第8話 もう一人?


「おはよう。ねぇ、本当に婚約するの?」


 朝学校に行くと、龍斗を見かけたから聞いてみた。


「嫌なのか?嫌なら断ってもいいんだぜ?」

「嫌じゃ無いけど……」


 くるみちゃんは龍斗のことが好きだ。私なんかよりもよっぽど良い。



    *    *    *



 それは数日後の朝だった。教室に着くと、クラスメイト全員の視線が集まってくる。みんな汚い色を纏って。


 黒板には————




   『影井結菜の父親は犯罪者』




 と言う文字が書かれていた。心の中で微かに動いていた揺らぎが、完全に消えた様な気がした。


 もう何も感じない。もう何も……。



    *    *    *



 気づくと屋上にいた。どうやってここに来たのかもわからない。


「戻らないと」


 そう思った途端、頭の中で誰かが語りかけてくる。


『本当に戻るの?どこにいても、誰に出会っても、どうせ誰もお前を好いてくれる人なんていない。お前はただのゴミ。いらない物。なら生きている意味なんてあるのか?』


「あなたは……誰?」


『私はお前……生きている意味なんてない。死んでしまえ……飛び降りてしまえ……』


「わた……し、は……」



    *    *    *



くるみ視点

———————


「おっはよ〜!今日も一日頑張ろう!さて、ゆいちゃんは〜」


 教室が静かだなぁ。え?何これ……




   『影井結菜の父親は犯罪者』




 誰が……こんなことを……。教室にゆいちゃんはいない。でもいつもならもうとっくに教室にいる時間だ。だから、もうゆいちゃんは多分これを見ている。頭が熱くなっていくのがわかる。


「ちょっと!ゆいちゃんがどこ行ったか知らない?」

「か、影井か?さっき教室を飛び出して行ったけど……行くのか?やめといた方がいいぜ?黒板、もう読んだんだろ?」


 さらに頭に血がのぼる。


「だからなんなの!あれが何よ!ゆいちゃんは何も悪く無いじゃない!」


 そう言って私は教室を飛び出す。ゆいちゃんは今、感情が戻りかけていて精神的に不安定な状態だ。お見舞いに行った時も何か様子が変だったし。そんな状態であんなことをされたら……!


 廊下を走っていると、曲がり角である男子生徒とぶつかった。



    *    *    *



龍斗視点

———————


「おふ!」


 優と一緒に廊下を歩いていると、小柄な女子生徒とぶつかった。


「おい、大丈夫か?廊下は走るな…ってくるみちゃん?どうしたんだよ。そんなに焦って」

「龍斗先輩!ゆいちゃんが…ゆいちゃんが!」

「いいから落ち着いて話せ、な?」


 くるみちゃんは少し迷ってから話してくれた。多分、俺がその話を聞いて結菜への態度が変わったらどうしよう、とか思ったんだろうな。本当に優しい子だ。


「優、ちょっと便所行ってくるわ」

「はいよ、先生に言っとく」

「龍斗……先輩?」


 そんな顔するなよ


「迎えに行くんだろ?」

「はい!」

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