第百七十四話 職人さんいらっしゃいというもの

「それじゃ戻るとしようか」

「そうだね。とりあえず最初は僕達で、後からグラフさん達をお願い。その間に簡易の家を作るからさ」

「わかった」


 当初の予定通りまずは僕達が領地へ戻り、その後にグラフさん達がやってくるという流れになった。

 タイムラグは殆どないと思うけど、作業に取り掛かっておいた方がいいしね。


「向こうについたら早速パン屋さんの工房作成だからグラフさん、頼むね」

「おう! おばさん達、オレに任せておいてくれよ!」

「はっはっは! ドランとこのせがれが頼もしいじゃないか。手探りだから同じ町の人間いるのは助かるよ」


 パン屋のおかみさんがグラフさんのやる気に労いをみせていた。これで定着していけば町としてやっていけるはずだ。


「それじゃまずウルカ君達から帰るよ」

「お願いしますー」

「わふ」

「クルルル」


 荷台に乗り込んでから数秒で浮遊感があり、すぐに領地にある自宅前へと到着した。


「やっぱり便利だなあ。僕も使えるようにならないかな」

「訓練次第だと思うよ。今度やってみようか」

「うん!」

「では夕飯の仕込みをするので私はこれで」

「わたしはみんなにお土産を配ってくるわねぇ!」


 ということでラースさんは荷台と一緒にロッキンの町へ戻り、各々はやるべきことをするため散っていく。


「さて、どこに作るかな?」

「わふん」

「クルル」


 残された僕とシルヴァとフォルテは土地を探しに歩き出す。ハリヤーは荷台に繋いだままなのでラースさんと一緒に転移している。


「こっけー」

「おや、ジェニファー。出て来たのかい?」

「こけ」


 バスレさんと入れ違いに出てきたようだ。タイガは居ない。また縁側で伸びているのかな? まあ家を守ってくれるから別に好きにしてもらっていいしね。


「そういえば鍛冶をするなら水があった方がいいみたいなことを言っていたし、池の近くかなあ」

「わん」

「ん?」


 シルヴァが僕の袖を引く。

 どこかへ誘導したいようなのでそのまま歩いていくと、池からすこしだけ離れた川のほとりで止まった。


「ここ?」

「わふん」

「クルル?」

「わふん」


 自信があるといった感じで鼻を鳴らす。確かにここならすぐ水が使える。けど下水道計画の場所とは結構離れているんだよね。


「ふむ。アイデアは悪くない……。となると、村に近い方に水を引っ張ろうか」


 ということで池から向かって左側が他の家屋がある方面になるのでそちらに建設することにした。

 

「それじゃあシルヴァ、ボルカノを呼んできてくれるかい?」

「わん!」


 僕が指示すると尻尾を振ってひと鳴きしてからダッシュでこの場を去っていく。

 フォルテは僕と一緒に、先行して基礎を作って行こうと思う。


◆ ◇ ◆


「というわけでじゃーん!」

「「おおお……!?」」」


 ラースさんが転移でみんなを連れて戻ってきた後、ボルカノが合流。

 そこでここで暮らす人達の要望を聞いてから建て始めた。


 そして陽が落ちそうになるころ、三軒の家が完成したのだった。


「す、すげぇ……。見てたけどどう考えても手作業だと最低半月はかかるぜ」

「あ、でも作れるんだ?」

「ああ。オレは大工じゃないから詳しくはわかんねえけど木で造るなら確かにああいった方法が最適な気がする。ウツジの親父さんとかに見せたら喜びそうだ」


 大工さんの知り合いが居るのだとか。とりあえずグラフさんの工房の紹介が終わり、続いて理容師さんのお家だ。


「えっと、これすごいな……」

「僕のイメージしている理髪店ってこんな感じなんですけど」


 ゲーミングチェアににた散髪屋さんでよく見る上下の高さが変えられる椅子に、髪を洗うための洗面台。その上には大型の鏡があり、昔ながらの理髪店を再現してみた。


「い、いいのかな、こんな設備のいい場所を貰って……」

「最初なので大丈夫です! ここを踏むと水が出ます」

「おお……。今までは洗髪が大変だったから助かるよ」


 満足そうな笑顔で握手をしてくれた。理髪店の人は三十歳くらいで独身男性のソネさんという名前らしい。

 次にパン屋さんだけど、共通するのは一階がお店で二階が居住空間という騎士さん達とは違う構造である。


「それじゃあパン屋さんだね」

「よろしくねウルカ様」

「うん! こっちだよ」


 ということで特に聞き込みが必要だったのはパン屋さんだった。石窯が美味しいということでかまどを作成し、煙突がある工房になった。まあ煙突はグラフさんの工房にもあるけどね。

 だから居住区域は少しずらして建てている。横に長くなってしまったけど、これは僕の想像力が乏しかったせいなので反省だ。


「うん、こりゃいいね! 美味しいパンをどんどん焼いていくよ。ね、あんた」

「うむ。あのまま息子夫婦と死ぬまで暮らすと思っていたが、まさか新しい土地へ来るとはのう」

「孫が出来たら自慢するんだよ。食べたいパンがあったら言っておくれよ」

「そうする! ジャムパンとかできる?」

「ジャム、パン? トーストに塗るんじゃなくて?」

「え? うん。こう少し丸っこいパンの中にジャムを入れるんだ。クリームを入れるとクリームパンになるよ」

「ちょ、ちょっと話を聞かせて――」


 どうやらジャムパンはこの世界に無かったらしい。食卓には出てこなかったし、パン屋さんに行ったことがないのでそれは盲点だった。

 基本的に食パンが多く、サンドイッチやホットドッグみたいな『挟む』か『乗せる』が主流のようである。

 

「例えばチーズを詰めて焼くとか……」

「美味そうだなそれ……」

「グラフ、意地汚いわよ」


 と、それぞれのお店もスタートできる土台は整った。看板を立てて騎士さん達へ通達すればお仕事はできるはずだ。それっぽくなってきてちょっとテンションの上がる僕だった。

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