第百九十話 ウルカを一日貸し切りというもの
「ボルカノ凄いのー」
【はっはっは、我にかかればこの通りよ!】
というわけでアニーを連れて家を二軒建てるルーチンワークをこなした。
僕達はお揃いのヘルメットを被り、アニーが欲しいと言うので作ってあげたりもしている。
今はボルカノの肩の上で拍手をしているところである。
「なんだ、見慣れない子がいるな。どうしたんだい?」
「僕の彼女です」
「な……!? さ、さすがは貴族というところか……」
【ずるいでござるよな】
「いや、あんたはもう死んでるし……」
家を渡す騎士さんがボルカノの肩に居るアニーを見て尋ねてくる。それにオオグレさんが答えたが、まったくその通りだと思う
「こんにちはー!」
「おお、元気だなー。よろしくお嬢さん!」
「はーい!」
「いい魔法もあって、恋人もいるのか。いいなあウルカ様は……俺もこの村を発展させて女の子を呼び込みたいぜ……」
「あれ? 王都に帰らないの?」
家の扉を開けながら騎士さんがため息を吐くのを見て聞いてみる。すると肩を竦めて言う。
「ここって辺境だけど、ウルカ様が発展させたら恐らくどこの町よりも暮らしやすくなると思うんだよ。どうなるかわからないけど、騎士を派遣するのを止めないなら俺はここがいいな」
「あー、なるほどね」
結構多くの騎士が残りたいといった感じになっているらしい。すでに家をもらった人達が『これはもう手放せない』と噂になっているのも拍車をかけている。
「うおおお……これはもう手放せない……!」
【もう虜になってしまったでござるな】
「あはは……喜んでくれるなら僕は作り甲斐があるけどね」
【そうだな。大きくなったら今の屋敷をもっと大きくしたらどうだ? ステラ達とも結婚するなら部屋は多い方がいいだろう】
「そう? バスレさんと合わせて四人だし……」
【そりゃお前、子供ができたら困るだろ? 実家の屋敷くらいは考えておいた方がいいぞ】
「そ、そう?」
まだ早いと思うけど……。アニーは9歳で僕は10歳だからね。
みんなにはその内考えておくよと告げて僕はアニーに声をかける。
「アニー、これで僕のお仕事は終わりだけどどうする? 牧場に行くと動物がいっぱいいるけど、そこで遊ぶ?」
「うん! ボルカノ、降ろしてー」
【うむ】
ボルカノのお気に入りであるアニーの言うことはよく聞くボルカノ。猛獣を従えているテイマーみたいだなあ。
そんなことを考えていると、すぐにアニーが目の前に立つ。
「フォルテ達も行っていいの?」
「うん。みんな賢いから、襲わないしね」
「わふ」
「クルル」
「こけー!」
「にゃー」
「みんな偉いねー!」
大丈夫だとシルヴァ達が鳴く。久しぶりにこの光景を見た気がする。ただ、ハリヤーではなくフォルテなのが寂しいところ。
とりあえず獣医さんの話だと今日明日で死んでしまうことは無いので安心だけど、胸は痛い。
「手を繋ぐ?」
「んー、フォルテに乗っていくのー! ふかふかしているみたい」
「クルル♪」
アニーは今日初めて見たフォルテに興味があるようで彼の移動を所望する。フォルテは嬉しそうにしゃがみ込み乗れるようにしてくれた。
「ありがとー♪ わ、毛がもふもふしているねー。シルヴァよりもふもふかも」
「わおふ!?」
「狼の毛はちょっと硬いもんね。それじゃ僕はジェニファーとシルヴァに乗るよ。タイガはアニーかな?」
「にゃーん♪」
久しぶりのアニーにタイガも甘えたがりだ。彼女の頭によじ登るとだらしなく伸びていた。
「よーししゅっぱーつ!」
「クルルー♪」
「もう仲良しだ、早いなあ」
アニーが首を撫でながらもふもふを堪能する中、軽快に歩いて行くフォルテ。
和やかな雰囲気なので特に文句も無くてくてくと進んでいく。
やがて牧場に到着すると、騎士さん達がこちらに気づいて集まって来た。
「おや、ウルカ様お散歩ですか? その子は?」
「僕の彼女のアニーです!」
「こんにちはー! アニーです!」
「おお……10歳でもう……」
「あら、可愛いわね! こんにちは♪」
柵の中に入ると、フォルテから降りたアニーはあっという間に取り囲まれて女性騎士さんに頭を撫でられたりしていた。
「牧場で遊んでもいいかな?」
「ええ、もうお掃除も終わっていますし走り回っても大丈夫ですよ」
「だって。ボール遊びでもしようか!」
「うぉふうぉふ♪」
ボール遊びが大好きなシルヴァが大きな尻尾を振って僕とアニーの周りをぐるぐると回る。体は大きくなってもこういうのは変わらない。可愛い。
「こけー」
「あれ? ジェニファーどこいくのー?」
「こけ」
対するジェニファーはトコトコとどこかへ歩いていく。その先は……ニワトリ小屋だった。
「遊びたいのにー」
「仲間がいっぱいいるしあっちで遊ばせてあげよう」
「クルル♪」
「ひゃあ」
自分が遊ぶよとフォルテがアニーの頬に顔を摺り寄せていた。タイガは相変わらず怠惰なので、ボール遊びには参加しないとベンチに寝そべった。
「よーし、それじゃ行くぞー!」
「わおわおーん!」
「おー!」
という感じで久しぶりにアニーや動物達と目いっぱい遊ぶ。牛みたいな蹄なのにフォルテって足が速いな……
「とう!」
「クルルル!」
「「おおー」」
「えへへー」
アニーの投げたボールをフォルテが鼻で受けてうまくバランスを取る。見ていた人達から拍手と歓声があがりアニーは照れながらフォルテの首に抱き着いた。
「ふう、たまには走らないとダメだな」
【最近は仕事ばかりだからな。アニーは向こうでどうだ?】
「アニーは今、お料理をやっているのー! 後でお昼ご飯を作るんだよー」
「そうそう。ボルカノも食べられたらいいのにね」
【ぐぬう】
【はっはっは、拙者と同じでござる!】
休憩しながらそんな話をしている僕達。ボルカノも最初は牛や馬に驚かれていたけど、今はむしろ安全だと認識されているため寄ってくる。
食べないし、強いから安心だよね。
「ふふ、可愛いカップルね」
「ああ。料理かあ、歳を取ったらここで商売をするのもいいな」
「だな。木こりでもいいや、あの家さえあれば……」
少しずつ発展しつつあるため、騎士さんは将来を見据えている人が多いかな? 給料がもらえている今の方が良さそうだけど、三十歳くらいの人がもっと歳をとった時になにをするのか? という感じだ。
「次は?」
「んー、ししょーが居るし剣の稽古!」
「オッケー」
今日はアニーにとことん付き合ってあげようっと。
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