Rich＆Lich ～不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する～

第二百四十一話 過去か記憶というもの

「おや、あんたたち子供が居たのかい？」

「違うよ……ちょっと休ませてくれ」

「ははは、迷子か？　お仲間はまだ戻っていないよ。その様子だとまだ見つかっていないみたいだな」

「ああ。恐ろしく勘のいい野郎だ」

　というわけで僕はゼオラとスレイブ……じゃない、カインさんに連れられてとある村へとやってきた。

　幸いというかシルヴァが一緒なので精神的にきつくない。ゼオラも居るしね。

「あ！　あの子、大きな魔物に乗ってる！」

「すごーい！」

「こんにちはー」

「わふわふ！」

「わー可愛いかもー！　触らせてー」

　小さいころから飼っているので魔物とはいえシルヴァは大人しい。ただ、敵意には鋭く反応するので本能はやはり狼である。愛想はいいけどね。

　子供たちが大人しいと判断して近づこうとしてきた。しかし、そこでゼオラが立ちはだかる。

「ほらほら、こいつはあたし達と話があるからがきんちょ共は後でな」

「えー！　ずるい！」

「あっちいけって！」

「うわあ！？」

　ゼオラは水魔法を散らして子供たちを追い払った。

「子供みたいなことは止めなよゼオラ」

「なに？　お前もガキだろうがっ！」

「おっと」

「お、やるなウルカ君」

　掴みかかろうとしたゼオラをサッと回避しシルヴァを操ってカインさんの前へと移動する。

「僕に憑りついていたから、行動はお見通しさ。それでどこへ行くの？」

「間借りしている家だよ」

「魔物を探している時にごめんなさい」

「ふん、まあいいんだよ。どうせあの場で見つかるとは限らないしな」

「わんわん！」

「おお、ご主人に忠実だなお前……」

　僕が謝るとすぐ横に移動してきたゼオラに頭を軽く叩かれた。不機嫌なのはそのせいか。叩いたことを抗議するようにシルヴァが吠えた。ゼオラでもダメなようだ。

　村をてくてくと歩いていき、一つの家へと到着した。促されるままに中へ入ると、カインさんが椅子を引いて座るよう促してくれた。

「ミルクでいいかー」

「うん、ありがとうゼオラ」

　すかさずゼオラがコップを持ってきて、三人とも着席となる。シルヴァも椅子の上でちょこんとお座りしていた。

「お前は話が終わってからな」

「うぉふ」

　ミルクは皿に入れてくれるらしいので後からだそうだ。それはともかくようやくゆっくりと話ができるとミルクを一口飲んでから言う。

「とりあえず僕はウルカ。ウルカティヌスといって、恐らく未来からやってきた」

「未来、だって……！？」

「……どういうことだ？　あたしを知っていたのはそのせいか？」

「そうだね。僕があっちのゼオラに聞いた話だと僕の世界はここから五百年後みたいだよ」

「「……！」」

　そう告げてから僕が今までどういう生活をしていたかを答える。ゼオラに関しては聞いた限りのことを話せば納得がいくと思ったしね。

　さて、ここで洗いざらい話してもいいものか？　一瞬それが頭をよぎったけれど、元の世界へ戻るためには必要な措置な気がする。

「湖の底にあった宝石を手にすると、そこから魔物が出てきて僕はそいつに襲われた。だけど、その時ゴーストのゼオラに助けられたんだ」

「あたしがゴーストだって！！」

「うわあ！？」

「落ち着けゼオラ。どんな魔物だったか教えてもらえるかい？」

　テーブルから身を乗り出してゼオラが僕に詰め寄ってくる。そんな彼女を抑えてカインさんが尋ねてきた。

　五年前だけどだいたいの特徴は伝えられた。すると二人の表情が変わる。

「……まさか、とは思うが……」

「いや、間違いないぜカイン。ウルカ、お前が倒したというそいつは僕達が探している相手だ」

「え？」

「封龍（シールドラゴン）コトルクス。限りなく蛇に近い姿をしているけどれっきとしたドラゴンなんだ」

「悪知恵が働くとんでもないやつでな。魔物を操って遊び半分で町や村を攻撃したりする」

　確かに蛇っぽいやつだったけど、ドラゴンだったのか……

　で、そのドラゴンは邪悪で、ボルカノと全然違う性格らしい。

「僕達はこれでもＳクラスの冒険者でね。国から討伐を依頼されたんだ。だけど、今まで姿を現していた奴がまるで見つからない。最後に確認されたのがこの辺り、というわけさ」

「なるほど……」

「それにしても嫌なことを聞いちまったなあ。五百年経ってコトルクスは封印程度で、あたしとカインはゴーストってか」

「はは、でも封印できただけ儲けものって感じがするね」

　力ない笑みでカインさんが笑う。言われてみればそうだ。四人で戦って封印しかできていないということになる。

「命がけの封印……」

「おう。そういう魔法はある。使ったことはないけど、師匠に教えてもらっているな」

「――と、なると選択肢が増えたな」

「！」

　そこまで話したところで入り口から声がかかった。視線を向けるとそこにはツリ目の戦士と柔らかい顔をした女性の……なんだ？　神官？　みたいな人が立っていた。

「ソリオ、アコ戻って来たのか」

「どこから聞いていた？」

「お前達二人がゴーストに、ってところだな」

「割と最初からでごめんなさい。だけど、その子……本当に未来から？」

「初めましてお姉さん。僕はウルカです。恐らく、というのが本心かな？」

「恐らくだと？　俺はソリオだよろしくな」

　訝し気な顔でそういうソリオさんに、僕は頷いてから話を続ける。

「僕は転移魔法を設置して、転移魔法を移動装置として開発したんだ。それでゼオラと一緒に足を踏み入れたところ、この場所にやってきた。そこで推測が二つあって、一つは本当に過去に来た。もう一つは空間が捩じれ、ゼオラの記憶する場所に誘われたこと」

「えっと、それは違うの？」

「うん。ここが過去なら僕と言う人間が介入したことで未来が変わるかもしれない。だけどゼオラの記憶に入り込んだだけなら未来は変わらない」

「確かに違うな。だからお前はあっさりと未来のことを話したのか。ウルカの推測ではほぼ間違いなくここはわたしの記憶の世界って訳だな？」

「そういうこと。もしここが過去なら、初めて蛇に襲われた時、ゼオラは僕を覚えているはずだからね」

　そういうとゼオラ以外の三人が感嘆の声を上げた。まあ、8割ほど正解って感じだけど未来に影響はないと思う。もしあるなら、今から話し合うことで未来が変わる可能性があるからだ。