XXX

あれから月日が跨いだ日の深夜、

私は突然、目を覚ましてしまった。

…何故か妙に目覚めが良くて、私は一旦ベッドから身体を起こした。

明日は、早い事にドッペルゲンガーの催しに侵入調査をしに行く日だった。

その際に必要な為、また私とMajorは人間化薬を就寝前に飲んだ訳だが、

…もしかしたら、その副作用か何かで目が覚めてしまったりしたのかもしれない。

就寝前に薬は服用したが、体の変化はまだ出ていないようだった。

…、…目が覚めてしまっている。どうしたものか。

…。それとも、

何か、心の奥底で明日は何か不安に思う事があるのだろうか。

ドッペルゲンガーは確かに能力も高くて、関わる際には十分に気を付けなければならないと言う話はあるが、

…けど、理由はそれではない気がした。

……、若干、身体が重い。

気分的に、重い。

私はしばらくの間上半身だけ起こしたまま顔を俯かせていた。

…。

明日は、基地から目的への距離もあり、予想だと長い外出になりそうだった。

それほど不安ではないとは言え何も起こらない保証はないし、

もしも、Majorに何かあったりしたら、と思うと…、

…、

不安になってきてしまう。

…それもあるが、

私は自分の心配をする必要もある。

Majorの身が危険に晒される可能性がある中、私の命に危険が及ぶ可能性だってある。

何が起こるかは、私にも予想出来ない。そもそも調査が上手くいくかも分からない。

……

…私は、

ベッドを出て、Majorの部屋へと向かった。

明日の朝はのんびりしている時間もないことだろう。

…直前ぐらい、

Majorを、感じたかった。

何故私は昨日あのまま寝てしまったのだろうか。

…、…いや、

就寝前には、Majorとは言葉を交わした。

キスだってしたし、ハグだってした。

お互いを安心させる為に、そのぐらいはした覚えがある。

…けど、

私には、それでは足りなかったのだろうか。

もう一回だけ、Majorに触れたい気分になった。

私は自分の部屋を出た後、隣へ出て少し歩いた所にあるMajorの部屋の前まで到着した。

…そして、音を立てないよう、ゆっくりとその扉を開け、

様子を見るように中を覗き込んだ。

…、当然、Majorはぐっすり眠っている。

そのまま中へと足を運び、そっと扉を閉める。

そして、引き続き足音を立てないようにMajorの元へと近付いては、

その寝顔を覗き込んだ。

…。

綺麗な寝顔だ。

Majorは静かな寝息を立てて眠っていた。

…、

最近の、Majorへ迷惑をかけた事に関して思い出す。

私がどんなに失敗してもMajorは毎度のように私に微笑みかけてくれるが、

…Majorは、本当に許してくれているのだろうか。

けど、Majorはいつも私を慰めるばかりだ。

いつから、私はMajorに守られるような存在になってしまったのだろうか。

…、考え始めると、切りがない。

…申し訳ない、な。

何度考えたか分からないMajorに向けたそんな気持ちを抱きながら、

私はMajirのその寝顔に、

そっと、キスを落とした。

…。

Majorは、気持ち良さそうに眠っているままだった。

そんなMajorの寝顔を、私はまたじっと見つめた。

……。

…あまり起きていると、明日に支障が出る。

名残惜しいが、早く行かなければ。

私はMajorの元から去ろうとその場を離れようとしたが—————


「っ、!」


Majorから目を離した瞬間、

突然、眠っていたはずのMajorが、素早く私の首に腕を回し、

身体を抱き締めてきた。

…少し驚いて、頭が真っ白になってしまう。

眠ったフリでもしていたのだろうか。


「…Major、」

「大好きです、大佐」


抱き締められて、耳元でその声が響いた。

それによって、少し、ソウルが締まった。

…私も、Majorを抱き締めやすい位置に立て直し、

Majorの背へそっと手を回した。


「私も愛している」


力優しく、

だが、離さないようにでもするように、その体を抱き締めた。

…さっきまで寝ていたばかりだったからか、

Majorの身体は、酔ってしまいそうな程に温かかった。


「…僕も、寂しかったんです」


Majorは、そう小さく話した。

…、Majorも、だったのか。


「…言えば良かったじゃないか」

「でも、明日は朝も早いし、起きた時から忙しいと思って

…あまり、大佐に負担かけちゃいけないと思ってしまって」


Majorは少し私から身体を離すと、そのまま顔を俯かせた。

…、

そんな事、

私は一切気にしないと言うのに。

言ってくれば、多少遅くなってでも側にいてやっていたのに。

…。

…Majorは、

本当に、気遣いな人だ。

そんな彼の頬にそっと手を当てると、

Majorは上目遣いで私の顔を見た。


「お前が望むのならば、伝えて欲しい

私はいくらでもお前の傍に居るだろう

…気持ちは私も同じだ」


Majorの頬に当てた手の親指で、そのまま頬の表面を優しく撫でた。

Majorは私の顔を見つめると、やがて恥ずかしそうな様子でゆっくりと目線を逸らした。

…頬に当てた手に、Majorの体温が伝わってくる。


「…、大佐も、もっと言ってくれて良かったんですよ…?」


それを口に出す自信が少しなかったのか、

Majorは小さく私にそう訊いた。

……、

…眠れなく、なってしまいそうだ。

私はMajorの空いているもう片方の頬にも手を当てた。

そして、そっとこちらへ向かせる。

…、なんて愛おしいのだろうか。

最近は、じっくりと顔を見る機会がなくて、そう感じる事も少なくなっていた。

…が、やはり、

Majir以上に愛おしく感じるものはないと、改めてそう感じた。

私はMajorの両頬に手を当てたまま、

ほんの少しだけ引き寄せるようにしてその顔に自分の顔を近付ける。

…Majorは、それを受け入れるかのように、

そっと目を閉じて見せた。

……。

愛おしくて堪らないその顔の口に、

私はそっと自分の口を重ねた。

…Majorは自分の手を私の首へと回し直した。

…やがて、若干口元をあそび始める。

Majorの口から漏れ出る息が、私に当たっているのを感じる。

私の体は、少しMajorへと押し気味になった。

そして、しばらく口を重ねていた後、そっと互いの顔を話した。

……、余韻に駆られ、私は視線を俯かせてしまう。


「…、大佐」


Majorも恥ずかしそうに俯いた様子になりながら、

私に声を掛けた。


「…もう、此処で寝て行ってしまってはどうですか」


…さっきから恥ずかしがる素振りを見せているMajorだったが、

自分の意思を伝えるのには、積極的だった。

勿論、私も言われた通りそうしたい。

…そうしたい、ところだが、


「…そうだな、私もそうしたい気持ちで山々だ

だが、やはり明日はしっかりとした任務になる。朝に支障が出てしまっては取り返しがつかない

私もMajorのせいにしたくはないから、

二人で夜同じベッドで眠るのは、もっとしっかり時間を取れる時にしないか」


慰める気持ちも含め、Majorの頬を指の背で優しく撫でた。

…断られる事を少し分かっていたのか、

Majorはそう言う私の顔を見つめた後、また俯いた。

…、

…が、

またそっと顔を上げ、了承したかのような微笑みで、私の顔を再び見つめた。


「…分かりました

…じゃあ、

任務から帰って来たら、その日の夜は、

一緒のベッドで寝ましょう

…ダメですか?」


…Majorはそう訊くと、私の様子を伺った。

…ねだるように若干首を傾げるMajorに、

私はまた堪らなくなって、その身体を再び抱き締めてしまう。


「…否定など、するつもりもない

無事任務から帰って、夜は一緒に寝よう

…沢山、お前の傍にいる」


ずっとこのままでいたい。

任務になんて行きたくなかった。

Majorと居る事が出来れば、それだけで十分だ。

Majorを抱き締めながら、また体温に深く浸っていた。

…、酷く、温かい。

酔ってしまいそうな程に、温かかった。

また、狂わされてしまいそうな程に、そう感じられていた。

Majorも私の答えに返事をするように、また私の首に腕を回す。

…、任務が終わったら、

目一杯Majorと触れ合おう。

自分でもこうする事が今の自分にとって何よりも必要なのが分かる。

疲れの溜まっている最近の私には、それが必須だと、

身体が、何よりもMajorを欲しているのを分かっていた。

…その為にも、明日は十分に仕事をこなす必要もある。

明日は、現場でも後悔のないよう動き、十分に業務をこなして、

それから帰って、またゆっくりMajorの傍にいるとしよう。

—————————————————————————

…、目が覚めた。

今日はドッペルゲンガーの催しに侵入調査しに行く日だ。

僕はまだ若干眠い目を擦りながらベッドから身を起こす。

…?

なんか、いつもより身体が重い気が…、気のせいだろうか。

体調不良、のような感覚ではなかった。

…何だろう。

最近疲れでも溜まってたかな、でもちゃんと食事も睡眠も摂ってるし、何か疾しいことがあるわけでもないし…。

…ふと、朝日の差し込む窓の方へ目をやった。

…、あれ?

ここ、大佐の寝室だ。

…おかしいな、昨日はちゃんと自分の部屋で就寝したはず。自分の部屋に入って、自分のベッドに入った記憶だってある。

昨日の深夜、大佐が部屋に入って来て、少しキスをしたりハグをしたりした事は覚えてるけど、

僕はベッドから出て移動などはしたりしていないはず。

……、どう言うこと…?

…、

欠伸が出そう。

喉の奥から空気が溢れてきて、

僕は口を開いて少し大きな欠伸をした。

…、……、

あれ…?

声が、低い。

僕の声じゃ、ない…、?


「…

…、あー…」


恐る恐る、意識的にまた声を出してみたが、


「っ、え、えっっ」


やっぱり、僕の声じゃなかった。

明らかに僕の声ではない、とても低い声質だった。

っど、どう言う…っ!?

僕は思わず部屋の鏡を見た。

……!!?

それを見て、更に驚いて声すら出なくなる。

慌てるようにベッドから出て、自分の姿が映る鏡の傍へ急ぐ。

何が、何が起こってるの!?

鏡に顔を近付けるようにして立ち、

写る顔を、確かに見えているこの目で確認した。

鏡に写っているのは、

……た、

大、佐……!??




理解し難い事態に僕の身体はほぼ無意識に部屋を飛び出し、大佐の元へ向かおうと急いだ。

今意識的に自分で動いているのは確かに僕のはずなのに、

それによって動いているのは大佐の身体で、顔も体付きも声も、動かしている僕以外は何もかも大佐だった。

意味が分からない…!!本当に何が起こってるの!??

ドアを出ていつもは大佐の部屋がある方へ向かいかけたが、

…さっき僕が居たのは大佐の部屋。

……じゃあ、何処に行けばいいの…!?

…。

…大佐の部屋に僕が居たって事は、

…、僕の部屋に、大佐が……?

直感ではあったが、僕は自分の部屋の前まで向かい、

そのドアノブに手をかけた。

…大佐……?

ドアノブを押し、

部屋の中へと入った。

…中を覗くと、

……、

僕ベッドの上に、誰かいる。


「……た、

大、佐…??」


恐る恐る声をかけると、

ベッドの上で自分の手を見つめていたその人は、僕の方へと顔を向けた。

…あれは…?


「…、…Major、なのか…?

これは一体…、」


ベッドの上にいるのは、

僕だった。

…僕、だけど…?

…??




とりあえず、僕達はそれぞれ支度をして、大佐の部屋に入っていた。

どうやら現状を整理すると、

僕の身体の中には大佐がいて、

大佐の身体の中には僕がいる状態になっているようだ。

…要は、身体が入れ替わってしまっている……?

でも、何でこんな事になって…?

侵入調査までの時間は実はまだ余裕はあるのだが、

どう考えても、この身体では調査は不可能だ。

そもそも肝心の人化の効果を成していない。

…大佐と身体が入れ替わっただけで、人化していないなんて、

もしかして、飲む薬を間違えたとか…?いやでも、間違えるはずがないし、そもそも薬を僕達に渡したのは薬を作った本人のナース達だ。

まさかまたナース達が僕達に何かしでかして…、と言う事はもう絶対に有り得ない。

ナース達がもう操られている事もうないし、こんな重要な事を間違えるような人達ではないし、僕達自身でも改めて確認だってした。

…でも、やっぱり夢でもなくて寝ぼけている訳でもなくて、

確かに、間違いなく、僕と大佐は身体が入れ替わってしまっている状態だった。

もう、何が何だか……、


「…Major、何か心当たりはないのか」

「え…、

……、昨日は特に目立った事はしていないですし、寝る前も薬を飲んで寝たぐらい…」


喋っている内容は大佐なのに、僕の声だ。

…僕が喋る事も、喋っているのは僕なのに、声は大佐。

頭がどうにかなってしまいそうだ。


「と言うか、どうやって元に戻るんですか…!?

そもそもこんな事になるなんて知らないですよ僕!」

「それは私も言えた事だ

…、何から解決していけばいい事やら」

「今日の侵入調査はどうなるんですか!?

催しへの侵入ですからこの機会を逃したらもうタイミングを逃してしまうのでは!?」


問題点がどんどん生まれてきて、収集がつかなくなってしまう。

まさか、このまま戻れないままとか、ないよね!?流石にそんな事ないよね…!?

と言うか本当に夢じゃないの??こんな事想定できるはずがないし、解決策も何も分からない……。


「まあ待て。慌ててしまっては冷静に考えることも出来なくなってしまう

とりあえず今日は————」

「おはよー

あれ?二人とも今日は侵入調査じゃなかったの?」


僕達が話していると、Faithfulさんが部屋に入ってきた。

Faithfulさん……、彼にもどうこれを説明すれば…??


「時間ももういいぐらいだよね?着替えもしないで何して……、」


僕達の方に歩いて来ながらFaithfulさんは僕達に話しかけていたが、

近付くにつれて、何かに気付いたかのように喋るのを止め、

僕達の顔をじっと見つめた。


「……

…、Colonel、じゃないね

…。…こっちも、

Majorくんじゃ、ないね」


…きっと見るだけで分かるのだろう。

僕の姿をした大佐の方を見て、大佐と目を合わせる。

…姿は僕なのに、顔つきが全然違うのが自分でも良く分かる。

恐らく、大佐の姿をした僕の顔つきも、普段の大佐と比べたら全くちがうものになるのだろう。


「…、どう言う事なの?何も知らない俺からしたら、全く状況が理解出来ないんだけど

説明出来る?」




「うーん、ColonelとMajorくんの身体の中身が入れ替わっちゃった、か…

想定も出来なかっただろうし、意識的に起こった事でもなさそうだけど

これを実際に見るのは俺も初めてかなー

二人とも、昨日はどう過ごしてたの?」


Faithfulさんも近くの椅子に座って、僕達に話を聞いていた。

摩訶不思議な出来事に、流石のFaithfulさんも驚いている様子だった。


「昨日は私もMajorも特に目立った行動はしていない

今日の準備で何か暇をしている事すらなかったし、気になる事が起こったりなどもしなかった」

「…、し、強いて言うなら、

大佐が深夜部屋に入ってきて、キスとかしたことぐらい…?」


自分で話すのには少し恥を覚えたが、…思い出してみればこんな事もあった。

…でも、それ以外は本当に何もないし、深夜にキスやハグをしたからと言って実際に別に身体に異変を感じた訳でもなければ体調が悪くなった訳でもない。

……一体どうした事だろう————


「あっ、それじゃないの?」


Faithfulさんが、僕の話す言葉に対して何か気付いたかのような反応を見せ、口を挟んだ。

…どう言う…、


「二人とも昨日薬飲んだんでしょ?

飲んだ後、薬の効果も出る前に互いにキスしたとか…、

それ、絶対化学反応起きてるよ」


……化学反応…?

聞き慣れない言葉に、僕は沈黙を流してしまう。

すると、隣で大佐も何か思い出したかのような表情を見せた。

…そして、少し面倒臭そうな表情になった。


「…、あー、」

「薬作ってくれたナースちゃん達が言ってたでしょ

使用は出来るし効果も確実ではあるけど、服用後に何か違うものを口に入れるとまだ何が起こるか分からないって

その辺はまだ調べてる途中だし、そんなような事が起こらないようにする為にも今頑張ってくれてるけど、

死にはしないなら早い段階から薬を使わせてもらえないかって言ったのはColonelでしょ

これに関してはMajorくんは何も悪くないよ、Colonelの注意不足だっただけ」


…大佐は黙り込んで帽子を深く被っては目元を隠した。

そ、そんな事、あったんだ。

確かに僕は何も知らなかったし、大佐が距離を縮めて来たものだからそれに応えただけだったけど…、

……まあ、でも、

仕方、ない。

大佐も僕も寂しかったんだから…、

……、うーん、

言い訳には、ならないか…。


「…こりゃ、今日は中止だね」


Faithfulさんは僕達に呆れて苦笑する様子でそう話した。

中止…、

…じゃあ、今日行く予定だった調査はどうなるんだろう…?

催しだって続けて何日もある訳ないと思うし、今日を逃したら…、

僕も、若干の後悔と罪悪感を覚えてしまっていた。


「今日中に解決策探して何とかしてね

元に戻る事はそんなに難しくないはず

…その能力があればね

じゃ、俺もう行くから」


Faithfulさんはその場に立って、一言残して若干揶揄うように微笑みかけてから部屋を後にして行った。

…、少しの間、部屋に沈黙が流れる。

…。

どうしよう、かな。


「…あ、あの

今日行くつもりだった調査に関しては、これからどうしていきましょうか…?」


僕は少し弱々しく大佐に訊いた。

…しかし、

やっぱり、中々この声には慣れないな…。

全然声質も違うし、喉に声が響いている感覚までも違うように感じられる。

身体が大きいからか、呼吸もほんの少し深く感じられていた。


「…それに関しては、恐らく問題ない」


大佐は少し間を置いて僕にそう返事をすると、

自分の机からパソコンを取り出して、インターネットで検索をかけ始めた。

…僕も、少し控えめにそれを覗き込む。


「…、やはりそうだ

今日行く予定だったドッペルゲンガー主催の催しは、

明日を挟んで明後日に別の場所で行われる。その場所もそれ程遠くない

最低でも明日までに身体を元に戻す事が出来れば、問題はないだろう」


大佐は僕に画面を指差して教えた後、またパソコンを閉じて机にしまった。

そ、そっか…、一応まだ、大丈夫なんだ…。

なら、少しは安心かもしれないけど…、

…、じ、じゃあ、

なるべく早くこの身体は元に戻した方がいいだろうし、

解決策を考えないと…、


「そ、そうなんですね、

ならまだ安心が出来ます

でも、身体を元に戻す方法は早いところ見つけた方がいいのではないでしょうか…?

明日戻ったとして、その後ほとんど時間を空けずに同じように服用して、

それでまた何か起きたら今度こそ取り返しがつかなくなりますし、今度は何が起こるかも分からないですし……、」


考え始めると不安が大きくなっていく。

僕は思う不安をそのまま口から出すように話した。


「まあ、落ち着け

時間はまだある。今からそんなに焦る必要もない

焦りは禁物、と言う事もあるだろう」


大佐は落ち着いた様子でそう言うと、

座っていた椅子から立ち、窓辺の方へと移動した。

…僕は座ったまま、そんな大佐に身体を向ける。


「…Major、私の身体になって、

その中にいるMajorは、私の能力は使う事が出来るのか?」


大佐は僕にそう訊くと、大佐は窓を開いて開け、

外の方をじっと見つめ始めた。

…、すると、

大佐の元に、野生の小鳥が一匹飛んで来た。

そして、大佐の指の上へ止まった。


「…やはりな

今、試しにMajorのコピー能力を使えないか試してみた

感覚の中の手探りではあったが、割と難しい事ではないのだな」


小鳥と大佐は、互いに様子を見合っている。

…そう言う事…?

だったら、僕も何か使えるのかな…、

…何が使えるかな、


『興味深いものだな

しかし、自然は今もこんなにも豊かなのだから、

戦争によって悪い被害が出たりしなければいいのだが…』


え、何これ……、

今何か大佐が喋ってる訳じゃないのに、

脳裏に、大佐の声が聞こえる…。

何が起こっているのか自分でも理解出来ずに、少し動揺してしまった。

…すると、大佐は少し横目で僕の方を見た。


「今、私に透視を使っただろう

それは能力ではなく、身に染み付いた特技だ

能力とは、また違う感覚がする事だろう

時に、望んでいなくても使っていたりするなんて事もある

魔力を制御したり、意識的に調節する能力とはそう言った違いがある」


…これが、大佐の透視…?

大佐の、いつも言っている特技が、これなのだろうか。

確かに、意識的に透視をした訳でもないのに大佐の心情を読み取る事が出来て…。

驚きはしたが、同時に感心も覚えた。

大佐の透視って、こんな感じだったんだ…、能力じゃないって言ってた理由も理解出来た気がする。

大佐は僕にそう説明すると、手に乗せていた鳥をまた外へと放し、

その後に、部屋の窓を閉めた。


「…さて、遊びもこの程度にして

コピー能力は私が使えると分かった事だし、

身体を戻す策を考えようじゃないか」


大佐は窓辺に背を向け、

そこにもたれかかって、僕の方へと向き直った。


「…、考えると言うより、

既に、私には解決策が思い浮かんでいるがな」


大佐は、さっきからやけに落ち着いている様子だった。

…身体が入れ替わった時から、そもそもそんなに焦った様子も見せていない。

少し、自分が初めあんなに焦りを感じていたことが恥ずかしく思えてきてしまう。

大佐は僕の身体になっても尚、

大佐らしい気持ちの座った様子を見せているのだった。


「どんな解決策ですか?」

「簡単な事、

私がこの身体でコピー能力を使えばいいだけの話だ

何なら、今此処でそう願いながら能力を使うだけでもそのように実現出来るのだろう

何とも使い勝手のいい能力な事だな」


大佐は、慣れない僕の手の甲や手の平を観察しながら話した。

…大佐、もしかして身体が入れ替わった事を少し楽しんでる…?


「…しかし、ただ普通に戻るだけでは面白くない

Major、少しこっちに来てくれ」


すっかり、僕の能力を気に入ってしまっている様子だ…。

確かに僕の能力は簡単で小さな力加減で莫大な力を生み出す事が出来る。

初めて使う人かしたら、かなり物珍しい感覚なのかもしれない。

僕が大佐に言われて前まで移動しに来ると、

大佐は、ぐっと僕に近付いた。


「私とキスを交わせ

そうすれば、元に戻してやろう」


……。

…、え、

えぇ〜っ!?

そ、それって大佐、

自分が僕とキスしたいだけなんじゃ……。

それに、元に戻してやろうって…、

本当の事を言ったら、大佐の不注意で招いた事でもあるのに…、

……、

…あんまり考えてると、また心情を読まれて…、

…あ、

今の大佐って、僕の身体だからそれがいつもみたいに出来る訳ではないのか、


「どうした、さっきから黙り込んで

早く戻りたいのではないのか?」


大佐がそう言って、また少し僕の方へと距離を詰めた。

…た、大佐の方からしてくれればいいのに…、

…と、思ったけど、

もしかして、僕身長だから普通にキスしようとしても届かない、のかな…?

とは言え僕は、中々自分からキスする気にもなれず、恥ずかしくなりながら少し俯いた。


「…躊躇っているのか

やはり見た目が変われど、

MajorはMajorなのだな」


…、

さっきから、煽ってきてばっかり。

余裕そうで、何ともない表情をし続ける大佐に若干の腹立たしさを覚え、

僕は感情に任せて、自分の恥じらいを隠す為にも、

その大佐の身体を少しだけ乱暴に抱きしめた。


「っ…

…、突然で驚いた。何だと言うんだ」

「…ちょっと、静かにしてくれませんか……」


僕はまだこの身体にも慣れていないのもあって、もう少しだけ慣れるのに時間が要りそうだった。

…それと、いつもは僕よりも身体も身長も大きい大佐が、

今はこんなにも僕より小さいと言う事に、まだまだ慣れていない…。

…と、言うか、

今もずっと抱き締めたままだけど、

この大佐の身体、ちっさぁぁ…っ!!

今の僕の身体に埋まってしまいそうなぐらいに、あまりに小さい。

腕の中で潰してしまいそう…。

大佐っていつもこんな感じで僕の事抱き締めてたんだ…。

それに抱き締めるのに丁度良すぎて、もうしばらくこのままで居たい気持ちもあるけど…、

…でも、やっぱり、

僕は、自分の身体を守ってくれるような、

そんな大佐が、いいかな……。

僕より身長が高くて、その身長から僕をキスしなくれるような……、

…。

…しかし、僕はそんな事を考える中で、

とある事を思いついてしまった。

さっきから「私にキスしろ」だとか言ったりして、

僕の事、誘ってるんじゃないの…?

いつもは何に関しても上に乗っかられやすい僕は、

少し、試したくなって、


「Maj———-」


そっと大佐の背に回した手で、そのまま大佐の首筋をゆっくりとなぞった。


「ッっおいッ、やめろッ!」


大佐は僕の指が首筋になぞられた瞬間ビクッと身体を波打たせ、

咄嗟に僕を押し退けて距離を取った。


「…な、何のつもりだ…っ」


大佐は驚いたように若干息を切らし、少し僕を睨んでいた。

…感度が、いい気がする。

僕が元々感度がいいから、その身体を持った大佐も感度が良くなってるのかな…?

それに何だか、

変に、

気分が高揚する。

おかしな気持ちに、なっている気がする。

…僕のソウルが、段々と高鳴っている気がする。

…、大佐

怒らないで、下さいね。


「お、おい!一体何をして…っ」


僕は気持ちのままに大佐へ近寄り、

そのまま窓際へと押しやった。

…そして、

そのまま大佐の両側に手をつき、大佐の逃げ場はなくなってしまう。


「…っ、おい、聞いているのかっ!」


案外、悪くないかもしれないと、

そう感じてしまっていた。

いつも押されてばかりで、僕自身も大佐にこう言うことをする気にすらなった事がないのに、

いざその気になってみて行動に出てみると、

制御が、出来なくなってしまうような気がする。


「Maj————-」

「大佐」


大佐の両側に手をついたまま、

僕は大佐の耳元へ口を近付け、そう囁いた。

若干、僕の鼻が大佐の耳に擦れる感覚がした。


「ッ、っっ」


大佐は返事も出来ないまま顔を歪めると、

頭を下げて、顔を見られないようにするような状態になった。

…大佐の体温がその間近で感じられて、

余計に、気持ちが抑えられない、

気付けば僕もほんの少し息が上がっていて、それでいて大佐に声をかける余裕がなくなってしまう。

僕は大佐に顔を近づけたまま、

その大佐の首筋に、舌を押し付けた。


「うぅっ…く、おぃ…っ、

やめ、ろ……っ」


必死に僕を押し除けようとする大佐だが、

段々と力が入ってこなくなっているようで、

僕の身体に置かれた大佐の手は、弱々しかなってきてしまっていた。

大佐の表情からも、余裕がなくなっていくのが分かる。

…気持ちが、昂っていく。

僕そのまま、更に大佐へ身を乗り出そうと、

また腕を大佐の背に回し、壁へ押し付けるように体重をかけた。

————が、


「っあ」


体重かけたその時、

鍵が開いていたのか大佐の背後にあった窓が開き、

その勢いのまま、僕と大佐は窓から外へと落ちた。

調子、乗った—————

僕が驚いた表情すら出来ないままでいると、

大佐の顔が、ふと目に入った。

…何で、そんな、

いつも通り冷静みたいな顔————

すると次の瞬間、

大佐は僕を抱き抱えるかのような大佐を取り、

僕が衝動で目を瞑り、

……、

目を開けた時には、

元の部屋へと戻っていた。

展開が早くて理解ができない。一体何が起こったの…?僕達はさっき落ちたはずじゃ…?

というか大佐、今の僕の身体を抱き抱えるとか物凄い力————

すると大佐は、僕が他のことを考える暇も与えないとでも言うかのように僕をその場に下ろし、

僕が状況を理解出来ずに大佐の方へ向いた瞬間、

喋る隙すら与えられず僕ネクタイを引っ張られ、

そのまま大佐の口と自分の方が重なった。

僕はまた衝動で目を瞑ってしまう。

…そして、ゆっくりと目を開けた。

…、…あれ?

目の前に立っているのは大佐だった。

…元の姿の、大佐。

続いて自分の手に目を向けてみたが、

…僕も、ついさっきとは違う元の姿に戻っていた。

やはり展開が早すぎて未だに現状況へ追いつけない僕に対し、

大佐は突然僕の顎を形で掴んだ後、

ぐっ、と自分の顔を僕の顔へ近付けた。


「あまり調子に乗りすぎない事だな

お前には、100年早い」


…と、言うと、

大佐はそのまま僕から離れ、部屋を出て行ってしまった。

…、しばらく頭が真っ白な僕だったが、

段々と、意識が戻ってくる。

…、そう、だよね、

調子、乗ってたよね。

…それも、物凄く。

あまりに、調子に乗り過ぎていた。

……。

…そう思うと、

物凄く、恥ずかしい気持ちが芽生えてきた。

…軽く、黒歴史……。

自分が情けなくて、自分がした事があまりに恥ずかしくて…。

僕はあからさまに肩を落としてしまう。

僕の顔は熱く熱く体温を増していった。

…大佐、まさか初めから分かってたとかないよね…?

窓を開けたのも、きっと大佐なのだろう。

鍵は、常に閉まっている筈だから。

窓から落としたのも、僕にこれ以上調子乗らせない為で…、

……。

やっぱり、大佐には敵わない、な….

今の僕ではやはり、

とても、敵いそうにない。

僕は部屋で一人、

顔を赤くしながら、ため息をついていた。

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