第二百八話 ご案内というもの
「ここがいつか広場になる場所だよ。噴水も稼働中なんだ」
「おおー、この前はまだじいちゃんが作ってた女神像だー!」
「すげぇ……!」
「……」
というわけで早速ご紹介したのが今後もスポットになるであろう噴水広場だった。
ハリヤーやハリソン、ソアラと一緒に牧場の前に広場を案内した。
「なんだか変な服を着ていない?」
「ジャージのこと? 女神様も楽な格好がいいかなと思って」
「ジャージ……これ、いいわね。動きやすそう」
「母さんが着たら物凄くだらしなくなりそうだからダメだよ」
「え!?」
「あれ? ハリヤー?」
僕がはははと笑っていると、ハリヤーが背中に乗ってくれとせがんできた。さらにアニー達にも乗って欲しい感じだった。
「どしたのー?」
「ハリヤー具合悪かったんじゃないのか?」
「四人も乗れる?」
心配そうにそれぞれ口にすると、ハリヤーは『大丈夫です』といった感じでしっかりした足取りで女神像の隣に立っていた。
「ふむ、凛々しいのう。これは捗るかもしれん」
「あなた、それは後でもいいんじゃないの?」
「いや、芸術家として下書きくらいは……!!」
するとセカーチさんが画家としての仕事をし始めていた。サーラさんが苦笑して止めるが、数分ほどそのままでと言われ、僕達は顔を見合わせて肩をすくめる。
「あの人が女神像を作った人だよ」
「絵も描けるのか……いいなあ」
「フォルドは絵、下手」
「う、うるせえな!? わかってるよ!」
「まあ、フォルドは剣と魔法が使えるからいいんじゃない?」
「くそ、絶対ロイド兄ちゃんみたいな男になってやる……」
「ファナちゃんも居るし、かっこいいとこ見せないとね」
そんな話をしていると、しばらくしてからセカーチさんがペンを置いて口を開く。
「うむ。後はその内書けばよかろう」
「よっと……ありがとうハリヤー」
「じいちゃんどんな感じー?」
「ほれ、下書きじゃが悪く無かろう」
「いい。家に飾りたい」
ステラがぐっと親指を突き出して感嘆の声をあげた。それもそのはずで、僕達四人とハリヤーがキレイに描かれていたからだ。
「これで下書きなの?」
「そうじゃな。色をつけたいが、まあ覚えたから後日でええ。さ、次へ行くのだろう」
「凄いですわね。あ、ウルカの母でクラウディアと申します」
「セカーチじゃ」
「サーラですよ。お母様もお美しいですねえ」
「ふふ、ありがとうございます」
一段落したところで母さんとセカーチさん夫妻が挨拶をしていた。後からやってきた形なのでまだしていなかったのである。
握手を終えたところで僕達はセカーチさん達を加えてさらに移動をする。
「やっほー!」
「あれ? アニーちゃん。また来てたのかい」
「相変わらず元気ねえ」
「他にも子供がいるぞ?」
「こんにちはー!」
「こんにちは」
「おう……あの子、表情が変わらねえな……」
道中、ドラグさんとスピカさん。騎士さん達とすれ違いアニーを見て驚いていた。相変わらずのステラやずっと『すげー』と言っているフォルドも見ていて楽しい。
【お、来たでござるな】
「あ、オオグレ師匠。ひさしぶりー!」
「ひさしぶりね」
「ござるー!」
果樹園予定地に近づいたころ、オオグレさんが散歩しているところに出くわした。知っている骨なのでフォルドはパッと明るい顔で駆けよっていった。
【うむうむ。元気が一番でござる。フォルド、稽古は積んでいるでござるか?】
「もちろんだぜ! ……ハッ!」
フォルドは腰に下げた木剣を抜いて落ちてくる葉っぱを一閃した。
ひしゃげたりバラバラに散ったりすることなく、キレイに半分に分かれて僕達は拍手を披露する。
「すごいなフォルド」
「へへ、ウルカが居なくて練習相手がステラだけだからこういう小手先しかできないんだけどな」
【いや、そもそも木剣で繊細にここまで斬れるのは集中できている証拠でござる】
「お、ありがとよ師匠!」
腕組みをしたオオグレさんが満足気に言うと、フォルドは指を鳴らしながら嬉しそうに答えた。
「お、おい、あの子凄かったな……?」
「ウルカ様の友人だけのことはあるな」
「アニーちゃんもなんか凄かったし、やっぱそういう子が集まるのかね」
と、遠巻きに見ていた騎士さん達がこちらを見ながらそんなことを話し合っていた。まあ、修行……遊びの延長からこうなったんだけどね。
「僕は最近稽古が出来ていないなあ。オオグレさんも居るけど、いつも遊んでるし……」
【そ、そんなことは……!?】
【お前、野球と釣りと風呂ばっかじゃねえか】
【おう!?】
ゼオラがとどめをさし、オオグレさんがその場で崩れ落ちた。別に遊んでもいいんだ。どうせ僕も忙しいし。
するとそこへ果樹園の主、ガイズさんが寄って来た。
「坊主、すげえな。俺より強いんじゃねえか?」
「そうかな? って、兄ちゃんは?」
「俺はガイズ。冒険者だ!」
「作業着を着ているのに?」
「痛いところを突くなあ……ま、まあ、今はこの果樹園を任されているんだよ。その内美味い桃とか果物を食わせてやる」
ガイズさんがそう言うと、フォルテが大きく鳴き始めた。
「クルルル♪」
「うわ、びっくりした!?」
「フォルテは桃が好物なんだよ。って母さん撫ですぎじゃない?」
「ふさふさでいい毛並みよこの子」
「クルル♪」
「嬉しそうー」
「それはともかく、冒険者でもこういう仕事をしてもらっているんだ。牧場と畑にもガイズさんのパーティメンバーがいるよ」
その後、畑を回りラースさん達がいつもいる町の区画を広げている場所をアニーと一緒にハリヤーに乗って移動する。フォルテがフォルドを乗せ、シルヴァにはステラが乗っていた。
「さ、ハリヤーにハリソン達はここで待っていてね」
「あれ? ハリヤーが動かないぞ」
「一緒に行きたいのかな? 行くかい球場へ?」
するとハリヤーが『お願いします』いう感じで鼻をこすり付けてきた。我儘を言うとは珍しいなと、僕はハリヤー達を連れて今日のメインイベントである球場へと向かった。
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