第9話 ただいま


 龍斗視点

——.——.——.——


「やっぱこういう時は屋上だよな」


 くるみちゃんと二人で屋上へと向かう。


「せっかく頑張ってきたのに……。こんなの、ゆいちゃんがす可哀想すぎるよ……」

「あぁ、そうだな」


 こういう時、優みたいに気の利いた言葉を言えたら……。いや、俺は俺だろ。何言ってんだ。この役目は俺の役目だ。



  結菜、死ぬなよ————。





    *    *    *




「結菜!」 「ゆいちゃん!」


 屋上に出ると、結菜は屋上の端に腰掛けていた。


「あれ?思ったより早かったね。もっと遅くなると思ってたのに」

「結菜、どうしてそんな所にいるんだ。危ないぞ」


 この校舎の屋上は5階と同じ高さだ。そんなところから落ちたら間違いなく死ぬ。


「決まってるじゃない。落ちるためよ」

「ダメだ!」


 屋上に冷たい風が吹く。


「もう生きてたって何にも意味がないじゃない。誰からも嫌われ続けて、誰からも邪険にされて。結菜がかわいそうよ」


 は?


「ふふ、困惑しているみたいね。今の私はね、あなたたちが共に過ごしてきた『影井結菜』と言う少女ではないのよ。でも私はずっと見てきた。この子の中から」


 そんな……。


「もうあの子は表に出てくることはないわ。この世界を怖がって萎縮してしまってるもの」

「嘘だ!ゆいちゃんは出てきてくれる!ゆいちゃんの人生に意味が無かったわけじゃない!だって……だって、ゆいちゃんは最近笑うようになった。今だってきっと心の奥で戦ってる。自分に向けられた感情と!」


 その通りだ。結菜が負けるはずがない。あいつは……。


「あいつは強い。だから絶対に負けない。そんな小さな奴らから向けられたちっぽけな物には!結菜、聞こえてるか!早く帰ってこい!」



    *    *    *



 結菜視点

——.——.——.——


 私は心の中でもう一人の私と一部始終を見ていた。


『それで、どうするの?あの人たちはあんな風に叫んでるけど』


「どうするって?」


『聞かないでよ。戻るのかこのまま死ぬのかよ。今なら私が飛び降りてあげるわよ?』


「そっちこそ。それって聞くこと?」


『ふふ、確かにそうね』


「私を心配して、気にかけてくれる仲間がいるのよ?もうその質問の答えは決まりきってるじゃない」


『じゃ、戻すわよ?良いわね?』


「えぇ、お願い。ところであなたはどうするの?」


『私はまたあなたの中から見ているわ。死にたくなったらまた

変わってあげる』


「そうならないように頑張るわね」


 私には愛情をくれる家族がいなくても友情をくれる友達がいる。私から色々なものを奪っていく人もいるけど、それを取り返してくれる人たちがいる。目の前の人たちのように。私は彼らの元に戻りたい。だから言うんだ。私が失くしたいくつかのものを、取り返してくれたこの人たちに。



    「ただいま!」

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感情色 星光かける @kakeru_0512

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