次の日、僕は昨日大佐に言われた通り、

大佐の部屋には寄らずに自分で準備をし、自分で訓練場に向かった。

心配していたよりも余裕を持って行動出来たし、迷うことも特にないままやり遂げることが出来た。

良かった、この調子ならこれからも僕だけで大丈夫そうだ。

聞いた話によると、訓練の内容は大体2日ごとに変わるのだそうだ。

それで、今日はまた昨日と同じような訓練の内容らしい。

どうやら今日も皆んなが僕に期待する声が上がっていると聞く…。もし今日全然上手くいかなかったらどうしよう…。

それはもうガッカリされるだろうし、同時にもう期待もされなくなってしまうんだろう。

正直言うと、期待されるのは嬉しい。僕だって少しは胸を張れるようになって、大佐からの信頼だって受けてみたい。

確かにちやほやされるのは気分がいいけれど、やっぱり落ち着かないのはある。

けど、もしも本当に昨日の自分のような力が本当に今の僕の実力なのであれば、

僕はそれを誇りに思いたいし、これからの軍隊活動でも大いに活かしていきたい。

…皆んなの足を、引っ張らないようにしたいな。

そう願いながら、僕はまた訓練場に立ち、レイピアを構えた。




「…やはり、申し分、なし……、」


また昨日みたく、僕の周りでは拍手が起こっていた。

なんと、レイピアでの振る舞い方も、拳銃の使い方も、昨日のことのように上手くいってしまった。

…またしても偶然、とはいい加減言えない程自分でも正確なのが分かる。

…もしかして、これが本当に僕の実力…?

…そっか、僕ってこんなに…。

試験前の訓練では、全く気付かなかった。普通に周りの受験者の人達と同等のレベルで、皆と協力し合いながらやっと掴み取った合格だった。

…こんなに強かったなら、初めから何で力を発揮出来なかったんだろう?

…でも、今こうして自分の力にも気付けて、今此処でも実際にコントロール出来ていると思うとやはり嬉しい気持ちになる。

僕はレイピアと拳銃を握っている手を見つめた。


「っ、Faithful少佐!!」


誰かが突然声を上げるのと同時に、周りの隊員さん達が一斉に一方向を向き、勢いで音を立てながら敬礼した。

ぇ、なに、少佐…?

僕も慌ててそっちを向いて皆んなと一緒に敬礼をした。

…ん、あれ?…Faithful少佐って誰…?

今務めているのはKaru少佐の筈。二人少佐が…?どう言うこと…?

目線の先には大佐が居て、…その横に見慣れない隊員さんが立っていた。


「あはは、俺はもう少佐じゃないんだってば

今はKaruくんが代わりにやってくれてるんでしょ?」

「はい!誠に光栄である限りです!」


僕の斜め前に居たKaru少佐が声を張ってそう話した。

…僕には、まだ良く説明されていないこと、なのかな…?


「今日、やっと戻ったそうだ

まあ、だからと言って何がお前達の訓練などに影響が出る訳ではない。大したことのない報告だ」

「え、ちょっと、流石にそれはないんじゃないんですか大佐〜」


慣れた話し方で、その人は大佐を肘で小突きながらわざとらしく言った。

…大佐も、それに対して不愉快に感じている様子はなく、むしろ受け入れているような様子だった。

心なしか、…どこか仲良しな関係に見えた。


「…冗談だ。見ての通り彼はもうすっかり元気だと言う話だ。やはり完全に勤務に復帰出来る訳ではないが、またこれからもサポートにまわってくれるらしい」

「そう言うことー。皆んなも全然変わらず元気そうで安心したよ

また気が向いたら是非話しかけてね、俺も早くまた皆んなと話がしたいよ」

「詳しい話はまた後日に。訓練中邪魔して申し訳ない、もう戻ってもらって構わない」


そう大佐が言うと、二人はそのまま場から去って行った。

同時に、周りの隊員さん達も訓練に戻り始めた。

僕の周りで、ちらほらFaithful少佐の帰還を喜ぶ声が聞こえてくる。

…、とても信頼が厚そうだ。

…僕はまだ新入隊員だし、きっとこれからはあの人にも沢山お世話になるんだろう。また改めて挨拶しに行かなきゃ。

すると、状況を理解出来ていない僕を見兼ねたのか、Karu少佐が僕の方を見てこちらに近付いてきた。


「そう言えば、まだMajorくんには話してなかったよね

実は、さっきの人が元々少佐を務めてたんだよ。Faithfulって言う人なんだけど

持病でどうしても入院しなきゃいけない状況になったからしばらくは此処にも顔を出せていなかったみたいなんだけど、今日やっと帰って来れたみたい

それで、今は俺が代わりに少佐を務めてたって感じ

Faithful少佐、退院したってことなのかな。様子も元気そうで本当に良かった、俺もまた後で挨拶しに行かないと」


そんなことがあったんだ。…大変、だったんだなあ。

入院しなきゃいけない程の持病。きっと本当に辛くて身体に負担がかかるものなんだろうな。

でも今はもう帰って来れたみたいだし、Karu少佐も言っている通り元気そうで…。僕も安心して大丈夫かな、


「…Faithful少佐、本っ当に凄くいいお方なんだ。大佐までもが尊敬してるんだよ

僕達をここまで育て上げてくれたのも彼だし、何よりも隊員全員を大切に想ってくれてるんだ

本当に親切で、偉大な人なんだよ

俺だって今までも計り知れない程お世話になったし、他の隊員も彼に沢山お世話になってることだって知ってる

面倒見が良くて、…それに、全員のお手本になれる程お強い方。

だから皆んな、本当にFaithfulさんのことが大好きなんだ」


…そんなに凄い人だなんて、全然知らなかった。

そんなに凄い人なら、もっと早く知っておきたかったな。

…でも、また僕の中で疑問が一つ生まれた。

皆んなを育て上げた、って言うのは、一体どういうこと…?

そう言う役割を持つのは大抵大佐の筈。でも、話している様子だと、Faithful少佐が初めから皆んなの面倒を見ていたかのような言い方だった。

それとも、当時皆んなの面倒を見ていたのは、地位関係なく、やっぱりFaithful少佐だったって言うことなのかな?

…どうやら、まだまだ僕には知らなきゃいけないことが沢山あるみたいだった。

これから、その話もしてもらえるのだろうか…。




訓練が終わった後、僕はまた色んな人に戦術について話しかけられたが、

それを上手く切り抜けてまでして、僕には向かいたい場所があった。

僕は皆んなの元から離れて少しだけ急いで大佐の部屋まで向かう。

Faithful少佐に、挨拶がしたかった。

勿論、自分が最近新しく入った新入隊員だって認識してもらいたいし、信頼もある程度受けておきたい。

きっとこれから沢山お世話になるんだ、顔と名前ぐらいは覚えよう。

大佐の部屋の前まで着くと、身だしなみを整え、帽子を被り直す。

…そして、部屋のドアをノックした。


「…入れ」

「失礼します」


大佐から返事が返ってきたので、ドアノブに手をかけてドアを開こうとする。


「あ、Colonel。俺が出るよ」


中から少し声が聞こえたと思うと、僕がドアノブを引く前に、内側からドアが開かれた。

…開かれた先を見上げると、そこにはさっきも目にしたFaithful少佐が立っていた。奥には、いつも通りColonel大佐が机に腰掛けている。


「おや、可愛らしいお客さんだね

さ、入って。そんなところで立ってたら足が疲れちゃうよ」


僕は言われるがままに、また「失礼します」と声に出して腰を低くしながら大佐の部屋に入った。


「俺、君のこと知ってるよ。最近入ってきたMajorくんでしょ」


そう言って、優しい笑顔を見せてくれた。

…Faithful少佐は、僕が自分から名乗る前から僕のことを既に知ってくれていたようだった。

しばらく此処にも居なかったはずなのに、そんな所まで噂が広まってたんだ…。

少し、びっくりしてしまった。


「はい、そうです。お目にかかれて光栄です

…あの、どうして僕の名前をご存知なのでしょうか…?」

「そりゃあもうさ、君って有名人だから

訓練、最近始めたらしいけど凄い腕前なんだって?早々優秀な立ち振る舞いをしてるって色んな子から話を聞いてたよ

勿論、Colonel大佐からもね、」


Faithful少佐は、大佐に顔を向けてそう言った。

…大佐まで、そう思ってくれてたんだ。

訓練中は必死で中々気付けなかったけど、僕のこと、しっかり見てくれているんだ。

少し嬉しくなって、心が温かくなる。


「俺、長い間入院期間で此処に居られなくてさー、どうやらソウルの病気みたい

もう完全に治ることも難しいぐらい重いものらしいから、元の地位には戻れないんだけどね

でも、またこうして皆んなの顔も見れたし、Majorくんにも会えたし。俺はそれだけで十分な気もしてるよ」


ソウルの、病気。それも、難病…?

…、そんなに重い話なのに、軽い感じで話しちゃって大丈夫なのかな…。

…、気を重くさせないようにしてくれていたりしてるのかな。その辺でも、わざわざ気遣ってくれて…?

…本当に、親切な人なんだと、僕はそう改めて感じた。


「…ところでMajor、何が用でもあっただろうか」

「ぁ、いえ、僕は新入隊員でもあり、Faithful少佐にしっかりと改めて挨拶をさせていただきたいと思っていました

なので今日は、その為に大佐の部屋に顔を出させていただきました」

「あっ、そう言うこと?いやあ嬉しいね、わざわざそんなことまでしてくれようとするんだね。改めて宜しくね

あと、さっきも言ったけど、俺ってもう少佐じゃないからさ。良かったら普通に「Faithful」とでも呼んで?」


そう言って、Faithfuさんは僕に手を差し伸べて握手を要求してくる。

…凄い。本当に親切な人だ。見ているだけでも溢れるほどの親切感だ。

Faithfulさんは、とても温かくて優しい笑顔を僕に見せてくれていた。


「はい、宜しくお願いします。Faithfulさん」


僕もなるべく明るく接するように意識し、その手をそっと握った。


「人が良すぎて腹の立つ奴だが、礼儀だけは忘れないようにな」

「あははっ、Colonel、さっきから俺のこと揶揄いすぎでしょ

よっぽど俺が帰ってきたのが嬉しいんだね、」


Faithfulさんは面白おかしそうに笑いながらそう言って見せた。

…そっか、大佐もFaithfulさんが帰ってきて嬉しく思っているんだ。

大佐はあまり顔には出していないが、不愉快そうな表情にはならず、ほんの少し微笑んでいるような表情にも見えた。

…やっぱり、二人はきっと仲がいいんだ。

自分よりも見上の人達がこうした会話をしていると、自分まで安心した温かい気持ちになれる。


「あ、そうそう。俺、実はさっきのMajorくんの訓練も見させてもらってたんだけど、話の通り本当に凄かったね

どうやら話は確かで、君は物凄く強力な人材みたい。Majorくんみたいな子が此処に入って来てくれて凄く心強いよ」


Faithfulさんはそうやって僕のことを沢山褒めてくれると、また優しい笑顔を僕に見せてくれた。

…そんなに褒められると流石に嬉しいし、照れ臭い気持ちになってしまう。


「いえ、そんな…。僕はまだまだ成長中の身です」

「凄い謙虚〜。いいね、中々そんなに謙虚な心を持ってる子っていないからさ

それにほら、今のMajorくんって昔のColonelにそっくり

ね、Colonelが入ってきたばかりの時に似てるって思わない?」


そう言って、Faithfulさんは大佐の方を向いて訊いた。

…?大佐が入ってきたばかりの時…?何でFaithfulさんが大佐の入隊時を知ってるんだ…?

…やっぱりまだ、僕が分からないことが沢山ある。いつか、お話を聞かせてもらえらのだろうか、


「初めの頃は私もまだまだ未熟だったものだろう」

「そんな事ないって。確かに未熟だったのはそうかもしれないけど、Colonelも入隊してきた時から持ち合わせてた実力はとんでもなく高いものだったよね

もう、むしろ未熟だなんて呼べないぐらい。俺あの時凄いびっくりしたんだからね」


Faithfulさんは、過去の話を思い出を楽しく語るように喋って見せた。

…でも、そうなんだ。大佐も初めからそんなに強い人だったんだ。凄いなあ…、それこそ僕は尊敬してましう。

…と言うことは僕、もしかして大佐と肩を並べられてる…?

…、いや、流石にそれはないんだろうな。だったとしても、僕が恐れ多い気持ちになってしまう。

大佐と肩を並べられるだなんて、良く考えれば雲を掴むような話だ。


「にしても、わざわざ挨拶しに来てくれてありがとう。何回も言っちゃうけど、これからも宜しくね

困ったことがあったら是非俺にも何でも聞いて。俺もMajorくんの話聞いてあげたいし、力になってあげたいからね

俺はもう今までみたいな地位には居られないけど、手助けするぐらいはお安い御用だからさ。沢山頼ってね」

「はい、分かりました。ありがとうございます」


僕は、Faithfulさんに元気よくそう返事をした。

Faithfulさんは、僕の顔を見ると、また優しく微笑んでくれた。

…でも、Faithfulさんが帰って来てくれて、少し基地内が明るくなった気がする。

…そんなような感じがする。

そのぐらい、此処の皆んなにとってFaithfulさんは大きな存在なんだと知った。

…Faithfulさん、本当に凄い人なんだな…。

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