XXI
僕は気絶させた隊員を引きずって運びながら移動をして行った。
…これでは明らかに足手纏いだ。早いところ、何処かに置いておかなければ…。
「…、透視能力で様子を見てみたのだが、
何やら、一箇所の場所にほとんどの隊員が集まっているらしい。此処の中だ
どうやら罠と言った訳でもなさそうだ。…何をしているのか知らないが
ここを抑えることが出来れば、かなり効果がありそうだ
少し正面突破かもしれないが、大丈夫だ。ここから立ち直せるだろう
今がチャンスかもしれない。中に入った瞬間全員武器を出して脅せ
それから中にいる敵軍隊を全員人質に取るんだ
行くぞ」
隊員達は腰の拳銃に手を掛けた。
…僕は手が空かない為、しっかりと捕らえた隊員を支えたまま身を構えた。
大佐がそう伝えた次の瞬間、
勢い良く扉を蹴り開け、一斉に中の敵軍隊員達に銃を向けた。
「手を挙げろ!!
全員武器をおけッ!!」
大きな音を立てて扉が開くと、大佐は声を張り上げて中の隊員達に威嚇をした。
隊員達も、銃を向けては腕をブレさせない。
案の定、敵軍隊員達は驚いた顔でその場に立ち、手を上げた。
…混乱した様子のまま、装備している武器をその場に置いていく。
……何だろう。
何で、こんなに無防備なんだ?
流石に何かハメられるのではないかと思っていたけど、
どうやら、本当に何も用意されていないようで、敵軍隊員達も状況が飲み込めていないとでも言うような様子。
…でも、本当に何も用意されていないようだった。
「…ポータル能力が使えない隊員は此処に残って見張っていてくれ
残りは動物の在処を探そう。…行くぞ」
「少佐、そいつ預かります」
残る隊員のうち一人が、僕の抱えていた敵軍隊員を支えて受け取った。
…、そう言えば、
大将らしき人の姿が見当たらない。
此処にも居ないようだった。
…何処にいるんだろう。
「此処からは別行動にする
各自動物達の隠されている場所を探し次第、ポータルで送り届けてくれ
出来そうか?」
大佐が僕達に訊くと、僕達は不安にさせないようしっかりと返事をして見せた。
大佐が「よし」と相槌を打つと、僕達は纏まりを崩していき、それぞれの行動に移って行った。
…早く探さないと。大将も何処にいるか分からない。
「Major、…何度も頼ってしまうようで本当に申し訳ないのだが、ポータル能力は使えるだろうか」
「はい、さっき隊員が使っているのを見ていたので、使えるかと」
僕達は一旦その中から出ると、別々の方向へと動物の居場所を探しに動いて行った。
たったさっき大佐と別れ、見つけた部屋のドアを開けた。
次の瞬間、何かが僕に飛び付いて来て、少し声を上げてしまう。
…僕に飛び付いて来たのはどうやら、中型の鳥だったようだ。
僕に敵意などはないようで、この子も驚いて僕に飛び付いて来てしまったらしい。
顔を上げると、部屋の中では他の動物達がそのまま放されていて、此処の動物達は檻の中には入れられていないようだった。どうやらこの子達は爆弾を身体に付けていないらしい。
僕はとりあえず部屋の中に入って、入り口を閉める。
動物達は、僕に興味津々で少しずつ足元に近付いてくる。
…可愛い。僕はそれを見ると頬が少し緩んでしまう。
…けど、遊ぶのならそれはまた後で。
今は保護してあげないと。
僕は近くにポータルを開き、丁寧に動物達を入れていった。
…、本当に、誰も抵抗はしなかった。
抵抗をしないよう今まで調教されてきたのではないかと憶測を考えると、余計に胸を痛めてしまう。
早く身体を綺麗にしてあげたい。先を急ごう。
『こちらPlac、地下室を発見しました
調べてみたところ、此処にも動物達がいるようです
地下の他の部屋にも動物がいるようなので、全員ポータルを開いて送り届けておきます』
別の隊員から連絡が届いたようだ。
…順調、なのかな。このまま大きなこととかないまま終えられるといいけど…。
そうこうしているうちにその部屋の中の動物達は全員送り届けられたようで、今居る部屋の中は空っぽになった。
…次の場所に行こう。他にもいるかもしれない。
僕は一旦その部屋を出て、反対側の方へと向かおうとする。
「お、おい!そこで何をしているんだっ!」
背後から大きな声をかけられ、僕は咄嗟にレイピアを抜いて振り返る。
……、
…そこに立っていたのは、丸々とした身体付きの豚の獣人が立っていた。
服装がさっきの隊員などとは違っているようだ。…もしかして、
…大将…?この人が……?
「散々基地内をうろちょろして、一体どうするつもりだ!」
「どうするつもりだ、か
…興味深い。こちらに言わせてもらいたいのだが」
横から合流出来る廊下の道から、
大佐が何匹かの中型動物を抱え、肩にも鳥などの何匹か小動物を乗せてこちらまでやって来た。
大佐の持っている動物達も、身体に爆弾はつけていなかった。
…大佐は、手元の動物に顔を近付けて宥めるようにしながら、その大将らしき人にそう話した。
「…お前がAslam軍の大将だろうか」
「そ、そうだ!それより、兵器達を勝手に持ち出して、一体どうするつもりなんだ!」
兵器……。
その言い様に、僕の顔や手に更に力が入った。
「さっきから私に言わせてもらいたいことばかり言うのだな
貴様の方こそ、この動物達をどうする予定だったのだろうか」
…Aslamは、答え辛そうに口籠もった。
…でも、何でこんな人が大将、なんだろう…。
はっきり言って、他に見かけた隊員よりもまともに戦えなさそうな様子だ。
「…知っているのだろうな
動物をこう言った形で兵器に使うことは国の法律違反だと言うことを
何故法律を破ってまでこれをしようと思ったのだろうか、そこまでする理由か何かがあるのだろうか」
大佐は僕に近付き、持っている動物を他に預けていきながらそう話す。
ふと、大佐の顔に目を向けてみる。
…大佐は、とても、真剣な表情をしていた。
さっきからも淡々となしていて、目線は少し冷たく下ろし気味だ。
「……っそんなこと、お前達には関係ない…っ!」
Aslamは少しの間迷って沈黙した後、空気を裂くようにしてそう言葉を放ち、レイピアを抜いて僕達に向けて見せた。
僕はそれに反応して自分も構えを取ろうとしたが、
大佐がそれよりも前に出て、淡々とAslamに正面に向いた。
…表情は、さっきのままだ。
「…愚行にしか、走らないのだな
出来るものならばやってみるといい」
大佐は武器も構えずに、ただAslamに身体を向け、
…少し、呆れたような声でそう言った。
大佐に若干身体を背後に押され、僕は何も出来ないまま少しだけ後ずさる。
…そして、Aslamは声を上げながらレイピアで大佐に襲い掛かろうとする。
……が、
大佐に軽々と避けられてしまい、挙句足を引っ掛けられ、
少し声を漏らしながらその場で勢いのまま正面から倒れ込んでしまう。
Aslamは、床に顔面を打った。
「あまりに、遅すぎる
本当にそれが軍の大将としての実力か?
にわかに信じ難い程に、弱すぎるな」
大佐は、そのまま倒れ込んだAslamの背を動けないように踏みつけ、少し顔を覗き込むように屈んでそう話しかけた。
…Aslamは、武器を話して、頭部を守るような体勢を取った。
…いつもの大佐の攻め方とは、
何だか、ちょっと違う気がして、
僕は黙ったままそれを見続けていた。
「……何か、言ったらどうなんだ」
「ひぃっ、す、すまない…っ!!
もうしない。許してくれ…、何でもする、何でもするから…っ!」
…Aslamは、無様な様子を僕達に公に見せた。
僕の口が、若干開いたまま塞がらなかった。
…。
Aslamは、きっと、戦えるような人ではないんだ。
初めから、戦えるような身体でもなくて、彼の考えの関係でも、戦えるような人ではなかったのではないかと、
だから、別で兵器を用意して戦わせるような方法を考えたんだと、僕は思った。
大佐の顔色が、先程と比べて少し変わっている。
「ぅ…いっそ、殺してくれ……」
Aslamは、そう小さく口から溢した。
その言葉を聞くと、
大佐の顔色は更に一変して見せた。
「ッ、ふざけるなッ!!」
大佐はAslamに向かって怒鳴り声を上げた。
「許してくれ?何でもする?殺してくれ??
いい加減にしろ……、そんなことを言って許されるようであるならば、法律なんざ存在する意味がないッ!
それになんだ、貴様は自分も同じ動物の種族なのではないのか?同じ種類の生き物なのではないのか??
なのにも関わらずその命を腐る程犠牲にしてそんなに楽しいか??え?笑わせるな…ッ、」
そして、Aslamの前に回り込み、胸倉を掴んで無理矢理正面に状態を起こさせる。
「貴様が戦えるような身体でないことなど知ったことか…ッ、
貴様らの手で人を殺めたくないと言ったことなど知ったことかッ!!
既に失われてきた数え切れない命が全て戻ってくるならば貴様の命など惜しくないッ!
今までそんな情がある中こんな手を使ってまで金や名誉を手に入れて、罪のない命を次々に散らせて…、それで自分達が幸せになれるなどと思っていたのか??
自分達が傷付かなければ何だっていいのか…!?どんな手を使おうが幸せが得られる事が出来れば何だっていいのかッ!?」
大佐はAslamの身体を揺らしながら、訴えるようにして怒鳴りながら話す。
…手に持っている動物達を早くポータルに入れるべきだったが、
大佐のそんな様子から目を離せる気がしなかった。
「貴様は自分が今まで何をしてきたのか分かっているのか!?
貴様がしてきたことは、他の軍がしてきていることよりもはるかに愚行なんだ、愚かでしかないんだ!!
甘ったれるなッ!!自分でしっかりと許されない事と分かっているのならば、
いずれ世間にバレると言う事が分かっていたならば…ッ、
こんな事、初めからする事すらなかっただろうがッ!!」
大佐はそうやって最後まで怒鳴ったまま言い放ち、肩を上下させながらAslamの顔を睨み続けた。
…Aslamも、もう何かを発する様子もなく、ただ唖然としたまま大佐の顔を見つめ続けていた。
今まで沢山怒鳴って息切れていた大佐も、段々と息を落ち着かせて、
やがて、Aslamからゆっくりと視線を落とす。
…そして、力が抜けるようにして、掴んでいたAslamの胸倉を離した。
「………罰を受けろ
一生物の、罰を受けろ
貴様が今後、許される事などない
その罪を一生背負い続けろ
…貴様に少しでも改心の心があるのならば、
もう二度と、軍隊など作り上げるな」
大佐は、Aslamに向かって冷淡にそう話した。
…少しの間視線を下ろしたまま、やがて僕に静かに話しかけた。
「Major、警察を呼んでくれないだろうか
Aslam軍をすぐに此処から連れて行ってもらいたい」
警察が到着して、Aslam軍の隊員達は全員警察に連れて行かれた。
僕達は、Aslam軍が連れて行かれる様子を見送っていたが、
…何だか、辺りには少し重いような空気が流れていた。
順番に目に映っていくAslam隊員の後に、やがてAslamが見掛けられた。
…すると、Aslamは直前に僕達に振り返り、少しの間足を止める。
「……あの、Colonel
僕は———」
「話は、……署で聞いてもらってくれ
…私は話を聞いてやれても、何をしてあげられることも出来ない」
Aslamはそうして大佐に話しかけようとしたが、大佐は話を切るようにして、そう返事をした。
Aslamは口籠もった様子で、最後にまた僕達の顔を見ると、そのまま黙ったまま警察に連れて行かれてしまったのだった。
——————————————————–—————
Aslam軍から保護した動物達はかなりの数となってしまったが、動物の保護施設に連絡をしたところ、
少なくとも数を考えると、どうやら此処に来るまでに一日はかかるとの話で…。
保護員の人達が動物達を迎えに来てくれるまで、僕達が自分達の基地で動物達の世話をしなければならない事になってしまった。
小型から大型まで、種類も様々で、その数も多くて、
基地内は中々に賑わっている状況だ。
隊員達も、今日明日ばかりは訓練どころではなくて、動物の世話に徹底するしかなさそうだった。
…全頭の身体を綺麗にすることや、食料を与えるなど…、
しかし、まあ、保護員達が来るまでには恐らく時間が足りず、とりあえず出来る範囲のことを皆んなで協力してこなしている、と言った状況になっていた。
…何だか、自分達の基地が動物園になったかのような雰囲気だ。
僕はとりあえずと言った感じで大佐の部屋で面倒を見る動物の風呂入れが終わった為、その子達を連れて大佐の部屋へと戻って来た。
……大佐は、小動物達が机の上に寄りたかったり、肩や頭に乗ったりしていて、
とてもじゃないが、業務などまともにこなせたものではない様子だった。
「……参った。早急にこの書類を書き終えなければならないのだが…、」
大佐が今書いているのは、動物達を保護施設に預ける為の契約の書類など…、
どうやら今回この動物達を施設に預ける為には、色々な書類も必要になるのだそう。
…ちょっと大変ではあるけど、動物達を安全に預ける為だと大佐は言い、そうすることを引き受けた。
……けど、まあ、
動物達を放し飼いにしておけばあまり上手くいかないこともその通りで、
それでも大佐は、もう動物達には小さな檻には入って過ごしていて欲しくないと言って…、
でも他に入れておく為の広い場所なども特になくて、
やむを得ず、今は放し飼いにしている。
僕は動物達を抱えたまま大佐の席の隣に座り、大佐の邪魔になりそうな動物達を丁寧にどかしていった。
「…まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのはそうです
動物達は好奇心旺盛ですし、どうやらこの子達も大佐が助けてくれたのをしっかり分かっているようですから、貴方に興味津々なんです
皆んな既に大佐のことがかなり気に入ってるみたいですよ」
僕は動物達を微笑ましく観察しながら大佐にそう伝えた。
大佐の方や頭に乗った小動物達は、未だ大佐の手元を上から覗き込んで興味津々に見ているようで、鳥はそこから飛んで 降りて、大佐の手元の周りを歩いていたり…。
けど、相変わらず動物達はお利口で、僕達を怖がっている様子もなくて、手で持とうとしても特に嫌がったりなどはしていなかった。
…早く、安心出来る環境が欲しかったりしたのかな。
「…あぁ、
……あぁ、そうだな」
大佐は、どこか曖昧な返事をして見せた。
…どうしたんだろう?
「…大佐、どうかしましたか?」
僕は動物達をそのまま手に持ったまま、隣に座って大佐に声をかけた。
…いつの間にか大佐も手を止めてしまっていて、近くにいる動物を抱いてはその背を撫でた。
「…
……Aslam軍のこと、
余計な正義感、だっただろうか」
大佐が、想定外な事を靴にし始めて、
僕はそんな大佐の顔を覗き込んだ。
…大佐、またそんな事考えて…、
…。
「…私があそこまで言ってやらなくても、それこそ警察などが彼らに同じようにそう訴えてくれたことだろう
私が上から目線に、あんな強気になって言う必要などなかったのではないかと感じてしまった
……私が、あんなに怒って怒鳴ったところで、
実際私が動物達に何かしてやれるわけでもないんだ
一緒に居させてやってしてもまともな世話は出来ないことだろうし、しっかりとした扱い方もしてやれないだろう
…、少し、取り乱しすぎていただろうか」
そんなようなことを、大佐はまた長々と自信なさげな声色でそう話していた。
……大佐があまりにネガティブな考えを持ちやすいのはそうだし、
確かに、大佐が言っていることも全く分からない訳でもない。
…ただ、
「…大佐、…これは僕の見え方からの話にはなってしまいますが、
大佐は、確かに間違ってなどいないと思います
大佐はこんなにも多くの命を救って見せたでしょう?この子達は、大佐が行動を起こさなければ救えなかった命なのかもしれませんし、間違いなく、ああ言った行動を起こすのが一番早かったのは他の誰でもない大佐だと思います
Aslam軍が動物を兵器として扱っていると言う噂が流れ始めたのは最近で、どうしてもそれまではその話が表に漏れる事もなかったんです
それに早い段階で気付いて、その上あんなに早い段階で行動をし始めたのも大佐だったんです
どの保護団体などよりも、大佐の行動が何よりも早く、無駄を生んでいなかったと思います
もし一日ズレているだけだったとしても、もしかするとこの子達の命は此処にはなかったかも知れません
大佐が最後にAslamにああ伝えた事だって、大佐の言葉が彼の心を突き刺した事には違いありません
大佐の話を聞いている時の彼の顔、見ましたか?言葉が心に刺さりに刺さって、何も言い返せなくなっているような様子
警察が言っていたって、それは当たり前のことになってしまいますし、そう言った指導がされるのは当たり前なんです
けど、大佐はまずAslam軍と対戦する理由ではなく、動物達を保護する理由であの基地に侵入して、見事それを失敗する事なくやり遂げて見せたんです
…逆に、ここまでした大佐に何も与えられないのが僕は気に食いません」
僕も、手元にいる動物をそっと撫で、大佐にそう伝えた。
「……あ、すみません…、
…沢山、喋りすぎてしまいました
…でも、とにかく、深く考えすぎないんで欲しいんです
大佐は、確かな間違ってなんかいません…」
あまりに長く話し続けてしまった自分が少し恥ずかしくなってしまい、僕は大人しく口を閉じた。
…僕も、自分で感じたことだけだと言うのに、何をこんなに熱く語っちゃってるんだろう…。
わざわざあんなに詳しく語ろうとなんてしなくても、
ただ「大丈夫ですよ」って言うだけで————
「…、ありがとう、Major」
大佐は、僕の口に口を重ねた。
そして離れると、少し頬んでそう僕に伝えた。
「やっと見つけた〜、もー此処広すぎるでしょー、全然部屋分かんないんだから」
気付くと、例の猫が勝手にドアを開けて部屋に入って来ていた。
…ドアは開けっぱなしだ。
「…で?またそんな話してる訳?
も〜本当に困っちゃうよね、少佐さんも上司がこんなんで正直大変なんじゃない?」
猫は、また堂々と大佐の机の上に飛び乗り、他の動物達と一緒にその場でくつろぎ始めた。
僕は猫のそんな言葉を聞いて、少しむっとした表情になってしまう。
「…ああ、でもね、
大佐さん、今回に至ってはもうあんたを責めることなんて出来ないよ
あんたは確かに僕達の命を救ってくれた。命の恩人なんだよ
…いや、こんなに沢山の命を救ったからな…、僕達からしたら救世主に近い感じ
本当だよ、まさかあんな生活を抜けられる日が来るなんて思わなかったんだ
まだ全員が風呂に入り切れた訳じゃないみたいだけど…、でも、こんなに身体が綺麗になった皆んなを見るのは初めてなんだ
何だか足を伸ばせているみたいだし、前みたいに疲れたような様子もなくて僕も安心してるよ
皆んなすっかり大佐さんの顔も覚えちゃったみたいでね、目に焼きつくぐらいには感謝してるらしいよ
こんなに皆んな心許してさ、近くに居てくれてるし
とにかく、皆んなが無事のまま元気そうです良かった
あんた、本当に凄いんだよ。いい加減自覚したらどうかな」
猫は状態を下ろしたまま、大佐にそう微笑んだ。
…僕は猫から大佐に視線を戻した。
大佐は、改めて自分が何をしたか自覚したとでも言うように、少し驚いた表情で視線を猫から逸らし気味に落とした。
「…私は、…出来ることをしたまでなんだ」
「まぁたそんなこと言って
これは冗談なんかで言ってないんだよ、本当に感謝してて伝えようと思ったのに
…あんた、本当に凄いのに
それに、あんたらがこの軍やってるのも、何やら戦って金とか集めてる理由でもないらしいじゃん?結構話聞いたけど
僕、あんたのこと応援してるよ
これからも頑張ってね」
…うん、
猫の言う通り。
大佐は、本当に凄い事をしたんだ。
大佐が何でこんなに自信を持てないのか分からないけれど、
でも、大佐がした事実は変わらない。
大佐はきっと、記録に残るぐらい凄いことをしたんだ。
大佐はまた視線を猫に戻していて、
何か、言葉が刺さったかのような表情で、猫を見つめ返していた。
「…大———
…ん?開けっぱなし……、」
すると、今度は一人の隊員が部屋へやって来たようだった。
隊員も、目を離していては危険だと判断される中型動物を抱えていた。
「…何だろうか」
「あ、大佐
保護員の人がもう来られたようなんですよ
予定よりもかなり早く準備が済んだそうでして、
もう動物の受け取りをしてしまっても宜しいでしょうか、と言った話でして、」
「え、やったーっ
もう来てくれたの?早かったな〜、もう自由だなんて」
猫は自ら机から降りて、部屋の外へと出て行った。
「…なに、何だって?
聞いていない…、急がなければ
分かった、伝達に感謝する。まだ必要な書類が出来上がっていないから、先に動物を渡してしまうよう他の隊員達にも伝えてくれないだろうか
恐らく、全頭渡すまでにも時間がかかることだろう、それまでには書類も完成させるから、少し頼めないだろうか」
大佐は強制的に机に乗っている動物達を一旦下ろし、書類の続きを書き始めた。
隊員は返事をすると、ドアを閉めて行動に取り掛かりに行ってくれた。
…僕も何かお手伝い出来る事しなきゃな。
自分も出来るだけ動物達を身体に乗せたり、腕の中に抱えたりすると一旦部屋を出て行った。
—————————————————————————
「ありがとうございます〜っ!大変助かりました、ご協力、誠に感謝します!!」
「とんでもない。無事に済ませられたようで良かった」
色々と大変なことがあったりはしたが、何とか動物達を全頭保護員に受け渡す事が出来、書類を渡す事も出来た。
動物達は特別な転送装置に入れられ、そのまま保護施設の方へと送られていく仕組みなのだそう。
基地の場所は普段は未公開なのだが、今回のみは特別や約束も踏まえ、此処まで来てもらうことになっていた。
保護員は、私達に向かって満面の笑みでお礼を伝えてくれた。
「あの、もし宜しければ、今回の件について詳しくお話を聞かせてもらえないでしょうか?
今後の為に繋げたいのもあって、情報収集の一件として取り込んでおきたいのですが…、」
「話、……、
…すまない、私達の存在はなるべく内密にしておきたいんだ
基地の場所や身元などの情報が漏れてしまっては困ってしまう」
「そ、そこを何とか…っ!」
保護員は、深く頭を下げて私に必死になって嘆願した。
…そう、深く頭を下げられてしまっては、
こちらも中々引き下がれない…。
私は少し戸惑ってしまい、背後に振り返った。
…丁度目線の先にはMajorが立っていて、
Majorは、受け流すようにして私に優しく微笑んで、頷いてくれた。
「…、……
…そう、だな、ならば少し基地から離れた場所でなら———」
「おい待てーーっ!!食材を盗まれるなんて聞いてないぞーっ!!」
背後から大きな声が上がり、またそっちの方に振り返る。
……、アミだ。何やら慌てている。
…?目線の先にいるのは…、
「もーー何だよーっ、バレないと思ったのに!
こんな美味しそうなもの置いてあったら無視出来る訳ないだろー!」
なん、だと…?
あの猫だ…!
口には魚の切れ端を咥えている。
全頭受け渡した筈では…!?
私は、自分の横を通り過ぎようとする猫を咄嗟に捕まえるようにして抱き抱えた。
「くっそー!今まで以上に美味そうな飯だったんだぞ!」
「っ、それはお前の飯ではない…っ!
それより、何故こんな所にいるんだ!?もうあっちに行ったのではなかったのか!?」
私は猫が咥えている魚を取り上げた。
猫は悔しそうな表情で私の顔を少し睨む。
「…だってー、この後あっちに行っても結局閉じ込められたままらしいじゃーん」
「それは、大丈夫だ
今から行く所は決してお前達が嫌な気分になるような場所ではない
此処にいるよりもずっといい生活が出来るだろうし、こんなのよりももっと美味い飯だって与えられる」
猫はそんな私の顔を見つめると、
少し、目線を逸らし、やがて耳も垂れた。
「……
…ずっと、此処に居たかったし
此処空気も美味しいし、環境はいいし、楽しいし
あんたらにも、会えたんだし
寂しいじゃん」
私は、その猫の言葉を聞いて、
返す言葉を失った。
「寂しい」と言ったその言葉が、脳内で繰り返し響いた。
「…まー、でも、
分かってるよ
あんたら忙しいもんね、猫一匹でも構ってる暇なんかないんだもんね
ちゃんと分かってるからさ
我儘だったよ」
猫は、私に安心させるかのような表情で微笑んだ。
…何故、私は、
こんな、猫なんかに……、
「い、いや、
そう言う訳では……、」
「あー、あと、
そういえば気になった事があったんだけど、」
猫は何かを思い出したかのように顔色を変えると、改めて私の顔を見た。
「もしかしてさ、
あんたと少佐さんって付き合ってんの?」
猫は、少し私に顔を近付け、小さな声でそう私に訊いた。
……な、
「ぇ、…っ、」
「やっぱな。前にキスしてたもんな
軍の活動も応援してるけど、
あんたらの関係も応援してるよ」
「…!」
猫はそう優しく私に伝えると、
腕の中から飛び降り、自ら転送装置の方へと向かった。
「っ、おいっ」
「またね、」
そして、猫はそのまま転送装置の中へと入って行ってしまった。
……。
私は、小さくため息をついた。
…
しまった、な。
……お礼すら、言えなかった。
「…大佐?」
先程までも側にいたMajorが、少し私に近付き、顔を覗き込むようにして声をかけてきた。
「…、寂しくなっちゃいましたか?」
そしてMajorは、
そう、微笑んで私に訊いた。
「…
…少し、な」
『———捜索によると、今までに兵器として扱われた動物の命は六十九万もの数が失われたものと結果が出ました
警察は引き続き、大将のAslamに対し———』
『———発見をしたColonel軍のColonel大佐に引き続き話を聞いてみましょう
今回の件については、どう思いましたでしょうか?』
『…
…命を、簡単に粗末にして欲しくないと、ただそう思った
勿論法律で決められていることではあって、それを破ると言った事は決して許されることではないが、
それ以前に、動物の命を軽視していることに私は怒りを覚えてしまった
ただでさえ軍隊と言った存在が許され難い存在だと言うのに、それに重ねて更なる罪を犯してしまう事は、
…本当に、許されない事だと思った
命の尊さを、もっと知るべきだと思った
彼らに命の重さを自覚出来ていないのならば、
これをきっかけにして、今後を改めて生きて欲しい
もう、許されないことを犯してしまったが、それでも、それを自覚した上で、命の大切さを再確認して欲しい
……
…もし、もしもこの話が世に出るのならば、
命を持ってる皆には、まずは自分の命を大切にして欲しいと伝えたい
動物のみに関わらず、全てにおいて命は大切にしなければならなくて、尊いものなのだと
改めて、知って欲しい
生きていると、どうしてもそれが当たり前に感じて、分からなくなってしまう
命の価値観が、分からなくなってしまうことがある
だからこそ、こう言った機会を通じて、改めて分かって欲しい
……、だから、私は、
それと同時に、この世から軍隊や戦争がなくなることをずっと望んでいる
無駄な争いで、無駄な命が散ってしまうことが、なくなって欲しい
…いつか、そうなって欲しい』
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