第二百四話 忙しい領地というもの


「ただいまー!」

「あら、おかえりなさいませウルカ様」


 即座に領地へ戻って来た僕は早速バスレさんに挨拶をしておいた。

 今回は行ってくることを伝えてあるので彼女も慌てず騒がず笑顔で笑っていた。


「とりあえずかくかくしかじかで――」

「ふむふむ――」


 バスレさんにステラや母さんが来るかもというお話をしておく。三日後なのでもてなす準備があるからね。


「承知しました。新鮮なお魚は手に入りますしお酒は町に行ってもらいましょうか」

「それは僕が頼んでおくよ。転移で飛んでもいいしね」

【ウールーカ?】

「あ、はは……ラースさんに頼むよ」


 ゼオラとの研究はオッケーみたいだけど僕が連続で使うことは許してもらえないようだ。


「それじゃ僕は家を建ててくるよ」

「お気をつけて。お昼はブラッディサーモンのクリームパスタですよ」

「また獲れたんだあいつ……」


 狂暴な魚だけど慣れてきたのか結構な頻度で捕えてくるんだよね。なんでかなと思っているとバスレさんが言う。


「水路によく引っ掛かっているみたいですね」

「ええー……」


 狭くしたのに引っ掛かるんだなあ……

 まあ絶滅するようなことはないだろうから美味しくいただいておこう。

 そのまま庭に出るとあくびをしているシルヴァ達が目に入る。


「シルヴァとフォルテ、ただいま」

「うぉふ!」

「クルルル♪」


 寝そべっている二頭が僕の声を聞いて耳をピンと立てた後、嬉しそうに駆け寄って来た。


「こけー」

「あ、ジェニファーも居るんだ。卵かい?」

「こけ!」


 ニワトリ小屋にはジェニファーと雄鶏が入っていてこっちに挨拶をしてきてくれた。元気なひよこが産まれるといいなあ。

 

 後は――


「ハリヤー?」

 

 ――ハリヤーの厩舎に声をかける。するとハリヤーは『おはようございます』といった感じで鳴いた後、立ち上がって僕のところまで来てくれた。


「家を建てに行くけど、お散歩するかい?」

「わふ」

「クルル」


 ひょこっと僕の後ろから顔を出した二頭も声をかけていた。寝たきりは逆によくないのは前世の僕が実証済みだ。


「よーし、ボルカノを迎えに行くぞー」

「にゃー」


 縁側で伸びていたタイガが行ってらっしゃいとばかりに尻尾をふりふりしていた。

 多分、サーラを待っているのかもしれない。

 まあ、ひなたぼっこをさせておいていいだろう。


 僕は屋敷を出ると、今日のノルマをするべくボルカノを呼びに向かう。もう球場がバレてしまったのでボルカノもオープンである。


【おお、帰って来たか! もちろん手伝うぞ。そういえば芸術家の男がウルカに話があると言っていた。終わったら尋ねてみるといい】

「お、そうなんだ? 女神像のことかな? グラフさんとヨグスさんの下水道計画が軌道に乗ったとか……?」

【我は夜にもできるように球場に照明が欲しいな】

「ナイターをやる気!? ……って、球場方面が騒がしいな?」


 ハリヤーの背に乗っている僕が耳を澄ますと球場から声が聞こえてきた。するとボルカノが言う。


【うむ。休みの騎士や暇な冒険者がプレイしているぞ。この前の試合は楽しかったようだ】

「へえ。なら誰か来賓が来た時に見せるのも余興としてアリかな?」

【それはいいな】


 まあ騎士さん達も冒険者さんもその内居なくなるだろうから町の人達を増やしてからになりそうだけど。


 そんな話をするボルカノと一緒に家を作った後はセカーチさんが居るであろう噴水のへ行く。するとセカーチさんが白い石を削っているところに出くわした。


「おはようセカーチさん!」

「むお? おお、戻って来たのか。石が届いたから本番といくぞい」

「そういえばキレイな石だね」

「うむ」


 セカーチさんの横に立ってそう言うと、その場にグラフさんがやってくる。


「お、ウルカ様が帰ってきているじゃないか! 地下の水吸い上げ、出来るようになったぜ」

「おお! さすが!」


 どうやら僕がアニー達と遊んでいる間に色々と進んでいるようだ。僕だけが働かなくていいというのはきっとこういうところもあるのだろう。


「2、3日中には女神像が完成するはずだ。もう少し待っておれ」

「うん!」


 僕が元気よく返事をすると、セカーチさんが優しく微笑んでくる。そこで近くに居た冒険者さんが口を開いた。


「いやあ……あんまり急がなくても……いいんじゃねえかな……」

「え? 仕事できないから早い方がいいんじゃ?」

「ん? あー、そうなんだけど、な」


 歯切れが悪い言葉が返ってくる。するとグラフさんが目を細めて口を開いた。


「あんた達、ここの居心地がいいから帰りたくないんだろ……? 野球、悔しそうだったもんな」

「う……!?」


 図星のようだった。


「食事は美味しいし、風呂は毎日入れて、娯楽もある。ないのは金策くらいなものだからのう」

「ま、まあな……なあウルカ様、ここにギルドを作らねえか? 魔物は結構いるし依頼ができるようになったら住む奴もいると思うんだよ」

「ギルドかあ」


 騎士さんが居るからギルドはまだ早い。と、僕は思っているんだよね。

 お店も少ないからなあ……

 でもお金を落としてくれる人も少しずつ欲しいかもしれない。


「ちょっと考えておくよ。ギルドもそうだけど、料理屋とかも欲しいよね」

「お、そうだな。ちゃんと金を払うぜ」

「そのあたりはラースを通じて申請するといい。ギルドマスターは必要じゃが、ウルカでもいい」

「ふむ……」


 料理屋はバスレさんでもいいかも? いずれ大きくなったアニーとかがやりそうだなとも思うけど。


「ま、とりあえず考えておいてくれよ。で、セカーチの旦那はなるべくゆっくりな」

「指図される覚えはないわ。さっさと終わらせるぞ」

「とかいって野球は楽しんでいたじゃないですか」

「ふん……また来るからいいのだ。ほら、気が散るからあっちへ行け」


 セカーチさんは口をへの字にして僕達を追いやった。照れているのかもしれないけど、ここを気に入ってくれているなら大助かりだ。口コミで移住してくれそうだし。


「そんじゃオレと来てくれ。一応、大丈夫とは思うけど」

「あ、うん」


 僕は時間が空いたので今度はグラフさんについていくことにした。女神像も本格的に作成が始まったし、楽しみだなとハリヤーの首を撫でながら思うのだった。

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