第5話 仮病
「どう言うことですか?」
「僕はね、今でも彼女と話す夢をよく見るんだ。そして決まって彼女は僕に言うんだよ。『後悔のないように生きて、死んだら思い出を聞かせて』って」
「後悔のないようにですか?」
「そう、後悔のないように。夕さんが言うには、彼女の生前の口癖だったらしいよ」
不思議なこともあるんだな。
後悔のないようにか。いい言葉なのだろう。
「その言葉、私もお姉さんがよく言ってくれたな。懐かしいや」
「そうだね。僕はその言葉のおかげで今を生きれてるんだと思う」
そのお姉さんはいろんな人を救ってたんだな。
* * *
次の日の朝、雨が降っていた。
携帯の着信音で起きると、頭が痛かった。少し鬱な気持ちで電話に出ると。
『久しぶりね。今度の日曜日に家に帰ってらっしゃい』
プー プー プー
母親だった。言いたいことだけ言って切る。実家にいる時と変わってない。
嫌な一週間になりそうだった。
学校に行く気にはならなかったから、仮病で学校を休んだ。
* * *
放課後。
ピーンポーン
「はい」
ドアを開けるとくるみちゃんがいた
「おーみまーいだー!」
「いらっしゃい」
少し驚いた。家まで来てくれるなんて。
「上がって」
「お邪魔しまーす」
くるみちゃんは靴をちゃんと玄関に並べると、すぐに私に続いてリビングに入った。
「へぇ、いいところだね」
「そうでしょ、ありがとう」
くるみちゃんはホカリを買ってきてくれていた。
「何円?」
「いいよ、それぐらい。体調は?」
こうして心配して飲み物も買ってきてくれたのに実は仮病でした、なんて言えない。
「もう大丈夫だよ」
「そう?なら良いけど。無理はしないでね」
「うん」
私にはくるみちゃんが本当に心の底から心配していることがわかる。少し心が治ったからこそわかるこの感情。苦しい。
「くるみちゃん大丈夫?」
「うん……」
「本当に無理しちゃダメだからね」
「うん。わかってるよ。大丈夫……」
ごめんね。くるみちゃん——————
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