XXII

「そっかー、それなら良かった

俺は基地にいる側だったから、Aslam軍の基地のことまでは分からなかったけど、改心した様子になってくれたなら良かったね、」


大佐が部屋から席を外している間、僕はFaithfulさんと前の侵入調査のことに関して話していた。

やっぱり、最近の侵入調査と言ったら、前のAslam軍との出来事だ。

…あの時は、普段では見れないまた新しい大佐の一面を見れた気がする。

大佐があの時に何を考えていたのか改めて分かったし、

…Aslam軍に対しての怒りも、ただの動物の扱い方への怒りなどではなかった。

Aslamにあんなに怒鳴りつけていた大佐の様子は、今思い出しても本当に印象的だ。


「そっかそっか…。Colonel、新入調査の為の準備してる時も何だか相当色々考えてる事あったようにも見えたしね

動物兵器化に対して、そんなに思うことがあったのかー

Colonelが元々割と動物に愛着が湧くってことは知ってたけど、そんなにだったんだね

Aslamも、Colonelの言葉とかでも響いて本当に改心してくれたならいいんだけどね〜、」


そう言ってFaithfulさんは、当時大佐のことに関して載っている新聞を手に取って、またそれを眺め始めた。

…大佐はあれからメディアにも出演して、全国放送のテレビで何やら言葉を残してきたらしい。

隊員達の声によると、いい言葉を残してきたとの話だから、

…大佐の言っていたことが、皆んなに届けばいいなと思った。

他にあんな酷い動物の扱いをしているところなんてあるのか分からないけど、…一般の人達にも、響けばいいなと思っている。


「あっ、Colonelお帰り〜」


すると、大佐が部屋に帰って来た。

…ほんの少しだけ、疲れているような様子だ。


「…お、おい、あまりそれを見るのはやめてくれないか…、」

「ん?…あ、これ?

いやあ、だってさ、自分の教え子がこんなに人気者になってるの誇り高いじゃん?

ほんと、Colonelは凄いなあ、大佐に就任してからこんなにも色んな経歴を収めてさー、」

「分かったから…、やめてくれ」


大佐はFaithfulさんに近付くと、その新聞を少しだけ強引に取り上げる。

Faithfulさんは、呆れたような様子で足と腕を組んだ。


「Colonelは嬉しくないの?紛れもなく凄いことをしたのは事実だし、こうして取り上げられるのも間違ってないと思うけど」

「私は当たり前のことをしただけなんだ

…世間が当たり前な事を出来ていないだけで、…私はそれをしただけなんだ

私は人気者になりたかった訳でも目立ちたかった訳でもない

本当に、当たり前の事をしただけで

こんなに持ち上げられる事など知る由もなかった」


大佐はFaithfulさんから取り上げた新聞を畳みながら言った。

…Faithfulさんは、大佐の方から僕の方へと視線を流した。

すると、今度は一人の隊員が何やら少し慌てた様子で部屋の前まで近付いてきてはドアをノックした。


「…何だ」

「大佐、偵察部隊の隊員から、移動途中でNABE局からAslam軍のことに関して聞かせて欲しいとの伝達が…、」

「……またか…

…出られないと断っておいてくれ、頼めないだろうか」

「はい、しかし…、いいのですか…?」

「私も暇じゃないんだ。…それに、私はそれに関して積極的に話を受けたい訳ではない。活動の目的と変わってきてしまう

私もう話すべき事は既に話した筈だ。もう話すことはない

断っておいてくれ」


隊員は少し心配するような様子で返事をし、また部屋を出て行った。

…そのまま大佐は大きめなため息をつき、自分の机に戻った。

……やっぱり、何だか疲れている様子だ。


「Colonel、なんか疲れてる?」

「……、まあな」


大佐は軽く返事をすると、また机の作業に戻った。

…、見た感じだと気分も良くなさそうだ。

大丈夫かな…、

……ちゃんと睡眠とか、とれてるかな…。


「Majorくん。Colonel、相当疲れてるみたい

癒してやりなよ〜、Colonelが最近色々と頑張ってるのMajorくんなら知ってるでしょ?」

「まぁ、…、でも今は作業中みたいですし…、」

「関係ないって、Colonelなんていつも忙しいんだから

どこかのタイミングで強引にやってやらないと、」


Faithfulさんに小声で話しかけられ、僕も小声でそれに対して答えていた。

Faithfulさんが、いかにもわざとらしく揶揄ってきているのが分かる。

…いくら今こう言う関係になったからとは言え、仕事を邪魔する訳には…。


「おい。丸聞こえだ」


…が、少しキレ気味な大佐に話を止められてしまった。

……相当疲れてるのかな。確かに最近はずっと大変そうだけど…。

大佐の様子に、僕はただただ心配を覚えた。


「なーんだよColonel、そんな————」

『Faithfulさん!今お手の方空いていらっしゃいますでしょうか!』


FaithfulさんがColonelにまたふざけて返事をしようとしたその時、

丁度Faithfulさんのマイクロイヤホンに通信が入った。


「…呼び出し喰らっちゃった

行かなきゃ。またね、」


Faithfulさんは呆れて笑っているような表情で、僕に手を振ってその場を離れ、

そして、そのまま部屋を出て行った。

……。

部屋には大佐と僕が取り残された。

相変わらず大佐は黙々と仕事に取り掛かっていて、部屋内には書き物をする音だけが響いていた。

…何だか緊張するような雰囲気。

大佐が疲れているのって、やっぱり最近の仕事が立て続けに詰まっているから?

それとも、これからの予定も含めた仕事で大変なのかな…?

…どちらにしろ、仕事が詰まっているのには変わりのない事なのだろう。

僕は、閉め切られた部屋の中の空気が少しでも回りやすくなるようにと、部屋の窓脳へと向かった。

カーテンもついていて、全開にすると恐らくそのカーテンが大佐の邪魔をしてしまう事になるだろうから、

開けるのはほんの少しで、風が若干入る程度にしておこう。

窓の鍵を開けて、その窓にほんの少しだけ隙間を開けた。

そして、部屋には心地良い空気の風が入り込んできて、徐々に身体を涼しげな気持ちにさせてくれた。

…大佐もこれで、少しは涼まれるかな。

窓から離れると、そのまま僕は大佐の背後まで行き、

そこから大佐の作業風景を覗き込んだ。

…、まだ時間がかかりそうな様子だ。本当に、僕にお手伝い出来ることは何もないのかな?

……、声をかけようと一瞬試みたが、やはり今動いている大佐の手を止めたくはなくて、口を噤んでしまう。

…。

…すると、


「…」


ふと、大佐の手が止まる。

…そして、持っていたペンを離し、少し書いていた書類から視線を引くようにして、

大きな溜め息をついた。

…、書類に書く内容を間違えてしまったようだ。

大佐はそのまま椅子の背もたれに身体を預け、

軍帽で目元を隠してしまう。

……。

…無理、しなくていいのに。

僕は自然とそんな大佐の横まで移動し、

間違って書かれた書類に手を触れた。


「……、…何をしているんだ」

「…、ほら、あの、

…直しましたから

もう一度書いて下さい」


僕は、コピー能力で大佐が間違って書いた部分を取り消すようにしてまた白紙にした。

…、面倒で手間がかかって、時間も取ってしまう、

それでもやり直せる方法があるなら、その手段を選んだ方がいいのではないかと考えた。

…大佐は再び状態を起こし、その書類に再び目を向け、手に取った。


「…、こんなことの為に、その能力を使わないでくれ

……。気持ちは嬉しくない訳ではないが、こう言った事を求めているのではない」


大佐はそう言うと、机に向かってその書類を手に取ったまま俯いてしまった。

…、大佐…。

……。


「…、…大佐、あの…、」


僕は決心し、少し控えめな声で大佐に呼びかけた。


「…お出掛け、しませんか…?」


僕がそう言うと、大佐は思考が停止したような様子を見せる。


「…、……何?」

「えっと、疲れてるんですよね、あまりに疲れすぎた状態で仕事をしていても余計に手が回らなくなるだけです

ちょっとぐらい休憩してもいいんじゃないですか…?今日休暇を取ったら、大佐も少しは元気になって心の余裕も出来ますよね…?」


僕の言葉は控えめで、大佐を余計に不愉快にさせてしまわないか不安で自信なさげに口から溢れていく。

…しかし、そんな自信のない中でも、その大佐な手を取って話して見せた。

…最近の大佐は、やっぱりいつもより疲れているように見える。

大佐はいつも仕事が詰まっているから、何かきっかけがないと安らげらような機会もない事だろう。

だから、ほんの少しだけ、大佐の心が安らげばいいと思った。

何か抱え込んでいることがあれば、僕に相談だってして欲しい。

そうなるには、まずはきっかけを作らなければ、と思った。


「…m、Major…?急に何を言って————」

「ほんの少しだけでいいんです、お昼までには帰ります

大佐が、少しでも元気になればと思って言っているんです…

…少し、外の空気でも吸いに行きましょ」


大佐は動揺した表情のまま僕の真剣な顔を見つめ返したが、

やがて、ゆっくりと目を逸らしていってしまう。


「…、…いや、…業務に取り組まなければ、…」


…大佐の手に少し力が入った気がした。


「…何で、そう、濁したような言い方をするんですか…?

まるで、断り切れない。とでも言うような」


僕は大佐の顔を覗き込むようにして訊いた。

…、そして、大佐が横目でまた僕の方を見ては再び目が合った。

……、

思い切らなきゃダメだ。


「散歩でもすれば、きっと気が楽になります!

行きましょっ!」


自信を持たなければ。ここまで言って何も出来ないままになってしまうのはごめんだ。

少しぐらい強い気持ちでいなければ、やり遂げることは出来ない。僕は、大佐に少しでも心を休めて欲しいだけだ。

僕はそのまま大佐の手を少し強引に引き、部屋の外まで連れて行こうとした。


「っm、Major…っ!」


呼び止めようとする大佐にお構いなしに、僕はマイクロイヤホンに指を当てた。


「こちら少佐。少しの間大佐とMajorは席を外すので把握しておくように

昼食よりも前までには戻る!」


そう隊員達に連絡を入れると、大佐をそのまま基地の玄関まで連れて行った。

…どうしようかな、街で軽く間食でもして、あとはしっかり休める場所に行きたいな。


「Majorっ、一体何処へ行くつもりなんだっ

それに、外に行くのならばこの服装のままでは…、」

「そんなの、白シャツだけになって出ればいいんです!

上の軍服と帽子だけ脱いで、玄関に置いてそのまま出ましょう!

ほら早く!」


少し、上司に向けた態度にしては無礼に当たってしまうかもそれないが、

これは、もう部下や上司での関係の話ではなく、僕達自身の関係の話だ。

こうしてきっかけを作ってあげられるのも、今はきっと僕しかいない。

今日の、ほんの少しの間だけでいい。

僕が、大佐の休める場所を作ってあげたかった。

—————————————————————————

軽い服装になると、私はとことん乗り気なMajorに腕を引かれて街を歩いた。

…、断り切れない。

こんなに私の為を思ってしてくれていることに対して、簡単に振り払う気にもならないし、

…実際、Majorが自分にこうしてくれることに対して嫌と言う気持ちを感じない。

むしろ、喜びに近い気持ちを抱いてしまっている。

見透かされている気分だ、少し下に見られている気分だ。

何もかもお見通しとでも言うかのような、言わなくても気持ちは分かるとで言っているような。

…けど、それに対して喜びを感じてしまっている私は、やはり大きな声を上げてまで拒否をする気にはなれなかった。


「オススメのファストフードがあるんです、口に合うといいのですが…

とても美味しいのできっと気分も安らぐはずです」


さっきから、Majorはずっと何かを頑張ろうとしている様子で、まさに私の気を良くしようと頑張っているように見えた。

…、Majorは、何を突然そんなに必死になっているのだろうか…。

こんなのは、まるで、私が気遣われているような…、

……。


「…あ、着きました!此処です、少しだけ混んでいるので列に並びましょ」


Majorと私はさっと列に入り、人が減っていくのを待った。

…Majorは、列の人数が減らないか、まだかまだかと言うように列の先を観察していた。


「…Major、気持ちは十分嬉しいのだが、

何故、こんな……」


私は控えめな声量で、そんなMajorに訊いた。

まだ頭が動揺したまま此処に連れて来られ、未だに本当にMajorがしたい事が分からずにいる。

…私に休んで欲しいのは分かったのだが、何故無理矢理連れ出してまでそうさせようとするのだろうか…?


「…Major、私は財布など持って来ていない、が……、」

「大丈夫ですよ、僕が出しますから

ちょっと待ってて下さい」

「そんな、…、」


列もそんなに長くなく、あっという間に自分達の番が回ってきた。

Majorは、店員に注文をし始めた。

……ああ、しかし、

こうしている間にもやはり私は完全に断り切れず、結局Majorと今の時間を楽しんでいるような気持ちになってしまう。

…申し訳ない。私が頑張ればいいだけの話だったと言うのに。

たかが疲れが溜まることなどいつもの事じゃないか。

まるで私が疲れているような様子を自ら見せて気を遣わせているような————


「大佐!もう会計終わりましたよ

早くいきましょ!」


もやもやと考え事をしていると、買い終わった食べ物を持ったMajorに声をかけられ、目を覚ましたような気分になる。

私はそのまままともに返事も出来ないまま、Majorに着いて行った。


「……大佐、お疲れ、ですよね

何か抱え込むようなこと、あったんですか?

もし宜しければ、少しでも僕に話してくれると嬉しいです」


Majorは二人分の食べ物を持って隣を歩きながら、私に問いかけた。

…Majorは心配そうな表情を私に向けた。

……本当に、わざわざ気を遣わせてしまっていることが申し訳ない。

こんな所に外出までさせてしまって…。

少し歩いた所のベンチに座り、Majorは片方の手に持っていた物を私に差し出した。

…人気はさっきよりも少ない。少し静かな場所になっていた。


「…Majorすまない、こんな事をさせるつもりでは…、」

「いいんですって!気にしないで下さい

大佐が何か不安とかなければいいですけど、もしも話して少しでも楽になのるなら、それは僕に話して欲しいです

お話を聞くことしか出来ないかもしれませんが…、

こう見えて僕も少佐なので。どんなに大事なことでもお力になれたら、って思うんです」


少佐はニコニコしながらそう言い、持っているものに噛みついた。

私たちが手に持っていたものは、最近人気を集めていたハンバーガーだった。

サイズはそれ程大きくない。

今の時点でも、いい匂いが漂ってきている。

……、私が、こう言ったジャンクフードを時々食べると言う事を、知っていたのだろうか。

…それとも、

前にほんの少し話した事を、忘れないでいてくれたのだろうか。

………。

…私も、Majorに釣られるようにして手元のものを口に運んだ。

…、


「…どうですか?」


……確かに、味は物凄く美味かった。

現時点での私の状態でもかなり疲労は溜まっていて憂鬱な感情ではあるが、

…けど、確かに、美味しく感じられた。


「…、美味い」

「本当ですか、良かった…

むしろ、こんな事しかしてあげられなくて申し訳ないです…

ちょっとでも、気持ちを安らげて下さい」


私は、そんな安心するような表情を見せるMajorの顔を見つめていた。

……。

…、何で、こんな


「…大佐、そもそも僕達はやる事をしたんですから

確かに、誰よりも早く実行に移したのは大佐なので民衆からの目を向けられない事もないと思います

でも、僕達の軍の目的は、戦争をなくす事ですもんね

動物兵器の件に関しては誰しもがいけない事だと感じるはずですし、何より法律違反です。それを伝えたいと言う事は山々ですが、

動物達を保護したからと言って、僕達は何か動物に関しての専門知識がある訳でもないですし、それだけで何かを語るような事は出来ない筈です

…話せる事が、ないですから。と言うより、もう話したい事は話してしまいましたから

大佐はもう既に一回民衆の目に触る所で発言をしましたから、もうそれ以降そのような事をする必要は、僕もないと思っています

なので、そんなに気に留める必要もないと思いますよ。断ればしつこく追ってくる事もないでしょう

そんなに一件の事に関して考えすぎなくて大丈夫だと思いますよ」


Majorは、手元のものを食べながら私にそう伝えた。

…、

…Majorも、分かっていたのか。

……Majorからも、私がそう見えて、いたのか。


「…、…民衆が、私に対して寄ってたかってくるように見えてしまっていた

局の数も少ない。どこも、常に極大な情報を取りたいと思う事だろう

気持ちに応えてやりたいのは山々で、同じ内容だろうが何回でも話してやりたい気持ちだってある

……ただ、Majorの言う通り、私はもう話したいことは既に全て話し終えてしまった

情報や所感など、いくらでも話し終えた筈だ

私が発言した情報は、既に多数の人達が共有出来るような場所に置かれている筈なんだ

…それだと言うのに、声掛けが絶えないものだから

…、…メディア達が、私を良いように使える道具として扱っているように感じてしまった

自分で話してしまうのも抵抗があるが、私は顔の知れている人物だ

普段表に顔を出さず、そう言った条件を揃えている私が初めてあのような場で顔を出して発言をした事をきっかけに、

恐らく、他のメディア達も私に近付こうとしたのだろう

一度出ただけで、私がそう言った話に応答してくれる者だと勘違いされてしまっている

…けど、だからと言ってこれを表で堂々と言えたものではない」


いつの間にか、私のハンバーガーを食べる手は止まっていた。

ため息が出ているのも分かる。思い出すと身体が重苦しく感じてきてしまっていた。


「……疲れてしまうんだ

私はそんな事をされる為に発言したのではない

目的が変わってしまう

…、ただ、私自身が感じた事を伝えたかっただけだ

少しでも世の中が良い考えを持ってくれるよう影響を与えられたら、と思っただけだ

……やたらめったら表に出たい訳ではない」


私の声が小さくなっていくのを感じた。

私もこれからの業務があると言うのに、もうたくさんだ。

そこまで手を回せられない。そんな事に関わってばかりいては、本来の業務に手が回らなくなってしまう。

…加えて、次々に声掛けが絶えなくなることだろう。

けど、正直、

あまりに断りすぎて世間からのイメージが悪くなることも避けたい。

私が資源や金を求めているだけのただの軍ではないと言う事は留めたままでありたい。

気にする事ないのも分かっている。…そうである事が、最善だと言う事も分かっている。

しかし、やはり気にし始めると切りがなくて。

ありもしない情報や噂で勝手に印象付けられるのが嫌に思った。


「…相当、疲れているんですね

大佐にとって、何がそんなに気に病むんですか…?

……僕も先生の事を分かり切っている訳ではないので、あまり色々な事は言えないですが…、

…でも、大佐、

僕達の仕事も、そんなに焦る必要はないと思います

早く行動を進めていきたいのも分かりますが、それよりも先に僕達自身の体調も大切なのではないでしょうか…

…僕が大佐にこんな事を言うのもよくないですが、

大佐は、少し色々と気にしすぎているように感じます

色々なことに目を向けられるのはとてもいいことだとは思いますが、同時に自分への負担も大きくなってしまうと思います

大佐は今回インタビューを受けて、更に顔の知れる人物になりました。知名度も上がったことでしょう

顔出して街に出る事も、以前より難しくなるかもしれません

……でも、やっぱり気にしていては返って逆効果になってしまう可能性もあります。周りからの目線も、大佐の気持ちも。

初めは難しい事かもしれませんが、やっぱり気にしない事が一番です

本当に僕は話を聞く事しか出来ませんが…、何かあれば是非お話しして下さいね」


…Majorは私の顔を見ながらそう言った後、少ししてまた正面に向き直ってはハンバーガーを食べ進めた。

……。

気にしない、ことか。

…。

ただでさえ周りからの目線を気にしてしまう私からしたら、いきなりそうしようとするのは確かに難しいことだ。

…、しかし、本当に気にしないままやっていく事ができるのだろうか…?

…顔も知れて、次にまた敵軍と対戦をするような事があった場合、

裏を掻かれて、不利を招いてしまう事はないだろうか…?

……、

…果たして、私にやり遂げられる事なのだろうか。


「大佐、」


名前を呼ばれ、またそっちに顔を向ける。

Majorは、さっさと手元のハンバーガーを食べ終えてしまっていた。

…すると、Majorはそっと私に距離を詰め、

そのまま、私の首に腕をまわし、抱き締めた。


「……どうか無理しようとするのだけはやめて下さい

一人で抱え込む必要なんてないんです。僕もしますし、他の隊員達や、Faithfulさんだっています

大佐のことを助けてくれる人は沢山いますから

…だから、何かあったなら、すぐに僕や皆んなを頼って下さい」


…、久しぶりな感覚だった。

予定が詰まっていたのもあって、少しや間こうしてMajorと触れ合う機会を作れていなかった。

……酷く、心が安心した。

私はそのままMajorの背に腕をまわした。

…、…温かい。


「……さ、ほら、

早く食べないと冷めちゃいますから

食べて下さい」


Majorは私から離れると、そう言った。

…Majorの、優しく微笑みかける顔が目に映った。

……


「!」


私は、そんなMajorの口に自分の口を重ねた。

…、愛を伝える事が、少なくなっていたのかも知れない。

ほんの前までは、ここまで苦痛も感じていなかった。

多少何かあっても、Majorと居れば、何も気にする事なんてなかった。

……私に足りなかったのは、

人を頼ろうとする気持ち、だったのかも知れない。


「…ありがとう」


Majorにそう言って、微笑みかけた。

…Majorも、安心したような表情を浮かべて、返事をして見せる。

……、もう少し、頑張らなければならないな。

無理を、しない程度に。

私は手元のハンバーガーをまた口に運び始めた。

…既に幸せは手の中にあると言うのに、

どうやら私はそれを認識して自分に取り入れるのが上手くないらしい。

通りで、疲れてしまう訳だ。

少し考えれば、分かる事だったかも知れないと言うのに。

…そこまで、心の余裕をなくしていたのだろうか。


「え、大佐さんと少佐さん?」


声がした方に、私もMajorは顔を向けた。

……、


「うわー、偶然だね

まさかまた会えるなんて思ってなかったよー」


前に保護施設に送り届けた筈の、あの猫がそこに居た。

猫は、堂々と私の隣に飛び乗ると、その場で腰を下ろして身体を丸めた。


「あそこさー、行ってみたけどやっぱり僕には合わない気がしたんだよねー

確かに言ってた通りご飯も寝床もしっかり用意されてて快適なんだけど、やっぱりどうしても完全な自由って感じがなくて

僕が求めてたのは自分で好きな所に行ける程の自由だったからさ、野良猫ぐらいが丁度いいや」


猫は、身体を伸ばしては足を舌で舐める仕草を取った。

…相変わらず、変わらない様子のままだった。


「…それに、やっぱり大佐さんの所が名残惜しくてさー

あそこに居た時がよっぽど心地良かったのか分からないけど、もう他の場所が僕に合う気がしないんだよねー

だから、せめて野良猫になって、どこにでも行けるぐらいの行動範囲がいいかなって思って

抜け出して来ちゃった

そしたらまさかまた会えちゃったなんてね、本当凄い偶然だったよね」


私達が何か話しかけたりした訳でもないと言うのに、猫は一人でに自分語りをしていた。

……。

…彼の、望んだ人生だ。

彼の持つ人生なのだから、思うようにするべきだ。

私達は事々の流れを考えると全頭を施設に送り届ける事しか出来なかったが、果たして本当に皆んなが皆んなそう言った生活を望んでいたのかどうかは分からない。

…この猫と同じように、求めているのは本当の自由で、

どんなに住む場所が整っていても、部屋の中でしか生きられないと言うのは苦痛に感じてしまうのかも知れない。

……、ほの施設も、まだ特化はしていないだけで、そのうち自然をそのまま国立公園にしたような区域を持つ予定だとは言っていたが、

それも、いつになるかは分からない。


「…なあ、」


私は、猫に向かって声を掛けた。


「…、うちに来ないか」


私がそう訊くと、猫は伏せていた状態から身体を起こし、私に顔を向けて耳や尾を立てて見せた。


「…本当?」

「…お前が望むのならばな」


猫に、そう少し微笑んで見せた。

…猫は、どこか嬉しさを隠し切れないような様子を見せていた。


「…、へへ、

ちょっとね、そう言うの期待してたんだ」


猫はその場に立って起きると、私の足を跨ぎ、Majorの膝の上まで移動をした。


「改めて宜しく、しっかり世話してよね」


猫は、Majorの膝の上で、腹を見せて寝っ転がって見せた。

…Majorも、それに応えるようにその腹を撫でた。


「うちに住み続けて、本当にお前の望むような場所になるかどうかの保証はしないぞ

…まあ、居心地が悪くなったらまた言ってくれ」

「んーどうかな

前も何日かあそこにいたけど、空気美味しいし、寝てるだけでも十分快適だったと思うけどね

それに僕、またあの猫の隊員に会いたいんだ

何て言うんだっけ…、くある、だっけ?

沢山話聞いてくれたし、お世話になったんだよね。未だちゃんとお礼も言えてないし、僕自身もあの人に懐いちゃった感じしてるから」


…Qual、のことだろうか。

初めに連れてきた時、彼に色々と任せて正解だったな。

流石、扱い方をしっかりと知っていたらしい。

……、

きっと、この猫が私達の基地に増えたところで、何の支障が出ることもないだろう。

会話も出来て、意志の疎通も出来る。彼もきっと、私達に仕事があるのを知っている前提で言ってくれているのだろう。

…メンバーが、一人増えたのと同じだ。

私はやることを思い出したかのように、手元ハンバーガーを最後まで食べ勧めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る