僕は食堂で昼食を食べ終わると、その食器をアミ姐の所へ返しに行った。

…今日のメニューは味噌煮込みうどんだった。僕はスケルトンだから今みたいな冷え込みやすい時期でも、皮膚がないから寒さを感じることもないけれど、

それでも、アミ姐の料理はいつも温かく僕の身体を迎えてくれていた。

外で寒さや暑さを感じなくとも、アミ姐の料理は僕の身体を温めてくれていた。


「ご馳走様〜、今日も物凄く美味しかったよ」

「おっ、今日も完食かー!いつものことだとは言え、やっぱり自分が作ったものを最後まで食べてくれるのは嬉しいものだね!

実は今年初めて作ってみたメニューだったけど、何か変な味したりしなかったか?」

「えぇっ、そうだったの?

全然そんなの感じないぐらい美味しかったよ、今年初めて作っただなんて驚いちゃうね、」

「そっかー!なら良かった!」


アミ姐はいつものように僕に元気な返事をして、満面の笑みを向けてくれた。

…毎回思うけど、彼女は本当に料理が上手だ。

一人で作っているとは思えない。それもやっぱり初めからずっと此処で色々な料理を作り続けているから…?

僕はまだ自分で料理をする機会を持ったことがないから、是非見習いたいものだった。

毎日そうやって作ってくれる料理は毎回のように凄く凄く美味しくて、次作ってくれるメニューは何だろう、と楽しみになってしまう程だった。


「なあなあMajor、最近どうだ?少佐に昇格してからしばらく経ったし、大佐とはどんな感じ?」


僕が少佐に昇格してから、もう半年程の月日が経っていた。

時間の流れは早いと言うもので、すっかり僕も環境になれ、隊員達との関係も紡げていた。

名前ももう大体覚えられたし、目が合えば皆んなとももう気軽に話が出来る関係だ。

勿論、大佐との関係も大分深まっていて、僕から大佐に話しかけることもあまり躊躇わずに出来るまでに慣れていた。

大佐も僕のことを信頼してくれているみたいだし、お陰で僕も安心して大佐と関わることが出来ていた。


「うーんそうだね、やっぱり大分もう慣れてきたし、僕の調子もいい感じかな」


…でも、唯一まだ、僕が不安に思っていることがあった。


「…でも、やっぱり僕、能力面ではあまり優れてないみたいでさ

訓練に参加してみてももう動きとかは申し分ないんだとは思ってるけど、それって結局実力面での話で

実力だけ高くても、能力が足りてなければこの世界ではきっと皆んなにも着いて行けないし、増してや敵軍と同等なレベルで戦うことも難しいのかな、って…

それだけ、ちょっと心配かな」


僕は困ったような表情でアミ姐に笑いかけた。

僕は今までも皆んなに沢山褒めてもらっていたり、力を認めてもらえていたり。「少佐程の強力な実力を持つのは中々難しいです」などと言ってもらえたりもするけれど、

…それでもやっぱり、僕は持っている能力が少ない自分に不安を抱いてしまっていた。

皆んなは跳躍能力を持っていたり、高速能力を持っていたり、重力能力を持っていたり…、本当に沢山便利な能力を持っているみたいだけど、

僕が出来るのは強いて言ってもテレポート、ぐらい。

本当に少なくて、他の多少使える能力もまだ完全には使いこなせなかったり。

…本当に、周りに比べると、僕は著しく持っている能力の種類が少なすぎていた。

今はいくら実力で補えているとは言え、もし敵軍隊員の中にそれを上回る能力の使い手がいたとしたら…?

…きっと、僕の力も簡単に上回れないしまうのだろう。

それを聞いたアミ姐は少し考える様子を見せると、僕に少し距離を詰めて返事をしてくれる。


「…Major、でもお前のその力は、此処に居る誰しもが認める力だろ?能力が使えなくとも、実力でそんなに力を発揮出来ているなら、何も不安に思うことなんてないよ

いやでもな、お前凄いんだぞ?足も桁違いに速いし、十分な筋力だってあるし、武器の使いこなしだって比べものにならないぐらい正確で強力だし…、

此処にいる皆んながお前のこと尊敬して目標にしてるぐらいだぞ?

そりゃあ、少佐に昇格してもおかしくない力の持ち主だと思うんだけどなあ、」


アミ姐は頭を捻りながら、僕と一緒に悩むように言ってくれた。

…。

…僕は、入隊する前の試験の為に、新しく能力を覚えておこうと魔導書を手に取ったことがある。

単純に、能力を沢山覚えておけば有利だと思ったし、今後の自分の為にもなるだろうと思って。

……でも、どうしても、出来なかった。

僕はどんなに工夫して魔導書を使って能力を覚えようとしても、覚えることが出来なかった。

魔導書を使わずに覚えようともしてみた。

でも、どの方法も全然上手くいかなくて、それ以上に発展することはなかった。

理由は、僕にも分からなかった。

実力はただただ上がっていくのに、

能力だけ、何故か僕の身体に身に付かなかった。

入隊前の試験練習の時だって周りが能力を沢山覚えていく中、「お前は既に十分な力を所持しているからそうする必要もない」と言われてしまったし、そこからまた頑張ってみようとしても、

やっぱり上手くいかなかった。

…だからもう、僕は能力を覚える気が失せてしまって、こうなったら実力だけただ磨き続けようと決めた。

実際それで此処までやって来れたし、困ったことはない。

…でも、絶対にいつか、それも通用しない時が来ると思っている。

僕はそれが、怖くて不安で堪らなかった。

僕だって、もっともっと強くなりたいし、皆んなみたいに沢山の能力を使いこなしたい。

…でも、僕が能力を覚えることは、もう。…。

……、その点、大佐は僕に比べて本当に凄い人だと感じてしまう。

僕は周りにどんなに賞賛してもらえても、

大佐を超えることは無理だと思っている。

魔導書を使った能力の覚え方は相当な時間がかかると聞いたことがある。

けど、大佐は過去にいくつもの能力を立った一週間で覚えたと言う。…到底普通の力を持つ人だけでは無理だ。

大佐は此処に入った時点で僕と違ってもう実力も能力も高くて、その時から強力な人材として扱われていて、

戦力もあって学力もあって、演技力もあって本当に親切で、

…やっぱり実力も能力もとても優れていて……、

……。


「……僕、Faithfulさんに大佐を支えて欲しいって言われたんだけど、

僕じゃきっと、そのうち務まらなくなっちゃうよ」


僕は不安の気持ちを抱いたまま、苦笑しながら声を小さくした。

…アミ姐も、その重い空気に少し黙り込んでしまう。


「…んー、難しい話だな

あたしはそんなに気にすることもないと思うんだけど…

それにMajorの実力の高さは本当に尋常じゃないもので、それこそ能力なんか使わなくても十分だと思うぞ?

もう能力を持ってる持ってない以前の話な気がするし、それにほら、訓練に参加した時だって散々豊富に能力を持ってる奴と立ち回りの練習したことあるだろ。あそこでも桁違いな力を見せ付けられていたじゃないか」


…、皆んな、いつも僕にそんなようなことを言っている。

沢山僕のことを褒めてくれて、沢山評価してくれて、沢山認めてくれていて、

……でも、ダメなんだ。僕は、それではダメなんだ。

皆んなは優しいから今だってそう言ってくれているけど、厳しいことを言うなら絶対にそんなに言えない筈だ。

…だって僕は、未だ大佐と肩を並べることすら出来て……、


「…僕、これから大佐の為になれる自信がないよ」


僕の口から、思っていることが曖昧なまま、そう一言溢れてしまった。

…さっきまでも沢山頭を捻って僕に色々と元気付ける為に話してくれていたアミ姐も、

僕からそう聞くと、完全に口籠もってしまっていた。

……ああ、

ダメだ、僕。相談に乗ってもらってるはずなのに、

迷惑しか、かけてないや。


「……ごめんアミ姐、僕、頭冷やすね」


僕は小さくなった声でそう彼女に伝えると、その場を去ろうとする。


「っ、待てよ!」


咄嗟に呼び止められて、僕の足も動きを止めざるを得なくなる。


「……、あたしが話しているようなことでは、Majorを元気付けることは出来ないかのか…?」


アミ姐は、不安そうで、心配そうな声色で僕にそう訊いた。

…アミ姐には、僕が上手く出来なかったり、自信がないことは関係がないんだ。

関係ないのに、僕は自分で話を深くしておいて勝手に雰囲気を重くしている。

せっかくアミ姐は初め、いつも通り楽しそうな会話をしようとしてくれていたのに、僕の一方的な気持ちで退けようとしている。

…僕が変に後ろ向きなことを口に出すから、アミ姐の気分まで悪くさせてしまう。

僕はあんなこと、わざわざ口に出す必要なんてなかったのに。…。

…また、他人に迷惑をかけることになるのだろうか。

彼女は本当に僕の力になりたくてこんなにも話に向き合ってくれているのに、元気つけようとしてくれているのに、

何で、僕は、こんなに、

……、


「アミ姐。そう言うことじゃなくてね

貴方は本当にいい相談相手だよ。今回も、今ままでだって

…でも、これに関しては僕が勝手に自分の欠点をひたすら責めているだけの話

誰かに話して、解決するようなことじゃないんだ

…そんなに元気つけてくれているのにも対して後ろめたいことしか言わないし、素直に言葉を受け取ろうとしないし、

そんなの、僕の考えの持ちようの話になってきちゃうからさ

…僕が、自分で気持ちが落ちないようにやっていけばいいだけの話なのにね

アミ姐は何も悪くないよ。今日も話し相手になってくれてありがとう」


そう伝えると、僕は今度こそその場を後にした。

……、…違う、違う違う。

何てことを、言ってしまったんだろう。

アミ姐の善意すら素直に受け取れないだなんて。

…関係ないとか、僕のことだからアミ姐には関係ないとか、

本当に、最低だ。最低、最低…っ

何でそんなこと心の中ででも思ったりしたんだろう。アミ姐が僕に何か恨みを持たせるようなことした訳でもないのに、

何で僕は、何も悪くない人に対してそんな考えを抱いてしまうんだ。

僕がどんな内容で悩んでいようと、アミ姐はそれによりそおうとしてくれていたのに、

何で、僕はそれを変に振り払って、いきなり傷つけるようなこと言って、仕舞いには逃げて、

本当に最低だ。アミ姐は何も悪くなかったのに、

何で、何で———


「Majorくん」


背後から名前を呼ばれ、咄嗟に振り返った。

…気付けば僕の息は上がっていて、目元も少し熱く感じられていた。


「…何か、あったんでしょ

どうしたの?」


Faithfulさんは僕に近寄り、側の壁にもたれかかってはそう僕に微笑みかけた。

…Faithfulさん、何だか、

今回話しかけられるタイミングが良すぎる気がする。

…、Faithfulさんも、やっぱり、

何か…そう言う能力とか持ってたり、するのかな。


「…Faithfulさんは、何か能力を持っていたりするんですか」


僕は俯き、話した言葉の語尾を上げる気力もないままFaithfulさんに訊いた。


「ん?急に何の話かな?

どう言うこと?」

「……、」


…僕は、上手く返事をすることが出来なくて黙り込んでしまった。

Faithfulさんも、僕の様子を伺いながら黙り込んでいた。

…Faithfulさんは、一旦僕から視線を外し、正面に向き直って腕を組んだ。


「…Majorくん、アミと何かあったんでしょ

ちょっと、上手く話が出来なかった感じかな?」


Faithfulさんは、僕に何か言わせたそうな言い方や口調でそう話しかけた。

…、Faithfulさんの横目が、僕の方に向いている。


「…、何で、知ってるんですか…?」


Faithfulさんは、僕にそう訊かれると、目を細めて笑顔を見せた。


「…

…あは、俺ね、未来読めるんだ

そう言う能力を持っててね。…だから、Majorくんがアミと話のすれ違いを起こすことも、実はさっきから知ってたんだ」


…未来が、読めるんだ。……凄いな。

Faithfulさんも、かっこいい能力を持ってるんだな。

僕は「そうなんですね」と言う気力までも失ってしまって、そのまま俯いた。


「…Majorくん、さ、

今もそうやって能力の話されて落ち込んでるように見えるけど、

…、気付いてないの?」


…?

最後の言葉の意味が少し理解出来なくて、僕は俯いていた顔をFaithfulさんに向けた。


「…何に、ですか…?」


僕が何も分からないまま疑問を伝えると、Faithfulさんは楽しそうな笑顔をまた僕に見せた。


「勿体ないものだね、ここまで生きてきてそれにすら気付けてないなんて

だから俺、散々少佐になったことだって褒めたし、Colonelの支えにもなってあげてってお願いしたのに」


…何の話なのか、本当に理解が出来なくて、僕はFaithfulさんの顔を見つめたまま何も言い返すことが出来なかった。

…Faithfulさん、さっきなら一体何の話をして……?


「ちょっとこっちおいで、ちょっと基地から離れた所、」


Faithfulさんは壁にもたれた状態から身体を起こすと、僕なそう言って横を通って行った。

…まだ、何も話が理解出来ないまま、僕はそう言うFaithfulさんの後を追って行った。




「此処ぐらいなら丁度いいかなあ、」


基地から少し離れた森の中までやって来た。

今日は天気が良くて、暖かかった。

鳥があちらこちらで鳴いていて、僕の身体を木漏れ日が照らしていた。


「…さ、始めよっか

Majorくん、俺、今日は君に自分の能力に理解を持って欲しくて

うーん、そうだな…、じゃあ、すぐそこの木の枝

念力で折って、自分の手元まで持って来て」


……??

何の、話なんだろう。

…何も、分からない。Faithfulさんは一体これから何をしたいと言うのだろう…。

…、

…えっ、と、木の枝…?

僕は自分から近い木に生えた枝に目を移し、それに近付こうと一歩を踏み出す。

「その場から動いちゃダメ

動かずに、さっき言ったことやってみて」


Faithfulさんは笑顔を崩さないまま優しく僕にそう言った。

…そんな、僕、そんな能力を持ってる訳でもないのに…、

そんなこと出来る訳…、


「…君が思う程、難しいことじゃないよ

変に構えるから上手くいかないんだよ。ほら、もっと肩の力抜いて、リラックスして

…神経を集中させて、君が今からしたいことを、頭で思い浮かべて」


……、

僕はFaithfulさんに向いていた視線を、またその木の枝に戻した。

…それを、見つめ、目を離さないように。

…。神経の、集中。

…………

……!

頭の中で何か感覚を感じ取った後、

僕が見つめていた枝は目の前で小さく音を立てながら折れ、

僕の元まで移動した。

…何、これ…?


「ほーら、出来た。相変わらず流石だね

はいじゃあ、次。それをその場から浮かせて、元の状態に戻してみて

一回その感覚が分かったなら、きっともう簡単でしょ」


Faithfulさんは近くの木の麓で腰を下ろし、優しい表情のまま僕の様子を見ていた。

…もう一回、集中。

………、

……枝を見つめて集中していると、

またさっきのような感覚が頭の中で感じられ、

次の瞬間には枝は自分の手から離れ、元の場所へ戻っては、

…折れた境目もなく、元通りになって見せた。


「…やっぱり、驚異的、だね。その能力

実際に俺も初めて見たけど、怖いぐらいだよ」


…これは、…僕の能力?こんなの、今までに感じたことなんて…、

僕はまた試しに、地面に目を向けた。

…そして、足元にある落ち葉を舞い上がらせられないか神経を集中させてみる。

……。

…コツを掴んだのだろうか。さっきよりも早い間隔の後に、

僕が考えていたことはその通りに動いて見せた。

…凄い、何これ。

まるで、全部が思い通りになっているようだ。


「…分かった、かな

君のそれ、実は総合して”コピー能力”って呼ばれるものでね

強く思い浮かべたことがそのまま君の能力になって、実行される奇跡的な能力なんだ

こんなことを言ったら少しアレかもしれないけど、君が訓練で沢山見せて来たあの力、動き

全部、そのコピー能力によって形になっているものなんだよ」


…本当のこと、なのだろうか。

コピー能力だなんて初めて聞いた。それも、そんなに凄く有能な、能力だなんて。

本当に、僕がこんな能力持ってて…?


「Majorくんが思い浮かべたことが形になるだけじゃなくて、

相手が使ってる能力をそのまま自分のものに出来る方法もあるよ

今からやってみる?じゃあ俺の能力をコピーしようとしてみて

方法は簡単。さっきみたいに神経を集中させて、俺が持ってる能力を感じ取って、自分のものにしようと念じるだけ

俺の能力は未来を読むこと。…どう?コピー出来たかな、

出来たら、早速それを俺に向けて使ってみて」


…僕はさっきと同じようにFaithfulさんを見つめ、神経を集中させた。

……!

今の感覚、なのかな。

僕は、それから騙された気持ちで未来を読もうとしてみる。

…すると、視界が切り替わり、今の時間に存在しているようでそうではない不思議な感覚に陥る。

これが、未来予知能力……?

僕が周りの様子を見ていると、…Faithfulさんが実際にそこから動く様子が目で見えて感じられた。

…Faithfulさんはその場から右に動くと、そのまま僕の右を通り、

…僕の背後の、木の上にテレポートし、僕のことを見ていた。


「…出来たね。じゃあこれから、俺とかくれんぼね

Majorくんが鬼。俺が何処にいるか探して

よーい、スタート」


次に瞬きをした瞬間に現実世界に戻され、Faithfulさんは目の前から消えていた。

…!?こんな一瞬で…姿を消してしまうなんて。

…えっと、僕の後ろの、木の上…。

僕はFaithfulさんが居なくなって間もないまま、後ろに振り向き、上へ顔を上げる。


「あはは、お手上げ。君の勝ちだね」


僕が目線を向けた先には、

未来予知能力を使ったままのように、Faithfulさんがそこに居た。

Faithfulさんはそう笑いながら、また僕の元まで降りて来て、ズボンについた木屑をその場で軽く払った。


「間違いなく答え知ってないと見つけられない速さだったよね

凄いなあ、コピー能力の持ち主なんて本当に居たんだ」


Faithfulさんは僕の身体を物珍しそうにしながら眺めた。

…でも、やっばり、これは本当なのかもしれない。

今までこんな能力が使えたことはないし、使える気もしていなかった。

今まで気付いていなかっただけで、元々、僕にはこんな力が……。


「その能力ね、世界で一桁ぐらいの人数しか持ってる人居ないんだって

その中にまさかMajorくんがいるなんてね…

コピー能力は本当に思い浮かべたことを何でも実現出来ちゃうから、簡単に言えばある意味チートみたいなものになっちゃうけど

でも、使いすぎたり、規模が大きすぎたりすると身体に負担がかかるらしいから気を付けてね。最悪死を招くって話だよ

俺が覚えてる話だと、確か人から能力をコピーするのが一番負担が小さくて、現実離れした考えであればあるほど身体への負担が大きくなるみたい

あとは、能力を頻繁に使うことによる疲労だね、あんまりやたらめったら使いまくらないことかな」


便利な分、そう言った欠点もあるのか…。物凄く、勉強になるしありがたい。

…僕でも自分で今まで全く気付かなかったのに、Faithfulさんは誰よりも早く僕のこの能力に気付いてた…?

凄いな、Faithfulさん。能力で分かってる感じでもなさそうだし…。

…Faithfulさんって、何者…?


「って言う感じで。Majorくんは実力も含めて能力も人と比べてずば抜けて有能で優れているから

それを今日は分かって欲しかったんだ。流石に自覚出来たよね?

俺はその力を使って、色んな人の為になってあげて欲しいんだ。その力で言っちゃえば世界を滅亡させることだって出来ちゃうけど、勿論そんなことしたらMajorくんの身体も持たなくて死んじゃうと思うし、そもそもそんな使い方相応しくないよね

本当に想像して考えてみると物凄く幅が広い能力だから、本当に何でも出来ちゃうんだと思うけど

人の為になる使い方を、俺はして欲しいな。くれぐれも目が眩まないようにね…、

それで、Colonelのことも支えて欲しいってこと

Majorくんは本当に物覚えが早いし、優秀だから

その能力も慣れてきたら一々神経を集中させて疲れる必要なんてなくなるし、簡単に使えるようになるから

これからも頑張ってね」


Faithfulさんは、最後にそう言うと僕に微笑みかけた。

…僕は改めて、そんな自分の手の平を見た。

…、僕も、まだ自分のことに関して分からないことだらけだ。

また、詳しいことを話してくれる機会があったらいいな。

分からないことが新しく増えたら、Faithfulさんに訊いてみることにしよう。

今まで自信の持てなかった自分の身体に対し、初めて希望を見出せた気がして、

僕は噛み締める気持ちを抱き、その手を握り締めた。

Faithfulさんは僕のそんな様子を見ると、また優しく口角を緩めた。


「…さ、もう用は済んだし

そろそろ帰ろっか。Majorくんもアミにまた話してこなきゃいけないと思うし。でしょ?」


…ぁ、そうだった…。

Faithfulさんが基地に向かって歩き始めて、僕もそれを追うように足を動かした。

アミ姐のことをすっかり忘れていた自分に、少し嫌気が差す。

…アミ姐に、謝らなきゃいけないんだった。

あんなことを言ってしまったから、黙ったまま話を終わらせる訳にはいかない。

…謝らなきゃ。それで、もう二度と同じようなことは————

…?

気付いたらFaithfulさんは足を止めていて、僕の後ろの方で背後に顔を向けていた。


「…Faithfulさん?」


…僕もFaithfulさんの視線の先を見ると、

…誰か、視線の先に立っている。…誰…?

白い、服…。

目を凝らして確認してみる。

……、白軍服を着た、隊員…?

…敵軍、隊員…!?


「…っあ、あの———」


その人が弱々しく口を開いた瞬間、Faithfulさんはテレポートでその人のすぐ側まで移動して襲いかかり、

即座にレイピアを抜いて振り下ろす。

その人は間一髪でそれを避け、その場によろけ倒れた。

それに対しFaithfulさんは片手で身体を押さえ付け、トドメを刺そうとレイピアを突き立てる。


「ッま!待ってくれ…っ!!」


その人は咄嗟に抵抗するようにFaithfulさんの腕を手で掴む。

それを聞くと、Faithfulさんのレイピアはその人の喉笛で寸止めされ、動きを止めた。


「…Navy軍の隊員だね。一体何の用?」


冷静で、冷めた口調でFaithfulさんはそう言う。

…Faithfulさんの表情から、

珍しく、笑顔が消えていた。

そんな中、喉笛に突き立てられたレイピアはぴくりとも大勢を崩そうとしなかった。


「…、Colonelに、お礼が言いたいんだ、」


僕も慌てて二人のいる方まで移動し、近寄った。


「…どう言うこと?」


Faithfulさんは口だけを動かし、一切体勢を崩さない。

…相当警戒しているようだ。


「そもそも何で敵軍隊員が此処にいるわけ?今までに場所がバレたことなんてなかった筈だけど」

「ッ、それに関しては本当にたまたまで、…場所も分からないまま彷徨っていたんだ

街から離れている場所だと言うことだけは分かっていた。本当に手探りで此処まで来て———」

「そんなに焦る必要もないよね。五月蝿いから一回黙って

…何なの?うちの隊員から話が漏れたりでもした?」


Faithfulさんの表情が相手を攻め立てるようにどんどん怖くなっていく。

…あんなFaithfulさんの表情初めて見た。今まで親切な顔をしているFaithfulさんしか見たことがなかったから、僕まで恐怖してしまう。

…それにしても、Navy軍が、大佐にお礼…?

…僕は少しそれに関して考えてみる。

……、


『でも、もしいつか会える機会があれば、是非お礼を申し上げさせて欲しいものです』


…!

もしかして、あの新聞の…!


「もしかして、貴方が前の新聞に載ってた人…?」


その人は僕の話を聞くと、顔色を変えてこちらに反応して見せた。


「…!そう、それだよ!それで———」

「なるほど、本当なんだね?」


身体を動かそうとするその人をまた押さえ付け、Faithfulさんは続けてレイピアを突き立てる。


「ほ、本当だ!嘘なんかじゃないっ、でなきゃわざわざこんな丸腰で此処まで来ることなんかしない!

基地からもどんなに離れているか知れない…、疑うならいくらでも調べてみたらいい!」


その人が焦るようにして訴えながら説明すると、Faithfulさんは体勢を崩さないままその隊員の服装や、武器を装備しているかいないかを確認した。


「…Majorくん、ポケットとか探って」


僕はFaithfulさんにそう言われ、その人の胸ポケットや、ズボンのポケットなどを探った。

…、何も、ないし、気配もない。

確かに、本当に丸腰で、それこそ完全な無防備状態だった。

Faithfulさんは一緒に僕とそれを確認すると、疑うような目をやめないまま少し目を細める。


「…ふーん。どうする?Majorくん」


…実際に現場を見ていた僕からすると、勿論気持ちを汲み取ってあげたい気もある。

けど、やはり悪魔でも敵軍隊員。油断は出来ないし、攻撃する手段が能力の可能性だってある。

…これは、僕とFaithfulさんだけでは人数が少なすぎるかも知れないな…。

僕はマイクロフォンに手を当て、話し始めた。


「こちら少佐。油断出来ない状態の敵軍隊員を一人基地の前で捕らえたが、何か事情があるとの話で此処まで来たらしい

…でも、今はFaithfulさんと二人しかいないから、誰か色んな攻撃に対応力のある隊員を二、三人ぐらい手配出来ないかな…?

詳しい話は、してくれたから話そうと思って」

『…なるほど、了解しました。今向かいます』




僕達はそのNavy軍隊員を、少しでも疑いのかかる行動をしたら即処分と言う約束で大佐の部屋の前まで連れて来た。

様子を見ていても、全く抵抗する様子もなくて、むしろ部屋まで案内されている様子。

…まあ、そもそも僕達の軍は初めから敵軍隊員を殺すことはしないけれど。

後から対処する方法はいくらでもある。

…でも、表情はどこか緊張していて、完全に落ち着いている様子ではなかった。

…でももしかしたら、そう言う話のつもりで基地内に入り、大佐を狙う可能性だってあるし、そもそもこれが侵入調査の可能性だってある。

…気も抜けないし、警戒を解かないようにしないと。

僕は大佐の部屋をノックした。


「…入れ」


中から大佐の返事を聞くと、僕達は順番に中へと入って行った。

着いて来てくれた隊員が、そのNavy軍隊員を後ろで腕を組ませて掴み、拘束を解こうとしなかった。

大佐がそれを見て、顔を顰める。


「…何だ」

「Navy軍隊員の一人です。…大佐に、お伝えしたいことがあるようで」

「……敵軍隊員を無断で基地の中に入れたのか

これがどう言うことなのか分かっているのか?」


大佐の目線が、僕の方に向く。

僕はつい目を逸らしそうになるが、頑張る思いで大佐と目を合わせた。

…確かに僕の判断で今はこう言う状況になっている。

僕が、責任を取るべきだ。


「…す、すみません…」


説明をしていても言い訳になってしまうし、まず彼の口から用件を話さないと何も始まらない気がして、僕の口からは謝ることしか出来なかった。

…大佐は僕と目を合わせた後、少し怠そうに体勢を崩し、Navy軍隊員に視線を移した。


「…名を名乗れ」

「…Braveだ」

「口を慎め。敬語ぐらい使ったらどうだ」


身体を押さえている隊員が、少し強めの口調でNavy軍隊員に指摘をする。

…警戒が解けないとは言え、Braveの腰の低さや、見るだけでも読み取れる彼の不安の気持ちや、恐怖の気持ちを思うと、僕の方まで落ち着かない気持ちになってしまいそうだった。


「…敵軍隊員が一体私に何の用だ」

「…、謝礼をする為に、参りました」

「……、礼?」


大佐はBraveの顔を覗き込むような顔の角度で、彼を見続けた。

…帽子の影から、冷酷な目付きが光って覗いている。


「…、私は、以前に街中で助けて下さった家族の父親です

……そのことから、お礼を、言わせて欲しくて」


大佐は少し黙り、Braveから目を離さない。


「…それから何だ」

「貴方様に助けて頂いたお陰で、妻も息子も健康を継続して生活をすることが出来ています

保護してもらうだけでなく、妻にも親切に対応して下さり、息子にも飴玉を手渡したとの話もあり……

…、私にとって、家族は唯一の存在なんです。心の在り所も、私の人生の支えとなってくれているのも、紛れもない家族なんです

…保護して下さったこと、誠に感謝申し上げます」


Braveは、拘束されたままに、腰を低くし、大佐に向かって頭を下げた。

…僕達は、そんなBraveの様子に思わず顔を見合わせる。

…、僕がそれを聞いていても、偽りは感じなかったし、騙そうとしている様子も感じられなかった。

…本当に、あの家族の人だったのかな。

大佐はその様子を見ると、小さくため息をつく。


「……

…腕を離してやれ」


Braveの腕を掴んでいた隊員は、少し躊躇った後に、大人しくその腕を離した。

…Braveは、腕を離されても、下げた頭を上げようとしなかった。


「頭を上げろ

…何故、わざわざ此処まで来てお礼など言おうと?」

「…で、ですからそれは、どうしても、お礼を伝えたかったとの話で、…それ以外は、特に…」


Braveは顔を上げて話すと、また少し俯いた。


「……どうも納得が出来ん

お前、此処に来た理由はそれだけではないのだろう」


部屋にいる隊員全員の顔が、Braveに向く。

…皆んな、常に警戒していて、やはりその神経を解こうとしていなかった。


「Nevy軍の基地から此処では相当距離がある筈だ

増してや通信機の電波も途切れるよう細工もしてある

自分の軍の隊員達とも連絡がとれない状況だ

…それに、お前、無断で抜け出すなどして、生きて自分の基地に帰れると思うか?」


Braveはソウルをドキッとさせたように身体を反応させた。

…む、無断…?無断で、こんなこと…?

……どう言う、こと?


「…ならば一つ訊こう

……正直のところ、Navy軍として戦に参加したくない、と…、」

「っ!そ、それは…っ、

……、」


Braveはまるで心を読まれたかのような大きな反応を見せ、

やがて、横に顔を逸らし、また口籠った。

…戦争に参加したくない、…、うーん、分からない。

話の流れが掴めなくて、僕達は頭を捻りながら二人の話を聞いていた。


「…その反応に、偽りはないな

そのような面をする時点で、既に何か引っかかることがあるのだろう

Navy軍の環境が良くないと言う話は既にこちらで調査済みだ

話によると、軍の上部に所属する奴らがかなり悪徳なものだとか、…他の軍に比べても、相当、過酷なやり方をさせるとの話だ

私の調査が正しければ話の内容も正しいかと思うが、

…違うか?」


…Braveは、口籠ったまま何も言えず、俯いたままだった。

……「はい」か「いいえ」すら言えない程、なのかな…。

大佐は席を立ち、少し窓の外を見ながら話を続けた。


「お前は家族での環境も裕福ではないのにも関わらず、軍では過酷な行動や制限を強要され、精神的にも追い詰められている

…そんな環境の軍の中、無断で基地を抜け出すなど、

帰って命が残るとは到底お前ないことだろう

お前にとって唯一、家族だけが自分の支えであり、希望でもある

それを私が保護しただけのことでわざわざそのような気持ちが芽生える時点で、相当なものだと感じ取れる

…私でも、Navy軍のやり方には納得が出来ない

ただでさえ戦時で相手を殺し回っていると言うのに、軍の中でさえもそのような扱いをされているようでは、

……そのうち、身も心もおかしくなってしまうことだろうな」


大佐がこちらに向き直り、Braveの元までやって来る。


「…此処に来て捕らえられるなどして、

もう、向こうには帰らない気までも持っていた」


Braveの手に力が入っているのが分かる

…強く目を瞑り、中々開かない口でやっと開いたかのように喋る。


「……、はい…」


Braveは口から絞り出されるような返事をして見せた。

……大佐がこんな問い詰め方をしているのだから、きっと本当のことで、確かに偽りではないのだろう。

Braveは、中々深く俯いたままの顔を上げられない様子でいた。


「…Brave

私の軍に入る気はないか」


あまりの発言に、僕達は全員驚いた顔で大佐の方を見た。

最初はあんなに警戒を解く気はないように見えたし、ずっと冷酷に見下すような様子でいたのに……、

…大佐、一体どう言うつもりで…?


「た、大佐!何をおっしゃって…!?」

「考えてみろ。こいつを帰そうとしなければ情報を持ち帰られることもない

見ているだけでも明らかに丸腰で、何も所持をしていない

加えて、此処では外部と通信する為の電波を途絶えているが為にGPS機能を万が一付けられていたとしても有効になることはない

…彼の話に偽りがないのならば、この話に賛同した方がよっぽどそのまま向こうに戻るよりもリスクも低く、彼からしても救いの手とまでも見えてしまうだろう」


…僕も反論など出来なくて、口をつぐんでいた。

皆んなもそこまで言う大佐に、それ以上何かを言うこともなく口を閉じる。

…すると、今まで険しい顔のままでいたFaithfulさんが、

…帽子の影から、少し微笑んだような表情を見せながら、大佐の部屋から去って行った。


「…し、しかし、本当に無断で抜け出して来てしまった身でもある。本当にこのまま此処に留まるだなんて———」

「気にしたことではない。そんなに居心地の悪い軍のことなど、気に留める必要もないだろう?」


…Braveは大佐に黙らされると、大佐の方に顔を向けた。


「…宜しい、のですか…?」

「…これはお前の為を思って言っていることだ

どうするかは、お前自身が決めろ」


僕達は、Braveが返事をするまで静かに見守った。

………。


「…Navy軍から離れ、此処に入隊させてもらうこと…、

…もしも、もしも出来ることなら、是非、そうさせて頂きたいです…!」

「よし。交渉成立だ

なら今ここで構わない。契約書にサインをしてくれ」


大佐は浮遊能力で白紙の契約書と、ペンを手元に持って来て、Braveに渡した。


「…今度は、私達がお前を保護すると約束しよう

もう、苦しむ必要もなくなる」


Braveは、苦痛から解き放たれた解放感からか、

堪え切れない様子で、

受け取った白紙の契約書で涙を受けながら、声を漏らしながら静かに泣き始めた。


「…っあ、ありがとう、ございます………っ、」

—————————————————————————

「いやあー、まさかとは思ったね

予知能力使えるのに散々疑って物凄く申し訳ない気持ち

そんなのも使おうと思わないぐらいだったんだけど、衝撃的な結果になったよね」


FaithfulさんとBraveの話をしながら廊下を歩いていた。

…僕も、びっくりした。

大佐が急にあんなことを言い出すとは思わなかったし、何より本当にそのようになってしまったことが驚きだった。

…でも、様子を見ている感じだと、これで良かった、のかな。


「…でもね、結果的にもあれで良かったんだと思うよ

俺試しに彼に予知能力かけてみたけど、帰ってたらやっぱり間違いなく殺されてたもんね

Colonelもそれを察することが出来たみたい。やっぱそう言うところだけでも視野広く考えられるから凄いんだよね

とにかく、Braveがああなるのを望んだならいいんじゃないかな。少し急だったけどね

うちの隊員になるのが決まったなら、俺も後でしっかり謝りに行かないとな〜、他の隊員達にも仲良くするよう伝えておかないと」


Faithfulさんは、先程見せた威嚇するような険しい表情とは反面、またいつものように優しい笑顔を浮かべて見せた。

…でも、良かった。本当に。僕もとても安心が出来た。

こうした形でも、大佐はある意味一人の命を救ったのだから、やはり偉大に感じられてしまう。

…本当に、尊敬するべき存在だ。

僕も今日自分がコピーの能力を持っていることに気付いて希望を見出したけど、

それでもやっぱり、色んな面で大佐には追いついていない気もしている。

僕もこれでもまだまだなんだ。これからも、頑張らないと。


「あっ、そうだ。“謝る”で思い出したんだけど、」

「はい、何でしょうか…?」

「Majorくん、アミに謝りに行かないと

きっと心配してるよ」

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