第二百四十七話 正体不明の存在というもの

「――カ」

「ん……」

「――ルカ」

「ふあ……今の声……ステラ……?」

「うん。そう」

「うおわ!?」


 誰かに声をかけられていた僕はゆっくり目を開ける。どうも声の主はステラのようで、揺すられていた上半身を起こすと目の前にステラの顔があった。


「うおん!?」

「あ、ごめんシルヴァ」


 慌てて転がった先にシルヴァが居て、盛大に尻尾を押さえてしまった。ト〇とジ〇リーみたいなリアクションで飛び上がってからキレイに着地した。


「ここは……池だ。戻って来たのか」

「……? そうだ、ゼオラは?」


 ぼんやりした頭を回転させ、ゼオラを探す。すると、池の淵に立っているのが見えた。


「ゼオラ」

【……ウルカか】

「ゼオラは『視ていた』の?」


 僕はあえてそう尋ねてみた。先ほどまでの出来事にゼオラが居たのかどうか。

 一緒に転移に失敗したのであれば――


【ああ。居た……というより思い出した。全部な】

「……」


 あの場にいたゼオラは本人だったようだ。記憶に関しては当時のことみたいだけど、最終的にここへ帰結したらしい。

 ゼオラは振り返って僕と隣に来たステラを見る。表情は泣き笑いのような感じで、いつものうるさい師匠はなりをひそめていた。


【お前も視ていたあの光景は、紛れもない五百年前のあたし達だ。あのフレイムドラゴン……ボルカノは参戦しなかったが、近くを通ったのは間違いない】

「ならやっぱり史実とは違うんだ」

【ああ。あくまでも記憶の世界。もし完全に倒していてもこちら側に影響はなかっただろうな】

「……」

「転移魔法の影響なのかなやっぱり。そもそも、僕の領地ではなく、池に辿り着いたのが奇妙だ」


 僕がそういうとゼオラはしっかりと頷いた。大魔法使いとしての威厳みたいなものが感じられる。そんな顔に変わっていた。


【間違いない。しかし、今はそこが問題じゃねえ。ここからが本題だ。一旦、屋敷に戻るぞ。クラウディアさんと国王陛下に伝えねばならないことができた】

「え、う、うん」

【……ステラ、お前の件は後だ。ウルカにはちゃんと自分から言えよ】

「……わかってる」

「え?」

「くうん?」


 なぜかステラと謎の問答を繰り広げるゼオラ。なんのことかわからないけど、珍しくステラが無表情ではなく、苦しそうな顔になっていた。


「大丈夫かいステラ?」

「……!? ええ……行きましょう。シルヴァ、乗せてね」

「うぉふ♪」


 なんだかよくわからないけど、ステラが僕になにかを伝えないといけないらしい。

 だけど今は話せない、ということかな?

 それなら今はゼオラの方を優先しよう。そう考えて僕もシルヴァの背中に乗ると、屋敷まで駆け抜ける。

 ……そういえばどうしてステラはここに居たんだ?


「ただいまー!」

「おや、ウルカ坊ちゃんではありませんか!? どうなされたのです? 今、奥様を呼びますね」

「うん!」


 屋敷に戻り、メイドさんがびっくりしながらもすぐに母さんを呼んでくれた。

 リビングに移動すると、程なくして母さんがやってきた。


「ウルカちゃん! どうしたの? まだ戻ってくることはないと思っていたけれど」

「実は――」


 僕を抱っこして不思議そうな顔をする母さんにここまでの経緯を説明する。

 記憶の世界について話したあたりで、神妙な顔になり僕とステラをソファに座らせた。


「……ゼオラは五百年前の人間と聞いてはいたけれど、封竜シールドラゴンコトルクスと戦ったのは初耳ね」

【今まで忘れていたからねえ。それで本題だ。そこの池でウルカが倒したのは奴の一部……分けた身体だ】

「え、そうなの? あのまま封印できたんじゃないの?」

【途中まではできていた。だけど、あたしの魔力が減少して隙が出来たその時、あいつは自分の身体を切り離したんだ】

「なんだって……!?」


 あの後、そんなことがあったのか。

 そこから話を聞いてみると、本来はボルカノが居なかったため物凄く苦戦を強いられたらしい。

 地上に引きずりおろすまでにゼオラがかなりの魔力を消費してしまったため、結果は負けに近い相打ちだったそうだ。

 そしてゼオラは封じた石を湖に沈め、残りの分身体を探す旅に出た……のはカインさん達のみ。


【……あたしは封印の魔法で力を使い果たしてしまってな。封じた石と共に湖に身を投げたのさ】

「なにも飛び込まなくても……」

【いや、最後の最後まであれを復活させないようにずっと抱きしめておこうと思ったんだ。文字通り命を燃やして。だから奴が復活した際、あの大きさで済んだのさ】

「なるほどね。それでこの土地から離れられなかったのかも。でもウルカが倒したから土地に縛られることは無くなったわけね」


 母さんが顎に手を当ててまとめてくれた。となるとカインさん……スレイブさんはあそこで息絶えたのか。


「スレイブさんに会ってみよう。僕の領地付近に居たということは、あの辺にコトルクスの分身体がいるんじゃないかな? 記憶は曖昧かもしれないけど」

【そうだな……転移魔法があれば、各地へ移動もできるか。あたしは湖の後を知らない。ソリオとディーネがどうなったのか……カインに聞いてみよう】

「うん。それじゃ早速行こう」

【ああ。クラウディアさん。申し訳ないけど、国王陛下にこのことを教えてもらえるかい? 分身体は弱くなったけどまだ脅威だ。あの怪我では遠くに行っているとも思えない】

「わかったわ。その後、すぐに合流するからそれまでウルカちゃんをよろしくね」


 母さんはソファから立ち上がって頷いた。ゼオラも一言、母さんに返していた。


【もちろん】

「わたしも行く」

「え?」

【……連れて行こう。話はそこで聞け】


 よく分からないけど、ステラはあのコトルクスと関係があるのか? 僕の手をぎゅっと握ってくるステラを見ながらそんなことを考えるのだった。

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