第二百七話 いつものこと、というもの
「来たわよウルカちゃん……!!」
「来たのー!」
「来たわ」
「来たぜ!」
「母さんだけ言えばわかるよ!?」
というわけで球場に行ってから着替えていると、馬車とみんなの声が聞こえてきた。バスレさんとベルナさんと一緒に出迎えに出たところさっきの通りである。
「お久しぶりです奥様」
「久しぶりねバスレ! ここの生活はどう?」
「お店が無いのでウルカ様に満足なお食事を出せないのが心苦しいですね」
「いやいや、ブラッディサーモンとかを色々な料理にしているよ」
「ありがとうございますウルカ様」
謙遜するバスレさんだけど、いつも美味しい料理を食べられるのは彼女のおかげなのだ。そう言っていると母さんが笑う。
「ふふふ、大丈夫よ! 今日は食材もたくさん持って来たから」
「そう。ウチからも提供している」
「おや!?」
見れば馬車の荷台にたっぷりと荷物が乗っているのが見えた。それとそれを引いている馬に見覚えもある。
「あ! ハリソンとソアラかい?」
僕が声をかけると二頭の馬は『そうです』とばかりに鳴いていた。すると僕の横に立っていたハリヤーが近づいていく。
「連れて来たんだ」
「あんまり長くないって言ってたでしょ? 息子と娘に会わせておきなさいってパパがね」
「さすが父さんだね」
「荷台をウルカ君の家に置いたら二頭を牧場に放すのもいいんじゃないか?」
「そうだね!」
いいことを言うラースさん。たまには親子水入らずにしてあげるのもいいよね。
すると別の場所ではアニー達がワイワイと騒いでいた。
「この子がフォルテだよー!」
「あら一つ目なのね?」
「おお……本物の魔物だ……」
「大人しいんだよー! それに背中の毛がふさふさなのー」
「クルルル♪」
向こうでは早速アニーがドヤ顔でフォルテを紹介していた。一度会っていて仲良しだからそうなるよね。
「確かにふさふさね。気持ちいいわ」
「へえ、シルヴァよりもふさふさなんじゃないか?」
「わおん!? わふわふ」
「こ、こら、身体を擦りつけるなよ……!?」
フォルテの人気に嫉妬したシルヴァがフォルドに毛を撫でろとくっついていたのが面白い。
「タイガとジェニファーは?」
「タイガは最近ここでお仕事をしているおじいさんの奥さんとよく居るんだ。ジェニファーは卵を温めているよ」
「卵……ということは赤ちゃんが?」
「うん。雄鶏も一緒に居るよ。だから見るだけになるかな?」
「ま、いいけどな。ウチのニワトリが出世したなあ……」
フォルドが呆れた声を出しながら苦笑する。そういえば最初の出会いはタイガとジェニファーを連れたフォルドとアニーに会ったからだったなあ。
「とりあえず家の庭に荷台を置こうか?」
「そうだね。この後、球場に行くなら家に荷物を置いて鍵をかけておいた方がいい」
「だね」
一応、試合に参加しない騎士さんが交代で巡回をするため侵入者が来てもなんとかなると思う。けど、なにがあるか分からないので家は鍵をかけるのである。
「わ、広い庭ね」
「でしょ? ハリヤーやシルヴァ達もここで寝ているんだ。だから広めにしたんだよね」
「いいわね。私達の部屋もあるの?」
「一応あるんだけど、こっちで暮らすようになる時は新しい家を建ててもいいかなって考えているんだ」
ステラの質問に答えながら庭の扉を開けると、小屋からジェニファーの声が聞こえてきた。
「こけー!」
「お、元気そうだなジェニファー! 子供ができたんだって? 生意気な奴だな」
「こけ」
フォルドが小屋を覗き込んで笑うと、ジェニファーが羽をチッチと振っていた。生意気である。
「ひよこが産まれたら見せてくれよ?」
「見たいー」
「こけ」
二人の言葉に深く頷くジェニファー。とりあえず荷物を下ろしているところで、僕はハッとなり、周囲を興味深げに見ている母さんに声をかけた。
「そういえばリンダさんが来るんじゃなかったっけ?」
「あ、そうそう。途中まで一緒に来ていたんだけど旅の商人が魔物に襲われていてね。危ないからって護衛についていったわ」
「なんと……」
間が悪いなあ。
母さんが嘘をつくわけはないので、本当のことなのだろうと思う。リンダさんは一体いつになったら会えるのか?
「そういえばウルカちゃん宛に手紙を書いていたわよ」
「手紙?」
ひとまずフォルド達は動物達を愛でているので、母さんが出した手紙を受け取る。
特に封筒に入っているというわけではなく、便箋のようなものだけだった。
『ウルカティウス君へ。君がこの手紙を読んでいるということは私はそこにいないということだな。とりあえず商人さんを送ったらいけると思う。私は君を見たことがあるのだけど、直接会うことはこの十年無かったなあ。ひとまず依頼を終えたら向かうので、それまで娘を頼むよ』
と、書かれていた。
うん、向こうは僕を視認したことがあるらしい。その時に会って欲しかったよね……!
「リンダはなんて?」
「ステラをよろしくってさ。まあ、こうなるんじゃないかと思ってたけど」
「リンダはどうなってもいいけど、彼女は少しは休むべきだと思うわね」
母さんも呆れた顔で僕にそんなことを言う。仲が悪そうだけど、ライバルとして認めているから気遣うのかもね?
「さ、それじゃ荷物を置いたら球場に行こうか! 今日はそれがメインになるよ」
気を取り直してみんなに楽しんでもらうプランをスタートさせるのだった。
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