第百九十二話 鮮烈な野球戦というもの
【ほおう、これはいいな!】
【ふむ、これがヤキュウというものでござるか】
「わーい! いっぱいいるよー!」
――と、いうわけでお昼を回った時間。僕達はラースさんとボルカノが作ったという球場に集まっていた。
「これでボールを打つのか?」
「打ったら走る……戻ってきたら一点……」
「魔法は禁止、分かったら即失格と?」
「こんな小さいボールに当たるわけねえだろー」
まあ、色々と興味深いと説明を聞く人も居ればあり得ないと鼻で笑う人も居た。
とりあえずテストケースとしてやろうということにしていたので、やりたい人だけを集めた。
「アニーと僕はとりあえず見ているだけ……と言いたいところだけど、最初の部分だけレクチャーするね」
「お願いするよ」
ラースさんにそう言われて僕がマウンドに立ち、アニーがバッターボックスへ。キャッチャーはオオグレさんにお任せという布陣でやる。
「それじゃアニーは思いっきり打ってね」
「うんー!」
あまり野球とは縁のない生活だったけどテレビなどで見ていたのでルールなどは知っている。とりあえず普通に軽く投げてアニーに打たせてあげる。
「ほい!」
「おお!」
ヘルメットと専用のユニフォーム(即興で作った)を身にまとったアニーが掛け声とともにバットを振ると、勢いよく放物線を描いて飛んで行き、ライトに飛んで行った。
【アニー、走るでござるよ】
「おー!」
勢いよく走って行くアニー。
一塁を踏んでからニヤリと笑みを浮かべていた。
「打ってからこの線を越えずに球が落ちたら走ってください。で、どんどん打って押し出しか、バッターが打った瞬間に走ってこのベースに戻ってくると1点。それを繰り返して最終的に点が多い方が勝ちというゲームです」
「なるほど……」
「地味だが、面白いのか……?」
騎士さんも冒険者さんも混ざった混合チームの方々が眉を顰めていた。
確かに地味ではあるのだけど――
◆ ◇ ◆
「ばっか! 戻れ戻れ!」
「うお、取ったのアレを!?」
「アウトだぜ!」
「あちゃー……。次、ホームラン打ってこい。それで逆転だ」
「無茶言うな! ……塁には出るけどな!」
――いざ始まってみると、最初の一回表はだらっとしていた。
けど何故かやる気に満ちているラースさんがピッチャーをする裏になってから一気に火が付いた。
ラースさんの球は鋭く速いもので、本気で打つのが難しいものだった。
まあそれなら完封して終わりになるのはよくあるのだけど、ラースさんが『まあ、練習だから打てなくても仕方が無い』と発言したことで一変。
対抗意識を燃やした一部が本気で打ちにいくゲームになった。
「っしゃ!」
「やるな……!」
そして現在四回の裏、ガイズさんがラースさんの球を打ち、拳を握りながら一塁を目指す。
「いけー!」
「これは間に合いそうね」
「いや、これは駄目じゃ。センターフライになるのう」
「セカーチさんの言う通りだね」
高く上がったものの勢いと飛距離が足りずあえなくアウト。サーラさんの膝に座っているアニーが『あちゃー』と手で目を覆っているのが可愛い。
「ふう。ありがとう、クレシオス」
「い、いえ、こういうのは得意みたいで……」
中堅手のクレシオスさんがラースさんへボールを投げ返しながら微笑む。意外にも野球を自分からやりたいと言った人物の一人だ。
「やるじゃん♪」
「打つ方も頑張りなさいよ」
「あ、はは……」
「くそ……あいつ二人も女の子を……!」
「絶対打たせるなよマシュー!」
「ああ……!」
妙なところで結束しないで欲しいけど。冒険者さんも馴染むのが早すぎる。そして次のバッターへと移る。
「よっと……」
「マシューさんか」
「パンダー、頑張ってー!」
「おう!」
次はパンダ獣人のトーリアさんとラースさんの対決だった。久しぶりに見たアニーがちょっと興奮気味である。ふかふかだから好きなのだろう。
「よし……!」
「行くよ」
ラースさん振りかぶって……投げた。
「ふん!」
「む! レフト!」
ボールはレフトへ直線に飛んで行き、ややサード寄りでセカンドとの間を抜けていく。両方の塁に立つ二人がお見合いをして取るのを躊躇した間に大きくバックへ飛んで落ちた。
「くそ……!」
「ふふん」
「さすがに間に合わないか」
レフトの送球は間に合わず、出塁を許していた。というか結構な巨体なのにトーリアさんの足は割と速い。冒険者らしい感じが見れた気がする。
「まあ、まだ一人だ。しまっていこう」
「オッケー!」
「次は……」
と、ラースさんが言ったところで、バッターボックスに揺れる影が。
次のバッター、それは――
【さて、ラース殿。手加減無用でござるよ】
「オオグレさんか」
「ござるー、今度は打ってねー!」
【お、おう、でござる】
――オオグレさんだった。骸骨に野球のユニフォームとはシュールすぎるけど本人はノリノリで着替えていた。武士とは。
で、張り切っていたけど今のところ全て三振。アニーは頑張って応援しているけど、他の観客からはあまり期待されていない。
とりあえずデッドボールだけが怖い。
【剣とはまた違うからなあ】
「小さいボールを当てる技術は別の能力だからねえ」
ゼオラと苦笑しながらことの成り行きを見守る。まあ今回もダメだろうと思っていた瞬間、初球をフルスイングする。
【ぬおおりゃあぁぁぁ!!】
「な!? 油断したか! レフト!!」
「「打ったー!」」
僕とアニーの声がハモる!
まさか初級狙いとは恐れ入る。いや、多分ずっとそうだったのかもしれない。今回も打たれないと思っていたであろうラースさんの球が甘かったのもあるかもしれない。
大きく弧を描いて打ちあがった球は絶好の捕球対象だ。やはりダメだったかと思っていると――
「オッケー! ……って、なんかでかいな?」
【おや?】
「頭ぁぁぁぁぁ!?」
「「なにぃぃぃ!?」」
「あははははは!」
なんとレフトの騎士が取ったのボールではなく、オオグレさんの頭だった!?
どうやら勢いよく振った際に頭がぽろっと落ち、ボールと一緒にかっ飛ばしたようだ。
ボールはレフトの近くに落ち、オオグレさん(体)は一塁を踏んだ。
【ふう、セーフでござるな】
「喋るなよ、気持ち悪いだろ!?」
頭をとった騎士さんがオオグレさん(頭)に怒鳴っていると、オオグレさん(体)のところにボルカノが行った。
【アウトだ。誤認させるようなものは認められない】
【そんな!?】
ボルカノの判断に全員が妥当だと思った瞬間だった。
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