XXIX

あれから就寝時間になり、隊員もMajorも自分達の部屋で寝静まる頃。

私は今日取り掛かる予定だった仕事や書類の作業を進めていた。

予定としては、実はもう近いうちにドッペルゲンガーの元へ侵入調査に行く計画を立てていたのだが、

今日はそれも踏まえた作業をするつもりだったのだが、

…急な、出来事があったものだから。

時間を逃すと次いつ取り掛かれるか分からない為、もう出来る時に少しでも進めてしまおうと思っていた。

……、しかし、既にもう瞼が重い。

色々ありすぎて、今日はあまりに疲れてしまった。

早く就寝したい。…けど、仕事が遅れるのはもっとまずい。

私はそう自分に言い聞かせて作業する手を止めなかった。

……頭が回らなくなってきそうだ。

このままでは作業もままならなくなってしまう。

……しかし、ここまできて切り上げるのは…、

明日に回すにしても、やはり時間が足りないのでは————

すると、

部屋のドアが開く音がして、私は少し驚いてそっちを見た。

自然と手も動きを止める。


「Colonel、」


入って来たのはFaithfulだった。

起きていたのか。

てっきり、もう隊員達と同じように就寝した後かと思っていた。

…Faithfulは、私の様子を見るようにしながら部屋に入り、ドアを閉めた。


「Faithful…?

どうしたんだ」


Faithfulは私の部屋に入ると帽子を脱ぎ、ネクタイを緩めた。

…そして、いつも通りの表情に私の元へとやってくる。


「そんな事やってないでさ

たまには俺と話でもしない?外の空気吸いに来なよ

ほら来て」


…何を言い出すかと思えば…。

私はFaithfulが考えていることが読めず、一瞬思考を止めてしまう。


「?…

…いや、仕事が————」

「いいよ今日はもう。やらなくていいよ

ほら早く」


Faithfulは戸惑うを私の作業をやめさせ、そのまま部屋の外へと連れ出した。

…何だ…?急にどうしたのだろうか。

私は横を歩きながら控えめにFaithfulの顔を少し覗き込んだ。


「…Colonel、最近頑張りすぎなんだよ。自分で分からないの?

明らかに身体が着いて来れてないじゃん

そのままでいたら間違いなく身体壊すよ」


…Faithfulは、いつも通り笑っているような、

真剣な顔をしているような、そんな表情で話していた。

……、頑張り、すぎ。

…そうなのだろうか。

確かに最近、身体が怠いようにも感じられていたが、

…。

…私が、働きすぎだと……?

Faithfulはそのまま私を基地の屋根上まで連れ、

そして、その場に座った。

…私も、彼の隣にそっと腰を下ろす。


「別に予定一日ぐらい遅れたところで、俺達の軍には何も影響ないはずでしょ?

あんな書類なんかいつだって書けるじゃんさ

そんなのに睡眠時間使っちゃダメだって、ただでさえ起きる時間も早いんだし」


…。

Faithfulに言われる言葉に、言い返せなくなってしまう。

全くもって、ごもっともな事だった。

あの書類だって、別に今日中に切羽詰まって終わらせなければならないわけでもないし、明日やることにしたって何かに影響が出る訳ではなかった。

明日に遅れてやり始めても、別に、問題があるわけでもない。

…ただ、私の我儘で。

作業はなるべく早く終わらせてしまいたいと言う気持ちから、睡眠時間までも削ろうとしてしまっていた。


「知ってるよ、Majorくんが来てから気持ちが乱れやすくなってるんでしょ

今まで気にしすらしてなかったことも、無駄に考えすぎちゃったり、そこから不安になって上手く行動も出来なくなっちゃってるんでしょ

今だってこれからMajorくんの事で心配もあって、居ても立っても居られない時、あるんでしょ?

その時点でストレス溜まってるんだからさ、ダメだよ、本当に」


…Majorに関しての事も、その通りだった。

常に、Majorのことで不安になっている。

最近はずっと…、だ。

今のところMajorが私に嫌悪感を抱くなどしている事もなく、何も心配する必要などないと言う事も分かっているのだが。

余計な事まで考えてしまって、一々不安になってしまっている。

それが最近では癖になってしまっていて、

考え始めると、どうしても不安で一杯になってしまう。

不安で一杯になって、まともに物事を考えられなくなったり、行動出来なくなってしまう。

…何だろうか、まだMajorとの関係に慣れ切っていないのだろうか。

とにかく、Majorが私の元からいなくなってしまうのではないかと、

ただただそれが、酷く心配だった。


「…」


私は何も言い返せず、Faithfulの話を聞きながら俯いてしまう。


「…、最近のColonelのそれは、ほとんどMajor君に対する不安の影響からだと思うんだけど

違う?」


……。

働きすぎなど、私の調子が悪い理由ではなかった。

私が今までに仕事で疲れたことなど、一度もない。

だのにこんにも身体に影響が出るのは…。

…、やはり、

Majorに、私を乱されているのだろうか。


「…、Majorくんのこと、大好きなんでしょ?

じゃあその分Majorくんのことも信じてあげないと

逆に今のMajorくんを見てて、Colonelから離れるようなこと、あると思ってるの?

Colonelって、一々考えすぎるからいつも疲れちゃうんだよ」


…、私は座ったまま顔を少し伏せた。

……。

私は、Majorに対して、一体何がそんなに不安なのだろうか。

本当に不安に思っている事とは、何なのだろうか。

…、…Majorは、

いつも私の傍に居てくれていて、最近は私が気分落としても毎回のように慰めてくれて、

仕事にも熱心で、実力も能力も高いから余程死ぬ可能性などない。

私のことは一途に愛してくれている筈で、私も確かにMajorのことを一途に愛している筈だ。

Majorに、不安抱く事は…、

……。


「…いつもさ、

Majorくんのどこが好きに感じるの?」


私はまたFaithfulに顔を向けた。

…私は少し考え、目を逸らす。

……、絞り切れない。

私は伝える候補を絞る為に考え、黙り込んだ。


「…あは

Colonel、本当にMajorくんにメロメロなんだね

まさかあのColonelがこんなに狂わされるとは思ってなかったよ」


Faithfulは、そんな私を見て小さく笑うと、再び正面に向き直った。

…。

私は、Faithfulの横顔に視線を向け、

そしてすぐに、向き直った。


「…さっきから、何が言いたいと言うんだ」


少し、Faithfulの考えている事が読めなかった。

いきなり夜に連れ出してくるなど、滅多にない。

…実際、

こうして私に徹夜の作業をやめさせた上こうして外へ連れ出している時点で、

早く寝かせる事など出来ない。むしろ時間を延ばしているだけだ。

…意味が、ない筈なのに。


「え?

だから、最近のColonelは大変そうだから、

しっかり休んで欲しくて。説得してるんだよ

それと…、単純に俺と話すことで、

少しでも気が和らいでくれたらなって思って」


…じ、っとFaithfulの表情を見つめた。

……。

…やはり、

Faithfulの心情を読む事はできなかった。

さっきから何を考えているか分からなかったが、

それが分からなければ、心情を読む事すら出来なかった。

と言うより、

Faithfulのことは、ある時を境に心情を読む事が一切出来なくなってしまった。

気付いたのはそれ程遠い話ではない。

元々Faithfulの心情を読もうとする機会は中々なく、だからこそ実際に読めなくなったのがいつからなのかも明確ではなかった。

…、最近は気持ちの乱れでMajorの心情なども読む事が出来ないが、

その影響も、あるのだろうか。

Faithfulは片膝を立て、

そこに両手を組ませていた。

…、そう言えば、


「…Faithful

撃たれた肩は、もう大丈夫なのか?」


今思い出した事だったが、

ずっと気がかりな事だった。

私は確かに、Faithfulの肩を貫通するのを見た。

…だが、やはりいつ見てももう怪我の痕跡すら見当たらなかった。

包帯などを替えている様子もない。


「だから言ったじゃん、

俺はエルフで、不老不死だから

あのぐらいの攻撃は平気なんだよ」


…Faithfulは、また笑いながら答えた。

…、

不老不死。

……。

不老不死とは、そもそも何だっただろうか。

私はもう一度その言葉の意味について考えてみることにした。

……、…不老不死の者は、歳を取らず身体が老いない、おまけに怪我をする事もなく、攻撃を受けとしてもすぐに再生する、と言うような意味だっただろうか。

…。

……?

攻撃されても、すぐに再生して怪我を負わない。

これは、

不老不死、と言う意味ではなかった気が…?

……、

…怪我を負っても身体にダメージがいかず、死なないのは、

……、不死身…?

…しかし、Faithfulは不死身ではなく、

不老、不死。

…なのに、

喰らった攻撃の怪我は……

…。

私の視線は、自然とFaithfulの方へと向いていく。

…Faithfulが、様子を伺うような表情で私の目を見つめ返した。

……

Faithful、?

私はFaithfulを見つめたまま、思考を停止させてしまう。


「何?そんなに見つめて

何か気になる事でもあった?」


…エルフは、不死身ではない、筈。不死身のエルフなど聞いた事がない。

だとしたら、


「……Faithful」


Faithfulは一体、

何者なんだ…?

彼に対して、

恐怖が生まれてしまう。

ソウルの鼓動も、強くなっているように感じる。

…Faithful、

お前は……、


「お前————」

「あ、」


私が言葉を発しかけたその時、

Faithfulは私の後ろの方に顔を向け、表情を明るく変えた。


「Majorくん、」


私もFaithfulの向く方に顔を向けると、

そこにはMajorが立っていた。

…Major…?

…、

…服装も就寝する時のものだった。


「どうしたの?何かあった?」

「いや…、

此処に何か気配を感じたので、見に来てみただけです」


Majorはそっと足を運んで私達の元まで来た。

……

さっき、つい口から溢れて聞きそうになったFaithfulへ私の質問は、

疑問として残ったまま頭の中に漂っていた。


「Majorくんが来てくれたなら、俺はそろそろお暇ししようかなー、

Colonelにあんまり長く起こさせても意味がないけど、後はよろしくね」


Faithfulはそう言ってその場に立つと、Majorに微笑みかけた。

そして、そのままその場を去って行った。

…結局私は、Faithfulに対するもやもやを晴らすことが出来ないままタイミングを逃してしまった。

Faithfulの謎は、ずっと解けないままだ。

…Faithful…、

…。


「…Faithfulさんとどんな話をしていたのですか?」


Majorは私の顔色を伺うように訊き、隣に座った。

…Majorは、さっきまでの私達の話し声を聞きつけて来たのだろうか。

私もそんなMajorの顔を少し見つめ返す。


「…、

…今日やる予定だった作業を、明日に回さないよう就寝時間が過ぎても続けていた

Faithfulは私に働き過ぎだと言って…。睡眠はしっかり取らないと影響も出るし、例えその作業を明日に回したところでそれほど影響は出ないだろう、と

……。

…確かに、最近疲れが溜まってきているのを自覚し始めてはいたが

中々早い段階でそれに気付けずに、更に身体に負担をかけてしまう事が多い気がしている」


私は、Majorを見つめる視線から少し俯いた。

…そもそも、Faithfulが言うほど気にする必要もないとまで思ってしまっているが、

実際、それが原因で私が倒れてしまうのならば元も子もない。

反論出来る程の返事が思い付かなくて、何も言い返せないままでいた。


「…、確かに、睡眠は取らないといけないです

……それに大佐、

今日だって相当、お疲れな様子だったじゃないですか

…なら、尚更しっかり休んで欲しいです

これ以上無理したら、本当に身体が壊れてしまうかもしれないのに」


Majorは少し声が小さくなりながらそう話した。

…、今日は、特に疲れを感じていた。

けど、多少負担をかけるぐらいでは問題ないだろうと、

そう自分に言い聞かせて作業する事が少なくない。

そう言った事が積み重なって、気付いた時には、

私も、疲れ果ててしまっているのだろうか。

…。

…Majorとの関係で不安な気持ちも大きく、それが負担になっている事も多々あるが、

…不安な気持ちになりやすい事も、最近ミスが多い事も、

…、そもそもの私の身体が疲れているから、なんて事は、ないだろうか。


「…、…すまない。心配をかけさせてしまって」


私の声も、自然と小さくなってしまう。

…。

最近、自分自身に元気を感じない事だって自覚している。

そのせいで頭が回らない事だって何度も…。

何故私が今になってこんなに心を乱しているのか、自分でも分からない。

増してや改善策も分からない。

けどこのまま普通に生活をしているだけでは何も変わらない。

Majorに対して不安を抱き過ぎて、それが負担になっているからMajorとの関係をやめたい訳でもない。

むしろ、Majorと一緒に居たい気持ちは日々強まるばかりで。

…毎日、愛を伝える事だって、触れ合う事だってしているのに。

他に何が足りないと言うのだろうか。


「…」


自分の中だけで迷想していて、結局Majorには大した返事は出来ないままでいた。

……また、ため息が出てしまいそうだ。

この、常に憂鬱な気持ちを感じるのは一体何なのだろうか。

私は、幸せを感じられていないのだろうか。

…、そもそも、

Faithfulに身体を心配される時点で、

既に、もう遅い気がする。

私の視線は更に俯き気味になる。

…すると、

Majorはさっきよりも私に距離を近付け、

横に置かれた私の手の上に、そっと自分の手を重ねた。


「…、

僕も、不器用なので大した事は出来ないですが、

…でも、大佐が辛い気持ちを抱いてしまっているのなら、

もっと、

ちゃんと僕を頼って欲しいです」


Majorは、正面に少し俯きながらそう話した。

…少しだけ、自信なさげな様子だった。

…毎回、思ってしまう。

最上部に就く私が、こんなに部下達に心配されて、

挙げ句の果て「頼って欲しい」とまで言われてしまうだなんて。

……やはり、私にはこの仕事は向いていないのではないかと、どうしてもそう言った考えに至ってしまう。

それとも、プライドが邪魔をしていたりでもするのだろうか。

本来、自分の失敗をこれからの為に活かして燃料にしていく事が妥当かとは思うが、

…もう、既に立て続けに何度も失敗を犯してしまっている私は、

自分に自信を持つ事すら難しくなっていた。

…すると、

Majorは、隣に座る私の手に、自分の手を重ねた。


「…、大佐が溜め込んでしまう理由って何ですか?

…また僕が信じ切れないですか?頼りたくないのですか?

…本当に、立場関係なくもっと周りを頼らないと、

大佐が先に壊れてしまいます

上司が部下を頼ってはいけない理由なんてありません、誰がダメって言ったんですか?

誰だって人を頼らないと生きていけないんです、上司だから誰よりもしっかり完璧に仕事が出来ていないといけないだなんて、そんな事はありません

大佐、僕達の軍の上層部に大佐と少佐しかない理由、前に教えて下さいましたよね、

上司が部下に圧をかけて負担をかけ過ぎないような環境を作る為って…、

それって、皆んなの職場での立場を公平に、平等に保つと言った意味もあるのではないでしょうか?

平等を保ちたいのなら、上司だけが負担を背負わないようにする事も気を付ける必要があると思うんです

上司の立場として、部下に甘すぎると言いたい訳ではないですが、部下達が気持ち良く過ごせていても、上司もそうでないのなら意味がないと思います

…僕も含めて、皆んな大佐の事が大好きなんですから、

もっとそれ相応に大佐も僕達を頼ってくれないと————」


Majorは、熱烈的に話をしている途中、

言葉をつっかえさせて、止めてしまった。

…そして、口を継ぐんで俯いてしまう。


「……ごめんなさい

僕が、言えた事じゃありませんでした」


Majorの声は、また弱々しくなった。

…また、Majorに気を遣わせてしまって…、

…。

……私は、

自分の手に重ねられたMajorの上に、自分の手を乗せ直した。


「…私は、

強く、なれるのだろうか」


そっと、Majorに訊いた。

…何度自分に問いかけた言葉か分からない。

そう訊き続けてきても、ずっと何も変わる事はなかった。


「…なれますよ

既に十分お強いじゃないですか

勿論戦う時の力もそうですが、

大佐は、そう言いながらも自分の業務を全う出来ています

…今日だって、大佐が助けに来て下さらなかったら、誰も気付かないまま僕は死んでいたかもしれませんし、大佐が僕を助けて下さったから、今も元気に命を留められているんです

…、大佐のお陰で、僕は生きられているんですよ」


Majorは更に私に距離を詰め、私とMajorとの距離はほぼゼロセンチになった。

…Majorは私の顔を見上げ、そう伝えてくれていた。

…あぁ、

Majorの顔を見ると、

…もう、全てが許されるような気がしてしまう。

そんな事、絶対にある筈がないのに、私はもう十分罪を犯した筈だと言うのに、

……Majorが、愛おしくも思えてきてしまって、

全てが、どうでも良くなってきてしまう。

私の顔を見つめるMajorの顔に、

私は自分の口を重ねそうに、

顔の距離を近付ける…。

…、いや、

また、Majorに甘えるつもりか?

また、こうしてMajorに酔い潰れて、

忘れようと、現実から逃げようとするつもりか…?

私は、Majorの顔に近付いたところで動きを止め、

少し視線を逸らしてしまう。

……Majorを見ていると、

やはり、気が狂いそうに—————


「っ」


突然、

顔を逸らしていた私に、

Majorが、口を重ねてきた。

私のソウルは少し跳ね上がり、ほんのりと音を立て始めるのが分かった。

……

…なんて、

なんて、

罪、なのだろうか。

私は自分の手を重ねたMajorの手に力を入れて握り、

口元をあそばせ始めた。

私とMajorは、完全に向き合う形になる。

…段々と顔の辺りが熱っていく。

…私は、

そのまま、そっとMajorの口に舌を入れ込んだ。

Majorは小さく声を漏らす。

それでもMajorは拒否をせず、

そっと私の首に腕を回してくる。

…Majorは、私の行動に流されるだけしているようにも見えた。

……

…私は、自分の首に回されたMajorの腕に自分の手をゆっくりと這わし始め、

やがて、Majorの手まで這わせるとそのまま手指を絡ませ、

勢いあまり、ゆっくりとその場に押し倒した。

…理性を抑えることが出来なかったと言うより、

Majorの押しに、負けてしまった。

敵わなかった。

一度Majorに対して魅力を感じ始めると、止まらなくて。

気持ちが、急激に溢れてきてしまう。

…自分で分かっていても、

……私は、

Majorに、弱かった。

若干不安定な場へ身体を倒し、少し不安定な感覚でより緊張感を倍増させた。

口元で多少の音を立てながら、Majorの舌と自分の舌を当てがう。

私もMajorも、若干の息を漏らしながらキスを続けていた。

……しばらくすると、

私達はそっと顔を離した。

離した口からは、唾液が糸を引いて伸びた。

…、若干、

複雑な気持ちで、満たされていった。


「…えへへ

さ、大佐

あまり遅くまで起きていては、Faithfulさんが来た意味も僕が来た意味もなくなってしまいます

今日はもう、そろそろ就寝しましょ」


Majorは、その状態のまま私にそう言うと、柔らかく微笑みかけた。

…私も、そんなMajorに釣られて、少し頬が緩んでしまう。

……私は、またMajorに負けてしまったと言うのに、

それを考えてまた陰気になってしまう事すら脳内にない程に、

結局、またMajorに、酔い潰れてしまった。

もはや、また彼に負けたと言う自覚すら、感じられていなかった。

今感じているのは、

ただただ目の前にある幸せだけ。

眼中にMajorしかいなくて、

本当に、今はそれ以外のことはどうでも良くなってしまっている。

増してや、

私は元々、Faithfulの存在について疑問を抱いていたと言うのに、

もう、それすらも頭から消えてしまっている。

今でさえ、酔いから醒めないような感覚に陥っている私は、

何だか、麻薬に浸っているような、

そんな気分でいた。

……、

…、愚かだ。

そう思いながら、小さく息を吐いた。

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