第二百四十二話 来る場所はあっていたというもの

「まずはこの辺りの地図が欲しいところだけど……あるかな?」

「どうしてだ?」

「あまり地形は変わっていないと思うんだよ。僕が襲われた地点が分かればその辺りを調査するのはアリかなって」

「なるほど、それは確かに一理ある」


 早速この状況を打破すべく、僕は提案を出した。

 少なくともゼオラが居た場所が掴めれば、その辺りに潜伏している可能性は重運にあるからだ。


「賢い子だな……」

「本当ですね。こっちの狼も大人しい」

「わふ」

「シルヴァは小さいころに拾ってずっと一緒だもんね」

「うぉふ」

「わ、魔物がお腹を見せてる。ふかふかだわ」


 ディーネさんが微笑みながらシルヴァのお腹を撫でまわしていた。そんな中、ソリオさんが出してくれた地図を広げて確認をする。


「……地形はやっぱりそこまで変わっていない、か。五百年経ってもこれはありがたいかな」

「どうだい?」

「えっと――」


 僕は広げた地図を見て汗を流す。

 なぜなら、周辺地域は僕のよく知っている場所だったからだ。


「……ここは僕の屋敷がある町の周辺……!?」

「なんだって?!」

「そりゃ本当かウルカ!?」


 カインさんとゼオラが目を見開いて驚いていた。

 だけど、そもそも僕は転移魔法陣で自宅へ戻ったはずなので座標は合っていたということである。

 

「……近くに池があるはずだけど……もしかしてこの大きな湖って」

「池はないな。君が居たところから少し移動したところに湖ならあるが」

「そういうことか。なら、湖へ行こう」

「まさかそこに……?」

「多分ね」


 僕がこの地に来たところから近いということは間違いなく地図上の湖はあの池ということになるだろう。

 早速、移動をしようと提案すると、すぐに現地へ向かうとカインさんが言った。


「馬車は俺が回してくる。待っていてくれ」

「わかった。……しかし、ウルカ君までついてくるのはまずいかもしれない」

「え? 大丈夫だよ。あいつは一回倒しているし」

「まあ、あたしの弟子なら問題ないだろ」


 記憶の世界で死ぬとどうなるのかはよく分からないけど、いざとなれば逃げる感じでいい。

 四人と僕がいれば退治できる……いや、未来まで持ち越して封印が精いっぱいと考えるなら倒すのは無理かな? でも、僕は倒せたしなあ。


「では悪いけど一緒に来てくれ」

「オッケー。シルヴァ、いくよ!」

「うぉふ!」

「わ」


 僕の呼びかけにシルヴァがすちゃっとお座りの態勢になり、ディーネさんが可愛いとクスクスと笑っていた。

 程なくして外に出ると、ソリオさんが馬車を持ってきたところだった。


「っしゃ、行こうぜ」

「ああ」


 手早く荷台に乗り込むと馬車はゆっくりと村の外へ出ていく。


「お、また出るのか? 精が出るねえ」

「頑張ってくれよー!」

「犬を連れた兄ちゃん、後で遊ぼうぜ!」

「オッケー」

「わんわん!」


 村人に見送られながら外へ出ると、僕が来た方角とは違う方へと走っていく。

 もしかしたらここは僕の町の前身かもしれないな。


「木が多いね」

「まだ開拓されていないからなあ。大変なんだよ」

「分かるよ。今、僕もやっているし」

「そ、そうなのか?」

「開拓をしているってこと……? 子供で貴族なのに」

「まあ……かくかくしかじかで」


 僕は諸々の理由をかくかくしかじかすると、四人とも微妙な表情になっていた。

 その理由の一つに、僕がヴァンパイアロードの子であることが含まれている。


「確かにヴァンパイアロードならコトルクスを倒すことはできるか……」

「マジなのか?」

「最近、牙が生えてきたよ」

「あら、可愛い」

「わんわん」

「お前は最初から牙だろ」

「くうん」


 僕が口を開けると、シルヴァが真似をして口を開けていた。まあ、母さんの過去を知る限り、超強力な存在というのはよくわかるから反応としては当然かもしれない。

 

「そういえば母さんが生まれたのが五百年前くらいって言ってたからそろそろかな?」

「怖いことを言わないでくださいよ。でも、人間とのハーフなんてすごいですねえ」

「兄ちゃんが二人いるけど、ヴァンパイアの能力を受け継いだのは僕だけなんだよね」


 なぜかディーネさんに頭を撫でられていた。そこでゼオラが御者台から荷台に居る僕に振り返る。


「へえ。まあ、でもヴァンパイアロードの息子なら倒せるかもしれねえな。魔力量はあたしやディーネの五倍くらいあるだろ」

「そんなにかい?」


 荷台に居たカインさんが尋ねると、ゼオラは頷く。


「だな。妖魔の類は総じて強い。大人になればもっと強くなるだろうぜ」

「そんなに強いのに世界征服とかしないんだな」


 ソリオさんが不思議そうに言うと、ゼオラが肩を竦めて口を開く。


「あいつらが地上制圧をしないのは個体数がそんなに多くないからだ。たまにあたしみたいなめちゃくちゃ強い人間もいるしな! 村の一つでも抑えておけば安泰だろうさ。それに世界征服をしても管理が面倒くさいだろ? 命は長いし、好き勝手に生きるヤツが多いのさ」

「あー」


 ゼオラが物凄くわかりやすい話をし、僕達は納得する。世界征服なんて確かに面倒だよね。監視していないと結局無かったことと同じだし。


「まあ、そんなわけで開拓して自領地を拡大する仕事をしているんだ。仲間も騎士さんも多いしね。スレイプニルのハリヤーやフェニックスのジェニファー、後は元野良猫のタイガとこのシルヴァはウチの護衛だよ」

「いや、最初の二頭はおかしくねえか……? フェニックスとか幻獣の類だろ……野良猫と一緒なのか……」

「あとは――」

「わんわん!!」

「ひゃあ、どうしたのファング?」


 そこで突然ファングが大きな声で吠えだした。なにごとかと思い、ファングの視線を辿ると――


「げ!? フレイムドラゴンかありゃ!?」

「なんでこんなところに……」


 大きなドラゴンがきょろきょろと周囲を見渡しながら歩いているのが見えた。

 なんかどっかで見たような……

 

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