第百九十四話 成長したアニーと女神像というもの
「おはよー!」
「おう、おはよう! 今日も元気だな」
「仲がいいねえ」
「あはは……」
というわけで翌日の朝である。
僕は早起きなアニーと一緒に手を繋いで歩いている。というのも帰る前にもう一度だけお散歩をしたいとのことでそれに応じた形だ。
「お、ウルカ様。彼女と散歩かい? 羨ましいねえ」
「おはようガイズさん」
「おはよー!」
「わんわん」
「クルルル」
果樹園でガイズさんと出会い、鎌を片手に挨拶された。アニーはもちろん元気よく挨拶をし、僕達の両脇に並んでいるシルヴァとフォルテも鳴いた。
「今日帰っちまうんだって? みんなアニーを気に入っていたから残念だな」
「うん! でも、またお料理を勉強しながら待つのー」
「偉い偉い!」
「えへー」
ガイズさんがアニーの頭を撫でて笑うと、今度はアニーがガイズさんに質問をする。
「ここはなにができるのー?」
「ああ、ここは果樹園だ。まだまだ芽も出てねえがその内でっかい木が生えるぜ」
「おおー!」
「その魔物は桃が好きらしくてな、頑張って育てているのさ」
「クルルル♪」
「わ、フォルテが喜んでる」
桃と聞いてなんともいえない声を出しているフォルテに驚くアニー。するとガイズさんは僕とアニーの顔を見ながら言う。
「成人したらすぐ結婚するんだって? いいよなあ貴族は……アニーも平民なのに一気に玉の輿ってやつだ」
「たま?」
「まあ分からんか。丁度そのころにはこの果樹園もいっぱいになっていると思うぜ」
「うん」
僕が頷くと、ガイズさんはポンと手を打って僕達二人を抱え上げた。
「よし! んじゃ、俺も頑張って育てるからよ。結婚式にはお前等にとびっきり美味い桃をプレゼントするぜ!」
「本当?」
「ああ。どうせ作るなら目標があった方がいいだろ! フォルテ、お前の分もな」
「クルルルルルル!」
「あ、こらじゃれつくなって!?」
「わんわん♪」
と、ガイズさんが張り切ってくれるとのこと。それでも後六年はあるし、その頃は彼もそこそこの歳である。結婚相手を見つけるのもした方がいいような……?
まあ、ここが発展すればそれは実現するかもしれないか。
「またねー!」
「おう!」
【楽しみができたなあ】
「そうだね。環境は悪くないからのんびりやって欲しいよ」
そんな調子でオルさんやマシューさんとも挨拶をし、色々な人と話をしながらぐるりと回る。
球場で少しキャッチボールをした後に広場へ戻ると、久しぶりな顔を見つけた。
「あ、オミヨさん」
「む? おお、ウルカ様ではないか! 久しぶりだ!」
「そういえば顔を見なかったけど、どこか行ってたの?」
「ああ。家が出来た後、近隣の町へ買い出しにな。忙しかったんだ……折角家ができたのに……」
乾いた笑みを見せるオミヨさんが僕の隣に居るアニーに気付いた。
「おや、この子はいったい?」
「アニーです! おはようございます!」
「元気だな! 私はオミヨだよろしく」
「アニーは僕の婚約者で、ちょっとだけ遊びにきたんだ」
「ほう、婚約者かいいな……婚約者!? え、ウルカ様は十歳だろう?」
「うん。だけどアニーともう一人いるよ。バスレさんもそうだし」
「な……!?」
僕の説明にオミヨさんが驚愕しながら後ずさる。前に言わなかったっけ? ……オミヨさんには言っていなかった気がする。
「そんな……私が結婚相手を探している中、ウルカ様はもう3人を手籠めに……!」
「人聞きが悪いね!?」
「てごめってなにー?」
「アニーは知らなくていいんだよ」
「くぅ……可愛い娘さんめ!」
「わあ!?」
急に涙を流しながらアニーを抱っこしてその場を回り始めるオミヨさん。するとなんか勝手に話しだした。
「うおおおん! 私も早く結婚してこういう子が欲しいぃぃぃぃ! お見合いダメだったしぃぃぃぃ!」
「うるさ!?」
「わおん!?」
どうやら町へ行っていたのと同時にお見合いをしたらしい。詳細は不明だけど失敗したようである。
「オミヨ姉ちゃんも美人だからすぐできるよー!」
「……! おお、いい子!」
「わ」
オミヨさんはアニーに頬ずりをしながら笑う。確かに美人なのは間違いないので、ガイズさんと同じくいい人が現れるといいなあ。
「……ふう、すまない少し取り乱してしまった」
「少し……?」
「クルル……」
「まあ、なんだ。めでたいことだ! その時はたくさん祝わせてもらう」
「オミヨさんも諦めちゃダメだよ?」
「うう、心に響くなあ……」
僕達を撫でながらめそめそするオミヨさんに僕とアニーは困った顔で笑う。するとオミヨさんの背後に見知った骸骨が現れた。
【おや、お揃いでどうしたでござるか?】
「ござるーおはよー!」
「ああ、オオグレさん」
「汚らわしいアンデッドめ。私に近づくんじゃあない。邪悪な存在を恥じろ」
【酷いでござる!?】
オオグレさんを見た瞬間、僕の後ろに隠れながら罵声を浴びせていた。
「ダメだよ、オオグレさんは僕の眷属だから。それを言っちゃうとアンデッドを使っている僕もアウトじゃないか」
「うう……可愛くないし……シルヴァちゃんくらいだと嬉しい……」
「ばうわう」
仲間を貶されたので抱き着かれそうになったシルヴァはひらりと躱していた。
「ぐぬう」
【酷いでござるよ……】
折角のさわやかな早朝が濁ってしまったけど、とりあえず時間もあまりないので、二人を放置して家へと戻っていく。
すると広場でセカーチさんが唸っていた。
「むう」
「おはようセカーチさん」
「お、ウルカにアニーか。おはようさん」
「朝からお仕事?」
「うむ。いよいよ石が届いたのでな。ヤキュウでインスピレーションが湧いて来たのだ」
興奮状態だったもんなあセカーチさん。
唸りながらも手はしっかりと石を削っていく。
「爺ちゃん、これはなあに?」
「ん? これはウルカに頼まれて作っている女神像じゃ。この町を見守ってもらえるようにのう。アニーもその内ここに来るならこの像に守ってもらえ」
「うん! 可愛いねー」
「アニーも可愛いぞ」
とりあえず名残惜しいが仕事はせねばとセカーチさんはアニーを撫でた後、厳しい顔で作業に戻る。雇っている冒険者達の報酬は国から出ているそうだけど、長居はしない方がいいのはそうだよね。
「邪魔しちゃ悪いし帰ろうか」
「そうだねー!」
「わふわふ」
「クルルー」
さてと転移魔法を使って実家へ帰るとしますか。そんなアニーと一緒に手を繋いで家へを帰った。
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