第二百三十九話 これで行き来が楽になるというもの
――ということでキールソン侯爵のところで転移魔法のテストをするためしばらく滞在させてもらっていた。
その間はフェリオ君と遊ぶことが多く、この三日はみんなも楽しそうだった。
町に出ることもあったけど、最初は怖がられていたんだよね。
「帰っちゃうの寂しいなあ」
「クルル」
「わふ」
「にゃーん」
フェリオ君がみんなを撫でながら困った顔で笑う。本当に楽しそうに庭や町を走り回っていたので名残惜しいのだろう。
「まあ、転移魔法が使えるとなったら遊びに来るといいよ。なんにもない領地だけど、ボルカノもいるし」
「大きなドラゴンさんだね! ううん、早く見たいなあー」
領地のことを話したらボルカノにも会いたいと言い、キールソン侯爵様と野球も観戦希望だった。こうなると意地でも成功させないとがっかりさせちゃうな。
「ウルカ君、いいかな?」
「あ、キールソン侯爵様」
庭でまったりしていると、キールソン侯爵様が笑顔でやってきた。僕が立って挨拶をすると侯爵様は頷きながら口を開く。
「少し時間はかかったけど、別宅に転移魔法を使える建物を作ったよ」
「あ、本当ですか! それなら早速やってみたいですね!」
「父上さすがー!」
「はっはっは、いつになく元気だなフェリオ。パパは嬉しいよ」
僕が思っているよりも内向的だったらしいので、今の状態はかなり珍しいとフェリオ君が先に寝た時に聞かされていた。
「こっちに来てくれるかな」
「はい! 行くよみんな」
侯爵様がフェリオ君を抱っこし、僕達はその後についていく。この別宅の方に作るように頼んだのは万が一を考えてのことだ。
僕の方から怪しい奴が入る可能性もあるし、その逆もまた然り。
なので監視ができるかつ、安全を確保できる場所として少し離れたところにした。
僕のところは自宅の庭に作っている。オオグレさんとかシルヴァがいるので、下手な人間では敵わないのがポイントだ。
そして別宅へ到着すると――
「うわあ……!?」
「クルルル!」
「にゃー」
「どうだい? これでこそって感じだろう?」
「え、ええ……」
そこには小型のパルテノン神殿みたいな建物があった。別宅の隣に建てられた専用のものだとのこと。
「急ピッチで作ったから中はまだこれからだけど、言われた高さは満たしているはずだ」
「そうですね。高さは5メートルくらい欲しかったですし」
ボルカノが移動できると助かると思っていたし、馬車など物資を運ぶなら面積も広い方がいい。正直、雨よけが欲しいという要求だけだったんだけど立派なのができちゃったな……出入り口もかがめばボルカノも通れそうだ。
「ありがとうございます! 後は僕が転移魔法の仕掛けを作るだけです! それじゃ早速着手させていただきます」
「うん、よろしく頼むよ。それじゃ、フェリオはおやつでも食べようか」
「えー、僕も見ていたいよー」
「フェリオ君、これは危ないからごめんね」
「わふわふ」
「クルル」
抱っこされているフェリオ君に声をあげる動物達。口を尖らせていたけど、大人しくおやつに行ってくれた。
「さて、と。それじゃこっち側を作るかな」
「こけー?」
「変に転移すると困るから少し下がっていてよジェニファー」
僕の足元に寄り添ってきたジェニファーを抱えてやんわりと移動させた。
転移魔法の発動条件は物に手に当ててからイメージをする。
ならばそのイメージを魔法陣などに読み込ませておけばいいのでは、という実験だ。
「……大きさはこれくらいで――」
CDやDVDといった記録媒体を知っているから、要領としては似た感じかなと想像する。要するに「ここに足を踏み入れれば書き込んだイメージの場所へ行く」という感じだね。
「魔力はいくらでも込められるし、ちょっとはっちゃけてみよう」
【倒れるなよ?】
「大丈夫だよ。ゼオラに修行をつけてもらっているし、あの特大魔法も今なら二発くらい撃てそうだよ?」
【自分の身体は自分がわかっているだろうから任せるけど、お前は無茶をするからな】
黙って頭上にいたゼオラがそんなことを言う。転移魔法そのものにリスクがあるから心配なんだろう。だけど先の記録理論なら上手く行くと僕は思っている。
「向こう側に設置した転移魔法の場所をイメージ……焼き付け……」
ぶつぶつと呟きながら一つずつ魔力を込めて行く。別に魔法陣でなくてもいいんだけど、視覚的にわかりやすいのを選んだ形だ。
「……よし、これでいけるはずだ」
【大丈夫かねえ……】
「賢者ゼオラの弟子なんだから信じてよ」
【むう】
そう言われて悪い気はしないのか、口を尖らせながら僕の頭に手を乗せて来た。すり抜けたけど。
◆ ◇ ◆
「――というわけで完成しました!」
「「「おおー!」」」
おやつの時間から一時間ほどあれこれ駆使していよいよ完成した。後は向こうへ行けるか試すだけである。失敗しても飛べないだけだと思うので問題はないと思う。
「それでどうするんだい?」
「わたくし達もいけるのですか?」
「いえ、まずは僕と動物達で行って、問題なければ帰ってきます。バスレさん、僕が一時間待って帰ってこなかったら領地に戻ってくれるかい?」
「そう言うことが無いよう祈っています」
バスレさんが僕を抱きしめて優しくそう言ってくれた。
「それじゃ行ってきますー!」
「気を付けてねお兄ちゃん! みんな!」
「わん!」
「にゃー」
ひとまずフォルテとジェニファーは置いて行く。万が一バスレさんを守れなくなると困るしね。
そして転移魔法の陣へ足を踏み入れると、スッと周囲から音が消えた。
まざたきを一瞬すると、僕は急に意識が遠くなった――
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