第6話 実家


 日曜日、私は母の電話の通り、実家に帰っていた。


 実家は電車で2時間、さらに駅から30分ほど歩いたところにある。


「ただいま」


 玄関から入って帰ってきたことを知らせても、誰も出迎えてくれないし誰もおかえりなんて言ってくれない。私の実家はそんなところだ。


 だけど、今日は違った。


「おかえり。ひさしぶりだなぁ」

「おじいちゃん!おばあちゃん!」


 祖父母は私のことを知っている今でも、家族として接してくれる。


「ほら、あなたも」

「えぇ、おかえり。待っていたわ」


 嘘である。周りの色がとっても汚い。


 祖父母二人の前では母も私を普通の子供のように扱う。だからもちろん、祖父母は私の扱いを知らない。


 私が家を離れたのは、私が都会に出たいと無理を言ったからと言うことになっている。


「ほら!そんなとこにずっと立ってないで、上がって上がって!」

「はい」



    *    *    *



 食卓を囲んで話をすることになった。今日はどうして実家に帰されたのか知らない。


 今まで呼ばれたことなんてなかったから、相当重要な話のはずだ。


「えっとね。結菜。あなたに許嫁ができるわ」


 聞いてないし、急すぎる。


「だから明日お相手さんとあいさつをしてほしいの」

「聞いてないんだけど」

「大丈夫よ。結菜の体質のことも話して納得してもらってるわ」


 そう言うことではない。


「違う。急すぎるって言ってるの」

「それは謝るわ」


 おじいちゃんもおばあちゃんも申し訳なさそうな表情だし、もういいや。どうせこの家に私の決定権なんて、もとからないのだから。


「……わかった」

「ありがとう!ママ嬉しいわ!」


 嬉しいのは本当だけど、私の婚約が嬉しいわけではない。おそらくお相手さんがよほど良い家なのだろう。


「それなら早く用意しないとね!」

「はい」



    *    *    *



 次の日、そこそこ遠くの格式が高い料亭に来ていた。


「いい?結菜。くれぐれもお相手さんに失礼のないようにね」

「はい」


 これも昨日から何度言われたことか。相手の気持ちがわかる私には機嫌取りなどお手のものだ。


 料亭の前に着く。もうすでにお相手さんは到着していたようだ。


「お久しぶりです。影井昭子かげいしょうこです」

「影井結菜です」


 そこでお相手の顔を見る————え?


「あれ?影井?」

「はい……龍斗…先輩?」


 まさかの人であった。と言うことはまさか……


「はは、久しぶりだな」

「陽太さん!?」

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