第二百五話 完成! 女神像というもの

 というわけでステラ達が来る前日まで下水道のチェックや家屋増設。野球の指南と忙しい日々を送っていた。

 特に野球は休みの人とローテーションでやるんだけど、僕は休めないからだ。


「握りを変えると変化があるのか……!?」

「変化球って言ってね。難しいと思うけど、こんな感じ」

【おお……!? 球が曲がった!】

「すげぇ……!」


 子供の頃はやっていたし、スライダーくらいならできる。弟とキャッチボールとか懐かしいや。今世は一人っ子だからフォルドやアニーは貴重な存在である。


「ふうん、球種は他にもあるのかい?」

「かなり出来るよ。僕の理論だと」

「なるほど……これはゲームとしてかなり駆け引きがあるぞ……」

【おい、みんな覚えてゲームをしてくれ。我は熱い戦いが見たい】


 ラースさんがボールを握りながらブツブツ言い、ボルカノが無茶を言っていた。

 周囲には休みの騎士さん達と冒険者がユニフォームに着替えて練習をしている様子が伺えた。


「とりあえず僕が考えているやつを――」


 と、ラースさんに球種を教えて他の人にと声をかけようとした瞬間、僕に声をかけてくる人物が居た。


「ウルカ君~、セカーチさんが呼んでいるわよぅ」

「あ、ベルナさん! 急ぎ?」

「そうみたい。ラースと冒険者さんもみんな集まってくれって言ってるわぁ」


 声をかけてきたのはベルナさんで、球場に居た騎士さん達以外は広場に集まるようにセカーチさんに頼まれたとのことである。

 ラースさんと顔を見合わせてから僕達は一旦球場を後にする。


「わふわふ」

「クルル」


 ハリヤーはお散歩がてら僕についてくるので両脇にシルヴァとフォルテがくっついている形だ。

 ほどなくして広場に到着すると、セカーチさんとサーラさん。それと球場に行っていなかった冒険者さんが勢揃いしていた。


「セカーチさん!」

「お、来たかウルカよ。すまんな呼び立てて」

「ううん。大丈夫だよ。でもみんなも必要だったの?」


 広場に設置しているベンチに座っていたセカーチさんに声をかけると、彼は立ち上がってから口を開いた。


「うむ。楽しい滞在であったが、仕事が終わったのでな。そのことも含めて話をする必要があったのだ」

「仕事が終わった……」


 そう聞いて噴水に目を向けると、女神像建設予定地になにか布が被せられている場所があった。縦に出っ張っているので恐らくあれが――


「そうじゃ。ついに完成したぞい」

「早かったなあ」

「ふん。ラースよ、ワシを誰だと思っておる。では、早速見てもらおうかのう」

「ふふ、行きましょうかウルカちゃん」

「にゃーん」

「あ、ここに居た」


 サーラさんに抱っこされたタイガを発見し、頭を撫でてやる。そのままサーラさんと手を繋いでセカーチさんを追った。


「これか。いい感じにできたんだろうね?」

「当然じゃラース! これが渾身の一作じゃ!!」


 ぶわさ! と、セカーチさんが布を取り払った。


 するとそこに――


「「おお!」」

「へえ!」


 白い大理石のような石で作成された女神像が姿を現した!

 ジャージ姿は少しアンバランスだけど、磨き上げられた光沢はユキさんが輝いているように見える。


「これは凄いや! ありがとうセカーチさん!」

【ほう、これは見事】

【美しいでござるな】

「あ、オオグレさん」

「お美しい。これがウルカ様の女神様なのですね?」


 ボルカノが感動する中、そこへオオグレさん、バスレさんもやってきて感嘆の声を上げていた。


「そうだよ。これだけキレイに作ってくれたならユキさんも喜んでくれるよ」

「ふむ、まるで会ったことがあるようなことを言うのう。姿も曖昧ではなくしっかりとした絵じゃったし」

「う、うん、夢で見たことがあってね」


 不思議そうに顎髭を触りながらセカーチさんが言う。僕はしれっと適当なことを返しておいた。嘘ってわけでもないしね、あれは夢みたいなものだったし。


「うーん、折角だし写真とか撮りたかったな」


 と、そう思うくらい美しいものだった。掃除はするけど劣化していくものだから維持したい。それはそれとして新品の状態を留めておきたいと考えた。

 まあ、無いものは仕方がない。カメラは今後の課題にしておこうかな。あれは僕が原理をよく知らないし。


「きれいだねえ」

「わふ!」

「クルルル!」

「ふにゃーん」


 うっとりする僕に、シルヴァ達も呼応してくれる。ハリヤーも『いいですね』といった感じで鳴いていた。


「よし、ウルカのお眼鏡にかなったようなので仕事はこれで終わりということでいいな、ラース」

「ああ。助かったよセカーチさん」


 僕達が眺めているとセカーチさんとラースさんがそんな話をしていた。そうだ、これで仕事が終わりになるなら、彼等は王都へ帰らなければならないのだ。


「聞いたとおりだ、冒険者諸君。ワシの仕事はこれで終わり。近く、王都へ帰ることになる」

「ああ……」


 承諾か残念なのか分からないため息を漏らす冒険者さん一行。するとリーダー格の人が一歩前へ出てからセカーチさんへ言う。


「わかったぜ。出発はいつにする?」

「ウルカちゃんのお友達が来てからかしらね? 明日なんでしょう?」

「うん。いいの?」

「アニーちゃんも会いたいし。ねえあなた」

「うむ」


 どうやらすでに決めているようだ。


「承知した。なら、明日は球場を借りて試合をしていいか? 負けっぱなしは性に合わなくてな」

「いいよ! フォルド達にも見せたいと思っていたし」

「へへ、さすがウルカ様だ。……よし、野郎ども今から練習だ!」

「「「おお!」」」

「おっと、これは本気だね。それじゃ俺達、騎士チームにも声をかけておくよ」

「うむ。頼むぞ」

【一緒に行こう。ウルカ、変化球だ。あれを教えてやってくれ】


 ボルカノは相当気に入っているなあ。

 僕は苦笑しながら承諾し、後で行くと伝える。……ユキさん、喜んでくれるかな?

 

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