。

だから、今回は無理に裏から侵入する必要もない。

丁度今、参加者の波が落ち着いてきたようで、私達も入り口の方へと移動し始めた。




「…気をつけろよ」


Majorとの別れ際、そっと一言声をかけた。

行こうとしていたMajorは、ふっと私の方を向き、

その私の言葉を聞くと、また柔らかい笑みを見せた。


「分かりました、大佐も気をつけて下さいね、」


…そう言ってしばらく私の顔を見つめた後、

Majorも別れて別の場所へと移動して行った。

…また不安な気持ちを募らせながら、そんなMajorの背中を見つめる。

…、…心配だ。

だが、同じようにMajorも私を心配している。

弱気のままではダメだ。

今日はもう生きて帰るだけでいい。

…気を引き締めていきたい。

私も、Majorから反対方向を行くように歩き始めた。

静かに情報を集めるだけだ。やり過ごすことなど慣れたはずだろう?

どうってことないはずだ。

不安になるな。心配する必要などない。

他の三人も同じ状況なんだ、私だけそんなに心配する必要などない。

自分に言い聞かせ、

私は胸元のネクタイを整え直した。

———————————————————————————

少しの間調査を続けていたが、

早いところ、ターゲットの身元の確認だけはしておきたいところだ。

何も起こっていないからと言って安心するのはまだ早い。

ターゲットを見つけなければ、知らないところでどんな行動を起こされるかも分からない。

警戒しながら調査は進めたいから、下手に動けば返って怪しい。

中々人も多くてすぐには見つけ辛そうだが、

確認するまでは、人混みに流されるように動いているのがいいだろう。

…しかし、さっきから周りの様子を見ていると、

ところどころ、また別のドッペルゲンガーも見られる。

私達以外のドッペルゲンガーもここに来ているようで、見たことのある顔…、うちの隊員の顔も、ちらほらと目に入る。

だが、やはりドッペルゲンガーとなると、顔が全く同じでも私の知っている本人とは全く違う雰囲気を纏っている。

あまりに全く同じ顔で、けど性格や雰囲気は違うように見えて、

…何だか、変な気分になりそうだ。

そうこう考えている中、

ふと、視線を横に向けると、


「へえ、そうだったんですね」

「そう。それからあっちで—————」


目線の先には、

Major…、が目に映った。

誰か別の人と会話をしている。

……、

…いや

…あれは、Majorではない。

あれは、

Majorのドッペルゲンガーだ。

顔は全く同じで見た瞬間では見分けがつかなかったが、

笑顔の作り方が、Majorではない。

Majorはあんな笑顔は作らない。

Majorのドッペルゲンガーは、その会話相手と話を続けているところだった。

とりあえず、片方のターゲットの身元は確認出来た。

私は少しだけ周りの様子を見渡した。

…、人混みに紛れて少し連絡を入れる程度では、

まだ、バレたりはしないだろうか。

私は一瞬だけマイクロマイクに手を掛ける。

…、……いや、

早まるな。

失敗をしてしまっては全てが台無しになる。

もう少し、人並みの落ち着いている場所まで移動して、安全を確保してからにしよう。

…慎重に、動かねばな。

———————————————————————————

中々ターゲットが見つからなくて、結局手洗い場まで逃げ込んで来てしまった。

カラコンも付け慣れてなくて若干しょぼしょぼするし人混みでめちゃ肩とかぶつかられるしで、少し疲れてしまった。

少しの休憩の為に逃げ込んだ手洗い場内は幸い誰もいなくて、気持ちを休める為には丁度いい場所となっていた。

…今頃まじゃちゃんはいいところまで調査進められてるのかな。

…んーでもまだ連絡来てないし、まじゃちゃんも苦戦してる感じなのかな。

とにかく現時点での状況はまだ分からないけど、連絡が来るまで待ってみよう。

俺は手洗い場の水面台に手をつき、鏡に映る自分を見つめた。

…。

カラコンの色は、ピンク。

別にピンクは嫌いでも好きでもないけど、見当のつかなさそうな色を直感的に選んでみた結果だ。

…けど、目の色の変わった自分も悪くはないなと感じている。

本来はColonelと左右逆の色をした目だけど、一色単の瞳でも嫌いではない。

何なら、まじゃちゃんやMajorくんの綺麗な真っ青の瞳にはちょっとした憧れがあったり。

一色だけであんなに綺麗な瞳を持てるのも、中々いいなと感じている。

…、そんなことを言うと、

Colonelに失礼か。

俺は、目を合わせていた鏡に映る自分と目を離した。

…もうそろそろ行こう。

あまりサボっていても、どうせまたまじゃちゃんに怒られちゃうね。

踵を返すように手洗い場を出ようとした、

その時。


「あれ、ここに居たんですね」


気配を感じなかったが、

身体の向きを変えた先に、Majorくんが立っていた。

全然気付かなかった。よほど瞑想してしまっていたのだろうか。


「びっくりした!いつの間に居たの?」

「ついさっき入ってきたんですが、どうやら気付いていなかったようで…

こんなところで何をしていたんですか?」


Majorくんは柔らかい笑みで俺に近付いて来てはそう訊いた。

時々まじゃちゃんとMajorくんの顔が見分けつかなくなるけど、この顔つきはMajorくんだな。

喋り方とかからもそう感じられる。


「ちょっと疲れちゃってね…

仕事も何もしてないのに、こんなところ見られちゃって恥ずかしい!」

「そうだったんですね、実は僕も少し疲れてしまって」

「俺と同じだったんだね〜

でも、もうそろそろ行こうかなって思ってたところ!

Majorくんはまだここで休んでる?」


一人でこっそり休憩するつもりだったのに…、呆気なくバレてしまって恥を覚えた。

Major軍はそんなことしないと思うけど、

もしまじゃちゃんにチクられるようなことがあったらまた厄介だから…、ちゃんと働いてるように見せないとなあ。


「そうですね、僕ももう少しだけ休んで行こうと思っています」

「そっか、分かった

この後も気をつけてね」


俺もそう笑みを浮かべながらMajorくんに告げ、

その場を後にしようと出口のドアノブに手をかけた。


「はい、ありがとうございます

大佐もお気をつけて」


俺も頑張らないとな…。

頼まれたから来てるってのもあるけど、

少しぐらいは役に立って帰りたいところだし。

気、引き締めていかなきゃなあ。

部屋から出ようと、掴んだドアノブを引こうとする。

…、…あれ、うーん、

俺、何かMajorくんに訊きたいことあった気がしたんだけど。

何だったっけ。

…、

…そうだ。

さっきから、何か違和感を覚えているんだった。

Majorくん…、

……

…、あれ?

そう言えばMajorくんって、

今まで俺のこと、

「大佐」

だなんて呼んでたっけ————

再びMajor軍の方に振り返った

その瞬間、

————————

「…

あっぶね」


頭で理解する前に身体が動いた。

今ので違和感の正体は解かれ、

俺は確信した。


「……

…もう少しだったと言うのに」


振り返った先には、

Majorの姿をしたそれが、俺にナイフを振りかざしている様子が目に映った。

理解するよりも先に体が動き、

俺はその攻撃を咄嗟に取り出したレイピアで弾いた。

間一髪だった。俺がもし何かに気付いていなければ、

どうなっていたことだろうな。


「…、ふは

はは」


そこに居るのは、まじゃちゃんでもMajorくんでもない。

妙に小さく笑声を上げるそいつの表情の変化を見るだけでも、

そうであることが確認出来る。


「まさか今まで気付いていないとでも思っていたか??」


絶対に、あの二人がしないような表情を作るそいつが目に映る。

…Majorくんのドッペルゲンガーだ。

俺に演技をして、陥れようとしていた。

もしもその演技がまじゃちゃんの演技だったとしたらすぐに見抜けていたかもしれいけど、

俺とMajorくんの関わりがまだ浅いことでさえ見抜いていたなんてね。

恐らくそこを突かれたんだろう、お陰で気付くのに遅れてしまった。


「わざわざ俺を騙した後に攻撃しようだなんて考える余裕があるもんな?

…けど、そんな簡単にやられているようでは困るんでね」


本気を出せば、勿論勝てない訳ではない。

だが、少しでも油断をすればどうなるかも分からない。

気は抜けない。

今の敵が、一人ではない可能性だってある。


「生きて帰れると思うなよ」


ドッペルゲンガーがそう俺に言ったその瞬間、

テレポートで一瞬姿を消し、また俺の背後に回り込み、

武器を振るってくる。

少し見切ったいたことだった為、多少の余裕を残してその攻撃を避ける。

…まあ、確かに動きは早いけど、

対処出来ない程ではなさそう。

俺に避けられることを予測したかのようなスピードで、次の攻撃が仕掛けられる。

まだ、余裕が持てそうだ。

相手の速い動きに遅れないよう自分もそれに合わせて動く。

…と、ここで、

その次の攻撃を弾き、そこからまた繰り出される攻撃にカウンターを取り、

そのままドッペルゲンガーを取り押さえ、地面に押し付けた。

腕を後ろで固定し、動けば痛む体制にして押さえた状態だ。

割と困難ではなかったけど、

皆んなには早いところ連絡したほうが良さそうかな。


「もしもしー?今片方のターゲットを————」


Colonelから借りたマイクロマイクで連絡を入れようと話し始めた刹那、

その最中に、何者かに思い切り身体を蹴り飛ばされ、

俺はそのまま壁に強く打ち付けられてしまう。


「ッ…、って…」


流石に痛みは感じたが、隙を見せないようすぐに持ち直し武器を構え直した。

自分でも、表情が痛がっていないのが自覚出来た。

目線の先には、

…、一人、増えてるな。

背が高い。

Majorくんのドッペルゲンガーは、その場に立って怠そうに砂埃を払っている。

…まあ、

この状況からして、誰が来るかなんて大体察しがつくけど。

Majorくんの隣に立っているのは、

Colonelのドッペルゲンガーだった。


「ふ…、お調子者め」


そいつも、絶対にColonelがしないような笑みを浮かべてこちらを見ていた。

二人揃って不気味な表情を浮かべている様子だ。

…参ったな。

流石に二人になると厄介かもしれない。

まともに応戦しようとしてもどこかしら隙が生まれてしまいそうだ。

…何か、策はないかな。

とは、

思ったが、


「あ、来た」


俺がそれに気付いて声を出して間もない次の瞬間、


「連絡が途切れたと思って来てみれば…、と言った感じだな」


ドッペルゲンガーはテレポートで瞬時にやって来たColonelによって首根っこを掴まれ、そのままうつ伏せの状態に押さえられた。

…、大きな公共施設の手洗い場な為、部屋内はそれ程狭くはない。

動きにくくなる訳ではなさそうだ。


「やりぃ、いいところに来てくれたね」

「おまけに、一回ターゲットを見失ったと思えば、だな

通りでここに来ている訳だ」


ドッペルゲンガーを押さえるColonelに対してMajorくんのドッペルゲンガーが仕掛ける攻撃を、

俺は持ち直した身体で受け流して防いだ。

…何とかなりそうではあるけど、

明らかにこのままでは歯が立たない。


「Majorくん達に連絡した方がいいかも」


Colonelは俺の言葉に耳を傾けると、

返事をする前に、先にマイクロマイクで残りの二人に連絡を入れた。


「こちらColonel。ターゲット二名を何とか取り押さえているが、このままでは持たなくなりそうだ

会場一階の一番奥の手洗い場だ、早急に来てくれると助かる」


連絡を入れ終えると、Colonelはまたドッペルゲンガーをしっかり押さえ直した。

あーあ、しかし本当今回侵入調査だけで終わる予定だったのに、

まさか向こうから攻撃を仕掛けてきて、最終的にこのまま確保してお持ち帰りしちゃいそうなところまで来てるなんてな。

ちょっと予想外だったけど、まあ何とかなりそうで良かった。

Colonelが来てくれたお陰で、逃したりせずに済みそうだ。


「ねー、こいつら完全に取り押さえられたらどうする?

持ち帰って拷問でも————」


俺がちょっと気を抜いてColonelに向きながら話している隙に、

Majorくんのドッペルゲンガーが俺の手元からすり抜け、

またColonelの方へ攻撃を仕掛けに行った。

しまった。

Colonelがそれに気付いて顔の向きを変え、

また、その隙に、

Colonelのドッペルゲンガーが俺に正面から攻撃を仕掛けに来た。

また攻撃を受け長そうと、

そう、しようとしたのだが

多少の失敗からの気の乱れによって、

しっかりと握り込めていなかったレイピアを、そのまま手から弾き飛ばされてしまった。

、やべ—————







瞬きもしず、手からはレイピアが離れたまま、

敵の俺に襲いかかってくる動きを見届けるだけしていた。

そうすることしか、出来なくなった。

もう避けられない、と悟った。

が、

————

真っ白になっていた頭が行き来を取り戻した時には、

肉を切るような音が辺りに響き、

目の前の光景に、俺は言葉が出なくなった。


「Colone————」

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