第二百三十三話 ゼオラの言葉というもの


【……】

【どうしたでござるか?】


 ウルカが馬車を完成させたその夜。

 池のほとりに佇んでいるスレイブにオオグレが背中から声をかけた。

 風呂上りなのか、身体から蒸気を出している。


【オオグレ殿か。いや、色々と考えていてね……あなたには話してもいいかもしれない】

【ふむ? それは深刻な話でござるか?】


 オオグレが頭のタオルを肩にかけながら隣に立つと、スレイブが彼の方へ向き直る。


【私がここに居るのはある邪悪なるものを封じていたから……】

【ウルカ殿とゼオラ殿が倒したという蛇のようなものでござるか?】

【それに近いね。恐らくこの場所は――】

【……!? それはウルカ殿や皆に……いや、ならば拙者たちは――】


◆ ◇ ◆

 

「あふぁ……」

「おはようございますウルカ様」

「うわあ!?」


 目が覚めた僕の横にバスレさんが寝ていて、ギリギリまで顔が近づいていた。びっくりした僕は飛び上がり、あわや頭をぶつけるところだった。


「朝から驚かせないでよ……」

「ふふ、申し訳ございません。久しぶりに独り占めができているので興奮してしまいました」

【あたしも居るけどな?】

「ゼオラ様は見えないので……」

【そっちじゃないっての!? わざとやってねえか?】


 相変わらず見えないらしいので明後日の方向に声をかけるバスレさん。それにゼオラがツッコミをいれる。

 声が聞こえるようになったのは前進とはいえるけど……


【とりあえず誰が行くんだ?】

「僕とバスレさん、ラースさんにベルナさんかな? 騎士さん達はここを守ってもらう感じ」

「オオグレ様はさすがに無理ですからね。シルヴァ達は?」

「動物達は連れて行くよ! ハリヤーだけでも馬車は引けそうだけど、帰りの馬車も必要だしシルヴァとフォルテに引いてもらうよ」

「にゃーん」


 向こうについたら一台購入しようと思っているので、みんな連れて行く予定だ。

 タイガもみんながいなくなって縁側が寂しくなったので僕かバスレさんのところへ来る。


「お前も連れて行くよ」

「ふにゃーん♪」


 こういう時だけ甘えるとか、ホント猫だよなお前は。

 とりあえずラースさんは居てもらわないと困るので、参加決定である。

 朝食を食べてから動物達に食事を与えるため庭へ出る。


「わふ!」

「クルルル!」


 縁側に出た瞬間、シルヴァとフォルテが駆け寄ってきた。もちろんハリヤーも静かに厩舎から出てきた。


「今日からしばらく旅に出るからしっかり食べてよ」

「わふわふん♪」

「クルルル♪」


 喜ぶ二頭は尻尾を振りながらご飯に向かい、ハリヤーは『なんの問題もありません』といった感じで鳴いていた。


「にゃー」

「お前も行くから今のうちにバスレさんにブラッシングしてもらえ」

「にゃっ」


 食事をしているみんなをひとまず置いておき、僕はラースさんのところへ。

 事情は説明しているけど一応、声をかけておく。


「ラースさーん!」


 玄関から大きな声で呼んでみた。ふむ、インターホン……考えてみようかな……?

 ひらめきが生まれたけど今はいいかと思っていると、玄関が開いた。


「おはよぉ……」

「あ、おはようベルナさん! ラースさんは?」

「今、ウルカ君の声でわたしたちの目が覚めたのぉ……」

【珍しいな?】

「まあねえ。えへへー」


 パジャマ姿のベルナさんがあくびをしながらふわふわと僕達に告げる。来て正解だったということだね。

 現在、朝の八時でワトスゥンさんとの待ち合わせは九時半である。九時にしなくて良かったというものである。


「それじゃ申し訳ないんだけど、待ち合わせの宿の前までよろしく頼むね!」

「うん、わかったわぁ♪ ラース、起きたー?」


 ベルナさんが玄関を閉めながら奥に声をかけていた。それを見届けた僕は次にボルカノところへ向かう。


「ボルカノー!」

【む、ラースか。家づくりか?】

「ううん、今日から旅に出るから領地をよろしくお願い」

【おお、そうだったな。……我が行かなくて大丈夫か?】

「あはは、戦いに行くわけじゃないし大丈夫だよ! ラースさんやシルヴァ、フォルテにハリヤーも行くからね」


 心配性なボルカノに苦笑する。

 ゼオラと違って近くに居なくても問題ないみたいだしね。魔力供給は僕からみたいだけど、蓄積されているみたいだ。

 オオグレさんなんかも5年前から一緒なのでしばらく動き続けられるんじゃないかと言っていた。


【あたしも居るしお前はこっちを見ておいてくれよ。こういう開拓途中の村は襲われやすい……っつっても騎士ばかりだから大丈夫だと思うけどさ】

【はっはっは! そうだな! オオグレも残るし、戦力的な不安はない。それより、あのスレイブという男はどうする?】

「ん」


 そこでボルカノがスレイブさんについて口にした。連れて行くのか、という意味ではなく存在そのもののことのようだ。


「監視というのも変だけど、なにか隠している感じはするんだよね。ゼオラが覚えていない以上、話してくれないと分からないんだけど……」

【いいじゃないか。五百年前の英雄ってことでよ。ボルカノ、あいつがおかしなことをしないよう見ておいてくれよな?】

【ふむ。あいわかった。気を付けるのだぞ】

「うん」


 と、ボルカノに返すも僕はゼオラの言葉が気になっていた。やっぱり覚えているんじゃないか……?

 なぜ隠すのかはわからないけど、なるようにしかならないか。


 そんな思いを抱えながらも、僕達は領地を出発する――

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