第百八十九話 アニーの生活というもの
「シルヴァはつよーい狼さん~♪」
「わふわふわふ~♪」
「クルルル~♪」
ゴロゴロと音を鳴らすジェットコースターでアニーは上機なまま歌を歌っていた。
それに合わせてシルヴァとフォルテもふんふんと鳴いていてとても賑やかだ。
【それにしてもどうしてアニーがここへ?】
「ハリヤーのことで僕が町へ転移したんだ。なし崩しだけで使えるようになったよ」
【ふむ、流石でござるな】
【あたしの弟子だからな】
オオグレさんの疑問を僕とゼオラが解消する。実際、ゼオラの助言で僕の転移魔法は完成したと言っても間違いじゃないしね。そこは大剣者様ってところだ。
「そういえばセカーチさんは?」
「ウチの人は多分、本番前の練習をしているわよ?」
「ああ、女神像の。とりあえずサーラさんはそこでいい?」
「そうね。でもその後、アニーちゃんとお散歩をしたいわ」
「わかりました」
とりあえず宿にはいかないと、ということで獣医さんを宿へ連れて行った。
「ベルナさーん!」
「はぁい? あ、ウルカ君! 帰ってきたのねぇ。ラースが心配していたわ」
宿の入り口で声をかけると、普段着のベルナさんが出てきた。声の主が僕だと分かると目を丸くして驚いて頭に手を乗せて言う。
「ごめんなさい。ラースさんはいつもの?」
「うんうん。ドラゴンさんと一緒にお仕事ね。あら、アニーちゃん?」
「こんにちは!」
「うふふ、元気ねえ。一緒に連れて来たの?」
「うん。ハリヤーが心配で、獣医さんを連れて来ていたんだ。この人を泊めて欲しい」
そういってジェットコースターから降りて来た獣医さんを紹介する。彼は困った顔で笑いながら頭を下げた。
「すみませんが明日までお願いします。立派な宿だね。静かだし、書類仕事が捗りそうだ」
「こけー」
「ははは、見送ってくれるのかい? ありがとう。このニワトリは元気だね」
獣医さんはジェットコースター内で羽を振るジェニファーを見て苦笑していた。いつの間にか観察をしていたらしく体調に問題なしの太鼓判をもらう。
「なるほどぉ。分かったわ、獣医さんを案内すればいいのね?」
「お願いします! 僕達はアニーとサーラさんを連れてお散歩と家を建てるので」
ベルナさんは分かったと言って獣医さんを宿の中へ入れて案内してくれた。
残った僕達はそのまま広場へと向かう。
【家を建てるのであればボルカノ殿が必要でござろう。拙者が呼んでくるでござるよ】
「あ、お願いしていい? 広場の噴水を作るところに居るよ」
【承知したでござる。アニー、また後で遊ぶでござるよ】
「うんー! いってらっしゃい!」
気を利かせてくれたオオグレさんが素早くボルカノのところへ駆けて行った。アンデッドなので疲れ知らずらしいので強い。
「それじゃこのまま噴水まで頼むよ」
「わおわおーん」
「クルルル」
二頭が各駅停車の電車みたいに止まっては動く。特に嫌そうな雰囲気はないので楽しんでいるのかもしれない。
やがて噴水が見えてくると、やはりというかセカーチさんが居た。
「ふむ、まあまあじゃな」
「セカーチさんおはようございますー」
「おはようございますー」
「む? おお、ウルカにサーラか! おや、見慣れない子がおるのう」
「アニーです! よろしくお願いしますお爺ちゃん!」
「ほう、元気じゃな! こうやってみると女の子も欲しかったのう」
セカーチさんがきちんと挨拶をしてお辞儀をするアニーを見て顔を綻ばせていた。
元気なアニーは見ていて気持ちがいいので、お年寄りには好かれるかもと思っている。
「新しい住人かの?」
「ううん、僕の恋人なんだ。大きくなったら結婚するって言っているよ」
「うん! いつかここに来るのー」
「なるほど。遊びに来たのじゃな」
「まあ、不可抗力ではあるんですけどね。でも連れてこれたのは良かったかも」
僕が困った顔で笑ってそういうとサーラさんが口を開く。
「私はここからお散歩へ行こうと思うんですけど、あなたも行く?」
「そうじゃな。ひと汗かいたし、牧場まで行くのもいいかもしれん。牛乳を飲ませてもらおうではないか。二人もいくじゃろ?」
「あー、僕は今から家を建てないといけないからごめんなさい。アニーはどうする?」
「ウルカ君と一緒に居るよー! ボルカノも来るし」
そこはやはり僕が優先されるようだ。みんなに会いたいようだ。そこでサーラさんに抱っこされていたタイガが飛び降りてアニーの足元に行く。
「あら、タイガちゃんはいかないの?」
「にゃーん」
「元々アニーが拾った猫だから今日は一緒に居たいのかも」
「そうなのね♪ ならまた後で撫でさせてもらおうかしら」
「にゃ」
タイガが片足を上げて頷いた。いいようだ。というか賢いなウチのペット。
「そしてこれはなんじゃ?」
「あ、ジェットコースターという乗り物です。遊ぶのに使っていたんだけど、移動するだけなら馬車より手軽かなと思って」
「ふうむ、これは面白い。芸術じゃ……!」
「馬やシルヴァ達に引いてもらったりもできるけど、今日は一緒に居るので今度乗ってください」
「仕方ない。では散歩終わりに期待しよう」
セカーチさんは残念そうだが、歩くのも健康だとサーラさんと手を繋いで牧場へ向かった。
「あ! ……えへへ」
「ふふ」
そんな二人を見てアニーがはにかみながら僕の手を繋いできた。とりあえずジェットコースターから二頭を外してボルカノとオオグレさんを待つ。
久しぶりに二人だけになったので問いかける。
「アニーは料理の勉強をずっとしているの?」
「そうだよー! 後はステラちゃん達とお勉強と剣のお稽古も!」
「魔法は?」
「魔法はなんか上手くいかないの。ゼオラししょーが居ないからかな?」
そういって僕の頭の上で浮かぶゼオラに目を向けるアニー。ゼオラはそんなアニーに対して声をかけた。
【センスはあるんだけど、アニーは感覚派だからなあ。何度も使い込ませればいい】
「町の中だと撃っちゃダメだからミズデッポウも最近使ってないのー」
【そっか。池のところも一人で行くにはちょっと危ないもんな】
巡回経路にはなっているけど、あの町は外壁が無いため魔物が寄ってくる可能性がある。なので子供だけであそこへ行けたのは僕やシルヴァ、オオグレさんといった戦える人がいたからである。
「そうだなあ。ここは騎士さんも居るし、練習させてもらおうよ」
「いいのかなー?」
【ま、みんな暇しているだろうから大丈夫だろ。……お、来たぞ】
「にゃー♪」
「こけー!」
「うぉふ」
「クルル♪」
遊ぶとなるとシルヴァ達と牧場で駆けまわるかなと思ったけど騎士さんと木剣で戦うのもアリだな。僕もコウ君と戦った……とまではいかないけどあれくらいだし。
【おー、アニー!】
「ボルカノ―!」
嬉しそうに歩いてくるボルカノと、手を振るアニーを見てそう思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます