第二百三十四話 動物……動物? というもの

「クルルル♪」

「わっふわふ♪」

「ふにゃーん」

「コケッコー!」

「いやはや、賑やかですなあ」


 二台の馬車で街道をてくてくと進んでいく僕達。窓を開けているワトスゥンさんがにこやかに動物達の合唱を聞いていた。

 子どもが居るしジェニファーもお留守番だと思っていたんだけど、旦那さんに任せて僕達についてきてくれた。

 フェニックスなので頼もしいことこの上ない。ちなみにワトスゥンさんの馬車はハリヤーに引いてもらっている。一頭で難なく運んでいるのでスレイプニルというのは間違いないようだ。


「乗り心地はどうですか?」

「これも驚きです。さすがはウルカ様ですね、キールソン侯爵様の驚く顔が目に浮かびますよ」


 そう言って同乗している護衛の人達も一緒に頷いていた。おつきの人のお墨付きならきっと大丈夫だろう。

 ゼリーのような食べ物より、侯爵様にはギミック付きアイテムがいいと考えた結果は当たりだ。


「とりあえずキールソン侯爵のところから帰ったら試したいことがあるんだよね」

「そうなのかい?」


 ひとまず動物達の合唱を聞きながら目的地までの歓談となる。僕の領地からしばらくかかるし、あちらの馬車に乗り換えたりしてローテを組む予定だ。

 

「うん。転移魔法の応用をやってみたいなって」

「……また、妙なことを考えているんじゃ……」

「うーん、転移ができるようになってちょっと考えたんだ。もっと安全に移動できないかなって。やっぱりAからBへ移動に失敗した時が怖いじゃない?」

「それが出来たらとても楽だけど、なにか考えがあるのか?」


 ラースさんに転移魔法の楽さと怖さを話すと、それはそうだと返答があった。

 基本的に触ったものや、僕が乗っているものなどが対象となるわけだけど、それを逆にしたらどうかと思うんだ。


「逆……ってどういうことぉ?」

「例えばこういう感じで魔法のプレートを作る。これに転移魔法を『付与』したらどうかなって」

「あー、なるほどね」


 僕の説明でラースさんはすぐに言いたいことに気付いてくれたようだ。

 要するに『Aを踏むとBに移動する』というプロセスのみが発動するようにすればいいと考えている。

 馬車みたいな大きな荷物は運べないけど手に持てる程度の荷物なら移動できるという目論見だね。

 これの利点は『移動地点が決まっている』ことだろう。なのでいしのなかに行ったりはしないのだ。


「試す価値はあるな……」

「と思ってすでにA地点は作って来たんだよね」

「なんだって!? はあ、そういうの本当に好きだなウルカは」

「ふふん」

「なんでバスレさんが得意げに……?」


 ちなみに万が一、着地点に変なのが居ないよう秘密基地みたいな場所を作って入り口のない場所に置いてある。

 後はキールソン侯爵の家のどこかに間借りさせてもらうだけだね。


「ちょっと楽しみだな。俺も使ってみよう。もし成功したら……領地は一気に拡大するかもしれないな」

「そう?」

「ああ。侯爵の町はかなり大きいし、移住者を募れば旅をするべきところをノーリスクで移住できる。最悪、店だけ用意して実家から通うなんてこともできるだろ?」

「それもそうねえ。あ、王都に設置したらかなりいいんじゃないかしらぁ?」


 確かに……

 でも旅の醍醐味みたいなのは無くなるかなあ。セカーチさんとかは喜ぶかもしれないけど。


「ひとまず、王都はまだいいかな? 国王様もそれは許してくれ無さそうだ」


 元々罰を受けているというなのでその辺は一度話してからになると思う。

 そんな話をしながら僕達はキールソン侯爵の領地へと向かっていく。

 特に困ることもなくのんびりとした道中である。


 途中、魔物が現れたりもしたんだけど、ハリヤーが一声いななくと一目散に逃げて行った。なんだかんだで上級の魔物みたいな存在になったので、もしかすると戦闘になったらかなり強いのかもしれない。

 大人しいし、自分から戦うことはないと思うけどちょっと気になるかな。シルヴァも犬っぽいけどシルバーウルフだし、カトブレパスのフォルテもいる。

 

 ……そういえばジェニファーもフェニックスになったからいよいよただの動物はタイガだけになったんだな……


「ふにゃー」

「この子はいつものんびりですね」

「猫ちゃんはこんなものですよぉ♪」

「……」

「どうしたんだいウルカ? 凄い汗だけど?」

「ううん、なんでもない……」


 いつかタイガも……? ユキさんのことだからやらかす可能性はある。

 だけど、死んだりしない限りは大丈夫、だよね?


「……」

「ふにゃー?」

「お前は長生きしてくれよ?」

「にゃーん♪」


 珍しく僕がかまったせいか、タイガが僕の膝に移動して丸くなった。そういえば子供を作らないのかねえ。


 若干、魔物がはびこる領地になりつつある僕の拠点の未来を思う。

 そんなこんなで約三日の道程を経て、僕達はキールソン侯爵様のいる‟ボイドの町”へと到着した。


「ではこちらです」

「ふいー、やっぱり三日は遠いなあ」

「でもいくつかの町に寄れたのは楽しかったですよ」

「帰りはお買い物をしてお土産を持ち帰りましょうねえ♪」

【ふうん、キレイな町だな。ウルカ、こういう街並みとかいいんじゃねえか?】

「確かに町全体が整頓されている感じがするね」


 さて、キールソン侯爵様に会うのは久しぶりだ。粗相のないようにしないとね?

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