第百九十一話 驚愕の事実だというもの

「お母さんとこうやって作ってるのー」

「あらぁ、上手いわね~。いいお嫁さんになるわよぉ」

「本当? やったぁ♪」


 ということで昼食。

 得意料理である卵焼きを振舞うと鼻息を荒くしていたアニーが、金髪ギャル騎士のキャシーさんと料理をする。

 クレシオスさんとサラさんと一緒に住んでいる彼女は見た目に反して料理が上手いみたいだ。後、子供好きという面もあった。


「んー、アニーちゃん可愛い~♪ こういう子が欲しいわ……ね!」

「……」

「もおー、すぐ顔を赤くする」


 近くに居たクレシオスさんに力強く聞くキャシーさん。彼はすぐにそっぽを向くがサラさんにからかわれていた。羨ましいというかなんというか、苦労もありそうだ。


「アニーもウルカ君のお嫁さんになるの」

「うんうん。将来有望だし絶対逃がしたらだめよぅ?」

「ウルカ君は逃げないよ?」

「もー、可愛いー! 後でお化粧を教えて上げ――」

「それはいいです」

「速っ!?」


 アニーがギャル化するのは困るので僕はすぐに近づいてそれを止めた。そのままアニーの作った卵焼きとおにぎりを手にして、お手製のベンチに腰掛ける。


「どうぞ!」

「うん、いただきます」

「わふ」

「クルル」

「にゃー」


 シルヴァ達にもお昼ご飯を与えておく。

 で、まずは卵焼きを口にする。屋敷で食べたのと同じほんのり甘い味が口に広がっていく。


「うん、美味しいよ」

「わーい!」


 キャシーさんは火を使うから番をしてくれていただけで、作ったのは全部アニー一人。同じ味で何度も作れるから、この前のがたまたまできたわけではないようである。


「アニーちゃんは頑張っていますね」

「ありがとー、バスレさん! 一緒にお嫁さんになるんだもんね」


 僕達を呼びに来たバスレさんも牧場でお昼となり、スープだけ持ってきてもらっていた。アニーの発言は騎士達にも周知の事実なので特に気にならない。


 一部を除いて。


「うおお……ウルカ様の奥さんになるの!?」

「告白が上手く行ったらここに住もうと思ったのにぃ!」


 その一部とはセカーチさんを連れて来てくれた冒険者と、例の三人組だったりする。そういえばその話はしていなかったか。


「まあ、バスレさんとは約束したしね。ステラも居るし、僕は恵まれているなあ」

「凄いわねえウルカ様。それに引き換え――」

「……」


 またしてもキャシーさんから大きな声出されるクレシオスさん。サラさんと一緒に詰められていた。二人とも美人だし、決めあぐねているのだろうか……

 そんな穏やかな昼食の中、アニーが思い出したかのように言う。


「そういえばボルカノが居ないね」

「おや、そういえば……どこ行ったんだろ? ボルカノは遊べないから飽きちゃったかな?」

「あのドラゴンさんならラースさんと一緒にあっちへ行ったよ」

「あ、そうなんだ。仕事かな」


 騎士さんが見ていたようでいつの間にかやってきていたラースさんと測量をしている森へ向かったそうだ。


「んー、ボルカノとも一緒に居たかったのー」

「仕事の邪魔にならないようにすればいいかな。せっかくだしボルカノの仕事っぷりを見ておこう」

「うんうん」


 とか頷きつつ僕にべったりなアニーである。嬉しいという気持ちがずっと伝わってくるのでここはステラとはまったく逆なんだよなあ。


「それじゃ今度はシルヴァに乗せてもらうのー」

「うぉふ♪」

「なら僕はフォルテか。頼むよ。アニー、卵焼き美味しかった」

「クルル♪」

「うんー!」

「では私はお家に戻ってますね。夕ご飯はどうしますか?」


 ご飯を食べた僕はボルカノを探しに移動することにした。バスレさんが夜ご飯について尋ねてくる。


「家で食べようかな。セカーチさんとサーラさんも呼んで一緒に食べよう」

「わかりました。気をつけてくださいね」

「「はーい!!」」

「にゃーん」

「こけー」


 またタイガとジェニファーを抱っこしててくてくと早足で駆けて行く二頭。

 ボルカノの匂いを辿っていくと、測量とは違う方へと向かいだした。

 しかし、この方角は覚えがある。


「……前もここでラースさんとボルカノに会ったな。他の騎士さんは居なかったのに」

「そうなの?」

「うん。これはあの二人がなにかを隠しているのかもしれない。……行ってみよう」

「わくわくするねー……! シルヴァ、ダッシュ!」

「わん……!」

「よし、フォルテも一気に駆け抜けるんだ」

「クルルル……!」


 僕とアニーは二頭に合図を出した。その瞬間、風がぶわっと顔に当たる。競馬のジョッキーのように身を前傾にして風を避けることにした。


「あはははは!」


 アニーはシルヴァの首に腕を回して楽しそうだ。実家ではよくダッシュしてもらってたしね。


 そして――


【む、いかんラース、ウルカとアニーが――】

「あ!?」


 ――ラースさんとボルカノを発見した!


 したんだけど……


「みつけたー!」

【ア、アニーか……】

「ラースさんも」

「あ、ああ」


 珍しく焦るラースさん。だけどその理由は目の前に広がる光景のせいだろう。


「なんで球場があるのさ!?」

「い、いやあ、前にヤキュウの説明をしてくれただろう? あれで騎士達が興味深げだったんだ」

【折角だし、我等で作ろうとラースと決めたのだ】

「どうして内緒にしてたの?」

「ボルカノと相談してね。ただでさえ家を作っているのに、俺達の遊び場までやってもらうのは違うと思ったんだ」

「あー」


 どうやら気を使ってくれた結果らしい。

 この辺りは僕の領地なので別に作るのは構わない。勝手にと思うかもしれないけど、球場は人を呼べる可能性が高いからね。


 だけど……


「言って欲しかったなあ……」

「ごめんよ、ウルカ君」

【すまぬ。我も決めたことなのでな】

「まあいいけどね。二人で作ったんだ? どおりでボルカノが居ないことが多いはずだよ」

「ボルカノが居ると力仕事が楽だからね」

「ふむ。……そうだ、結構できているし実際に野球をやってみようか! アニーも居るし、遊ぼう」


 僕は球場を見てそう提案する。

 冒険者さんも居るし、チーム戦ができそうだ。

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