第二百四十三話 知っているけど知らないというもの

「静かに通るぞ。フレイムドラゴンなんて大物、コトルクスと会う前にやり合うもんじゃないぜ」

「賛成だぜ。ということでワン公、静かにしろよ」

「わふ? わんわん!」


 大きな赤いドラゴンがゆっくりと歩いていく。ソリオさんがやり過ごす提案し、ゼオラが承諾した。そのついでにシルヴァの顎をもって言い聞かせるけど、シルヴァは「なに?」という感じで首を傾げたあと、フレイムドラゴンに吠えた。


「あ、こら静かにしろって!」

「うぉふうぉふ!」

「待って、ゼオラ。僕の居た世界の知り合いっぽいんだ」

「ええー?」


 ソリオさんが訝し気な目を向けて来た。確証はないけど、シルヴァがこれだけ反応するなら恐らくあれはボルカノじゃないかな?


「行こうシルヴァ」

「わん!」

「あ、待てって! あぶねえぞ!」

「そっと追いかけよう」


 ゼオラの制止を聞かずにシルヴァに乗ってドラゴンの下へ行く。だいたいいつものボルカノだなと思っているとシルヴァが声をかけた。


「わおーん」

【ん? なんだ?】

「あ、喋った。やっぱりそうなんだ」

【狼に人間の子供……? このようなところでなにをしているんだ? やっぱりとはなんだ?】

「ここでは初めまして! 僕はウルカって言うんだ。こっちはシルヴァだよ。良かったら話を聞いてくれないかな?」

【我を前にして怯みもしないとは……面白い人間の子だ。いいだろう、聞いてやるぞ】

「ありがとう!」


 フレイムドラゴンはふむふむと頷くと、その場に腰をかけた。座り方もそのままなのでやはりボルカノの生きていた時の姿のようだ。


「僕はここから五百年後の未来からやってきたんだ。そこに君がいて、一緒に過ごしているんだ」

【五百年だと? ふん、なにを言い出すかと思えばそのような話……子供の与太話だったか】

「まあ、嘘だと思うよね。だけど僕はボルカノ……君のことはよく知っているよ」

【なに?】


 意外と気のいいヤツとか、野菜が好きだったり、寝る時は岩をまくらにしないと寝れないとか。他にも背中に痣があるなどを語る。


【も、もういい……! 本当に我を知っているのか……】

「そうだよ。名前が無いって言ってたから僕がボルカノってつけたんだ」

【ほう、それはなんだかいい名だな。……しかし、流石の我も五百年後はドラゴンゾンビか。世知辛いものだ】

「なんか博物館にかっこよく骨を飾られていたんだけど、僕の力でアンデッドとして蘇ったんだ。今はウチの領地で野球を楽しみにしているよ」

【ふむ、それは興味深いな。お前はどうやら友達というものらしいな】

「わんわん♪」


 ボルカノは目を細めて顔を近づけてくると嬉しそうに笑っていた。シルヴァも嬉しそうにその場を回っていた。


「嘘だろ……フレイムドラゴンと話しているのかよ……」

「なんだか未来でドラゴンゾンビとか言ってますけど……」

「あたしの弟子はとんでもねえな。おう、そいつはいいやつみたいだな」

「うん。ボルカノは話がわかる奴なんだ」

【仲間か? そうだな。我は話せばわかるぞ】


 なぜか自慢げに鼻を鳴らしていた。さて、面白いこともあったしそろそろ行こうかな。


「引き止めて悪かったね。シルヴァが気にしてたからさ」

【む、もう行くのか? というかどこへ行くのだ?】

「この先の湖にコトルクスっていう悪いドラゴンがいるらしいんだ。そいつを退治しにやってきたんだよ。居るかどうかはわからないんだけどね」

【……ふむ。そうか、人間に被害を与えているという話は聞いたことがある】


 理由を話すとボルカノは小さく頷いてそんなことを言う。そしてカインさんが見上げながら口を開く。


「そういうわけなんだ。申し訳ないけど、このまま通してくれると助かる」

【我の土地という訳でもない、好きに通ったらいい】

「ありがとうボルカノ! それじゃ先を急ごう」

「わおーん」

「助かった……ってところかな」


 もし僕が居らず、ボルカノが攻撃を仕掛けてきたら戦っていたかもしれないとカインさんが言う。

 推測だけど、さっき僕と会わなければカインさんとゼオラがボルカノと会っていた可能性もあり、そこで疲弊していたかもしれない。


「ウルカ、お前凄いな。ドラゴンに臆さないとは」

「まあ、家に居るしね。カトブレパスのフォルテっていう魔物も居るよ」

「カト……!? おい、カイン。やべえ子供を拾ったもんだな……」

「はは、頼もしいけどね」

「くぅん」


 カインさんとソリオさんが話している横でシルヴァが寂しそうに鳴いていた。


「どうしたの?」

「ボルカノを置いて行ったからかも。仲良しだからね」

「まあ、時代も違うしあいつもなにか目的があるのかもしれないもんな」


 ゼオラが荷台で手を頭の後ろで組んでから言う。


 だが――


【まて、我も行こう】

「うおお!? 足速い!?」

「わおん♪」


 ――器用に木々を避けながらボルカノが追ってきた。


「どうしたの? さっきなにかを探しているような感じだったみたいだけど」

【気にするな。寝床を探していただけだ。それよりもコトルクスはかなり強力なドラゴンだ。お前達だけで戦うつもりか?】

「そうだけど、なんかあるのか?」

【どの程度強いかわからんが、初撃で見極めろ。無理そうなら即撤退するんだ】

「見つかるかわかりませんけど、もし見つけたらそれだけで快挙です。それをみすみす逃すことは……」


 ディーネさんが首を振る。しかしボルカノは冷静に語る。


【ふむ、戦い続けるというならウルカは下がらせるのだ。子供は真っ先に狙われるぞ】

「僕も戦えるけど?」

【あれを甘く見るな。我とて勝てるか微妙な存在だからな】


 ボルカノがそこまで言う相手か……確かに強かったみたいだけど、一応倒しているしなあ。

 そんなことを考えていると、程なくして目的地へと到着した。

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