僕は次の日、気持ちの良い朝を迎えることが出来た。

昨日、あんなに色々あったとは思えない程、清々しく思える朝だった。

きっと、昨日は僕が少佐を務める決心がついた日で、事々を丸く収められることができて、気持ちもスッキリしたからなんだろう。

基地に到着すると、皆んながワラワラと僕の方に集まって来る。

「Major、あれから大丈夫だったのか?」「結局少佐の話どうする?」「大佐とは何話したの?」

昨日は結局あれからしっかり皆んなと話さずに基地を後にしてしまったから、皆んなも僕と話していないまま一日が終わってしまっていた。

沢山質問をして来る皆んなには「自分はもう大丈夫。すっかり元気だよ」と一通り伝えておいた。

大佐の話によると、今日もう早速僕が少佐になる為の任命式を行うのだそうだ。

…皆んな、少佐になる僕を見て応援してくれるかな。見守っててくれるかな。

…そうしてくれると、嬉しいな。




僕はKaru少佐から受け取った軍服に着替えた。

これから、皆んなで広場に集まって任命式が始まる。

今までも心構えを整えた僕でも、今日はより一層引き締まった気持ちでいながらネクタイを締め、軍帽を被った。

Karu少佐から受け取った軍服は、僕に丁度いいサイズだった。身体もそう大した差はなかったし、もしかしたらわざわざ新しい物を用意してくれたのかもしれないし、能力で大小の操作をしてくれたのかもしれない。

何がどうであれ、僕が今日から少佐になるのは違いない。しっかりするようにしないと。

僕は自分の姿が写っている鏡を見つめた。

…新しく受け取った軍服には、通常の隊員とは違って、側面に黄色のラインが入っていて、肩にも装飾が付いていた。

心なしか、その僕の立ち姿も、より大人びているように見えた。

そして僕はその部屋を後にし、皆んなが集合する訓練場へと向かって行った。




「これから任命式を行う」


今も大佐の話を聞いている皆んなも、昨日と同じように緩い纏まりを作りながら僕達の方を見ていた。

いくら緩いとは言え、全員の目がまた僕に向けられているのには違いなく、どうしても緊張を覚えてしまっていた。

つい俯き気味になってしまう顔を頑張って正面に向かせようと努力する。

…こうして皆んなの前に立つのは何気に初めてだ。

此処から見える景色はこんな感じだったんだなあ…。

そこから周りを見渡すと、隊員全員の顔がしっかりと見えるような視線の広がりを覚えた。


「昨日、あれからMajorと対談したところ、無事少佐を引き受けてくれるとの話だ

よって、今後の少佐はMajorに任命する

全員、心得るように」


皆んなが一斉に僕に拍手を送ってくれた。

…そんな皆んなの表情も明るく、僕のことを快く受け入れてくれているような様子だった。

それを肌に感じていると、僕も嬉しくなってきて笑みが溢れていた。


「連絡は以上だ。この後もしっかりと訓練に取り組むように

解散」


そう大佐が言い残すと、僕と皆んなは大佐に向かって一斉に整った敬礼をした。

大佐が去り始めると、背後から皆んなが僕を取り囲み、詰め寄ってきた。


「Majorおめでとう!やっぱお前って立派だよ!」

「Major、無事任命されたんだね、おめでとう!」

「えへへ、ありがとう、皆んな」


僕は皆んなから肩を組まれたり、軽く肩や背中を叩かれたりしながら戯れられながら沢山祝われた。

前の訓練で注目を集めた時は、不安で一杯で怖い気持ちまでも持っていたけど、

…今は、間違いなく限りない幸せを感じられていた。

改めて自分が少佐になったんだと思うと、何だか実感が分からないような、でもどこか明らかに環境が変わったような、

自分が、成長したような。

そんな感覚に身を包まれた。


「って、Majorはもう少佐になったんだからタメ口なんてダメだ!これからはしっかり敬語使うようにしないと!」

「いっけねそうだった、

これから宜しくお願いします、Major少佐!」


今まで距離感の違い感覚で話してくれていた皆んながこれからは敬語で話すようになるって思うと、

何だか不思議な感覚だし、違和感を覚える。

同時に少し寂しい気持ちも抱いてしまうが、決してそう思う必要もなければ心配する必要もないと、自分でもしっかりと分かっている。

これからのことにワクワクしているような、ドキドキしているような気持ち。

僕の胸の中が、温かさで満たされていくのか分かった。


「Majorくーーん!!」


少し遠くの方から、誰かが僕を呼ぶ声がして、咄嗟にそっちの方を向く。

すると、突然僕の身体はその人によって抱き締められ、一瞬にして温もりに包まれた。


「っ、Karu少佐!まだ此処にいらっしゃったのですか?」

「俺はもう少佐じゃないのー、新しい少佐はMajorくんでしょ!

それより昨日大丈夫だった?体調も回復した?

元気そうで良かった…、無事少佐にも昇格出来たみたいだし、

昨日はあれから話せる機会もなかったから、どうしてもMajorくんが少佐になるところをどうしても一目見たくて…。

うわー、思いの外凄い似合ってるね、サイズもいい感じ…、

ずっと見てきたはずなのにいつ間にこんなに成長しちゃって、俺凄い感動…」


Karu少佐は僕の肩や服の裾をぺたぺたと触りながら感心したようにそう言ってくれた。

さっきまでは此処には居なかった筈なのに、わざわざ駆けつけてくれた…?


「ありがとうございます。僕、これからも頑張るので…、

何卒応援していて下さると幸いです」

「勿論。何ならまた此処にも遊びに来て様子だって見に来るし、Majorくんのことも皆んなのこともずっと応援してるよ!

頑張ってね、Majorくんなら絶対に大丈夫だ!」


満面の笑みで、僕の顔を見ながらKaru少佐はそう伝えてくれた。

僕もとても嬉しい気持ちで一杯になり、同じような満面の笑みで元気良く返事をして見せた。




「入れ」


中から大佐の返事が聞こえてきて、僕はいつものように「失礼します」と口に出してからそっと部屋の中に入った。

今日も机には大佐が腰掛けていて、その側にはFaithfulさんが居た。


「大佐、何か御用でしょうか、」


僕はあの後、大佐にこの時間にまた部屋に来るように言われて今此処に来たけど、一体どんな話をするつもりなんだろう。

やっぱり少佐になったのもあって、新しく説明することや覚えなくてはいけないことがあったり…?


「この後は食堂で昼食の時間だろう

その後で構わない、昼食を食べ終わった後、また此処に来て欲しい

少佐に昇格したお前には、まだ話さなければならないことが沢山ある」


やっぱり、そんなようなことだったらしい。

当たり前かもしれないけど、少佐って普通の隊員よりも役割が沢山あって忙しかったりもするのかな。

普通の隊員では触らないような書類の整理とか…、敵軍のリサーチとか…。

考えれば考える程、大変そうである。


「はい、分かりました。昼食をとった後また此処に来ればいいのですね、」

「そうだ

さぁ、午前中からスケジュールが詰まっていて腹も減っていることだろう、早く行って済ませてくるといい」

「分かりました、ありがとうございます」


僕またそうやって大佐に返事をすると、部屋を後にしようと出口の方へ戻って行った。


「待って、俺も一緒に行くよ

お腹空いたね、ご一緒してもいいかな?」




僕達はそれから、軽い会話を交わしながら食堂の方へ向かって行った。

どうやら、皆んなはもう食べ始めていたらしい。楽しそうに話をしながら昼食をとっている。

まるで、学校で言う給食の時間のような雰囲気になっていた。

僕達も昼食を受け取る為にカウンターの方へ向かった。

食堂では、毎日美人で若い女性が皆んなに食事を提供してくれている。

活発な性格で、とても愛想が良くてフレンドリーだ。色んな隊員さんとも沢山話をしているところを良く見かける。

いつも髪型はポニーテールで、肌の色は温かいオレンジ色で、

そして、目を四つ持っていて、なんと腕は六本持っているなど、そんな特徴を持っている。

カウンターに顔を出すと、丁度手の空いた彼女がこちらに気付き、微笑みかけてくれた。


「アミ、来たよ」


Faithfulさんは慣れた様子で彼女に話しかけた。

彼女の名はAmiable。沢山隊員達と関わってきて歴も長い為、段々と名前の冒頭を取って「アミ」「アミ姐」と愛称で呼ばれるようになったのだそう。

僕がFaithfulさんとアミ姐さんが話すのを初めて見た時から、二人は仲が良いようだった。


「Major!あんた、少佐に任命されたんだって?

そりゃあ何ともめでたいね!これからも沢山食ってどんどん強くなれよ!」


そう元気に僕に伝えると、カウンターに頬杖をついたまま、後ろについた手で赤飯カレーを山盛られた皿を二人分差し出してくれた。

まだ出来立てで、いい匂いを漂わせながら湯気を立てている。


「あはは、ありがとうございます」


彼女は本当にいつも元気がいい為、話をする機会があれば毎回のように元気をもらっていた。

他の皆んなからも、やはり良い話し相手とされていて、よく相談などにも乗ってくれるのだそう。

更に、彼女は不老不死の種族として産まれ、見た目も美人でまだまだ若そうに見えるが、

こう見えて六百五十歳ぐらいなのだと言う

この軍ができる前から生きているらしく、当時は手のまわるであろう人材として此処に採用されたのだそうだ。


「ありがとうアミ

さてと、君に話したいことが沢山あるんだ

どこの先に座ろっか、」


二人で皿と食器を持ちながら座れそうな席を探した。

手元から永遠といい匂いがしていて、早く食べたいと言う気持ちをより一層掻き立てられる。


「…あそこ、かなー

あまり人もいないし」


Faithfulさんは、たまたま空いていた席を指差して言った。

…わざわざ人が居ない場所を選ぶ、なにか理由があるのかな…?


「そう言えば訊くの遅れちゃったけど、

昨日は大変だったね、身体の方大丈夫?」

「あ、はい、…今はもうすっかり元気です」

「そっか、それなら良かった。昨日凄い心配してたんだ」


そう会話をしながら、僕達はその先に座り、机の上に皿と食器を置いた。

昨日のこと、皆んな心配してくれる…、

でも確かに、僕は気絶して突然倒れちゃった身だから…、

自分からしたらそれ程もないように感じてしまうかもしれないけど、周りからしたら大事故だし、そりゃ心配もしてくれるよね。

本当、僕の周りがいい人ばかりで良かった…。


「…あ、どうぞ食べて?冷めたら勿体無いしね

Majorくんは食べながらで全然大丈夫だし、聞いてくれるだけでいいからさ」


僕はFaithfulさんにそう言われ、手を合わせて小さく「頂きます」と声に出してから、スプーンでカレーを口に運んでいった。

…美味しすぎるカレーの味に声を漏らしながら次々に口へ運んでいく。


「そんなにお腹空いてたんだね

ごめんね、急に誘ったりして」


Faithfulさんが頬杖をつきながら僕がカレーを食べている様子をニコニコしながら見守ってくれていた。


「とんでもないです、Faithfulさんにこうしてお話に誘ってもらえて光栄です」


口元を押さえながら僕は感謝の意を込めてFaithfulさんにそう伝えた。

「そっか、なら良かった」とFaithfulさんはまた僕に微笑みかけると、僕と同じようにスプーンでカレーを集め始めた。


「…Colonelの話なんだけどね

俺、Colonelが此処に来る前からずっとこの軍に務めてたんだけど、

彼、以前に一生モノの悪い思い出を作っちゃったみたいでね

行く宛もなさそうで彷徨ってたから、俺放って置けなくてさ。だから此処に入隊させたんだ」


僕が初めて話を聞いた時もFaithfulさんは少佐だったけど、大佐を初めにここに入隊させる権利なんて持ってたんだ。

でも、今の大佐はFaithfulさんじゃなくてColonel大佐だと、

今の話からして二人の位置関係がおかしくなってしまう。

どう言うことなんだろう…?


「…そう、俺実はね、Colonelが此処にくる前までは俺がこの軍の大佐を務めてたんだ」


…そうだったんだ。だから、当時はFaithfulさんがColonel大佐を此処に入隊させる権利もあって、今でもColonel大佐よりFaithfulさんの方が立場が上に感じられるのか。

僕はいつの間にか真剣にFaithfulさんの顔を見ながら話を聞いてしまっていて、カレーを食べる手が止まってしまっていた。


「それでColonelが入隊した時、彼はもう既に高度な実力の持ち主だったし、俺の戦力も超える程だったから

…それに、俺は病気があったからさ

俺が少佐になって、Colonelには大佐に昇格してもらったって感じかな

俺の病気が進行した時も快く引き受けてくれて、…それから今に至るって感じ

やっぱり病気があるからには、トップにいることも出来なくなってきて、務まらなくなってくるんだろうなって分かってたんだ」


詳しい話をすべて話してくれたお陰で状況を理解することが出来た。

…それにしても、そんなことがあったなんて。

ここまでこの軍でやってきたけれど、全然知らなかった。

Faithfulさんが初めはこの軍を作り上げて、隊員の実力もあそこまで成長させて今はこんなに強い軍が出来上がっているって言うのに、

大佐はそれをも上回る実力を持っているなんて…。

僕には到底足元にも及ばないと思うし、そうやって考えたら大佐は相当強い実力の持ち主なんだろうと改めて感じた。


「…そんなことがあったんですね、驚きました」

「うん、…まあそうだよね

…でも、Colonelって実はああ見えて色々と深く考えやすくて、おまけに抱え込みやすいタイプでさ

Majorくんには、これから大佐を支えてあげられるような立場になって欲しくて。だから今こうやって話をしてるんだ」


…大佐が、そんな性格をして…?

意外だ、てっきり計画的で、しっかりしてて、出来事に対してはすぐに気持ちを切り替えて行動出来る人だと思っていた。

…大佐も、本当は楽な気持ちのまま大佐を務めている訳じゃないのかな。

…色々、思っていることがあるのかな。


「確かにColonelは高い実力の持ち主で、物凄く強いのはそうなんだけど、

それ以前に精神面で養える部分がちょっと足りないみたいでさ、やっぱり過去の関係で傷つきやすい心になってるみたいなんだよね

彼は彼なりに頑張ろうとしてるんだけど、時々、考えすぎて正常な判断と行動が出来なくなる時があるから

今まで俺やKaruくんで様子を見ながらColonelには気をかけてあげるようにしてたんだけど、俺ももう身体の関係もあってきっとつきっきりではいられなくなってくると思うからさ

今回少佐に昇格したMajorくんに、少しそのお仕事を任せたくて

…どうかな、お願い出来そうかな」


Faithfulさんは微笑んだまま目を向けて僕に尋ねた。

…僕が、大佐を支える、か。

僕も精神的に強い訳ではないし、また昨日みたいになってしまう時だってあるかもしれない。

…でも、僕がこうして少佐に昇格出来たのも、もしかしたら何かの縁なのかもしれない。

大佐もあんなに僕に期待してくれて少佐を任せてくれているんだから、

力になりたいし、僕だって頑張ってみたい。


「…はい、分かりました。僕もまだまだ未熟ですが、頑張ってみようと思います」


僕はFaithfulさんにしっかりとそう伝えた。


「ありがとう、心強いよ。まだ軍にも慣れ切ってないのに色んなこと任せちゃってごめんね?最初のうちは状況を把握してくれるだけでもいいんだ、俺だってまだ何も出来なくなった訳じゃないし

また困ったことあったらすぐに訊いて。力になるから」


Faithfulさんはまたそうやって僕に優しく返事をしてくれた。

…それにしても、やっぱり今のイメージでは大佐がそんなに抱え込みやすいタイプだとは想像し難い。

昨日僕が倒れた時だって、起きた時には既に真剣な表情で、伝えられることも纏まってて、あんなに迷いのない発言のようにも見えたのに。

…焦っていたり、僕を必死に心配するような様子も見られなかった。

あんなしっかりとしたイメージの大佐が、崩れやすい精神の持ち主だなんて。

…。


「…因みに、この話は他の人にはあまり話さないであげて欲しいな。Colonelも自分でこのことに関して結構気にしてるみたいだし、そもそも皆んなも割とそれを察した上で関わってくれてるみたいだから。何だか暗黙の了解みたいになってるところもあるね

Colonelは、皆んなに支えられているからこそ今此処に居られているんだと思う。だから俺は、Majorくんにもその一人になって欲しくてこの話をしたんだ

…Majorくんは凄く親切だから、きっと大丈夫だよ」


Faithfulさんは細めた目でまた僕に優しく微笑みかけた。

大佐、…そっか、そうだったんだ。

大佐も、自分一人の力だけで全てを完璧にやりこなせる訳じゃなくて、周りの皆んなの力があってこそ頑張ってやっていけられるんだ。

…僕と、似たものを感じる。

大佐だって生きているから、失敗をすることだってあるし、そうやって気を病めてしまうことだってある。

…だからこそ、これから先も支え合わないといけないんだ。

…僕の支えなんかで、大佐の為になれるといいけど。


「…あ、結構時間とっちゃった?結局手も止めさせちゃってごめんね?この後もColonelに呼ばれてるみたいだから、少し急がないとね

カレーもまだ温かいから、冷めないうちに早く食べちゃいなよ」


そう言えば、僕のカレーを食べる為に動かしていた手も止まったままだった。

…早く食べてしまおう。Faithfulさんの言う通り、この後も大佐の部屋に行く予定があるんだ。

Faithfulさんもずっと喋りっぱなしで、それこそFaithfulさんのカレーも冷めちゃ————

僕はふと、Faithfulさんのカレーに目を移した。


「…あぁ、あはは、心配しないで。俺はもうとっくに食べ終わっちゃってるから

俺も凄く腹減ってたんだよねー、Majorくんには手を止めさせて俺だけ先に食べ終わっちゃって本当申し訳ないよ

ほら、食べ終わるまで待っててあげるから。喉詰まらせないようにね」


…Faithfulさんの皿は、既に米の一粒も残らず完食されていた。…間違いなく偽りもなく、皿の上は空だ。

Faithfulさんはいつもの笑顔のまま、頬杖をついて僕がカレーを食べる様子を見守った。

…早すぎる。Faithfulさんはあんなに一人でずっと喋っていたのに、カレーを食べる暇なんてなかったはずだ。

いつの間に完食して…。

…、今、考え詰めることでは、ないかな。…、

僕は分からないまま残りのカレーを口に運んでいった。




「…で、例の話なんだが」

「はい、」


あれから無事食事を終えて、僕達はまた大佐の部屋まで戻っていた。

ずっと気になってたけど、わざわざこんな風に呼び出してまで話したいことって何だろう。

少佐に関しての連絡事項なら、こんな形をとらなくてもいい気もする…。


「…お前に、話しておきたいことがある

それも、誰も居ない場所で」


…?


「明日、私とお前だけ休養日にしようと思う

近いうちに敵軍と対戦する予定もないから大丈夫だろうと言う判断だ

私の中で隊員達の目に着く場所で話をするのは少し気が引ける。少し、基地から離れた場所で話をしたいんだ

…隊員の皆には申し訳ないが、明日限りは私もMajorも不在の状態で活動してもらうよう伝えておく予定だ」


…た、大佐と、二人で外出…??

…そんな、恐れ多い話…僕が受けちゃっていいのかな…?

大佐と二人っきりだなんて緊張して仕方がない、僕が上手く話せるかどうかすら分からないけど…。


「…大丈夫だろうか、もしも嫌と言うならばそれはそれで構わない。その場合はまた別の方法を考えようと思うが、

…お前はどうしたい」


考えを委ねられ、僕は目を逸らしながら少し頭の中で整理し始めた。

…どうしようかな、ここも正直に自分の気持ちを伝えた方がきっと迷惑にも失礼にもならないのだろう。

…けど、折角こうして大佐が僕と話す為に計画を立ててくれていて、時間まで設けてくれているんだ。…簡単に断ることなんてできないな。

…大丈夫かな、上手く、話せるかな。


「あれ、Colonelもしかしてもうあの話Majorくんにしようとしてる?

あはは、ちょっと早くない?Majorくんに色々考えさせちゃう気がして俺もちょっと心配だけど

…まあ、どうしたいかはColonelが決めればいいか、どうせいつか話すつもりだったんだろうし、」


…Faithfulさんは話の内容知ってるんだ…?

どんな話になるのかな、今の時点じゃ全然想像も出来ない。

……、

…やっぱり、僕がここで断って、また大佐に時間をとらせることなんて出来ない。

大佐だって仕事が詰まってるし暇じゃないのに、わざわざ僕の為に時間を作ってくれようとしているんだ。

…これも少佐としての道を歩む為の訓練だと思おう。


「分かりました、大佐のお話をお受けしたいです

予定は明日の何時頃に出発しますか?」


僕は意を決して大佐にそう伝えた。

心なしか、大佐の表情がほっ、としているようにも見えた。


「…そうか、礼を言う。わざわざ時間をとらせてしまって申し訳ない

協力に感謝する」


大佐はそう僕に言うと、何やら書類に手をつけ始めた。

…大佐も、威圧感があるようには見えるけど、きっと本人の中では精一杯気を遣ってくれているつもりなんだろう。

様子を見ていると、何となくそう感じることが出来たし、

自然に、段々と大佐へ恐怖心を抱かなくなっていった。


「明日は朝の11時頃に此処を出発したい

それまでに朝食を済ませ、外出の出来るよう身支度も済ませてくれ」


大佐は書いていた書類を書き終えると、また僕に向き直った。

そして、書類を書いていたペンを胸ポケットに挿した。


「…それと、あともう一つ話したいことがある」




僕は大佐に連れてこられた部屋の中に入った。

…中はある程度の衣食住が済ませられる設備が整っていて、一人分のベッドや、クローゼットなどが置かれていて十分なスペースのある所だった。


「他の隊員達も、既に一人一人自分の部屋を持ってこの基地に寝泊まりしている

それも、もしも敵軍からの突然な奇襲を受けた場合に対応する為で、

Majorには与えるまでの期間が少し長くなってしまっていたが、今日からMajorも此処に寝泊まりしてもらって構わない

明日から荷物も此処に置いて行くといいだろう」


僕はそっと、部屋の中にあるベッドのシーツを手で撫でた。

…何だか、また僕がこの軍の一員になれた気がしてとても嬉しい気持ちになった。

部屋の位置も、僕は今回新しく少佐に昇格した為、大佐の部屋の隣になるのだそう。

今日、帰ったらすぐに此処に持って来る荷物の支度をしよう。

わくわくした気持ちで、僕は想像を膨らませていた。


「ありがとうございます。これで、また移動がとても楽になります」

「ああ、しっかりと準備をして来てくれ

…それと、明日の外出の話なのだが、袴と軍帽の格好を予定しているのだが、自分の袴は持っているだろうか」

「はい。持っています

明日荷物と一緒に持って来られると思います」

「なら、それも一緒に此処へ持って来て、明日はそれを着用してくれ

軍服のまま街を出歩くと、色々な面で厄介な状況になり兼ねないんだ

私達は特に他軍からも狙われやすい状況に置かれている。少しでも身を隠さないといけない

本当はこれだけでは対策が足りないのだが、軍服のまま出歩くよりかはマシだ」


そっか、確かに僕達は軍人だから、丸腰なところを狙われて襲われる可能性だってある。

…しっかり警戒していかないといけないな、折角だからのんびりした気持ちでいたいとは思っていたけど、

完全にそう居られる訳でもなさそうだ、気をつけないと。


「連絡はこれで以上なのだが、何か個人的に気になることはあったりするだろうか」


大佐が僕へ気にかけた質問をしてくれたので、僕は笑顔で大佐に返事をする。


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


僕は嬉しい気持ちを隠し切らないままそう伝えた。

自分の部屋まで貰えて、おまけに大佐と出掛ける機会をもらえるだなんて。

こんなに貴重な機会はない。僕にとっても大切な時間にしたい。

わざわざ時間を設けてくれた大佐の為にも、迷惑だけはかけないようにしないとな…。

今日は明日の支度をした後、すぐにベッドに入るとしよう。

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