第二百六話 みんなが来る当日というもの

 ――翌日である。


 僕達はステラやフォルドのお出迎えをするための準備を進めていた。

 近くのロッキンの町まで来るので、とりあえずラースさんが迎えに行く。

 転移魔法のテレポトを連続使用できるのはラースさんだけだからね。


「奥様達が来るのであればお昼は豪華にすべきでしょうか?」

「うーん、野球観戦があるからタマゴサンドのとソーセージとかでいいかも。ワインがあると母さんが喜ぶかな?」

「リンダ様はお肉が好きなので骨付き肉も用意しておきます」

「うん! リンダさんは初めましてになるね」


 とりあえずバスレさんとスケジュールを考えて食事をどうするか話し合う。こっちに到着してから野球観戦をするのでお昼は回る。その時に簡単なものの方がいいと思った。

 もっと料理人や使用人が居れば豪華なビュッフェ形式とかでもいいと思うんだけど、バスレさんとベルナさん、それと女性騎士だけでは回らないので割り切ることにした。

 騎士さん達は自分たちの食事は自分たちで。冒険者さんにも食材を渡すけど好きに使ってもらう感じに。

 セカーチさんとサーラさんはウチのお客様なので一緒に食事をするけどね。


「あら、リンダ様と会ったことがないのですか?」

「そう。結局なにかしらのイベントで来る! って言っておきながら仕事で来れないって。今日も期待はしていないよ?」

「ふふ、お忙しい方ですからね。ボルカノも会いたがっていましたし、来るといいのですが」

「あー、戦いたいって言ってたよね」


 自分を倒した存在なので再戦希望らしいもんね。まあ、広いところでやる分には構わないけど、ボルカノは野球観戦の方に興味があると思うんだよね。


「まあ、来ても来なくても食事の準備だけはしておかないと」

「そうですね」

「わんわん!」

「ん? シルヴァが吠えている?」

「ご飯はみんなにあげましたよね」


 僕はシルヴァのいる庭へと足を運ぶ。

 まだみんなが来る時間じゃないと思うけど、どうしたんだろう?


「どうしたんだいシルヴァ、そんなに吠えて」

【番犬にしては吠え過ぎだぞー?】

「くぅん……」


 ゼオラの言葉に耳を下げるシルヴァ。だけど、その理由はすぐに分かった。


「あれ? 冒険者さん達どうしたの?」

「お、ウルカ様! すまねえ、今日がヤキュウをやる最後の日。変化球をもう少し教えちゃくれねえか?」


 冒険者さん達が家の前に勢揃いしていたからだ。まあシルヴァはあんまり関わっていないから吠えるのは仕方が無い。それはともかく僕は困った顔で返す。


「ええ? そういうのってラースさんに頼んでいるけど? ……って、そうか町に行くから忙しいんだ」

「そうそう。頼むよ!」

「うーむ」


 それを言うと僕も忙しいんだけど、冒険者さん達は本当にこれで最後だし教えてみようか。


「ならピッチャー役の人三人だけね。あと公平性がないと困るから騎士さんチームも呼んでね」

「う……や、やっぱりそうなるか……」

「ほら見ろ、不正はできねえんだって!」


 リーダー格の冒険者さんが狼狽えるのを見て他の人達がブーブー言っていた。どうやら出し抜きたかったらしい。それはフェアじゃないから教えるなら両方の陣営だ。


「バスレさーん! ちょっと出てくるよ!」

「はーい。こっちは大丈夫ですよ」


 縁側から声をかけてバスレさんの了承を得て外へ行こうとする。そこへハリヤーがのそりと厩舎から出て来て僕のお尻に顔をつけた。


「おや、乗れって?」

【そうみたいだな】

「お散歩じゃないけど、行くかい?」


 僕がそう尋ねてみると、ハリヤーの返事がある前にゼオラが言う。


【お前を乗せて歩きたいんだよ。ほら、乗ってやれ】

「うわあ」

「うおお!? う、浮いた!?」


 ゼオラが僕を抱っこしてハリヤーの背中に乗せると、ハリヤーが『ありがとうございます』と言った感じで鳴いていた。

 そういえばシルヴァとフォルテが大人しいな?


「いつもは背中に乗るように言ってくるのにどうしたんだろ」

「わふ」

「クルル」

【ま、いいじゃねえか。行こうぜ】


 二頭は脇に座って大人しく一声鳴く。ゼオラは苦笑しながら球場へ行くように促していた。


「それじゃ行こうか!」


 僕が首を撫でるとハリヤーが嬉しそうに鳴いて歩き出す。庭を出る鍵はゼオラが外し、冒険者さんがそれを見てまたびっくりしていた。


◆ ◇ ◆


「――という感じで頼むよ」

「フォーク、すげぇな……」

「シュートもいいぞ。見た目変わらないのに打っても飛ばない」


 というわけでサッと球場に赴くと、今日先発の人達が練習をしていた。ユニフォームもすでに汚れているけど開始前には魔法でキレイにするはずだ。

 球種は二つ。シュートとフォークを教えておいた。

 スライダーは教えているので駆け引きをするにはこれだけあれば十分だろう。


「ありがとな!」

「これで今日のゲームは荒れるぞ!」

「そうかなあ」

【そうじゃないのか?】


 意気揚々と引き上げていく騎士さんと冒険者さんの後姿を見て呟く。そこへボルカノが声をかけてきた。専用の野球帽がオシャレだ。


「練習あるのみだからね。すぐに実践できるほど甘くないかなって僕は思うよ」

【ふむ、奥深いな。魔法のようだ】

【あー確かにそうかもな。魔法も理論だけじゃ成功しないからな。だから『詠唱』で強く『そうである』ことを意識づけることを繰り返すし】

「おや、それっぽい」


 とか話をしていたら午前中も十時を回りそうだ。そろそろみんなが来るはずだし、一旦家に戻って着替えようっと。……リンダさんは来るだろうか……?

 

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