第百九十三話 楽しい時間はあっという間にというもの

「三対二でラースさんチームの勝ち!!」

「「「うおおおおおお!」」」

「「「くそぉぉぉ……!!」」」


 ――というわけで、白熱した野球は最終回である九回までもつれた。

 二対二という状況だったけど、九回表にランナー1、3塁の場面でラースさんがタイムリーヒットを打ってランナーを一人返したことでリードし、そのまま守り切った形だ。


「ふむ、面白かったのう。ルールブックにはまだ使われていない戦術もあるし、今後も期待じゃ」


 僕の隣でセカーチさんが顎髭を触りながらそんなことを言う。さらに少し離れたところに居る鍛冶師のドランさんも拳を握りながらスピカさんにと話していた。


「次は俺もやりてぇな……!」

「力仕事をしているから打てるかもね!」

「ああ、ホムーランを打ってやるぜ!」


 ホームランだけどね……!

 という感じで、わらわらと球場がお祭り騒ぎになっていた。もちろん戦った両者に労いの言葉をかけるためである。


「あー、疲れたぁぁぁ!」

「風呂行こうぜ風呂! その後一杯飲ませてくれ……!」

「いいんじゃないか? その前に飯が食いたいよ」

「作っておいたわぁ。今日はここで宴会でもいいってボルカノさんが」

【ウルカにも許可を取ってある! うははは!】


 まあ、作ったのはボルカノとラースさんだけどね。

 それにまだまだ村みたいなものだからわいわいやれるのは今の内だ。こういうのは積極的にやって欲しい。


「えへー」

「ん? どうしたの?」


 するとアニーが僕の手を繋いでからにへらっとして笑いかけて来た。可愛い。


「今日、凄く楽しかったのー! お屋敷にいる時みたいだった! フォルテにも会えたし、嬉しかったの」

「クルル♪」

「良かったよ。楽しんでくれたなら連れてきて良かった」

「それとね、今日はステラちゃんがいなくてウルカ君をずっと独占できたから良かったの」


 そういってアニーは僕の頬にキスをした。夕焼けに照らされた顔はほのかに赤い。それは夕焼けのせいかそれとも。


「お……」

「えへへ! ウルカ君、大好きー」

【よくやったぞアニー!】


 まだまだ子供だと思っていたけど、アニーも9歳になり異性を意識しだしたってことだろうか。ライクからラブへって感じでさ。ゼオラはうるさい。


「わふん」

「にゃーん」

「こけこけ」

【なんか頷いているな……?】


 なぜか動物達が揃って頷きながら鳴いていた。さながら、よくやったとでもいいたげである。生意気な。


「また連れて来てねー!」

「うん。後はご飯を食べてお風呂に入れば寝るだけだけど……最後まで遊ぼうか」


 そのまま宴会が始まり、宿にいた冒険者さんや自宅にいる騎士さん達も呼んで球場は賑やかになった。

 焚火は球場の芝が悪くなるので、灯りは僕やベルナさんといった光魔法を打ち上げてある。


【酒でござるー!】

「パンダー! ふかふかさせてー!」

「おお、アニーか。いいぞ。久しぶりだなあ」


「だから打ち上げると簡単にキャッチされるだろ? ライナーってやつ? それを狙っていかないと」

「いや、あんな小さいの当てるだけで大変だろ……」

「魔法を使わないでそれを打つのが男ってもんだろ……!」


「いやあ見るだけでも楽しかったな。運動神経が無い私には羨ましい限りだよ」

「ワシもこの歳でなければのう!」

「また見たいですね、あなた」

「うむ。……仕事、少し遅らせて……ああ、いや、もっと人数を集めて色々なチームを? なら帰った方が……おーいラース!!」


 あちこちで今日の感想や今後の野球に思いを馳せたり、なにかを画策しようとする人など様々だ。

 しばらく参加していたけど、夜も更けて来たころに僕とアニー、それとバスレさんは家へと帰った。


「お風呂ー♪」

「大人しく入りますよアニー」

「はぁい!」


 温泉の壁の向こうで二人の声が聞こえてくる。バスレさんはアニーをよく構うんだよね。ステラは初顔合わせがあまり良くなかったからあんまりだけど。


「ふいー疲れた疲れた……」

「ひとっぷろ浴びて寝るかねえ」

「野球はローテで練習できるようにしようぜ、どうせ暇な時間あるし」

【拙者もやりたいでござる】

「頭が取れないようにしてからだなあ」


 そんなことを考えていると騎士さん達が銭湯へやってきたようだ。相変わらずオオグレさんも居るな。


「オオグレさん、体がふやけるんじゃない?」

【おお、ウルカ殿も入っていたでござるか! なあに、その時はその時でござるよ。ゆにふぉおむという着物を着ていたでござるが意外と汚れたでござるな。かぁー……きくでござる……】


 神経はないと思うんだけどなあ。雰囲気で口にしているだけだろう。


「あ、ござるの声ー」

【アニーもお風呂でござるかー】

「うんー」

「頭を洗いますよ」


 身体を洗面器でキレイにし、タオルを頭に乗せて湯舟に浸かるオオグレさん。そこへアニーが気が付いて声をかけていた。

 続けてバスレさんがアニーへ話しかける。


「……バスレさんも入っているのか」

「うん。ふあ……みんな今日はお疲れ様でした」

「楽しかったからいいけどよ。ウルカ様は小さいのに色々思いつくのはすげえな」

「ああ。アニーちゃんとバスレさんの二人を嫁にするっつっても納得いくわ」

「羨ましいけどなあ。子供ってのもあるだろうけど、嫉妬はしないんだよな」

「ありがとう。騎士さん達がいなかったらここも中々発展しないから感謝しているよ」

「結婚式は豪勢にやりたいな。アニーちゃん、可愛くなるぞー」


 そんなことを笑いながら言われて僕は湯舟に顔半分を浸けて肩を竦めていた。

 

【ステラ殿も居るし、楽しみでござるなあ。長生きはするもんでござる】

「お前は死んでるじゃねえか……」


 その日はアニーとバスレさんと一緒寝たんだけど、なんか照れくさくて寝れなかった僕であった……


 

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