第2話 好意


 こんにちは。私の名前は影井結菜かげいゆいな


 今は6時間目。人権ホームルームという授業をしている。


「はい。人はみんな違ってみんな良い。この言葉を忘れないようにしましょう」


 この言葉はとても大切な言葉だ。でも高校でやること?いや、大人になっても人を傷つける人は世の中にいくらでもいる。やっておいて損はないだろう。


「それじゃ、プリントを埋め終わった人から終わってください。今日は終礼なしです」


 今日も学校が終わった。いつもどおりの日常だ。


「ゆいちゃん!一緒に帰ろ!」

「そうだね。帰ろうか」


 彼女は陽野ひのくるみ。私の唯一の友達。


「今日はどこ行く?」

「今日もどこか行くの?」

「だって毎日が楽しいんだもん」


 それはいいことだ。


「ゆいちゃんも心が戻ったらわかると思うよ」

「そう?」

「もちろん!エブリデイが超ハッピー!」


 それにしても出かけすぎだと思うが。月曜はカラオケ、火曜は映画、水曜は遊園地、木曜はボウリング、今日はどこへ行くと言うのだ。


「今日は病院に行きます」

「なして?」

「ゆいちゃんの今の状況を調べるためだよ」

「また?帰って寝たいんだけど」

「ダメです」


 定期的に私は病院に頭の検査をしに行っている。


 病院に着くと、院長先生が立っていた。


「やぁ、1ヶ月ぶりだね。待ってたよ、くるみちゃん、結菜ちゃん」

「こんにちは!」

「こんにちは、お久しぶりです。夕さん」


 院長先生はくるみちゃんが入院してた時の担当医だったらしい。


「今日もよろしくお願いします」

「うん、よろしくね」



    *    *    *



 検査の結果は異常なし。だが変化もなかった。


 そんなに変わるものかと思うけど、くるみちゃんと出会った前後の検査で脳波が少し変わっていたらしい。


「やっぱり時間経過じゃなくて何か新しいことがないと治らないのかな」

「治らなくても不便ではないですよ?」


 そう言うとくるみちゃんは、そう言うことじゃないという顔をして、夕さんは困った顔で私を見る。


 何か変なこと言ったかな……。


「そろそろ外も暗くなるから2人は帰りなさい」

「「はい」」



 病院を出ると夕さんが言っていた通り、外はもう夕焼けの色に染まっていた。


「ゆいちゃんって一人暮らしだったよね?寂しくないの?」

「別に思わないよ。どうしたの?」

「ううん、何でもない。ペットとか飼わないのかなって思って」

「扱いにも困るし買おうとは思わないなぁ」

「そっか」



    *    *    *



「おはよ」

「おはよ!」

「これくるみちゃんの靴箱に入れようとしてた人から貰ってきた」

「ありがと」


 多分ラブレターだろう。くるみちゃんはよくモテる。


 私は好意という感情がないから、もし貰ってもすぐに断るだろうな。



    *    *    *



「くるみちゃん帰ろうか」

「うん!」


 そういえばくるみちゃん、ラブレターどうしたんだろう。


「ラブレターの人どうだった?」

「ほぼ初対面の人だったし断ったよ」

「どうして?」

「だって、相手のこと何も知らないんだもん」

「そういうもの?」

「そういうものなの」


 よくわからないけど、くるみちゃんがそう言うのだからそう言うものなのだろう。


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